「見つけたぜお嬢ちゃん、そろそろ鬼ごっこは終わりにしねーか?」

「っ!!」

「後は崖ね もう逃げれないよ」



























ディランの山小屋から、山の中へ逃げ出してから数時間

フェイタンとフィンクスとの命がけの鬼ごっこはずっと続いていた





森の中を駆け抜けるを、二人が見つけ、追いつき、またの姿が消える

ずっとこれの繰り返しである












ったく、どんな能力使ってるのかしらねーが厄介なお嬢ちゃんだぜ…

オレかフェイタンが捕まえようとすると、まるでそこには初めから何もいなかったように消えちまう


最初はこのガキがとてつもない運動神経をしてるとか、なんらかの能力で容姿をごまかしてるのかと思ったが、

大抵ガキは消えた場所からそう遠くない場所を走ってるんだよな


腕に負っていた傷が再び開いてるのか、点々と続く赤い目印が逃げていった方の道しるべとして残されてる

それを見落とす、オレ達じゃねぇ





オレの念能力も、フェイタンの念能力も発動に条件が多すぎるし、この状態の解決には役に立ちそうもない

かといって、身体能力では圧倒的に上回ってるので捕まえられないこともない

ようは誘い込めばいいのだ、逃げ切れない場所に






「フェイタン右から回り込め この先は確か崖になってたはずだ。…追い込むぞ」

「わかたよ」



















スッ




「はあっはあ…」

暗い森を駆け抜ける

どこをどう走ったのかも覚えていない…

ただただ後から追ってくる気配から逃れるために走り続ける…




何回目かとも知れない光に包まれる感触

また、二人を巻けたの…?

不思議な感覚だった

あたしの知ってるフェイタンとフィンクスは…強い

あたしなんかが逃げ出してもすぐに捕まえられてしまう


なのに、あたしは未だに逃げ回れている



何がおきてるのかよくわかんない…



「痛っ」






左腕の傷から鮮血が迸る

傷…開いちゃったかな…


ディランさん…








守ってくれた初老の老人の顔を思い出し、逃げ切る決意が鈍る

できれば、あの場所で、ずっとディランさんと一緒にいたかった…



最後まで彼の笑顔を見つめていたかった…





ぎゅうっ


手の中の包みが暖かかった…






















「鬼ごっこは終わりだぜ?お嬢ちゃん」

しまった…





はいつの間にか崖の端っこに追いやられてしまっていた

フィンクスの動きばかりに目を取られてしまい、フェイタンが徐々にの範囲を狭めているのに気づかなかった













ざあああぁああっ



そっと後ろを確認してみるが、そこは奈落の底を彷彿とさせる暗い闇

音から察するに恐らく、真下は川
それも急流





「おっと、後ろに飛び込むなんて考えるんじゃねーぞ? その下は急流で滝になってる。折角爺さんが守ってくれたその命、無駄にする気か?」


…っ!

彼らに捕まるくらいなら―――

そう思ってたけど…、ディランさんの最後の言葉が頭に響く





「…逃げてくれ」















ここで、終わるわけにはいかない…





「お前の能力は大体わかったぜ?恐らく方向感覚を狂わせる領域を作り出すようなものだろう
 たいした能力だが、なにぶんおまえ自身の身体がついていってねえ。こうして逃げ場をなくしてやれば…チェックメイトだ」


能力…?
何の話?

よくわからない…












漆黒の森の淵、流れる激流の音、迫る二人の影

絶望的、なんて絶望的なんだろう


何度もあたしを守ってくれた、よくわからない力

どうやって使ってるのか、あたしが使ってるのかすらわからないが…


何故かこの状況では捕まってしまうという懸念が晴れない
















フェイタンがの退路を阻み、フィンクスが捕まえるために接近してくる


「いやっ!こないで!!」

「ちっ、つれねーねぁ 悪いようにはしねーよ」

「フラレたね ちょと身体に聞いてみるだけよ」





ざっざっざっ…


8m
7m
5m…


小さな身体のと割と大柄なフィンクスの身体は、大人と子供以上の差がある

まるで絵本に出てくる巨人と小人




「そら、捕まえた」

フェイタンの手がすっとに伸び、ビクッっと身を竦める


















ピルルルルピルルル


手を伸ばしかけていたフィンクスの手が止まる

ポケットで鳴り続ける携帯、蜘蛛の集合時には欠かせない連絡用

普段はシャルが連絡係として、行動しているのだが…

フェイタンと行動してる今、フィンクスが携帯を持つしかない


フェイタンは携帯を持つのが嫌いだから…




「ったく、誰からだ?」


ピッ

受話器からは若いハキハキとした男の声が響く



「ちょっとフェイタンこいつの見張り頼むわ。シャルからだ」

「まかせるね」




















フェイタンがなにやら携帯で喋ってる
シャル…多分旅団のシャルナークのことだろう

よくわからないけど、これって命拾いなのかな…


はあっはぁ


呼吸がうまく出来ない…

流れ続ける赤い血液と、フェイタンから発せられる殺気がビリビリくる






どうすればこの状況を打開できる…?

前方は…駄目

後方も…恐らくこの高さだとあたしの身が危ない




どうしよう、どうしよう、どうしよう…



捕まって殺されるか、落ちて朽ち果てて死ぬか…



Dead or Die




どちらも死




なんて不条理な選択…















話し終えたのか、携帯を仕舞っているフィンクス


「タイムオーバだとよ、全員揃ったから今回の仕事に移るらしいぜ」

「なら、ささと捕まえるね」

シャルナークからの電話は、幻影旅団の今回の大仕事にかかるスタートの合図


つまり、些細ごとであるの捕獲は一時休止しなければならない









「まぁそういうことだ オレ達にも用事があってな、わりーけど手荒に行くぜ」



シュンッ


まるで残像を残すかのように、フィンクスの姿が消え…

…どこ?

と思うまもなく

あたしの目の前に居た





伸ばされる手

捕まったら…ディランさんに…ディランさんの願いを叶えられない……



ふわっ


頭で考えるより早く、…あたしの身体は後方の宙に舞っていた



あたしの目の前を、フィンクスの掴み損ねた手が通る


「ちっ、飛びやがった!」


浮遊感…

あたしがあたしから解放されるような…




「お嬢ちゃん、死ぬんじゃねーぞぉ!仕事が終わったら迎えに来てやる その時は大人しくしててくれよ!」








フィンクスの捨て台詞を聞きながら…

逃げ切った喜びと、これからの不安を抱えたまま…













ざぱぁん!





身体は水中へと叩きつけられていた