あたしは、こわれたこころのかけらをさがしている



一部が欠け、ばらばらになってしまったそれは、手で掬おうとしても手の隙間からこぼれていってしまう







落ちないでっ!

なくならないでよっ!





あたしの心の叫び、魂の叫び












なくなってはいけないものが、どんどん消えていってしまう…



























それから2週間


街へ行けば、血を身体にこびりつかせて、顔面蒼白、やせ細った少女など誰も相手にしなかった



怪しい男たちに追われ、以前撃たれた男達に銃を向けられ…



「………アァ」



ここずっとろくなものを食べていない




ただ水を飲み続けるだけ





食べるものなど手に入らない





街の店に近づくだけで、木刀を持った店主たちに追いかけられ、休息を求め公園のベンチに座っていると、警備隊が駆けつけてくる










合間を縫って襲ってくる旅団達の攻撃が、が唯一つとして意識を取り戻す瞬間だった





ディランの家で襲われたときから、2〜3日後から、を狙った旅団の執拗な攻撃は開始され、間をおいて散発的に狙ってきている


最初は、フィンクスとウヴォー



絶対逃げ切れないと思ったけど、またあの不思議な力で助かった



次はマチとシズク



マチさんの念糸に四肢を拘束されたけど…



よくわからないまま逃げることができた





シャルナーク、フェイタン、ノブナガ…




クロロ以外のメンバーはほぼ全員出てきたんじゃないだろうか



毎回二人組みであたしを襲ってくる




でも、その攻撃にはあたしを殺すという意思があまり感じられなかったのは気のせい?




ある程度あたしが逃げ回ると、見切りをつけるように旅団達はひいてゆく



まるであたしを試しているか、珍しいものでも見るかのように…











旅団には絶対に捕まらない





それが、ディランの最後の願いだけが、の心に残った最後の砦
















でも、でも…

























あたしのこころはこわれかけていた



































このせかいでなにがただしいのだろう






やっぱりあたしというそんざいはこのせかいにうけいれられないのかな?








せかいからきらわれてるのかな?





だけど、あたしにもたった一人、こどくなあたしにも 「たった一人の友達ができた」






クマリスの「クー」


人が仕掛けた罠に嵌っていた所を、偶然通りかかったあたしが罠を外したのだ


それ以来、あたしが森に行くたびにあたしの後ろをちょこちょこついて回っている



でも、クーがほかの仲間と一緒にいるところを見たことがない



「あたしたち一緒なのかもね?」













罠に嵌り、たった一人になってしまったクー


トリップしてディランを失い、街からは迫害され、狙われ続ける




今、この世界でお互いに一人ぼっち




互いの傷を舐めあうように、あたしとクーは遊び続けた











「あはっ、くーくすぐったいってばぁ」



こころが壊れかけたあたしが、唯一気を許せる相手



ばらばらになっていく心が、時間が巻き戻るように回復していく感じ



冷えた心にあったかい微かだけど、力強い光が差す
























ウヴォーとノブナガが最後にあたしを襲撃してから3日



旅団からの攻撃は既になくなっていた





あたしは街を離れ、クーとともにディランの家の近辺の森で過ごしている



食料は水と、木の実、それにディランの家にあった携帯用食料が少し



それでも、2度目にディランの家を訪れ、街から迫害されたときに比べると、肌の色艶も格段によくなっている













さらに1週間


旅団からの襲撃はまったくない



この街にはいられないけど、安心して過ごせる♪



っと思っている傍らで、なぜなのかはわからないけど、頭の片隅にほんの少しの寂しさ









なんで?

旅団に捕まらないのが、ディランさんの最後の願いでしょ?

なんで旅団が来ないと寂しいの?


なんでこんなに心が空白なの?


なんで?なんで??
























運命とは無慈悲なものだ


神は突然として、人の運命を無慈悲なものにする








「くー、くー出て追いでー」



クーの住む森へ赴き遊ぶのは、ここ毎日の日課とかしている



「きゅー♪」



あたしの声を聞くと、木の隙間から勢いよく飛び出してくるクー



「あははっ、こっちだよー」







あたしの元へ急いでかけてくるクー





あたしもクーに気をとられていて…



ちょうどクーの後ろに現れた気配に気づかなかった


























ドンッ!

























まるで跳ねる方向を間違えたかのように、変な方向へ吹き飛ぶクー


ただ、普段の跳ねるのと違うのは…














アカイ血ノループガデキテイルコトダケ

























……ドサッ




まるで枯れ木が地面に落ちるように、クーの身体は地面へと激突し、その反動で一度跳ねた


地面に赤いものが広がる


さきほどまで、元気そうにないていたクーの面影など何もない


ただそこにあるのは赤く染まった歪な何かだけ





「…………う…そ……だよ…ね?」















「ちっ、変なリスに邪魔されちまったかぁ!このくそっ邪魔なんだよ!!」


銃を抱えた男が、森の中から姿を現し、物言わぬクーの亡骸を蹴飛ばす

も見覚えがあるその男は、…ディランの家でが追われた警察官だった





ドンッ!



さらに追うようにもう一発の銃声









ビシッ




熱い何かがあたしの右目に突き刺さる



「―――ッッアアアアアア!!」







「よっし、今度は当たったな」























ナニガオキテルカワカンナイ










喉が急速に渇く


右の眼球がつぶれ、眼の奥から溢れ出た血と液体が入り混じりあった物が頬を伝う






















「あぶねぇあぶねぇ、危うく殺しちまうところだったぜ。
 まぁこんな小さいのに当てたオレ様の技量のなせる業だがな」



男は蹴飛ばしたクーの身体をひょいと摘むと、まるでごみでも投げ捨てるかのように、後方へと捨て去る
























「クー、クー、クー!!」















痛い

クーが

痛い

あたしの右目が

痛い、いたい、イタイイタイイタイイタイいたいいたいいたいいたいいたいたいいたい








壊れたようにクーへと向かうあたしを男の手が塞ぎ、掴み上げられる





「クーが!クーが!!クーがああああ!!!」





「うっせーよ、ガキが!たかがゴミ一匹死んじまっただけじゃねーか。そうギャーギャー喚きたてるな。
 まぁ、すぐお前もあんな感じになると思うがな」




















たかが…?






たかがゴミ…?
















この男が何を言ってるのかはわからない







でも、





でも!

























プチン



























あたしの中で、何かが小気味よい音を立てながら、…キレた













刹那巻き起こる風の渦


























が気がついたときには、辺りには誰もいなく

ただ、真っ赤に染まる自分の手が、服が、生暖かい感触を残していた

























ディランを失った、クーも失った


あたしの周りにいるものは、あたしと仲良くするものは、

みんなコワレチャウ





パキン、パキンッ





接着剤で取り繕っていたココロの隙間が割れ始める


砕けては砂に変わり、手のひらでも掬えないほどのものになるが…


あたしは掬うことすら放棄した











ディランを傷つけ、あたしを傷つけた旅団




クーを殺し、あたしの心を傷つけ、心を壊した町の住民達










もう、何が正しいのかもわからない















街の人の攻撃は容赦がなかった


直接的な痛みは少ない


ただ心を抉るような痛みを与えてくるだけ



まるで、あたしの心に毒つきのナイフを何十本も突き立て、さらにそれを前後運動

ココロをぐちゃぐちゃにしたあと、その傷に塩を塗りこんで、乾燥させないようにする

瘡蓋ができたらその瘡蓋を剥がし、あたしの肉を抉りだし、それを干渉して下卑た笑みを浮かびながら、あたしのココロを犯す




あたしのちっぽけなこころを粉々に砕いてしまうように…















「オマエハダレダ」


「ナンダコイツ、キタネーカッコウ」


「シネヨオマエ」


「うちの店には近寄らないでおくれ!」


「じーっとこっちみてるんじゃねーよ、きもちわりぃ!」


「おい!あれ手配書のあいつじゃねーか?つかまえよーぜ」


「お!いたぞー!!こっちだ裏道に逃げたぞー!撃て撃てぇ!!」


「よっしゃ石あたったぜ!次はお前の番な、頭なら10点…」


「おじょうちゃん、おじさんといいことしないかい?ウヒヒヒヒヒ」


「あら、きれいなおじょうちゃんだこと、これキメテ一緒にぶっ飛ばない?うふふ」


「あら、何あの汚い娘?ほら近づいちゃいけませんっ」


「ディラン?…おまえのようなものがあの御方の名前を口にするな!!ん?お前は確か手配書の…警備兵!こっちだ!!」


「よしよし怖かったねぇ。ボクがかくまってあげるよ。ほら人気がないところにいこ?」


「あーひゃひゃひゃひゃ!一発あたったぜー!?逃げろ逃げろー!あーひゃひゃひゃ!!…………」


「うっせーよ、ガキが!たかがゴミ一匹死んじまっただけじゃねーか。そうギャーギャー喚きたてるな。
 まぁ、すぐお前もあんな感じになると思うがな」








…………


























対して旅団は、肉体的にダメージを受けた

最初のディラン襲撃の時意外の襲撃で、フランクリンの念弾をくらい、マチさんの念糸できつく拘束され、ノブナガに切られ、フェイタンに殴られた



でも、なぜだろう



彼らの攻撃は痛かった、痛かったけど、何かしらの手加減があった



もし、フランクリンが本気ならあたしなど念弾で粉々に砕けてしまっていただろうし、もしマチさんが本気なら念糸であたしをぐるぐる巻き

ウヴォーならあたしを粉々に粉砕できるし、ノブナガなら退路ごと切り裂いてしまう、シャルナークならあたしを操れるし

フィンクスもフェイタンも本気だったら、あたしは1秒たりとも彼らに背後を見せて逃げることなんてできなかっただろう



ディランを襲った、にっくき相手のはずなのに…彼らからは妙な優しさというかぬくもりを感じた


人間らしい感情を正直にこちらにぶつけてきた




よくわからない


ほんとうになにがただしいのかわからなくなってきた

















愛するものを奪った旅団



愛するもの、大事なものを奪っていく街の人



何が違うの?




わからない…




寒い、ココロが寒い




ぽっかりとあいたココロの空洞






冷たい風が吹き抜けるそこを…




だれか…




……ウメテ








壊れていくココロ、まっさらに真っ白になり続ける心、善も悪もわからない、それは究極の純粋



壊れてる心を両手で、必死に守りながら、必死に壊しながら、あたしは森を彷徨い歩いた



あたしはひとりぼっち


この世界に一人ぼっち



街の人からは迫害され、まるでこの世界に迫害されてるような孤独感


『stray world』


孤独なあたしのココロを癒してくれるのは、ダレ?























それから2日間、ただ何をするわけでもなく、森の中を彷徨い続けた


右目にぽっかりとあいた暗い空洞、既に明かりを見る事すらかなわない


小型の火薬弾だったらしく、弾丸はあたしの右目の中を犯し、瞳を押しつぶし、そこで止まった


食べることも忘れ、怪我のことも忘れ、ただこの胸にぽっかりあいた孤独感が怖かった


それ以上に、人から迫害されるのが嫌だった


一人ぼっちは嫌だ


誰かと一緒にいたい


でも、誰もいなくなった





















「よぉ、待たせたな嬢ちゃん。鬼ごっこの再開と行くか?」


「今日は逃がさないよ」



なぜかそんな気がしていた、ここにいればいつかこの声が聞けると


この人たちに会えると



「今日は逃げられると思うなよ?オレ達にも予定があるからな、悪いけど総力戦だ。
 って…ん?今日は逃げないのか?」



を見下ろすフィンクスと、の後方で動きを見張ってるフェイタン



3人を取り囲むようにして、辺りにはいくつ物気配がある


おそらく旅団総力戦というのは本当のこと



「ささと逃げるね。どうした?」



いつもなら姿を見ただけで、変な能力を使って逃げるはずのが微動だにしない


いきこんでやってきた二人にとって、これは少々予想外のことなのかもしれなかった



















あたしは一人ぼっち


孤独がココロを苛んでいく








否、もうのココロは霞んで、何が本当の心なのかもわからない

ただ孤独が嫌だった、失うことも嫌だけど、拒絶され、一人ぼっちでいることが嫌だった





歪な心が疼きだす



『……孤独は嫌』


「ディランの敵だよ?」


『ココロが壊された、拒絶された、ハカイされた』


「でも、旅団は敵。ディランを襲った敵。あたしの大切なディランさん」


『くーが殺された、関係のないヒトに殺された』


「それは旅団も一緒でしょ?旅団もディランさんに傷を負わせた。それも致命傷というべき傷を。
 街の人がクーを殺した。一緒じゃない?」


『一緒、ディランもクーも大切な人。奪ったヤツラ許さない』


「だから旅団と一緒にいっちゃだめだよ!殺されちゃうし、ディランさんの最後の願い覚えてる?逃げてくれって言ったじゃない」


『でも、孤独。孤独は嫌、拒絶も嫌、一人ぼっちは嫌!』











『だめっ!そっちにいっちゃだめ!!旅団は危険な存在だよっ!殺されちゃうし、何よりディランさんの敵なんだよ?!』


「孤独イヤ、一人イヤ、心の空洞はイヤ」


『戻って!お願いだからっ!!ディランさんも、クーも絶対に止めるよ!そっちに行っちゃだめだって!!あなた、ディランさん娘でしょ!?』


「クー、ディラン あたしの空洞を埋めてくれる?クー、ディラン なんで心を疼かせる?」


『ああっだめ!そっちにいっちゃだ……*#&』


「街の人、あたしに酷いこといっぱいした。右目を失った、右足が腐食してる、心を大事なものを傷つけた、拒絶した、迫害した。世界はあたしを嫌ってる」


『そんなことないっ…そんなことないよ!!まだあなたが出会ってない人たちがいっぱいいるじゃない!?』


「そんなの知らない。あたしの渇きを癒してくれるのはだれ?ディラン?クー?ううんもう彼らはいない。あたしの孤独を、あたしを必要としてくれてるのはダレ?」


『あなたの知識にはいっぱいいるでしょ!ゴンやキルア、クラピカにレオリオ、みーんなみーんなこの世界のどこかにいるんだよ?いいの!?クラピカと敵対関係になっちゃうんだよ?』


「みんな知らない。知っているのはあたしの知識のみ。彼らがほんとに必要としてくれるの?彼らが本当にいるの?希望的観測、街の人がそうだったように彼らも受け入れてはくれない。あたしの孤独を満たしてはくれない』


『そんな!そんなのまだわからないじゃない!!出会ってもいないのに何でわかるの!?旅団はディランさんの敵なんだよ!?』


「うるさい、もう黙れ」


『ちょ、だめっ、だめーーーーーーーー!!そっちに行っちゃだめええぇえええ!!』


引き止める、ディランの遺志を受け継いだココロは、クーを殺されたショックで顕現してきたココロに追いやられ…


完全に身体の統制をのっとられた


それはココロだけど、心じゃない


ただの空虚な空っぽ


まるで精密な機械人形のように


心を壊された、否、自分で拒絶し、ココロを奥底に封印した… 『 人形 』














パリーン





















あたしの中で何かが変わる


それまでのもやもやした頭の中は澄み渡り、物事がよく見える


あれ?視界がちょっと暗いかな?


まぁ、気のせいか


あれほど傷ついた心は、なんら傷もなかったかのように復元している


傷ごと、何か大事な思いも消えちゃった気がするけど、別にいいや


心がすっきりしてる


気分が良い、はっぴーはっぴー♪


でも、あたしの身体から沸き立つ何かは黒い


嬉しいのに黒い、矛盾


でも、何も気にならない


ああ、これが普通なんだ














「ねぇ、フィンクス?あなた達はあたしを受け入れてくれるの?あたしの孤独を満たしてくれるの?」



問いかけると同時に、身に着けていたサウザンドが眩い銀から、漆黒よりもなお暗い黒へと変貌し、怪しげな光を放つ


のからだも復元が始まる…


























「ちっ、クルタ族の始末に結構かかちまったな」


ここは蜘蛛の仮宿、今回のメインターゲットであるクルタ族の緋の目の奪取には、予想より多くの時間がかかった


「おぅ、なかなか歯ごたえがあって面白かったぜ?やつら目の色が変わると急に強くなりやがったからな」


「そうだねー、でもとりあえず成功したのを祝おうよ」


「はっはっはー、そうだな!じゃあかんぱーい!!」


「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」









蜘蛛の祝勝会は、大きな仕事を終えた後の定例行事だ

とはいっても、旅団員自体がここまで揃う事はそう多くないので、開催された回数も数えるほどなのだが…


クルタ族の緋の目の奪取


それの成功を祝い、今宵蜘蛛は酔いしれる


ウヴォーギン、フィンクス、フェイタン、パクノダ、シズク、マチ、フランクリン、ボノレノフ、シャルナーク、ノブナガ


そしてクロロ=ルシルフルの11人だ


二人ほど団員が足りないが、最近4番だったグレフを倒して蜘蛛に入ったヒソカはどうしても手が離せないらしく


もう一人は欠員


前回の任務の時に、敵の奇襲を受け死亡した


具現化系の能力者で、蜘蛛の情報、霍乱を担当していただけに失った穴は大きい


すぐに欠員の補充を考えたが、今の蜘蛛に足りない能力を埋める人材はなかなか見つからなかった










「そういえばよダンチョー、あいつはどうするんだ?」


「あいつ?」


「あのガキんちょだよ。ジメイの屋敷で俺たちのことを知ってたガキんちょ」


「ああ、あの時のヤツか…」


クルタ族との作戦を考えていて、すっかり忘れていた

一度興味を持った相手を忘れることはオレにしては珍しいことだが…


あの時、オレの心を乱し、そして蜘蛛の事をいろいろ知っている様子だったあの子供


捕獲に向かわせた旅団員達が口々に言う


「殺して捕まえるのは簡単だけど、生かしたまま捕まえるのは難しい相手と」


恐らく、あの時見せた能力だろう



「みんな、ちょっといいか?」


考えが纏まらない


オレは作戦行動のため、子供の捕獲には出向かなかったが、捕獲に向かった団員達に聞けば何かわかるかもしれない



「ん?なに?」


「なんだなんだー?」


「先日捕獲に向かわせた、あの子供をどうするかだが、何かいい意見ないか?」


「あの子供って、黒髪のちっちゃい子だよね?あの子がどうしたの?」

「お、珍しいシズクがちゃんと覚えてるなんて」

「ぶー、それじゃあ普段何も覚えてないみたいじゃない」

(いや、覚えてないだろ…)

旅団員全員の心の声が聞こえたような気がしたが、まぁいい話を続けよう


「あの子捕まえるのは結構きついよ。団長2日後には立つんでしょ?」


「ああ、だからみんなの意見を聞いておきたくてな。今までのそいつの状況を聞いてると、どうもほかっといても蜘蛛の活動にはあまり影響が出なさそうだからな」




「ワタシ捕まえるのに賛成ネ」

「ああ、オレも賛成だ。あのガキ絶対に捕まえてやる」

意気込んでるのは、フィンクスとフェイタン

最初に捕獲に失敗してるだけあって、半ば意地になっているようにも、楽しんでいるように見える


「ほかは?」


「まぁいいんじゃない?」

「おぅ、オレは構わないぜ」

「あたしもOKよ」

「蜘蛛の情報をどこまで持ってるのかが気になるね。それに能力も面白そうだし、オレも賛成っと」

「構わん」


口々に団員達が意思表示し始める


全員が由とした、つまり決行だ



「わかった、決行は明日。メンバーは全員で行う、いいな?」


たった一人のために、全員動かす必要性はないが、話を聞く限りある程度の人数で囲まないと、生かしたまま捕らえるのは難しいだろう


蜘蛛にとって、たった一人の、それも子供に全員で挑むか


それもまた一興だな
























「フィンクスとフェイタンで前方と後方を固める、後の団員は円を囲むように待機だ」

団長の掛け声とともに、団員達が四方へと散る


既にあいつの居場所は掴んでる、もう逃げちまったかと思ったが、未だにあいつはあの森の中にいた


「よし、じゃあ行くぜ」

「わかたね」


フェイタンに後方を任せ、オレはガキの正面へ


「よぉ、待たせたな嬢ちゃん。鬼ごっこの再開と行くか?」



久しぶりに見たそいつの姿は、まるで生気をなくした屍食鬼

肩と足から血が流れ続けているのに、それをまったく気に留めないように、森の中にへたり込んでいる

白い裾から覗く右足の足首は、一部腐食すらし始めており、右目にぽっかりと開いたくらい空洞が生を感じさせない





壊死しないで動かせているのがびっくりだな…

死んでるのかと思った、それほどまでにガキの存在が希薄だったから



残っている左目を開けこちらの様子を伺っている


その目はこちらを見ているはずなのに、まるで初めから何も見ていないように虚空を彷徨う





なんだこいつ…?

たった数日でなんでこうも変わりやがったんだ?



最後に見た時から2週間もたっていない


それなのにガキの風貌は既に別人のようにすら見えた




なんでそんなに期待に満ちたような、恨みを持っているような目で見てやがるっ!



「今日は逃げられると思うなよ?オレ達にも予定があるからな、悪いけど総力戦だ。
 って…ん?今日は逃げないのか?」



ガキの外見以外にも、前とは違っている箇所があった


なんで逃げないんだ、こいつ?




以前はその姿を見ただけで、反対方向にダッシュで走り出し、あの能力を使って逃げ延びていたものだ


それが今日は微動だにもしない



諦めたのか?


この気配の多さを感じ取って





いや、違う


ガキの目は、注意は周りなんか気にしちゃいない


目の前にいるオレやフェイタンですら気にしてないようなそぶりに見える





なんなんだこいつは?



今ならあっけなく、捕まえれる

さっきから後方のフェイタンも、正面から行くように指示を飛ばしまくってきてるが、オレは動けなかった


ガキの行動が妙に気になったから





ブワッ


ちっ、またあの能力か!?




ガキの身体から一陣の風が吹いたかと思うと…



「ねぇ、フィンクス?あなた達はあたしを受け入れてくれるの?あたしの孤独を満たしてくれるの?」




なんてことを言いやがった、このガキは


まったく持って予想外、いやそれ以上に驚くべき事


今まで虚ろだった少女の目がはっきりとこちらを見据え、…なぜかはわからないが別人のような雰囲気すら与える

先ほどまでの少女ではなく、最初に会った少女でもなく、まったくの別人

でも、目の前にいるのはあの時と一緒のガキ




なっ、傷が勝手に治っていきやがる…








腐食していたはずの右足が、巻き戻るように復元

肩の傷が、こちらのセカイに来てからの全ての、身体のいたるところの傷が復元

ぽっかりと空洞が空いた右目が、まるで悪い夢を見ているように、急速に再構成され、

黒よりも暗い黒、漆黒、深遠なる夜の闇、光すら映し出さない暗い瞳が構成される





の唯一の持ち物であるサウザンド

眩く、全てを照らし出すような銀のナイフも何者をも映し出さない漆黒の刃に…














あいつの能力か?


警戒するべきだ



頭の中で警鐘がなる



抑えていた念を解き放ち、「 回天 」を数回まわしておく







フェイタンにも距離を詰めさせ、一斉に飛び掛ろうとした時



「ねぇ、あたしを必要としてくれないの?」





ガキからはまったく敵意が感じられなかった


それどころか、自分から捕まりに来る素振りすらある


まったくもってわけがわからねぇ



おっと、回天を消費しとかないとな



手近にあった木を粉砕し、念で警戒しつつガキに接近する


オレがガキに接近すると、ガキもこちらにゆっくりと近づいてくる


本当に捕まりにくる気らしい


「自ら捕まりに来るとはどういう心境の変化だ?」


「別に…で、あたしを必要としてくれるの?あたしの渇きを癒してくれるの?」



妙な事を口走るガキだな





考えてみると、まともに会話したのはこれが初めてかもしれない


幼い見た目の割りに、大人びた口調の、おっとりしている様で燐とした口調は力強さを感じさせる


風になびく黒髪と、ガキを纏う様に見える黒のコントラストに、一瞬目を惹きつけられた


それは、周りで見張っている団員達も、あのこういうことに無関心なフェイタンですら見入ってるようだ



今はあわせておいたほうがいいだろう…



「ああ、オレ達はおまえを必要としている。お前がオレ達についてくるというならな?」


ぽふっ


な!



急にガキがオレに飛びついてきやがった



まったくの予想外



抱きついてきたガキは、かなり身長差のあるオレの顔を見上げて



妙に嬉しそうだった







こいつ、これから何されるか知ってるんだろうか…?




まぁパクがいるから、フェイタンの出る幕はなさそうだが…



























「捕獲したのか?」


フィンクスにくっついているを見定めるように、団員達が次々に出てくる


「きゃー、フィンクスってばもしかしてロリータキラー?」


「ち、ちがうわいっ!こいつが勝手にだなぁ…」


「まんざらでもなかったりな、ガハハハハ」


「それにしても、やけにあっさり捕まったね。本当にフィンクスそういう才能があるんじゃないの?」


「おいマチ!冗談でもそういうことは言わないでくれ」


「冗談じゃないんだけどね」


「へぇ結構かわいい子だね。お名前は?」


口々に団員がわめきたて、楽しそうな談笑を繰り広げている



ああ、あたしはなにをしてしまったのだろう…

一筋の後悔の念、壊れてしまったココロ


壊れてしまった思い、壊れてしまった人格


壊れてしまった志、壊れてしまった思い出


壊れてしまったあたし



ただ、記憶だけが何の感情を揺さぶらないまま、あたしの頭の中に残っていた



ココロは空洞、ただ孤独がイヤだった


彼らに少しでも優しさを感じた


だから、あたしはココロを捨てた、志を捨てた、思いを捨てた



一人ぼっちはイヤだという、自分の心の弱さのために、耐え切れない状況のために













壊れてしまった刻は、再び刻みだす事はない

壊れてしまったココロは再び温もる事はない




ただ、そこに孤独を少しでも満たしてくれる存在がいるのなら、あたしはココロを壊そう


ただの人形と成り果てよう


永劫に人の中にあり続ける人形に…



































その日、セカイ に絶望した