籠の中の小鳥は、孤独だ


でも、生まれた時から籠の中なら、そんな思いも感じなかっただろうに





籠の中の小鳥は、孤独だ


でも、周りに人がいてくれるなら、その小鳥は孤独ではなかった





ただ、それだけでよかった



























「さて、質問に答えて貰おう。パク」


「わかったわ」


の頭を撫でる様にパクノダの手がを包み込む


「何から調べるの、クロロ?」


「まずは、何故オレ達のことを知っているか?からだ」















ここは旅団の仮宿の一つ

マチの念糸で四肢を拘束され、目隠しをされたまま連れてこられたのでここが何処なのかはわからない

ただ、団員達の会話から、ここが旅団のアジトの一つであるという事がわかっただけ





暗い湿った空気と、異質な雰囲気を漂わせるそこは、立ち入るものを拒絶するかのごとく佇んでいた


某国、某都市郊外のビル郡の地下


すでに廃墟と化しているその地域一帯は、地元の住民ですら近づくものはいなく、まさに旅団のアジトとしてはうってつけの場所だった


数多ある仮宿の中でも、旅団が好んで使うエリアがここだ








「ったく、みんなも物好きだよなー」

壁に背をもたれるようにして休んでいるフィンクスが、誰に向けたともわからないメッセージを呟く

広大な地下空間には点在するように蜘蛛の団員達

この雰囲気が流星街に似ているのか、各々の寛ぎ方をしている


「そうだね、ってオレも言えた義理じゃないか。まぁみんな同じだと思うよ。あの不思議なガキ、あいつの正体と能力が気になるからね」









そう、オレ達が仕事が終わってもバラバラにならない事は、かなり珍しい

蜘蛛は、幻影旅団という集団で行動しているイメージが世間一般では強いらしいが、その実はほとんど集団行動というものをしない

4〜5人で組んで仕事したりはあるけど、団員のほぼ全員が参加する仕事などは年に一回あるかないか程度なものだ



まぁオレ達もいろいろと忙しいし



初期メンバー同士ならいざ知らず、蜘蛛のメンバーは時折変わる

入団希望者が出て、在団員を倒せば入団可能だし、それ以外で欠番が出ると団長が団員を補充する



そのせいで、一部団員同士の気が合わないことがたまにあり、一部仲が悪くなっている、ってのも原因の一つだけどね


まぁ、今のメンバーは結構安定してると思う、4番のヒソカを除けば


つい数ヶ月前に、任務中に死亡したグレフは途中入団だったし、なによりその性格からあまり旅団員達に好かれてはいなかった

ただ、能力が蜘蛛にとって使えるから団長が無理やり入団させただけ

機があればいつでも団長を殺そうとしていた

それゆえみんなからも警戒され、気の合うというか近づく団員がいなかったため、いなくなっても誰も悲しむなんて事はない

ただその能力がなくなったことだけが惜しまれるだけだ


そういう意味じゃヒソカも似たようなものだが…

まぁヒソカの場合、あっちから無理やりコミュニケーションをとってくる節があるので、団員の間でも嫌い、どうでもいいと分かれていたりする





ともかく、蜘蛛が大人数で動く事は稀な事だ

それに、大仕事が終わったあと、クロロが場を占めたら大概はみんな四方八方に消え去ってしまう

あとはクロロからの指示を待ちつつ、数人で集まって仕事するだけだ



ただ、今回だけは違っていた

クルタ族の緋の目の奪取と言う大仕事を終えたにもかかわらず、参加した団員が誰も欠けることなく、旅団のアジトの一つに移動した



やっぱり、みんなあのガキのことが気になるのかな

まぁ、蜘蛛全員がただの子供に興味を示す、なんてことも一興で面白いんだけどね




愛用の携帯を弄りながら、ふとあのガキのことを考えてみる




幼い外見からは想像できないような異質な空気、それも捕獲する前突然気配が変わったように思える

これが気になる点の一つ


なぜか蜘蛛の情報を事細かく持っていると言う事

蜘蛛の情報をああも詳細に知る人間は少ない、ただ名前と顔の一致程度ならハンターサイトで金を払えば手に入らない事もないだろうが…


あのガキはオレ達の念能力すら知っているようだった


何よりの証拠が、オレとウヴォーであいつを捕獲しに行ったとき、ウヴォーの力よりもオレの携帯のアンテナに警戒してた事

普通のヤツなら体格からもいって、まずはウヴォーのほうを警戒するはずだ


自分のことを言うのもなんだが、俺とウヴォーを比べれば、能力云々をなしにすればどちらを警戒するかなんて自明の理

                       
  ブラックボイス
だけど、あいつはオレのアンテナ、「携帯する他人の運命」 を非常に警戒していた


つまり、ここから導き出される答え


あいつは俺の能力を知っているか、なにかしらの情報を持っていると言う事になる


それはありえない事だ


前線で戦うウヴォーやフランクリンたち、具現化系の能力者であるシズクとかなら能力がばれてるのも頷けるが

主に、後方支援をし、見つけられにくい念能力、操作系のオレの能力まで知っているヤツは、旅団員を除けばそれこそ数えるほどしかいないだろう


ゆえに、興味がわく


その知識が何処から来たものなのか、そしてあの少女の、オレ達を散々苦しめた能力がどのようなものなのか





もしかしたらオレ達は、あの少女が纏うオーラと、ある種、艶やかな雰囲気に当てられてしまったのかもしれない




あの少女が持ちうる知識、そして急に様子が変わった事、能力


それらがオレ達団員の興味を記す共通の事柄だった
























ったく、あのガキにかかわるとやっぱりろくな事がねぇ


あのあと、散々アジトに戻るまでみんなからロリ呼ばわりされるわ、あいつはがっちり俺の身体を掴んで離さないわ…


昨日一日だけで、俺の心はずたぼろだ


横に座っている、フェイタンが妙に残念そうな顔で、ガキと団長が消えた部屋を見ている


「フェイタン、残念だったな。パクがいなければお前の出番だったのにな」

「あのガキは絶対拷問するよ」

「まぁ諦めないこったな」


再びオレ達の間に訪れる沈黙


それにしても…、フェイタンがこうも一人の人間に執着する事は珍しい

捕まえられなくてむかついてる

拷問がしてみたい

表情が好みっぽい


いろいろ考えられる事はあるが、どれもピンとこねーや


「なにジロジロみてるか、このロリキラー。もしかしてワタシも狙うか?」

「ってめー!まだ言いやがるのか!!上等だ、表に出ろ」

「いやね、ロリがうつるね」


「あはは、まぁフェイタンもそのくらいにしといてあげなよ。フィンクスの隠された一面がわかっただけだし」

「シズクてめー!だからそんな一面ないっつってるだろ!?」

「へっ、まんざらでもなさそうな顔してたぜ?」

「ウヴォーお前もかよ!いいぜ、もうキレた、かかってこいよデカブツ!!」

「いいぜ、じっとしてるのはどうもしょうにあわねーから、なっ!」





地下に響き渡る、強者同士の打ち合い

団員同士のマジ切れは禁止のはずだが…

どうせいつものことなので、誰も止めようとはしない


「ウヴォー、フィンクス、うるさいから外でやれ」


対して興味もなさげに、フランクリンがそう言うだけだった





























=、間違えないわね?」


暗い部屋

ただ椅子が一個置いてあるだけの暗い部屋





ぎしぎし




椅子の背後で結び付けられたロープがあたしの動きを封じている


「間違いない、あたしは=


そう、あたしは=

この世界にトリップしてきた、異界の人間


strayな存在



「どうだパク?わかったか?」


あたしの頭を触りながら、質問を繰り返すパクノダ


知っている、あたしは知っている


彼女が記憶を読んでいると言う事を









「っだめだわ、名前、年齢とか普通の事は出てくるけど、何故あたし達の事を知っているのか、何処から来たのか、能力は何か?などの質問にはまったく無反応だわ
 いや違う、何か靄がかかったみたいに 「見えない」 のよ」


「ふむ…、能力の事は本人が無意識で使ってる可能性もあるから、答えがないのはわかるが、それ以外の記憶が見えないのは妙だな…」


パクが記憶を読めないなんていうことはありえない

パクの能力は、言葉によって浮き上がった記憶の根源を読み取る能力

本人が覚えていなくとも、記憶にさえあれば揺さぶられた記憶の根源を掬い取る事ができる

それがパクの能力

ゆえに、パクが読めないというのは

「本人が知らない」

「知ってはいるが、かけられた言葉と記憶が結びつかない」

と言う場合のみだ


だから、ありえない


このガキ、と名乗った少女は確実にオレ達のことを知っている

それも能力まで

パクに記憶を読ませたときも、その言葉をパクが口にした時も動揺すらすることなく、ただ椅子に座ってこちらを眺めているだけだった





その目には恐れも、不安もない

純真無垢、いや、何も見えてはいない





パクの能力を知っているやつは少ない、いや旅団以外ではほぼ皆無に近いのではないだろうか
                                       
メモリーボム
大抵パクの能力を知ってしまったやつは、パクのもう一つの能力 「記憶弾」 で記憶を消すか、殺してしまっている


そのパクが読めない記憶、なによりから発せられる、無機質なオーラが妙に興味を引く


「読めないものは仕方がないな、じゃあ質問を変えよう。ここ最近何があったか、だ」

























「わかったわ」

団長の指示通りに、あたしはこの少女を尋問する

正直、あたしがいてよかったと思う

こんな少女をフェイタンの拷問で吐かせるなど、あたしにはとても見てはいられないものだっただろう


ただ、このと名乗った少女は不思議だ

あたしの能力が一切通じない

否、名前とか基本的な情報は容易に読み取れたが、それ以外の情報がまるで読めない


まるであたしが読み取る原記憶自体が、何重の箱に厳重に包装され、さらに靄がかかっているような

記憶と、あたしの言葉で揺さぶられた記憶が結びつかないなんて事はありえない

蜘蛛の情報と言えば、少なからずなんらかの原記憶が出てくるはずなのに…


彼女からは何も感じる事ができない

それどころか、あたしが記憶を読もうとするたびに、よくわからない黒に、あたし自身が引き込まれてしまう感覚


この少女、の中は深い

どうしてこんな幼い少女が、こんなにも黒くて、深い記憶を持つ事ができるのだろうか…


あたしは薄ら寒い寒気を感じた










だったっけ、あなた、ここ最近何してたの?」


問いかけられた言葉

問いかけられた記憶

問いかけられた能力


急速にあたしの頭の中の、南京錠でぐるぐる巻きにしてある本棚が無理やり開かれ、読まれる感覚




失ったはずの感情が、一瞬揺さぶられるが…


それに対し、あたしは何も関心を持たなかった





















「ッ!」

弾かれた様にの頭から手を離すパクノダ

クロロがその様子に驚いたかのように、パクノダに問いかける

「どうした?パク!」


パクノダの顔からは大量の冷や汗、真っ青な顔色の悪さがパクノダの心境を物語っているようだった


「はぁっ…はぁ…、記憶は読めたわ。なんて…、なんて恐ろしい娘…。それでいてなんて可哀想な…」


「落ち着けパク、ゆっくりで良いから説明してくれ」


当の記憶を読まれたはずのは、パクノダの様子など気にも留めないかのように椅子に座り込んでいる

一瞬垣間見えた凍りついた表情が何だったのか、一瞬自身、自分のことなのに興味を持ったが、次の瞬間には既に興味を失っていた











問いかけた言葉から、の記憶が沸き立ち、その原記憶が現れる

いつもと同じようにあたしは能力を使ってそれを読み取ろうとしたが…


読み込んだはずのあたしの意識は、黒に飲み込まれていた


あたしが侵略しているはずなのに、逆にあたしに侵入されてる感覚


それとともに、彼女のここ数日の記憶のみがあたしに注ぎ込まれる


否、注ぎ込まれるなんて生易しいものじゃない、これは強姦

記憶の渦が、支配者であるあたしを犯しつくすように無理やり挿入される

それは、ただの黒

黒が形作る、記憶の数々





吐き気が…するっ

瞳からは知らずと涙がこぼれ、嗚咽がとまらない

この少女の記憶にあたし自身が乗っ取られてしまったの?

まるで記憶が、今そこにあるリアリティのようにあたしの頭の中に降り注ぎ、全神経を掌握される

それは黒いイメージ、黒と赤が入り混じった奇妙なイメージ


歪み、捩れ、混ざり合い、黒と赤が融合するが、そこには何もない無機質

人間本来の衝動を無理やり起され、幾本もの剣で穿ち、刻み、抉り、穿り出される


キオクがあたしと同化スル










「ッ!」


ただ無意識に、から手を離す

侵食してきたキオクは、手を話した時点で失われ、「あたしの感覚」が戻る

あたしがあたしであるためのキオクから、混じっていたものが取り除かれ、視界がクリアになる


ただ、沸き立つ感情だけは止められなかった

強烈な負のイメージ


涙が止まらない、嗚咽がとまらない


あたしの感情は、この年端もいかない少女によって、完全に飲み込まれていた





能力を切り、少女を撫でる

それはただ愛しむかのように
























これ以上パクに無理をさせるわけにはいかない

パクは蜘蛛の大事な情報源であり、初期メンバーの一人

パクの能力は貴重であり、蜘蛛でも重宝されているもの

ここで失うわけにはいかない




念能力と言うものは、精神に影響されやすいものだ

怒り、悲しみ、羞恥、愛、諸々の感情によって大きな影響を受ける

それは完成している能力でもいえることだ


あまりに強い感情を心身に受けてしまうと、精神をやられてしまう恐れがある

それによって、念能力が変質したり、使えなくなったり、新たに使えるようになったりもするようだが…


パクの能力はレアだ

しかしその特質性ゆえに、戦闘向けではない

戦闘向けではない能力、つまり耐性があまりない能力者は、相手の感情によって影響を受けやすいのだ

しかもパクの能力は、相手の記憶に直接触れてしまうもの

強い感情は少なからず記憶にも影響する

その記憶に込められた感情が強ければ強いほど、パクに多大な影響を与える





はその中でもっとも危うい存在

強烈な負のイメージ

パクの話を聞く限りでは、の記憶の中は、パクの精神を食い尽くしてしまうかのような強い感情が渦巻いているのだろう


この幼さで、その強烈な負のイメージ

その身に体験してきた過酷さは、パクの様子を見る限り、このちっぽけな少女にとって想像を絶するものだったのだろう


でも、この少女は今、特に何の感情も表さない素振りでオレの目の前に座っている


感情を殺しているのか?

いや、違う

そんな空気は微塵もない





ならばなぜ…?


感情をまるで表そうとしないその少女に、オレの興味はどんどん惹かれていった

























頭の中を無理やり読まれる

よくわからない感情とか記憶とかが一瞬出てきたような気がしたが…

それがなんなのかわからない


ただ、少しの暖かさにしがみ付く様に

あたしのココロは空虚だった