「パク、少し休んでろ」

記憶が読めないのなら、方法を変えるまでだ

いくらでも真実を知る方法は、ある


「ちょ、まさか団長、フェイタンに任せるんじゃ!?」


「そうだ、記憶が読めなく、喋る気がないなら…、吐かせるまでだ」


「いくらなんでも可愛そうですよ団長!だってこの娘は…」


「パク、部屋の外に行って休んでろ。これは団長命令だ」


あからさまにわかるパクの不満顔

パクの言いたいことはわかってる

この少女に対し、直接記憶に触れたパクならば、思うところもあるだろう

それ以上にフェイタンにこの少女の尋問を任せる事が何をさすか、それゆえの不満

恐らくこの少女、の心身、精神は持つまい

年端もいかないこの少女にフェイタンの責め苦を耐え切る術はない

喋るか、死ぬか

だからこそ、パクは食って掛かろうとしているが…











蜘蛛において、団長命令は 「 絶対 」 だ







「…っ!は…い……」

これから起こる事を哀れむような目で、悲しむような目で、虚空を眺め続ける少女を一瞥し…

パクノダは部屋を去った

ただただ溢れてくる嗚咽を堪えながら













「パクどうだった?ってどうしたの?」

扉から出てきたパクは顔面蒼白だった

嗚咽を漏らしながら、普段にはありえないような表情を湛えている


「フェイタン…、団長が呼んでるわ」


外にいたオレ達には何が起こったのか知る術はない


ただ、団長がフェイタンを部屋に呼んだ、その結論は一つしかない


即ち、あの少女の拷問


「まさか、団長あの娘フェイタンに任せるつもり?」

パクを囲むようにして集まっている蜘蛛の女達から、ある主の叫び声が飛び交う

やっぱり同性だけあって、これから行われる、それも年端もいかない少女相手にフェイタンの行為が繰り広げられる現実に

非難の声が上がる


それは内心でオレも一緒だった

まさかパクがいる状態で、フェイタンまで出番が回ってくるとは予想していなかった

ゆえに、一瞬そんな気持ちが過ったが、すぐに消えた


パクが発した、団長命令と言う言葉

団員達にとって、団長命令は絶対の言葉

ゆえに反論するものはいない、それに団長には何か考えがあっての事だとみんな知っているから


でも、心の中はどうだろう

年端もいかない、それも虚ろな瞳をした、触ったら消えてしまいそうな少女をフェイタンの拷問にかける

いくら団員達でも決して気分のいいものではない


それが同性なら尚更の事だろう



「わかたよ、いってくるね」


フェイタンですら、自分が呼ばれたことが少々意外だったのか…

一瞬戸惑ったが、やがて嬉しそうに部屋の中へと入っていった


これから起こる、悲鳴と嗚咽のショーを期待しながら…

























「それじゃフェイタン頼む。少し席をはずす」


「わかたよ、まかせるね。このガキが知ってる事全部吐かすね」


「ああ、任せた」


クロロはそういい残すと、部屋の外へと出て行った


扉の向こうでは、女達の非難に満ちた声が上がっているようなきもするが、ワタシには関係ないね


部屋には、少女が一人

椅子に座り、まるで何かの順番待ちをしているかのように、ぼーっと虚空を眺めている


散々逃げ回ってくれたこのガキは、いったいどんな声で鳴くのか


楽しみね

























ぎきぎぃぎぃぎぃ























ずずっずずずっ…ぺり
























グシュ!ばきっ




















ばしっ、ズチュ



























キュィィイイイィイイイイン

ガガガガガガッガガガガガ

























絶え間なく続く断続音、部屋の外の団員達はまるで無関心のようで、聞き耳を欹てていた


フェイタンの拷問


別に珍しいものではない、少人数行動の時とか、パクがいない時にはフェイタンの拷問で吐かせる事はざらだ


それがいけないこととも思ってないし、嫌な事でもない


それが蜘蛛にとって必要な事だからだ




「妙だな…」




横手にいたノブナガが、ふと呟く


確かに妙だ、何が妙かって?それは…





「ああ、「悲鳴」が聞こえねぇ。フェイタンの拷問なんて始まって1分もしないうちに悲鳴が聞こえるもんなんだがな」


「…………」


先ほどまでマジギレ寸前で殴り合ってたフィンクスですら、横で神妙な顔をして扉の中の様子を探っている


こいつがこんな顔をするのも妙なことだ


団員以外では、フィンクスは冷たい


まぁオレも似たようなものだが、ある種フィンクスとフェイタンは似通っているところがあるからな


フェイタンの行いを、こうも神妙な顔をして伺っているのが妙に珍しい


「ねぇ、ウヴォー。中どうなってると思う?」


「ああん?オレにゃわかんねーよ。ただ悲鳴が上がらないのが不思議なだけだ」


シャルナークも扉付近まで近寄ってきて、俺の傍に座っている


正直暑苦しい、これでフランクリンまで来た日には、蜘蛛が違う集団になっちまう


「ああ!?もうみんな近寄ってくるんじゃねーよ!暑苦しいだろ!?おまえら、あんなガキのことなんてそんなに気にしてんじゃねーよ!」


「ふふ、とか言ってウヴォーも気になるくせに。さっきより扉に近づいてるよ?」


「な、これちがっ、ただだなぁ、ちょっと場所が移動したかっただけよ!」


「まぁまぁ、気になるのはみんな一緒だよ。ほらボノですら近くで聞き耳立ててるし、やっぱり気になるんだよ」


まぁこれで気にならない団員は早々いない


どんな屈強な猛者でも10分あれば悲鳴を出させるくらいわけのないフェイタンの拷問が、1時間以上たった今でも悲鳴の一つも出させていないのだ

何もやっていないのなら話はわかるが、中からは断続的な物音と、何か肉が裂けるような音が聞こえてくる





わからんねぇ…

興味、悲涙、同情、全てが入り混じった視線が暗く閉ざされた扉へと突き刺さっていた




































まずは、爪を一枚ずつはがれた

手の爪から、足の爪まで全部

鋭い針を爪の間に刺され、そこから爪を剥がされた





次は、指の骨


小指から徐々に間接をボキボキに折られた

いまやあたしの手足の指の関節は言う事を聞かない







足の太ももを何かが、つつーっと這っていき、皮が裂ける感触

べろんと捲れたあたしの皮が、赤い靴下のようにあたしの足に纏わりつき、赤く光る肉が露出する







身体は剣山のような台に固定され、上から20kgくらいの重石をかけられ、あたしの身体は針に沈む


頭蓋、頚椎、腰骨あらゆる部分に針がめり込み、あたしの身体を攻め立てる


流れ出る血液と、僅かな体液が台の上を伝うようにして足元へと溜まる


その液体を口の中に注がれ、それは再びあたしの体内へと帰る


自分を自分で食している感覚、破壊させる拷問












身体的な痛みはほとんどない


ただ、あたしの中の大事なものが、粉々に砕けてたゆたっていたものが、


急速に失われていく




絶望、失望、あたしの中がからっぽな黒で多い尽くされていく


追い詰められていくあたし自身、いやあたしの魂


奈落の底へと落ちていくように、あたしの大事なものはどんどん遠く離れていく







あたしには何の感情もなくて


何の痛みも感じなくて





あっ、そういえば痛みってなぁに?





痛みと言う存在を忘れて



自分の身体が表面から解剖されていく


殺すことなく、ただ苦痛だけを与えていく






粉々に砕け散った、大切な欠片のように


手足の骨も折られ、捻じ切られ、粉々に砕かれた




動かない手足、動かない身体


動かないココロ、動かない魂


何の感情も宿さない、まるで人形


死ってこんな感じなのかな?




あたしの選択はやっぱり間違ってたのかな?


旅団についていったのは間違いだったのかな?



答えるものは誰もいない







耳に届くはただフェイタンの声のみ





















「なんで、なんで吐かない!なんで悲鳴も上げない!」


あは、あたしよりフェイタンのほうが狂っちゃった?







無意識に笑顔が毀れる




でもそれになんの感慨もない




こわれたココロ




何も感じない身体





ココロを失ったあたしは空虚だった




























「もういい、フェイタン」

いつの間に部屋に戻っていたのだろうか、クロロが拷問を続けるフェイタンをとめた

「わかたよ、外に出てるね」

あっさりと引き下がるフェイタン

いつもなら相手から情報を、相手から苦痛の声が漏れない限り拷問をやめようとしないフェイタンが退いた


それは何故だろう?


がいつまでたっても悲鳴一つ上げないから?

団長命令だから?

痛みに歪む表情が見れなくてつまらないから?


否、全て違うようで全てが当てはまっている













どんな念能力者でも、屈服させてきた自分の拷問

どんなに肉体を鍛えてようと、拷問すべき術はいくらでもある





今まで、ずっと耐えた奴もいた

痛みに耐え悲鳴を漏らさない奴がいた


最後には殺す寸前で吐かせたが、彼らには多少なりとも歪にゆがむ表情があった



痛み、憎しみ、恐怖、不安…


それらの感情は、少なからず表面に出るもの





だが、あの子供は悲鳴どころか顔色一つ変えなかった

まるで死が常に自分の横にあると教授しているものの顔

否、違う


死すら理解していない、死を感じていない

人として機能していない、少女





どこか虚空を眺めるような少女の瞳が、黒く塗りつぶされた右目が、ただそこにあるだけの存在のように、虚ろに漂っていた


恐怖も焦りも、不安も痛みも感じさえない無機質な表情



その表情が一瞬、自分を見通すように見るのがイヤだ

過去の出来事を想起させるような瞳がイヤだ

一瞬、その瞳を潰してやろうとしたが、その漂うオーラになぜか攻撃する事ができなかった



なぜ、なぜそんな目で見る!?


何も感じさせない瞳



その瞳が、自分の拷問に何も感じていないその表情が、フェイタンはイヤだった
















自分の拷問ではこの少女を堕とすことは…できない















屈強な精神ではない、感じていないのだ…何も…
































「困ったな」

台の上から開放され、再び椅子の上に座らされた

部屋の中にいるのは、フェイタンと入れ替わるように入ってきた、マチとシャルナーク


まるであたしを天然記念物でも見るかのように珍しそうに眺めている




そんなにあたしの格好が珍しいの?

























部屋から出てきたフェイタンと入れ替わるように、部屋の中に入った

団長を一人にしてはおけない

蜘蛛として頭をどんな状態でも危険に晒す訳にはいかない


いや、多分それだけでない事は自分でもわかっている




扉の傍で待機しているほかの団員達の興味もそれだろう




あの子…なんで平気なの?




そう、あの少女


パクが記憶が読めなく、フェイタンの拷問中も一言も発しなかったあの少女




「マチ、シャルナーク、そいつを解いて椅子に座らせてやってくれ」


横手から聞こえる団長の声

でも、あたしは…その少女から目が離せなかった









無機質に虚空を眺めるその瞳


滴る赤い血


剥がれた爪、皮












なぜ、平気でいられる?

こんな年端もいかないガキが…







横ではシャルナークも固まっている

それはそうだろう、シャルでもこんな光景は予想していなかったに違いない




「解いてくれるのなら、早くしてくれると助かります。手足が動かないので」


「っ!」


その無機質な瞳をした少女の声で、あたしの意識は 今 へ戻る


今の少女の状態と、はっきりと凛とした少女の声が妙にミスマッチで、あたしは薄ら寒い悪寒を覚えた


























さて、どうする


目の前には体中から血を流しながら、こちらを見据える

手足全ての関節はだらんと垂れ下がり

まるで羽をもぎ取られた蝶

蜘蛛に捕われ捕食される蝶





そのはずだった

ただのこの幼い少女には、蜘蛛に抗う術は持ち合わせていないと思っていた




今この現状はどうだ?


脆弱なはずの蝶は、パクの能力を掻い潜り、フェイタンの責め苦を声一つ漏らさず耐え忍んでいる

いや、耐えているという表現は間違いか

何も感じていない


そう、それがしっくりくる


無機質な人形のよう


しかしその瞳はまっすぐこちらを見据えている





光を湛えているが、どこか虚空を漂っているような左目と、何者をも写さない黒い右目

その両目は、まるでオレの触れられたくない部分まで見透かして、隆起させる


なんだこの気持ち

蜘蛛として活動し始め、自分でも意識していなかった気持ちが自分を揺さぶる



この少女は危険だ、蜘蛛に悪影響を及ぼす恐れがある


だがその反面妙に興味を引かれるのも事実


消すか?

いや、…まだだ

まだ方法はある



できればこの方法はとりたくなかったんだがな






「さて、まだ話す気にならないか?」


「蜘蛛の事?」


「そうだ」


あれだけの拷問の後でも、あっけらかんと聞き返してくるの瞳に変わりはない

これは期待できないな…


「ただ知ってるから知ってるだけ。さっきも話したとおり団員の能力ならあらかた分かります」


隠してるとも思えない、思えない…が一応試しておくか


「そうか、本当はこの手段は使いたくなかったんだがな。シャル、マチ、見たくなかったら向こう向いてていいぞ」


「?」


二人ともこれから何が行われるかまるで見当もつかないようだ

まぁオレもこんな子供に…っと、今はそんな事考えてる場合じゃないな


「喋る気がないんなら、…身体に聞くだけだ」


「んぅ?」







ビリッ









の服を引きちぎる




「ちょ、団長!?まさか…」


「見たくなかったら見ていなくていい。オレもこんな子供とヤる趣味はないがな。痛みも恐怖も感じないのなら…これしかないだろう」
























最初クロロがあたしに何をしようとしたのか分からなかった


引きちぎられる服


晒される裸体




トクン







何この気持ち、何が行われるの?








その手は下着にも伸び、無理やり引き千切られる









トクン、トクン






なんだろう?この心の疼き


何も感じないはずのあたしの、切れた感情の、一本の線が引き寄せられる磁石のようにお互いを手繰り寄せる



「まさかこんなガキとヤるとは、オレもつきがまわったな」




あたしの太ももに向かって伸ばされる手


皮がだらんと垂れた足首から、まるで這う様に徐々に上へ上へと向かってくる








トクン、トクントクン




なに、かが、あたまのなかからでて、くる



なに、この感じ…



あたしが経験したどの感じとも違う、感覚



あたし何されるの?


わからない





ただただ、何か分からない不安が込み上げてきて…



その不安を理解する間もなく





クロロの指はあたしの…へ辿り着いた









「ッ!?」





わかった


理解した


いや、わかってしまった



これから何をされるのかも、あたしに何がされるのかも




壊れてしまった感情



でも、あたしはその感情だけは経験した事がなかった




恐怖




何も知らない、それがどういうことなのかもよく分からない




怖い、怖い、怖い、怖い、怖い





その感情は…








羞恥













「まだ幼いな」


「ッ!イヤァアアアアアアアアアアァアアアア!!」






あたしの…を撫で付けるように移動したクロロの指に反応するかのように、あたしの中で何かが爆発する


イヤ、いや、いやいやいやいやいやいやいやいやーーーーーー!!!!!
















ブワッ!























「何ッ!?…ぐっ!」


耐えられなくなったあたしの感情に呼応するかのように、あたしの身体から黒い渦が発生し、



















ズガガガガーーーーン!
















あたり一面を爆砕した
























「ちっ、どうした!?」

突如部屋の中から聞こえた強烈な爆発音に、扉の前で聞き耳を立てていたほかの団員達が一斉に扉の中へと入ってくる


「な、これは…」


彼らが驚いたのは無理もないだろう


煙やまない部屋と、倒れ伏す裸の少女と…




まるでミサイルでも落ちたかのような大きなクレーター




「何が…あったんだ?」


答えはない


その状況は、団員達誰も予想していなかったものだから

























なんだ?

なにがあった?

団長があの少女の服に手をかけた時点で、オレは大体の予想がついた

横にいたマチもこれから起こる事に気づいたらしく、必死に表情を隠してはいるが、動揺しているのは見て取れた



確かに、痛みも恐怖もパクの能力すら通じなかったら、もう手段はこれしかない


すなわち、あの少女を犯す


肉体的に、精神的に追い詰めるのに最も効果的な手だ


ただ、あの少女に団長がやるとは思ってもいなかった



そして、団長が少女に手をかけた途端の謎の風、そして爆発



思考が正常に戻る


「ッ!団長は!?」



オレとマチはある程度距離があったから、爆風が届く前に念の防御ができた

でも、団長はもろに食らったはずだ

あの距離…いくら団長でも、無傷とはいかないだろう





「――痛っ…、ちょっとこのガキを見くびりすぎたな…」



よかった、団長は無事だ


いつの間に移動したのか、部屋の隅から這い出るように出てきた団長は、少々傷を負っているようだが、致命傷となるような傷はまるでない





「何があったんだ!?」

音を聞きつけたのだろう、入り口にはそこにいた団員達が全員固まっていた

























「チッ!」


突如としてガキから発生した黒き霧に嫌な気配を感じ、即座に「盗賊の極意」を具現化


能力を発動すると同時の爆発


一瞬遅れてしまった行動が、本を持っていた方の右腕を少々傷つけた



なんだったんだ、あれは…


爆煙収まらぬクレーターの中心には裸体の少女



さっきの爆発もあのという少女が起したもので間違えがないだろう


今は気を失っているようだが…




そっと少女に歩み寄る


その寝顔はまるで、天使のように清らかで


その身体から発せられるオーラは黒くて


その妙なコントラストが急速にオレの興味を惹いていった



ん?

これは…


黒く煤けた、箱のようなもの


持ち上げると、容易く崩れ落ちた



の傍ら、物置として使っていたここに放置されていたもの…




「団長大丈夫か?」


部屋の惨劇を眺めながらウヴォーが尋ねる


「ああ、ちょっと右腕をやられただけだ。それよりこれ見てみろ」


先ほど拾った欠片を団員達に投げ渡す


「っとと、ん?なんだこれ?」


黒く光る何かの欠片


「ちょっとウヴォー、オレにも見せてよ。…って団長これ……」


シャルは気づいたようだな


「ウヴォー、この色に見覚えがない?もともとは箱のような形をしててこんな色してた物だよ」

「これって確か…あ、思い出したぜ!たしか何とかって奴の箱だよな!」

「「クリルの箱」、古の古代神字を使った稀代の念能力者、クリルが作った箱だよ」


そう、これは確かにクリルの箱…だったものだ










ヴァン=クリル


数十年前に突如として現れた稀代の念術士の一人だ


その能力は堅固、古代神字とクリルの念能力をあわせて作られた装飾品は壊れる事がない

その強力な念能力は、クリルの死後も多くの彼の作品に残っており、今や天文学的な数字で取引がされているほどの代物だ



この箱、クリルの箱は、以前の盗みの時に大富豪が持っていたものだった

普通盗んできたものは、古書等を除けば大概は一通り眺めた後に売り飛ばす

だが、このクリルの箱だけは売らなかった


蜘蛛の中でも一番の怪力を誇る強化系のウヴォーギンですらあける事ができなかった箱

何か特殊な念でもこめられているのかと思ったが、純粋に堅いだけのようだった


その中身に興味を惹かれた

誰もあける事のできない箱、クリルは何故このようなものを残したのか

それゆえ、この部屋にずっと置かれたままになっていたのだが…



「粉々になってやがる…」


驚愕の表情を見せるウヴォーギン

それはそうだろう

団員達の念能力をもってしても、ヒビ一つ入らなかったクリルの箱が砕け散ったのだ


それも壊したのが、念をろくに使いこなしていないような年端もいかない少女



「くくく、はーっははははははははは」


「団長?」


くくく…


笑いが止まらない、こんな愉快な気持ちになったのは何年振りだろうか




感情のない少女、痛みを忘れた少女、そして…不思議な能力を持つ少女 




この少女を壊すよりも、この少女のことをもっと知ってみたい

なぜおまえは感情を捨てた

なぜおまえは蜘蛛の事を知っている

お前の能力はなんだ



謎だらけ、そうこの謎が妙に心地いいのだ





ちょうど一人欠番がいたな




「マチ、このガキを治療してやってくれ」


「え?」


「このガキ、いやは蜘蛛に入れる」



「ッ!マジかよ、団長!?」


沸き立つ団員達の驚きの声


「念糸じゃ骨までは治せないけど…いい?」


「ああ、できるところまででいい。治してやってくれ」








「このガキ、を蜘蛛に入れるのに反対の奴いるか?」


答えはなし、つまり全員賛成

少なからずみんな気になっていると言う事だろう、このという不思議な少女の事を


「でも団長、こいつまだ念もろくに使えないみたいだぜ?いいのか?」


「ああ、能力自体は無意識に発動してるみたいだから、教えてやれば良いだろう。シャル頼めるか?」


「ああ、うん、わかった。じゃあこの娘が起きたら話をしてみるね」


「頼む」



治療が終わったのか、シーツをかぶせられたが女性陣の手によってほかの部屋へと移されていく

何人かの団員がそれを追うようにして部屋を後にし…


再び部屋に静寂が訪れた










この少女は、オレに、蜘蛛に何を齎すのか





ここずっと殺しでも盗みでも得られなかったこの高揚感


こんな気分は久しぶりだな





ぽっかりと空いたクレーターと、砕け散った箱の欠片








部屋には血生臭い匂いと、クロロの笑い声がいつまでも響いていた