その日、ティカはモンスターに襲われた村の人々の救助活動をしていた。勇者ランドの相棒として、ティカはモンスター退治に赴くことが多い。そして苦しんでいる人々の救助活動も同時に行っていた。ティカは困った人を見ると放っておけない性格である。自分のしたことによって人々の喜ぶ顔を見ると何より生きがいを感じる。割と単純思考の彼女はそうやって迷うことなく突き進んできた。
そんなティカをセドリックは傍らで見ていた。さすがは勇者四人組の一人だけあって正義感が強いのだなと思った。特に両親を失った孤児に対する慈愛に満ちた表情は美しい。改めていい女だと思う。
そうやって眺めているとティカの方も視線に気づいた。

「ちょっとセドリック!ぼーっとしてないであなたも手伝ってちょうだい!」
「へいへい」

慈善活動にはあまり興味のないセドリックであったが、ティカの傍にいる為に協力することにした。

不穏な気配を感じたのはそんな矢先であった。

ティカの元に苦しそうな様子の男が一人近づいてきた。当然ティカは心配そうに駆け寄る。

「ティカさん、危ない!」

それは一瞬の出来事であった。セドリックは男の腕を掴んでねじ上げた。男の手にはナイフが握られていた。ティカは驚愕した。

「ティカさん、離れろ!こいつは催眠術で操られている!」

セドリックは男を皆から離れた場所へ必死に引き摺っていった。催眠術にかかった男は異常なまでの力でセドリックを殺そうとしてくる。だがセドリックにとってそんなことは問題ではなかった。何故なら――

「セドリック!私も手伝うわ!二人がかりでなら押さえつけられる。それとも術者を探した方がいいかしら?」
「ティカさん!」

余計なことを言う暇はなかった。セドリックはありったけの力で催眠術にかかった男を遠くへ投げ飛ばすと同時に、ティカを抱えて逆の方向へ飛んだ。その直後――

男は爆発した。体内に爆薬を仕掛けられていたのだ。どおんという爆音と共に爆風が来る。セドリックは気が付かなければ巻き込まれて何人もの死者が出ていただろう。ティカはしばらく茫然としていた。

「そんな…ひどいわ!一体誰があんなことを…」
「死体は残っちゃいないな。あれじゃあ手がかりは得られないか」

その後、気分が落ち着かず取り乱すティカに対し、セドリックは落ち着いて対処していった。近くに刺客がいないかどうかの確認と村人の避難、国への報告など、てきぱきとやっていく。

(あら…?意外としっかりしているのね…)

ティカはセドリックを見直した。ただ軽薄なだけの人間は大嫌いだが、普段おちゃらけていても、いざという時にしっかりしている人間は好感が持てる。
そうやって眺めているとセドリックがこちらにやってきた。

「ティカさん、大丈夫ですか?どこも怪我はしていなかったはずですが」
「わ、私は大丈夫よ!」

ティカは慌てて立ち去った。なんだか急にセドリックが行動力のある紳士的な男性に見えてきた。自分はどこかおかしいのだろうか。セドリックの顔をまともに見られなくなってしまった。今まであんな不誠実な男は見たことが無いと不愉快に思っていたはずなのに――

一方セドリックはティカの変化には気が付かなかった。



今回の事件について、国で話し合いが行われた。現在サイロニアと真っ向から対立している国はヴィランツ帝国である。体内に爆薬をしかけた人間を近づけて人々を巻込む、そのやり口からしてもヴィランツ帝国が怪しかった。黒幕は明らかでないが、国全体として厳重に警戒をすることになった。

ティカは目の前の人を助けることができなかったのを悔やんでいた。そして怪しい者がいないか、自ら偵察に回った。時々セドリックのことが頭に思い浮かぶ。彼のことを考えると急に落ち着かない気分になる。時々雑念を振り払おうとしながらも偵察を続けるティカ。すると、急に悪寒がした。邪悪な気配。気味の悪い魔物が一匹こちらを窺っていた。たちまち捕らえようとするティカだったが、魔物は素早く逃げ出した。ティカは後を追った。



「ティカはどこへ行ったんだ?」

サイロニアの勇者ランドは相棒であるティカを探していた。また何が起きるかわからない。いつもの四人組で行動した方がいいのではないかと思ったのだが…

「ティカさんがいないだって?」

セドリックもティカの行方を案じた。あれから少し様子がおかしかった。目を付けていた女を見失うとは。直ちに探しに向かう。



「待ちなさい!」

ティカは魔物を追っていた。魔物は気味悪く笑う。

「ククッ、簡単に引っかかったな。皇帝陛下のお目当てはおまえだよ、若く美しいお姉さん」

魔物は巨大化し、蜘蛛の糸のような粘り気のある糸でティカを捕らえた。そしてワープ魔法を唱え始める。

「ティカさん!」

セドリックの叫び声がした。

「セドリック!」ティカは叫んだ。
「ククッ!この女は貰っていくぞ。攫った場所は後で教えてやろう。その方が面白くなりそうだからな!」

そう言うと同時に魔物はティカと共に消え去った。

「ティカさん!」





次へ
前へ

目次へ戻る