最近勢力を増してきた新手の女魔王ルシフェーラ。彼女は各地で魔王を名乗っている者達を次々と倒し、魔王の核を吸収している。そうすることで倒した魔王達の魔力を体内に取り込んでいるのだ。ヴィランツ皇帝から生気を吸収したことで傷を癒したルシフェーラは新たなターゲットを探す。

「よし、決めたぞ!次のターゲットは魔王ザロギダーンだ!」
「ルシフェーラ様、ザロギダーンといえば非常に好色で、城内にハーレムを作っているという話ですよ」
「何っ?ハーレムだと!?不届き者めが。私が成敗してくれる」

ルシフェーラはしもべのドラゴンを呼ぶと、ドラゴンの背にまたがり、魔王ザロギダーンの城へ向かった。
魔王城の建っている場所というのは、必ず暗雲が立ち込めていて雷雨が鳴り響いている。魔王が放つ邪悪な魔力の影響である。入り口には強力な結界が張ってあったが、ルシフェーラは暗黒の力をぶつけ、力押しで破壊する。瘴気の渦巻く城内をルシフェーラはモンスターを倒しながら進んで行った。



魔王ザロギダーン。好色なこの魔王はハーレムを作り、数多くの美女を侍らせていた。そんなところへルシフェーラは乱暴に扉を蹴破り、ハーレムに入ってきた。淑やかでなよやかな美女ばかりに慣れていたザロギダーンは驚く。ルシフェーラは普段から侍らせている美女達とは全く正反対のタイプだ。凛々しい外見と男勝りで乱暴な気性。

「魔王ザロギダーン!貴様の首、この私が頂く!」
「女魔王ルシフェーラか。噂は聞いているぞ。女だてらに魔王を名乗っているそうだな。だがそれもここまでだ!このわしに挑戦したのが運の尽き!おまえも従えてこのハーレムに加わえてやるぞ。我がコレクションの一部になるがいい」
「フン!何を言うか!貴様こそ我が糧となるがいい!そして貴様のハーレムはこの私が頂く!」
「何を言う。おまえ、女の癖にハーレムを手に入れてどうするつもりだ?」
「行くぞ!魔王ザロギダーン!ハーレムというのは覇者が手に入れるものだ!美女に囲まれるのは覇王の特権!貴様が今座っている玉座、私が頂こう」

ルシフェーラは前置きもほどほどに魔王ザロギダーンに襲いかかった。

「…レズなのか?」

ザロギダーンは困惑しながらも応戦した。

ルシフェーラは戦士型の魔王である。手にした愛用の暗黒剣を振り回し、ザロギダーンのしもべもあっという間に蹴散らしてしまう。彼女の戦いぶりは乱闘という言葉が相応しかった。がさつで乱暴でとても女性とは思えない。だが姿は凛々しく美しい。ザロギダーンの困惑などものともせず、猛烈に攻撃を仕掛ける。ザロギダーンの方は慌てて人型から魔物の姿に変身し、ハーレムから別の場所へ移った。ルシフェーラの攻撃はとにかく破壊力があり、せっかくのハーレムも魔王城の装飾も全て台無しにされてしまう。力ずくでねじ伏せようとしてもうまくいかない。ザロギダーンの真の姿は巨大でどっしりとした体格の魔物であり、素早い敵が苦手だった。

しかしザロギダーンも負けてはいない。巨体を活かした攻撃や強力な魔法をルシフェーラに浴びせる。次にルシフェーラは使ったのは魔族のみが使える生気吸収の技だった。相手を攻撃して生気を吸収し、同時に自分の傷を回復するのである。ザロギダーンは舌打ちした。攻撃と回復を同時にやられては隙が無い。ルシフェーラは戦っているうちに意気軒昂としてきた。気が高ぶり、目は爛々と燃え、目の前の標的を倒すことのみを考える狂戦士、バーサーカーと化していた。

(こいつ、戦闘中毒の気があるな…)

戦いに身を投じた戦士の中には戦闘中毒になってしまう者がいる。生きるか死ぬかの瀬戸際で相手を屠ることに喜びを感じるようになってしまうのだ。ザロギダーンは警戒した。
さて、魔王としてはルシフェーラは新参者であり、ザロギダーンは年季が入っていた。ルシフェーラは女戦士にしては力も体力もあるが、ザロギダーンは困惑し警戒しつつもそう簡単にやられる相手ではない。ルシフェーラの行動パターンをある程度見切ると、一気に潰そうとかかってきた。常に一撃必殺の大技を連続で仕掛けてきたのである。一度でも喰らえば命は無い。今度はルシフェーラの方が舌打ちをする番だった。そして先日のアレルとの戦いを思い出す。

『お姉さん、なかなかやるね。でもさ、攻めは得意だけど守りは苦手なタイプなんじゃない?』

あんな小さな子供に簡単にやられた悔しさは忘れられない。そして指摘された通りにルシフェーラは守りが苦手だった。防御するくらいならさっさと攻撃して敵を倒してしまった方が早い。そう思って今まで勝ち抜いてきたのである。敵の攻撃を受け流す技や防御、回避は訓練をおろそかにしてきた。じれったい長期戦は嫌だ。さっさと勝負をつけてしまいたい。ザロギダーンも負けじと必死に猛攻撃を仕掛けてくる。ルシフェーラもこんなところで負けるわけにはいかない。お互い後に引けない真剣勝負となった。そしてアレルの指摘を思い出し、ルシフェーラは思いついた。わざと隙を作ってザロギダーンを懐近くまでおびき寄せた。ザロギダーンは勢い勇んで襲いかかってくる。わざと隙を見せ間一髪でかわし、強力なカウンターをお見舞いする。ルシフェーラは一気にザロギダーンの懐に飛び込み、心臓部の核に剣を突き刺した。

「ぐあああああっ!!!!!」

ザロギダーンは恐ろしい咆哮を上げた。ザロギダーンの心臓部の核がルシフェーラの体内に取り込まれてゆく。ゆっくりと、不気味な鼓動が鳴り響く。その後ザロギダーンはどうと倒れ、絶命した。

「フフフ、ハハハハハ!やったぞ!これでまた一段と私の魔力が増大した!」

ルシフェーラの高笑いがザロギダーンの城に鳴り響いた。



その後――

「ふむ。やはり美女に囲まれるというのは良いものだな。魔物ばかりではむさ苦しくてかなわん」

ルシフェーラは魔王ザロギダーンのハーレムを奪取し、美女達を自分の城へ連れて帰った。そして自分の周りに侍らせたのである。ルシフェーラは満足そうにハーレムを見渡した。ハーレムの美女達は不安そうにしている。無理もない。魔王の城でハーレムに入れられたという恐ろしい経験をしたものばかりなのである。今度は主が女になったようだとわかっても不安は変わらない。そんな美女達の不安をよそにルシフェーラは上機嫌だった。

「どうした、おまえ達。酒を持って来い!」

ハーレムの玉座に座ったルシフェーラは満足そうに高笑いをした。酒を浴びるように飲み、豪快に食事をする。そばでは前からルシフェーラに使えていた魔物達がルシフェーラを讃える言葉を続ける。美女たちは相変わらず不安そうな表情である。堂々とハーレムの玉座に座る、凛々しくて豪快な女魔王。もしかするとあっちの趣味でもあるのだろうか。何も気づかないルシフェーラは美女達を見ると尋ねた。

「どうした、おまえ達。何も心配することはない。今までは望まぬ伽をさせられてさぞかし嫌な思いをしたことだろう。しかしこれからはもう心配ない。このハーレムの主は女であるこの私なのだからな。夜も安心して寝るがよい」

それを聞いてハーレムの美女達はほっとした。



ルシフェーラはしばらくハーレムを自分なりに満喫して楽しんでいたが、ある日、ふと美女達のことを考えた。

(私はあまり頭が良くない。力ずくで人を支配する方法しかわからぬが………この女達、帰る場所がある者と無い者といるのではないか…?)

「おまえ達、帰る場所はあるのか?」

ルシフェーラは尋ねた。ハーレムの美女達は目を伏せ涙を流しながら答えた。ある者は魔王の襲撃で国が滅び、もう家族も知り合いもいない状態であった。ある者は誘拐されて魔王ザロギダーンの城へ連れられた。国へ帰れば家族が待っている。

「ふむ。そうか。それでは帰る場所がある者は帰ってよいぞ」
「え?」

ハーレムの美女達は一瞬、何を言われたのかわからなかった。

「この世界はいずれ私が支配する。どうせ全て私のものになるのだ。帰りたければ帰るがよい。それで私の名声が広まるのであればその方がよい。帰る場所が無い者は好きなだけここに残るがよい。そして私に仕えよ。美女は場を華やかにしてくれる。無下にはせぬぞ」

ハーレムの美女達はしばらく唖然としていた。



こうして魔王ザロギダーンのハーレムに囲まれていた美女達は解放され、故郷へ帰った者もいれば、帰る場所を失ってそのままルシフェーラに仕えることにした者もいた。ルシフェーラは魔族の中でも人望があった。こぞって仕えにくる魔物達で溢れている。人間から見ても悪い人には見えず、むしろいい人に見える。ルシフェーラは他の魔王を倒し、魔力を吸収しつつ、しもべを増やし、順調に勢力を拡大していった。

「この世界はいずれ私が全て支配する!人間も魔族も全て!私が世界の頂点に立つのだ!」
「ルシフェーラ様!ルシフェーラ様!」





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