アレルはグラシアーナ大陸で記憶の一部を取り戻した。
アレルの育ての父親シャハルカーンはユーレシア大陸から息子のアレルの元へ向かっている。
その頃、ガジスはアレルの出身であると思われるザファード大陸に潜入していた。

あれからガジスは古代人の国であるナルディアの過去の文献を調べまくったのだが、アレルのような人間は見当たらなかった。アレルは一体何者なのか?どのような存在なのか?気になってたまらない。居ても立っても居られなくなったガジスは再びナルディアを飛び出し、ザファード大陸へ調査へ向かうことにしたのである。

ザファード大陸は現在、他の大陸との関わりを断っている。閉鎖的な状態にあった。唯一交流があるのは南ユーレシア大陸のダイシャール帝国のみである。空間の間の技術――大きなアーチがあり、そのアーチをくぐると遥か離れた場所にも一瞬で行ける。この空間の間でザファード大陸はダイシャール帝国と繋がっていた。ガジスはダイシャール人としてザファード大陸に潜入することにした。人間に変身する。今回は旅人として見るからに人の好さそうなおじさんに姿を変えた。ダイシャール帝国から空間の間を使ってザファード大陸に向かう。

空間の間をくぐるとそこはザファード大陸の中心、大都市アラレイクスだった。ザファード大陸は大都市アラレイクスを中心に六つの国家がある。剣士の国フォンテア、魔導士の国ルマテジア、槍使いの国ヴィーンラント、格闘家の国ビスティア、妖精の国ソータフィオ、商人の国サナーバル。六つの国家が大陸を円形に囲んでおり、アラレイクスは大陸の中心部に位置する。大陸中の人々が行き交う中心地であった。更にアラレイクスの南には聖都ジヴィタス・サンクティがあり、そこの神殿はザファード人の信仰の中心部であった。

「ふ~む、ここがアレル君の出身地、ザファード大陸かあ。パッと見た感じ穏やかで堅実そうな人達ばかりだなあ。見るからにやな感じの人はいなさそう。……さて、まずは情報収集情報収集」

ガジスは大都市アラレイクスの人々に、このザファード大陸の近況を聞いて回った。

「今このザファード大陸は大変なことになっているんだよ。八年前、聖王家が滅びてしまったんだ」
「え?」

ガジスは一瞬、耳を疑った。アレルは現在八歳。八年前にザファード大陸で生まれたと思われる。そしてアレルは聖王家の血筋を引く。以前、ザファード人の創造主、女神シャリスティーナと対面した時の会話からしてもそれは間違いない。そのアレルが生まれた八年前に聖王家が滅びたというのだ。

「ど、どういうこと?できるだけ詳しく教えて」
「このザファード大陸にはかつてルシアスという名の勇者がいた。とても優しく誠実な人柄の、美しい金髪の、それはそれは美しい少年だった。その勇者ルシアスが魔族の計略にかかって魔王化し、聖王家を滅ぼしてしまったんだ」
「な、なんと!」
「あれ以来勇者ルシアスは行方不明、どうなったら誰も知らない。彼の人柄からすると、正気に戻った後ショックで自殺してしまったかもしれない」

人々の話からすると、勇者ルシアスという少年は、それはそれは生真面目で誠実で謹厳実直、間違っても犯罪など犯すような人間ではなかったそうだ。彼に限ってそんなことは絶対にない。絶対にないと言い切ってもいいくらいだと、人々は皆、口をそろえて言うのだった。だから魔王化して聖王家を滅ぼしたというのも魔族の計略に違いないというのだ。

(世の中、絶対なんてことはないんじゃないかと思うけど……魔族の計略だったかどうかも憶測なんだな。これは詳しく調べないと)

ガジスは酒場に行って更に情報を集めることにした。勇者ルシアスと聖王家について。

「勇者ルシアスは聖王家の人間だったのかい?そもそも聖王家の人間は聖剣の使い手なんだろう?ザファード大陸の勇者はみんな聖王家の人間なんじゃないのかい?」
「聖王家の人間が勇者の神託を受けるとは限らない。聖王家の当主は代々聖剣の使い手だが、自ら勇者の神託を受ける場合もあるし、勇者の相棒として剣を振るう場合もある。勇者ルシアスの出自は不明だが、人間的にとても好感が持てる、非常に信頼できる人物だった。幼い頃から文武両道で、非常に優秀な少年だった」
「他には他には?聖王家が滅びちゃったって聞いたけど」
「聖王家が滅び、直系の血筋は絶えてしまった。だが、まだ聖都ジヴィタス・サンクティの聖職者達がいる。彼らは聖王家の血を引く者も多い。彼らは現在、今後のザファード大陸をどうするべきか話し合っているところだ。まったく、聖王家のあるサントレオングとジヴィタス・サンクティが離れていてよかった。聖都まで滅びてしまったら我々ザファード人はお先真っ暗だ」
「確かに大変なことだ。それで君達ザファード人は他の大陸に対して閉鎖的なのか」
「それもあるが、西にあるグラシアーナ大陸は非常に治安が悪いという話だ。我々は平和に暮らしていたい。野蛮な人間と関わるのは真っ平だ」
「あ、いや、それは単に人口密度の関係で争いごとが多いだけだよ。グラシアーナ大陸は世界で一番人口密度が高いからね」

グラシアーナ大陸の人口密度はザファード大陸の約五倍。これだけ差があれば治安にも差が出て当然だろうとガジスは考えていた。

「聖王家について詳しく知りたければ聖都ジヴィタス・サンクティの教皇庁へ行くといい」
「わかった。ありがとう」

ガジスはザファード大陸は初めてである。たくさんの国名を覚えるのに苦労しながらも調査を続けるのだった。
次の目的地は聖都ジヴィタス・サンクティ。





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