アレルの出身地と思われるザファード大陸へやってきたガジス。

今まで得た情報をまとめてみると、アレルが生まれたと思われる八年前、聖王家が滅びた。そしてアレルは聖王家の血筋を引くはずである。
ザファード大陸にはかつてルシアスという名の勇者がいた。その勇者ルシアスが魔王化し、聖王家を滅ぼした。それ以来行方不明になっている。
勇者ルシアスは非常に誠実で人々の信頼厚い人物だったらしい。
聖王家が滅びてしまったので、聖都ジヴィタス・サンクティの聖職者達は今後のザファード大陸をどうするべきか話し合っているところである。こういった事情もあり、ザファード大陸は他の大陸に対して閉鎖的になっている。

以上を踏まえて新たにザファード大陸の調査を続けるガジスであった。聖王家について更に詳しく知る為、聖都ジヴィタス・サンクティへ向かう。聖都の人々は信仰心厚い敬虔な者達ばかりであった。ガジスはひょこひょこと歩き、人々に気さくに話しかけ、聖職者達のいる神殿へ向かう。ガジスは現在ダイシャール帝国からの旅人ということになっているので、服装や雰囲気が違ってもザファードの人々は気にしなかった。まさか正体が上級魔族とは思うまい。神殿の荘厳な雰囲気も普通に眺めながら中に入っていくガジス。魔族であるガジスは神聖なものに対して何とも思わない。神殿の建築様式などを感心して見ながら奥に進む。そしてなんと司教達が話し合っている場まで侵入していった。

「ああ、なんということだろう。聖王家に代々受け継がれている聖剣エクティオスは未だに見つからないのか」

(なっっっ何だって!!!!!)

ガジスは驚いた。聖剣エクティオスとはアレルの愛剣ではないか。

「エクティオスは聖王家の正統な後継者のみに受け継がれる。聖王家当主の象徴。あれがなければ聖王家を復興させることはできない。何せエクティオスは特別な聖剣だ。自ら持ち主を選ぶ。仮に正当な血筋でもエクティオスが主として認めなければ何の反応も示さないという話だぞ」

(なぬっっっ!!!!!)

今の話が本当ならアレルは聖王家の正統な後継者であり、聖王家の当主となるべき存在だということになる。ガジスは更に聞き耳を立てた。

「しかしエクティオスは三年前、ユーレシア大陸の砂漠地帯で赤い髪の男の子に奪われてしまったという。あっという間のことだったらしいぞ」

(へ?)

ガジスが得ている情報ではアレルは記憶を失う前、どうやらユーレシア大陸の砂漠地帯にいたようだが……確かそこにアレルの育て親がいると。

「あ~~~~~の~~~~~」
「ひっ!ひいいいい!」
「今のは一体どういうことなのか、詳しく教えていただけませんでしょうかねえ~~~~~」
「なっ、何だ君は!」
「怪しい者ではありません。身分証明書もこちらに」
「車の運転免許?無事故無違反のゴールド?」
「ああっ!しまった!それは自国専用の身分証で、こちらです!こちらがこのザファード大陸へ来る為に取得した身分証ですよう!」

ナルディアでの車の免許証を出してしまったガジスは慌ててザファード大陸潜入用の身分証を見せた。それをしばらく眺める司教達。

「ふーむ、ダイシャール帝国からの旅のお方ですか。しかし異国のお方にこのザファードの事情をお話するわけにはいきません」
「金色のお菓子をあげても駄目ですか?」
「金色のお菓子?そんなものがあるんですか?」

ガジスは賄賂のつもりで言ったのだが通じてない。司教達は純粋に金色のお菓子が存在すると思ったらしい。

「あ…えと、ボクはダイシャールの人間ですから、さっきあなた方が仰っていた聖剣エクティオスの手がかりになる情報を知っているかもしれませんよ」
「そうですか。それなら……」

司教達はガジスを一通り眺めた。人柄が悪いようには思えない。司教達は聖剣エクティオスについて話し出した。

八年前、魔王化した勇者ルシアスにより聖王家が滅ぼされた。その時に魔族達は聖剣エクティオスを破壊しようとした。当時聖王家に仕えていた従者の一人がエクティオスを持ち出し、魔族から逃げ出した。その後、従者の逃亡は続いた。エクティオスを魔族から守る為に逃げ続けたのだ。とうとうザファード大陸から空間の間を使いユーレシア大陸まで逃亡した。そして三年前、ユーレシア大陸で逃亡の旅を続けていた従者は、北ユーレシアの砂漠地帯でエクティオスを赤い髪の男の子に奪われてしまったらしい。一瞬の出来事だったそうだ。

(…それってアレル君のことじゃないのかなあ……)

しかしそうだとしたら一体何がどういうことになっているのか。ガジスは首を捻った。かつてアレルから聞いた話によると、聖剣エクティオスはアレルが記憶喪失で目覚めた時から持っていた、唯一の記憶の手がかりだという。エクティオスを知っている者に出会えば自分が何者なのかわかると思っている。先程の司教達の話だとエクティオスは聖王家の正統な後継者のみに受け継がれ、自ら持ち主を選ぶという。エクティオスが主として認めなければ何の反応も示さないとのことだ。そしてアレルはそのエクティオスを愛剣として使いこなしている。ならばアレルは聖王家の正統な後継者であることになる。が、そのエクティオスを人から奪ったことになるというとわからなくなる。

(?????一体何がどうなってるんだ?????)

ガジスはもっと詳しいことを聞きたかったのだが、元々部外者であるガジスに司教達はこれ以上の情報は与えてくれなかった。彼らが欲しいのは聖剣エクティオスの手がかりである。エクティオスの絵を見せてくる。それは確かにアレルの愛剣であった。ガジスはダイシャール人として潜入している。エクティオスの手がかりをダイシャール帝国で見つけたら、またはユーレシア大陸で見つけたらすぐにでも教えてくれと司教達に頼まれた。

(えーっとお、それで、今までわかったことをまとめると……)

ザファード大陸の聖王家は八年前に滅びた。その八年前とはアレルが生まれた年であると思われる。アレルは聖王家の血を引くはずである。
聖王家が滅びた理由は、かつてこの地にいた勇者ルシアスが魔王化したことによるものであったらしい。勇者ルシアスは現在行方不明。
勇者ルシアスとは非常に誠実で人々の信頼厚く、間違っても犯罪を犯すような人物ではないとの評判だった。
聖王家が滅びたという一大事が発生したこともあり、ザファード大陸は他の大陸に対して閉鎖的になっている。

そして今回新たにわかった聖剣エクティオスに関する事実。

聖剣エクティオスとは聖王家に代々受け継がれる聖王家当主の証。聖王家の正統な後継者にのみ受け継がれる。エクティオスは自ら持ち主を選ぶ特別な聖剣であり、仮に正当な血筋の者でも主として認めなければ何の反応も示さない。
そのエクティオスは三年前ユーレシア大陸の砂漠地帯で赤い髪の男の子に奪われてしまったらしい。アレルのことではないかと思われるが……

アレルは聖王家の正統な後継者なのではないのだろうか。一体何がどうなっているのか。ガジスはこれ以上どのようにして情報収集をすべきか考えた。正攻法ではこれ以上無理だ。ならば……

ガジスは一旦大都市アラレイクスへ戻ることにした。途中、誰もいないところまで移動し、姿を変える。今度は見るからに柄の悪そうな男になる。大きな都市は表の顔が発展すれば裏の顔も発展する。このザファード大陸にも裏の顔があるだろうと思い、ガジスは探す。ガジスの正体は上級魔族である。悪人の匂いを嗅ぎ当てるのは得意であった。ちょっとした術をかければ強引に情報を聞き出すこともできる。司教達と違い、後ろ暗い世界の人間なら目立たずに、騒ぎを起こさずに術をかけ、情報を入手できる。ガジスがナルディアの調査員として他の大陸に派遣されているのもこういった理由があった。

ガジスが探り続けたところ、大都市アラレイクスの裏の顔はルスクリタと呼ばれているらしい。そこでは様々な裏取引が行われているそうだ。もちろん通常では手に入らない情報も。聖王家についてもっと知りたい。裏事情があるのならば尚更である。そしてアレルの出生の秘密には近づけるのか。ガジスは好奇心で一杯になりながらルスクリタという場所へ足を運ぶのだった。

次の目的地は大都市アラレイクスの裏の顔、ルスクリタ。





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