ガジスはかつて聖王家があったというサントレオングという場所に行ってみた。聖王家があったはずの聖なる土地は、今は暗黒大陸と化していた。地面は真っ黒で植物は一切生えていない。空を見上げればどんよりとした雲が広がり、薄暗い。ここには生き物は一切存在しないようだ。漂う雰囲気も気味が悪い。普通の人間なら恐怖でいっぱいになり、このような場所を一人で探索しようなどとは思わないだろう。いつアンデットに襲われるかわからない。しかしそんな場所もガジスは平気で歩いていった。途中、人間の亡霊を見つける。かつて聖王家に仕えていた者の一人のようだ。何か話はできるだろうか。

「そこの幽霊君、ここで一体何があったのか教えてくれるかい?」
「おお神よ!お慈悲を!」
「聖王家が滅びた真の理由は?」
「……私は聖王家にお仕えしていたが、聖王家と勇者ルシアスの間に何があったのか詳しくは知らない。ただ、ルシアスの憎しみを買うようなことをしてしまったようなのだ」
「魔族の計略ではなくて?」
「聖王家の人々は皆そう言った。だが勇者ルシアスは強く否定した。魔族とは何の関係もない、ただひたすら聖王家の、このサントレオングの人間を許せないと。聖王家の人間は何のことか全く心当たりがないという。それを聞いてルシアスは更に憎悪の表情を増した。何が起きたのかわからない。聖王家はルシアスが魔族の何らかの計略や術中に陥っているのだと思った。凄まじい殺気と共にルシアスは魔力を暴走させ、聖王家を滅ぼした。そしてこのサントレオングを暗黒大陸と化してしまった」

亡者の話を聞いてガジスは考え込んだ。人々は皆、勇者ルシアスが魔族の計略にかかったのだと言っているが、ルシアス本人は強く否定したらしい。それでは一体何がルシアスに人間に対する憎しみの念を起こさせたのか。一体何が起きたのか。勇者ルシアスを見つけ出し、直接聞けばわかるだろうが……現在行方不明だという。これ以上、亡霊から話を聞いても新たな情報は得られないと見て、ガジスはこのザファード大陸の魔族と接触を試みることにした。
ザファード大陸の魔族達。彼らはガジスを見て警戒した。急に襲いかかってくることはしなかった。用心深くガジスを注視する。

「貴様、どこの大陸の魔族か知らぬが、階級はかなり上だな」
「いかにも。君達はボクと戦う気が無さそうだね。それは結構結構。聖王家が滅びた理由と勇者ルシアスについて知りたい」
「ルシアス様……先王の魔力を吸収したあの方が今となっては世界最強の魔王。なのに何故魔王としての道を選ばぬのか。我らにはわからぬ。あれほど激しく人間を憎んでいたのに」
「聖王家の人間の仕打ちによって勇者ルシアスが人を憎むようになったというのは本当なのか?おまえ達魔族の計略じゃなくて?」
「あれは全て人間同士の問題だ。我らは一切関与していない。ただ聖王家サントレオングの連中がルシアス様の御心をひどく傷つけ、憎しみに染まるほどのことをしでかしたらしい。だからルシアス様には我ら魔族が付け入る隙ができた」
「おまえ達の計略ではないというんだな。で、結局何があったんだ?」
「あれは人間同士の問題。我ら魔族にはよくわからぬ」

肝心なところがつかめない。

「計略というなら、我らが主君、先の魔王ゼブル様はルシアス様を計略によって陥れた。それは憎しみに染まったルシアス様に自らを殺させ、魔王の核をルシアス様に植え付けた。そしてルシアス様は魔王化した」
「え?」

ザファード大陸の魔族の話によると、かつてこのザファード大陸の魔族達を支配していた魔王ゼブルがいた。魔王ゼブルは勇者ルシアスを魔王化させる為に一計を案じた。なんと魔王ゼブルは自らの命を捨てたのである。わざとルシアスを計略に陥れ、魔王である自分を殺させたのだと。
魔王には心臓部に特別な核がある。その核を体内に取り込むことにより魔王の魔力を吸収することができる。多くの魔王の核を取り込めば取り込むほど強大な力を得ることができるのだ。
ザファード大陸の魔王ゼブルはわざと自分を殺させることで勇者ルシアスに自分の核を埋め込んだ。ルシアスは魔王ゼブルの魔力を吸収し、魔王化したのだそうだ。人間を激しく憎んでいるはずの勇者ルシアスが魔王化。世界最強の魔力を持つ魔王が誕生したはずだったのだと。

「そうだったのか。それで行方不明になったと言われている勇者ルシアスはどうなったんだ?」
「魔王として世界に君臨する代わりにあの御方は――死を選ぼうとした。あれから我々は全力であの方の行方を探している」

今しがた得た情報によると、魔族の計略にかかったというのは一応全く外れているというわけではないようだ。勇者ルシアスは非常に優しく誠実な人柄だったという。魔王になるくらいなら死を選ぼうとしたというが、真の勇者ならそうかもしれない。

「――で、結局アレル君の出生の秘密はどうなってるんだろう?」
「アレル!その名だ!」
「え?おまえ達アレル君を知ってるのか?赤い髪の八歳の男の子」
「勇者アレルはルシアス様の――」

その後、ザファード大陸の魔族達から驚愕の事実を知らされるガジス。

「え?ええーーっ!!??」





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