最初は一体何があるのかわからなかった。神秘的な光を放つものが祭壇の奥にある。それがおそらくはアレル達が探しているお宝スター・ジェムなのだろうと思われる。が、しかし、その前に何か蠢くものがある。それをしっかりと凝視すると―
「蛇だ! うわあああ!」
 それは小人族の大きさからすると、巨大な白い蛇だった。口から舌をチョロチョロと出してこちらを見ている。三人の小人達は絶叫を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げた。しかしその時、地響きが起こり、バラバラと天井が崩れる。そしてアレル達が来た道は塞がれてしまった。蛇が軽い地震の魔法を唱えたようだ。もう逃げ場はない。
「あ…そ、そんなあ!」
 振り向けば白い巨大な蛇。とぐろを巻き、シューシューと舌を出してこちらを見つめている。小人達は恐怖に縮み上がった。そして一人平然としているアレル。
「こ、怖いよお! 僕、蛇は大嫌いなんだ。アレルは怖くないの?」
「俺、全長十メートルの蛇モンスターとか見慣れてるから」
「うわあああん!」
 蛇を怖がってパニックを起こしている小人達とは対照的に、アレルは至って冷静だった。相手は本来の人間の大きさならたいしたことは無い。しかしこの神殿は小人達が作ったものであるらしく、全てが小人の大きさに合わせて建てられていた。天井は低く、元の大きさに戻ることはできない。逃げ場を奪われた状態のこの空間は非常に狭い。三人の小人達を守りながら戦うとなるとかなりやりにくいと思った。白蛇はシュッと舌を出しながらアレル達の方へ近づいてくる。三人の小人達はアレルの後ろへ隠れた。白蛇は舌なめずりをした。
「これはこれはおいしそうな人間が四匹も。俺は今ちょうど腹が減っていたところなんだ」
「うわっ! この蛇しゃべった!」
「丸のみにされちゃうよお! うわあああん!」
 アレル達の大きさではこの白蛇に軽く一吞みされてしまうだろう。白蛇は油断なく、徐々に、徐々に近づいてくる。蛇の目が冷たく光る。小人達は冷や汗をかいた。そんな中、アレルは恐れ気もなく話しかけた。
「俺達の目的はおまえの後ろにあるスター・ジェムだ。そこをどいてくれ」
「何だおまえ、俺が怖くないのか?」
「別に」
「うわあああん! アレル、挑発しないでよお!」
「白蛇殺すのはちょっと気が引けるんだけど、おまえからは邪悪な気配を感じるな。魔に魅入られたか? 邪魔するなら倒すまでだぜ」
「その小さな身体でか? 逆に俺がおまえ達を吞み込んでしまうよん!」
「うわああああ! 助けてええ!」
 三人の小人達は散り散りになって逃げだした。
「わっ! こら! バラバラになったら守れないじゃないか!」とアレル。
「うわあああん! 怖いよお!」
 小人達はアレルの言葉など聞いていなかった。そこへ白蛇が攻撃に移る。鎌首をもたげて一人ずつ吞み込もうとする。アレルはまず、白蛇の進行方向にいるピピンの方へ跳躍し、脇に抱えてあちこちに飛んだ。白蛇は今度は標的をニルスに変え、牙を向ける。アレルは防御魔法を唱えてニルスを守った。
「カイル! おまえリーダーだろ! なんとか攻撃しろ!」
「わ、わかったよ。えいっ!」

 スパーン!

 …………………………

「尻尾斬ってどうするんだよ!」
「だって頭狙ったら逆に僕が吞まれちゃうよ!」
「馬鹿!」
「だって怖いんだもん!」
 アレルは頭を抱えた。彼らは戦士などではなく、好奇心旺盛なだけの小人達であることを忘れていた。
「ニルス! 弓で蛇の頭を狙え!」
「や、やってみる!」

 プスッ

 ちょうど白蛇が鎌首をもたげたところで蛇の腹に矢が刺さった。白蛇は痛みに身をくねらせた。蛇に恐怖を感じる小人達にとってはおぞましい光景である。
「うわあああ! こっちにくるー!」
「ピピン! 魔法を使え!」
「どの魔法?」
「蛇っていったら冷気に弱いに決まってるだろ!」
「そ、そっか」
 ピピンは冷気の魔法を詠唱し、白蛇を攻撃した。蛇はダメージを受けて弱ってきた。そこでアレルはレイピアを抜き、白蛇の頭から深々と突き刺した。白蛇はどうと倒れた。アレルはそっと白蛇に近寄る。
「白化現象を起こしたただの蛇みたいだけど、何かの原因で邪悪な力を持つようになったみたいだな」
「ア、アレル、そいつもう死んじゃった?」
「ああ。魔に魅入られていたとはいえ、可哀想なことしちゃったな」
「奥にあるのがスター・ジェム?」
 四人は奥に進んだ。スター・ジェムは文字通り星のような形状をして神殿から差し込む光の中で静かに輝いていた。アレルはしばらくの間スター・ジェムを調べてみた。
「う~ん、これは秘宝の一種みたいだぞ。ただの宝石じゃなくて特殊な力がある。守護の力が込められているな。これを持ち帰ればおまえ達小人族の住処はモンスターに襲われなくて済むぞ」
「本当? やったあ! お宝入手だ!」

 アレルは三人の小人達と共にスター・ジェムを持ち帰ると、小人族の過去の文献を調べた。
「昔はこのスター・ジェムが小人族を守る役目をしていたんだな。それで神殿に祭られて安置されていた。それが大変動が起きた時に離れ離れになって、小人族は神殿の場所がわからなくなってしまった。長い間言い伝えのみがスター・ジェムの存在を示すものになっていた」
「だけどそれを僕らが見つけ出した! やったあ! 僕ら伝説のお宝探しに成功したんだよ!」
「わあい! わあい!」
 無邪気にはしゃぐ小人達。

 スター・ジェムは小人達の町に新しく安置されることになった。アレルはスター・ジェムの力を引き出し、小人族の町を外敵の侵入から守る結界を張った。
「うわあ! アレルってすごい魔法使いなんだね~。剣も持ってるけど、何でもできるんだ!」
「ん~、まあな」
 小人族はスター・ジェムが戻ってきたことに心底喜び、アレルにこれ以上ない程、感謝の言葉を浴びせた。そしてさらに大きな宴を開いた。
「ま、たまにはこんな寄り道もいいかもな」
 アレルは独りごちた。

 滅多に来客などない小人族達はアレルを長期間引き留めようとした。ましてや伝説のスター・ジェムを持ち帰ってくれた恩人なのだ。あと一日、せめてあと一晩といつまでも引き留めようとする小人達を丁寧に振り切り、アレルは出発の準備をした。
「アレル、行っちゃうの? 寂しいなあ」
「俺は本来人間だからな。ずっとこの大きさでいるわけにはいかないさ」
「それもそうだけど…いつかまた、ここにおいでよ! アレルだったらいつでも大歓迎!」
「また一緒に遊ぼうね!」
 小人族の町の入り口には全ての小人達が集まってアレルを見送りに来た。そして口々にお別れを言う。小人達の小さな餞別を山ほどもらってアレルは旅立った。

 多くの出会いと別れを繰り返し、アレルは旅を続ける――


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