翌日、アレル達は小人族の町の西にある洞窟に出かけた。洞窟といっても小人族でなければ入れないような小さいもので、中にいる魔物達も皆、小型モンスターだった。主に小さい虫がモンスターと化していた。カイル、ニルス、ピピンの三人の小人達は、アレルにとって戦力としては明らかに劣るものの、彼らなりに奮闘していた。カイルは剣、ニルスは弓、ピピンは魔法でそれぞれ応戦する。アレルは三人が怪我をしないように時々守りながらモンスターをなぎ倒して言った。アレルの強さに小人三人組はひどく感心したようだった。
「アレルって強いんだね〜。どんなモンスターも簡単にやっつけてしまうじゃないか」
「まあね。これでも戦いに関しては場数踏んでるから」
 洞窟は狭く、迷いようのない一本道だった。だがそれほど奥までいかないうちに行き止まりになってしまった。
「ここで行き止まりなんだ。他に抜け穴でもあるんじゃないかって思ったんだけど、探しても見当たらないなあ」
「穴でも掘ってみる?」
「どっちに向けて掘るのさ? 土の中にもぐっているうちに方向がわからなくなって帰れなくなっちゃうよ」
 その時、アレルは何かの気配を感じた。
「何かがこっちにやってくる!」
「えっ? モンスター?」

 ばふっ

 気がつくと四人は土まみれになっていた。そこへ近くから声がかかる。
「あれ? 人がいたの? こりゃ悪かったな。ごめんごめん」
「な、なんだあ? モグラだ!」
 どうやらモグラが出てくるところに出くわしたらしい。アレルは土を払いながらモグラに話しかけた。
「なあ、おまえ、スター・ジェムっていうお宝のこと知ってるか?」
 アレルは昨夜カイル達から聞いたスター・ジェムについての手がかりと言い伝えをモグラに話した。
「ああ、あのきらきら光るお星様みたいな宝石のことだね。それならここからちょっと行ったところにあるよ」
「案内してくれるか?」とアレル。
「いいよ。僕が穴を掘って進むからその後についてきなよ」
 このやり取りを聞いていた小人達は慌てた。
「待ってよ! 戻れなくなっちゃうかもしれないよ!」
 慌てる小人達に対し、アレルは落ち着いていた。
「大丈夫だよ。俺、ワープ魔法使えるから。知ってる場所ならどこでも帰れるぜ」
「うわあ、そんな魔法あるんだ。アレル、後で教えてよ!」とピピン。
「これで帰れなくなってベソかいてる、なんてこともなくなるな」とニルス。
 四人はしばらくモグラの後に続いて暗い地中を進んだ。もう既に身体中が土まみれである。靴の中などは一度脱いだ方がよさそうだ。モグラの後に続くので方向感覚がわからない。今どっちの方向へ向かっているのだろう。どのみちアレルのワープ魔法で帰れると思えば安心して冒険できる。歩きながら四人は雑談をした。
「そういえば小人族って動物と会話できるのか?」
「うん、そうだよ。アレルだってできるじゃない」
「俺は特別なんだよ。他の人間達にはできないらしい」
「ふーん、きっと珍しい動物を売り飛ばしたり悪いことを考えたりするからだよ。そんなんじゃ動物と意思疎通できなくて当然だね。アレルはそんな子じゃないから僕ら安心だよ」
 やがて地上に出た。ずっと暗闇の中にいたので日の光が眩しい。
「ほら、ここだよ。神秘的な場所で綺麗だろう?」
 モグラに案内された場所は小さな小河だった。水のせせらぎが聞こえる。静かで厳かな雰囲気を湛え、空気はひんやりとしている。
「ここが言い伝えにある神秘的な場所かあ。神殿はどこにあるんだろう?」
「この近くにあるはずだよ、だけど僕はモグラだから眩しいのは苦手なんだ。あとは君達で探してね。んじゃ!」
「あっ! ちょっと待ってよ!」
 モグラは地中に帰っていった。
「しばらくこの周辺を探索してみるか」
 そこにはモンスターはいなかった。小さな小さな動植物だけの静かな楽園。大きな動物や人間は決して入ってこれない。アレル達は小河の所々にある石の上を渡り歩いた。
 静かな水音だけが続く神秘的な空間。小河の水面が太陽の光に反射してキラキラ輝く。それすらも静かな光で神秘的なものを感じさせた。足元はじめじめして滑りやすい。小人達は滑って転びそうになったが、そのたびにアレルが助けてやった。彼らは石から石へと飛び移りながら進んで行った。
 やがてドラゴンの形をした像を見つけた。人間の大きさなら小さすぎてこんな小さな像は造れないだろう。アレル達は像を調べた。
「見ろよ、ドラゴンの口から入れるぜ」
「えーっ! どうする?」
「決まってんだろ。中に入って探検するんだよ」
 中に入ると、そこは神殿の構造をしていた。一体誰が何の為にこの神殿を作ったのか。
「言い伝えにあった神秘的な場所にある神殿ってここじゃないのかな? お宝がある気がする。早く奥へ行こうぜ!」
 三人の小人達はワクワクしてはやる気持ちを抑えていた。とうとう探検してお宝が見つかるかもしれないのである。そんな中、アレルは警戒しながら進んで行った。
「気を付けろよ。何か邪悪な気配がする」
「えっ?」
 三人の小人達は急に緊張して身体をこわばらせた。アレルは先頭に立って、慎重に進んで行った。こんな小さな神殿の中では魔物に遭遇しても小人族と同じ大きさで戦わざるを得ない。元の大きさに戻るわけにはいかないのだ。神秘的で荘厳な雰囲気の中に何か邪悪なるものの気配が混ざる。神殿の奥に進めば進む程、邪悪な気配は濃くなっていった。神殿の最深部、祭壇には何かが光っていた。そしてその前に禍々しい妖気を放つものがいた。

 そこにいたのは――


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