※管理人はクロノクロス未プレイです。



このところルッカはふさぎ込んでいた。気がつくと窓の外を眺めてボーっとしていたり、外で佇んでいたり。

ラヴォスを倒して未来を救ってから、クロノとマールはより一層、親密な仲になった。クロノがガルディア城へ遊びに行くことも多くなり、リーネ広場で二人が楽しそうにデートしているのを見かけるのも多くなった。二人は将来どうするのだろうか。マールは王女だ。ガルディア王もマールの結婚について考えていないわけはないだろう。二人のことを考えると、ルッカは自然とため息が出てしまうのだった。

もう、二人の間に入る余地はない

いつまでも三人で仲良く――というわけにはいかないことはわかっていた。マールがクロノに想いを寄せ、クロノもまたマールが好きだということも気づいていた。その一方でルッカは自分の気持ちにも気づいていた。口では『アイツは弟みたいなものだから』と言いつつ、ルッカもクロノのことが好きだった。明るくてわんぱくでやんちゃで、元気いっぱいの少年。小さい頃からずっと一緒に育った。しかし、時空を超えた旅をしている頃から、クロノとマールを見ていて密かにあきらめていたのだ。クロノにはマールがいるのだと。

「ふう……」

また気がつくとため息がこぼれている。

(失恋……ってことになるのかしらねえ……)

そんな時、父親のタバンがやってきた。

「おう、どうしたルッカ!そんなに落ち込んで」
「うん……何でもない」

ルッカの両親、タバンとララは気づいていた。クロノとマールのことでふさぎ込んでいるのだと。実の娘のことなので当然といえば当然である。タバンはルッカの横に立ち、静かに話しかけた。

「なあ、ルッカ。俺は才色兼備の娘を持つことが夢だったんだよ。そしておまえが生まれた。おまえは自慢の娘だよ」
「ありがとう、お父さん」
「なあ、ルッカ、おまえはどんな男が好きなんだ?」
「え?何よ急に」
「おまえも年頃の娘だろう?どんな男が好みか、考えたことくらいあるだろう」
「そうねえ……」

頭の中にクロノの姿が思い浮かんだが、ルッカは必死に頭を振った。そしてわざとクロノとは対照的なタイプを上げてみることにした。

「やっぱり頭のいい男がいいわ!この私にかなわなくても、頭脳明晰って言われるくらいの男がいいわね。あ、でもひ弱なのはダメ。身体が丈夫でなきゃ。背は高くて顔は美形なの。髪は長髪。陰のある性格だと思わずほっとけなくて惹かれちゃうかも。頭もよくて顔もよくて家柄もよくて――なんちゃって!」
「随分と贅沢だなあ。ハッハッハ!」

ルッカとタバンは大声で笑いあった。



ここは古代、北の岬。魔王は一人物思いに耽っていた。ラヴォスを倒した後、魔王はずっと姉のサラを探していた。
ラヴォス。魔王にとって憎き敵だった。ラヴォスが母である女王ジールを狂わせ、サラを苦しめ、ジール王国を崩壊させた。魔王は母と姉と国を失ったのだ。
そして実の母であるジール女王を魔王は倒した。正気を失った母親を……
ラヴォスを倒し、全てに決着が着いた今、姉のサラを見つけるのが魔王の目的だった。愉快な魔族達に囲まれながら孤高に生き、クロノ達に出会い、束の間の仲間を得て旅をしたが、魔王の心は常に暗く沈んでいた。母と姉と国のことを思えばそれは無理も無かった。

その夜、魔王は夢を見た。夢の中にはサラの姿が。

「サラ!どこにいる?この古代の世界を隅々まで探したのにまだ見つからない」

夢の中のサラは悲しそうな顔をした。

「ジャキ……私はもうこの世にはいないのですよ」
「!!」
「ジャキ、ラヴォスがいなくなった今、あなたには新たな人生を踏み出して欲しいのです。もう憎しみや悲しみで孤独に生きるのではなく、人として幸せになって欲しいの。もし、あなたに好きな人ができたら、愛する人ができたら、その人を一生涯大切にして。私はあなたの幸せを心から祈っていますよ」

そう言うと、サラの姿は消えた。

「サラ!姉上!」

魔王が叫んで飛び起きると、もう朝だった。朝日が薄っすらと空から差し込んでいる。

「サラ……」



ルッカは一人でシルバードを操縦していた。ラヴォスを倒して未来を救ってから、初めのうちはクロノとマールとルッカ三人で、時々他の時代の仲間達に会いに行っていたのだが、最近はルッカ一人で行くことが多くなった。シルバードの整備もしつつ、他の時代の仲間に一人で会いに行くルッカ。未来のロボ、中世のカエル、原始のエイラ、そして――今日は古代にいる魔王にも会いにいくことにした。今まで魔王はせっかく会いに行ってもサラを探していて見つからない時が多かった。会えたとしても魔王らしくそっけない、突き放すような態度しかとらない。そんな魔王に、もっと心を開いて欲しいとルッカは思っていた。

「魔王、アイツ、元気にしてるかしら?」

古代の北の岬に行くと、今日は魔王がいた。沈んだ面持ちである。ルッカの気配に気がつくと魔王は振り向いた。

「おまえか……」
「どうしたの?随分元気が無いじゃない」
「……………」
「サラが見つからないのね。よかったら私も協力するわよ。調べものは得意なの。数少ない手がかりからも、私の頭脳をもってすれば可能かもね!」
「……もういいのだ」
「えっ?」
「サラは……もういない……」

魔王は未だかつてないくらい沈んだ表情だった。ルッカは余計な詮索はせず、しばらく魔王を見つめていた。

「そう……」



しばしの沈黙の後、口を開いたのは魔王の方だった。

「ルッカ、最近クロノ達はどうしている?」
「あ……」

魔王の方から話しかけてくるのは珍しかったが、このままでも気まずいと思ったのであろう。魔王はクロノ達のことを尋ねた。今度は沈んだ表情になったのはルッカの方だった。ルッカはなるべくなんでもない風を装ってクロノとマールのことを話した。魔王は黙って聞いていた。魔王はルッカのクロノに対する気持ちには気づいていた。クロノとマールの関係にも。ルッカは今、失恋の傷心状態にある。今度は魔王がルッカを黙ってしばらく見つめていた。魔王もルッカも傷心の状態にあるのだった。

やがて、ルッカが口を開いた。

「ねえ、私の時代へ来ない?久しぶりにみんなでパーッとやりましょうよ」
「何故だ」
「辛いことや悲しいことがあったら仲間を頼るもんよ。私達、仲間でしょ?」
「フン、余計なお世話だ」

ルッカは目を吊り上げた。仲間として共に旅するようになって以来、ルッカはなにかと魔王が心を開いてくれないかと思っていた。何故そんなに気になるのか自分でもわからない。ただ、ずっと孤独に生きている魔王を見ると放っておけないのだ。もっと楽しんだり喜んだりすることを知っていいはずなのだ。憎しみや怒り、悲しみばかりではなく。今もそうだ。孤独の闇に閉ざされている魔王の心を開きたい。ルッカは半ば強引に魔王を自分の時代、現代へ連れていくことにした。

「いいから来なさい!」
「おい、ルッカ」

ルッカはシルバードのところまで魔王を引っ張っていった。シルバードは定期的にルッカが整備をして異常がないか点検していた。万が一故障でもしたらルッカ以外ではお手上げである。ルッカは手早くシルバードの状態を確認した。見るとネジが緩んでいるところがある。

「ちょっと待ってて、今シルバードの整備をするから」

道具を取り出し、シルバードの手入れをするルッカ。その時、強風が吹き、小さな道具の一つが転がり北の岬の崖の方へ――

「危ない!」

崖の方へ道具を拾いに行こうとするルッカ。ルッカは崖から落ちそうになったが、魔王が手を掴んだ。道具とルッカの眼鏡が崖から落ちた。

魔王は、はっとした。今のルッカは眼鏡が外れた状態だったのだ。

(この娘――こんなに美しかったか……?)

北の岬の崖にて、薄っすらと日の光が射し込む中、眼鏡のないルッカの顔に思わず見とれてしまう魔王。才色兼備の紫の髪の少女は知的な雰囲気と明るい雰囲気を合わせ持ち、独特の美しさをそなえていた。

「フン、気をつけろ」
「あ、ありが…と」

ルッカの眼鏡は割れてしまった。ほとんど周りが見えないルッカは手探りでシルバードと魔王に近づく。

「フン、仕方がないな。シルバードは私が操縦する。現代のおまえの家まで送ってやろう」





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