パロムは複雑な心境だった。彼は今まで賢者を目指していた。賢者テラに憧れ、いつかは自分も同じようになりたいと思っていた。しかし今は違う。賢者には固執しなくなった。レオノーラという、自分より賢者の才能に恵まれた存在が現れたからである。レオノーラは元々神官見習いだったが、パロムから黒魔法を教わり、先の戦いで経験を積み、今ではほとんどの白魔法と黒魔法を使いこなせる。そして神官をあきらめ、今は賢者を目指している。レオノーラにとってパロムは黒魔法の師匠である。レオノーラが賢者を目指すのなら師匠として責任重大だと思った。レオノーラは今はポロムの協力も得て、賢者の修行に励んでいる。パロムはそんなレオノーラを見て内心の困惑を隠せなかった。以前ほど自分の才能に自惚れることもなくなった。

パロムは今やミシディア一の黒魔導士としてどんどん頭角を現していく。先の戦いで「連続魔」を修得した彼は黒魔法だけは誰にも負けない。レオノーラは賢者を目指している。パロムはポロムと共にミシディアを支えていかなければならない。長老もまだ健在とはいえ、いずれは寿命が来るだろう。パロムとポロムとレオノーラ、いずれは3人でミシディアを導いていくことになるかもしれない。パロムは今ではひたすら黒魔法だけを極めていく。それでいいのだと自分に言い聞かせていた。





パロムへの想いが募る一方のレオノーラ。日記に恋心を書き綴る毎日だが、果たしてパロムの方はレオノーラをどう思っているのか。それも一人の女性として。レオノーラはとうとう告白しようと決心した。しかし、どこでどうやって告白しようか。やはりここは満月の夜、星空を見上げながら話をするのがロマンチックだろう。レオノーラは満月の夜が来るまで待った。そしてパロムに会いに行く。

レオノーラ「パ、パロム!お話があります!明日の満月の夜、この場所に来て下さい!」

レオノーラは待ち合わせ場所を書いた手紙をパロムに渡した。そこは小さい頃パロムと一緒に遊んだ場所であった。

パロム「何だよ急に。今じゃいけないのか?」
レオノーラ「は、はいっ!ロマンチックな雰囲気でないと話せないことなんです!!!!!」

なんとなく用件が想像ついたパロムであった。レオノーラは必死に隠そうとしているようだが、バレバレである。パロムは頭をかいた。



そして満月の夜――

レオノーラ「パ、パロム!」
パロム「話って何だ?」
レオノーラ「あ、あの…月が綺麗ですね」
パロム「そんなことの為に呼んだんじゃねえんだろう?」
レオノーラ「そ、そそそそんなことありません!一緒に月夜を楽しむのもいいじゃないですか」

レオノーラの鼓動は激しく波打っている。これから一世一代の大告白をするのだ。失敗すれば後はない。レオノーラはそう思っていた。さりげなく満月や星空の話題をして、なんとか気を落ち着ける。パロムは至って冷静に受け答えをしていた。自分はこんなにドキドキしているのにパロムはあんなに平然としているということは脈がないのだろうか。いや、そんなことはまだわからない。レオノーラは必死に首を振って雑念を追い払った。そして勇気を奮い立たせる。

レオノーラ「パ、パロム!わ、私…私、あなたのことが好きです!」
パロム「…………………………」
レオノーラ「パロムは私のことどう思っていますか?あなたの気持ちを聞かせて下さい!」

パロムはしばらく黙ったままだった。レオノーラは緊張して呼吸もままならない状態で必死に答えを待った。

パロム「あんたは賢者を目指すんだろう?恋にうつつをぬかしてる場合か?」
レオノーラ「私にとっては賢者の修行も、恋も、どちらも同じくらい大切なことです!」
パロム「甘いな。そんなことで本当に賢者になれると思っているのか?」

レオノーラは考えた。もしパロムが賢者を目指すのだったら、恋などせずにひたすら修行に励むであろう。本気で修業を始めたら女など目もくれないに違いない。しかし自分は――賢者になりたいという思い、パロムへの想い、レオノーラは思ったことを素直に語り出した。


レオノーラ「賢者が恋をしてはいけないなんて決まりはありません。かつての賢者テラさんだって、アンナという娘さんがいらっしゃったと聞いています。ということはテラさんだって賢者としての功績を残しながら、恋をして、結婚をして、家庭を築いたんです。賢者だって人間です。恋だってします。そして人間として生まれた以上、愛は何にも代えられないものです。パロム、あなたは口は悪いけれど自信家で、仲間思いで、頼りがいがあって。私はそんなあなたのことが本当に好きです。お願いです。どうか私のパートナーになって下さい」


これで自分の言いたいことは全て言い終えたと思った。レオノーラは今では落ち着いた気持ちでいた。パロムはしばらく黙っていた。

パロム「いかにも優しい女賢者が言いそうなことだな。あんたは賢者として合格だよ」
レオノーラ「そ、それでは答えになっていません!パロムは私のこと、どう思っていますか?」
パロム「あんたは才能に恵まれてるくせに自信がなくて、天然で、しょうもないやつだよ、全く。でもな、俺の相棒として合格だ」

パロムは少し戸惑っていたが、やがて意を決したように言った。

パロム「俺もおまえのことが好きだよ」

レオノーラは涙を浮かべた。パロムはためらいがちにレオノーラに触れると、そっと抱きしめた。





パロムとレオノーラは二人で共に道を歩むことに決めた。パロムはひたすら黒魔導士の道を極め、レオノーラは博識で柔和な女賢者になった。パロムは相変わらず素直でないところがあり、天然のレオノーラに冷静にツッコミを入れたりした。
大人に成長するにつれ、二人とも風格が出てきた。魔導士の中でパロムに敬意を払わない者はいなかった。レオノーラも優しい雰囲気の中に賢者としての威厳が備わってきた。
二人は手を取り合って暖かい家庭を築いていく。時に間の抜けたおっちょこちょいな面を見せながらも、パロムは頼りがいのある父親に。レオノーラは博識で優しい母親に。賢者テラとはまた違った、新たな賢者の家庭が生まれたのであった。





Happy End






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