※管理人はSFC版FFXしかプレイしていません。これはエンディング後の話です。





ここはタイクーンと海賊のアジトの間にあるフィールドの平原である。バッツは野原で仰向けに寝て、空を見つめていた。ボコは傍で大人しくしている。今日は雲ひとつない快晴である。そして、昔のことを思い出していた。長かった旅のことを。クリスタルを、世界を救う旅。仲間達との出会い、様々な苦難。バッツとその仲間達の死闘の果てにクリスタルは復活し、世界に平和が戻った。
過去の出来事に思いを馳せていると、徐々に眠気が生じてきた。日光が優しく彼を照らし、ほど良い暖かさの中にある彼はうとうとと眠りに落ちた。

ボコ「クゥ…」

バッツが寝ると傍にいたボコも眠りについた。心地よい暖かさの、気持ちの良い昼間であった。





「バッツ。おい、バッツ」

しばらくすると、紫の髪をした男装の麗人――ファリスがバッツの元へやってきた。

ファリス「なんだ、寝てやがるのか。――おい、起きろよ!」
バッツ「……………ん〜……………」
ファリス「うりゃっ!」
バッツ「いてっ!………ファ、ファリス、何するんだよ!」
ファリス「ほら、起きろって。せっかく俺が会いに来てやったんだからよ!」
バッツ「逆だろ。俺がお前に会いに来たんだ。いつものように」

――そう、いつものように――


バッツとファリスは、世界に平和が戻った後も、こうして時々会っていた。エクスデスを倒した後、バッツは再び旅に出、ファリスはレナと共にタイクーン城へ戻った。ファリスの方は王女としての生活が窮屈に感じられ、時々城を抜け出しては海賊のアジトまで戻ったりしていた。彼女は幼い頃に海へ落ちて海賊達に拾われた。王女として育てられた年月よりも、海賊として育った年月の方がずっと長い。今さら王女としての生活に戻るのはファリスにとっては随分と束縛される思いをすることになったのだが、レナや大臣をはじめとする、城の人々の喜びようを見ていると、そうもいっていられない。これからはレナの傍にいて、共に国を支えていかなければ。そんな葛藤をしながら暮らしているファリスにとっての楽しみが、時折バッツと会うことである。

ファリスはしばらくバッツをはがいじめにしていたが、力を緩めると、バッツに話しかけた。

ファリス「なあ、今度はどこへ行って来たんだ?」
バッツ「ああ、今回はクレセントの方だ」

バッツは世界のどこかを旅しては時々タイクーンの近くへ戻り、また旅に出てはタイクーンの近くへと戻り、という生活を繰り返していた。そして、旅の報告をファリスにするのである。タイクーン城へは行っていない。バッツがこの場所にくるのはファリスに会う為である。それも、お姫様の恰好をしたファリスではなく、一緒に旅をしていた頃と同じ、海賊の恰好をしてお忍びで城を抜け出してきたファリスに。

バッツはファリスにはがいじめに――力を緩めた今では抱きつかれた格好で、今回の旅の話を始めた。ファリスはどんな話でも喜んで聞いた。どんな他愛もない、小さなことでも。おそらく王女に戻ってからは旅や庶民の生活などは遠い存在となってしまったのだろう。バッツに会うことで、話を聞くことで、王族でない、一般庶民の感覚を留めておきたいのだ。そうしないと落ち着かないのだ。心も身体もすっかり王女の生活に馴染んでしまうのは抵抗がある。バッツはファリスのそんな一面を知ってか知らずか、まるでそれがごく自然のことであるかのように、ファリスに旅の話をするのだった。


二人は、暗黙の了解の元、ごく自然と、今の関係に落ち着いた。バッツが世界のどこかへ旅に出て、帰ってくるとファリスは城を抜け出して会いに来る。そしてバッツの旅の話をしながら二人きりの時間を過ごす。ファリスがバッツに抱きついた格好となっている今は、もしファリスが女性の服装をしていたら恋人同士の逢瀬に見えるであろう。しかし、何か特別なことをするわけでもなく、ただ二人は他愛もないやり取りをするだけである。


バッツの話が一通り終わると、ファリスはバッツの真横に寝転んだ。そして今度は昼寝から覚めたボコを優しく撫で始めた。ボコはファリスにもよくなついていた。ファリスに会った時は特別に嬉しそうに羽をバタバタさせるのだ。

ファリス「なあ、今度はどこに行くんだ?」
バッツ「ジャコールの方へ行こうと思ってる。久しぶりにクルルにも会いたいしな」
ファリス「そうか…また、行っちまうんだな」
バッツ「ああ…」
ファリス「レナには会わないのか?」
バッツ「……………」
ファリス「何だよ?会いに行かない特別な理由でもあるのか?」
バッツ「い、いや……………また今度にするよ。ボコ!起きろよ。出発するぞ」
ボコ「クエー……」

バッツは慌てて荷物を持ち上げた。ボコは名残惜しそうである。

バッツ「今日はこのくらいで、おまえも帰れよ」
ファリス「何だよ、もう少しいいじゃないか」
バッツ「何言ってんだよ!あんまり長いこと城を抜け出してると女官達に怒られるぞ」
ファリス「しょうがねえな〜またお姫様に戻るとするか」
バッツ「ここに戻ってきたらいつものように伝書鳩を送るから。じゃあな」

まだファリスにくっつきたがるボコを無理やり離して上に乗ると、バッツは去っていった。

ファリス「相変わらずあっさりとしたやつだよな〜」

ファリスはなんだかがっかりしたような気分で城に帰るのだった。


ファリスはこんな日々がずっと続くのだと思っていた。この日、城に帰るまでは。




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