俺は一体何をしているんだろう?

ファリスは呆然としていた。
ここはファリス――サリサ王女の部屋である。ジェニカ達侍女が総動員してファリスを着飾っている。そう、今まで以上に華やかで美しく。
ファリスが特に美しく着飾るのはこれで3度目だ。1度目は婿選びの時、2度目はバッツとレナとの晩餐の時。そして今日はバッツとファリスの結婚式である。
純白のドレスに身を包み、髪を結いあげる。結婚式用の特別に念入りな化粧をして最後にベールをかける。侍女達はその作業に没頭中だった。

花嫁として着飾ったファリスはまさに絶世の美女といっても過言ではない程だった。純白の女神がそこにいた。

コンコン

ドアを叩く音がする。

「クルルよ。入ってもいいかしら?」
「どうぞ」
クルル「うわあ、ファリス綺麗!!!!!」
ファリス「……………」
クルル「とっても綺麗よ。羨ましいわ」
ファリス「……………」
クルル「ファリス?」
ファリス「…こんな恰好じゃろくにしゃべれないよ…」

ファリスははにかんでいる。

クルル「やだあ、ファリスったら!好きな人と結ばれるんだもの。もっと幸せそうにしたらいいじゃないの」
ファリス「こんな恰好じゃ緊張してそれどころじゃないよ」
クルル「それじゃあね、緊張がほぐれるおまじない!昔、私もお母さんにやってもらったの」
ファリス「ああ…ありがとう」
クルル「もうっ!無愛想な花嫁さんね!バッツを呼んでくるわ!」
ファリス「うわっ!ちょ、ちょっと待ってくれ!心の準備が――」

クルルはあっという間に外へ出ていった。

ジェニカ「あの方がバル城のクルル王女様ですのね。溌剌とした明るい方ですわね」
ファリス「あ、ああ…なあ、早めに式を終わらせてくれないか?こんな恰好じゃ緊張して…」
ジェニカ「サリサ様ったらそればっかり。結婚は女の人生を決める一大事ですわ。そう、今日はサリサ様にとって最も大切な日になるのでございます。でも、本当に良かったですわ。求婚者の殿方を次々と断られて、一時はどうなることかと思いましたもの」
ファリス「ジェニカ、俺が城を出ていくことに反対じゃないのか?」
ジェニカ「わたくしはサリサ様の真の幸せを願っております。サリサ様が心から愛しておられる方と結ばれるのならこれ以上の幸福はございません」

『愛』という言葉を聞いてファリスは赤くなった。
結局あの後、2人で何度も口づけを交わした。思い出すだけで顔が真っ赤になり胸の鼓動が高くなる。そして2人は結婚することに決めたのだ。

コンコン

またドアをノックする音が聞こえた。

クルル「ファリスー。バッツを連れて来たわよー!」

ドアが開き、クルルの後からバッツが入ってくる。ファリスはほとんど硬直したままだった。
バッツはファリスのあまりの美しさにため息をついた。これほどまでに美しい女性が今までにいただろうか?そんな彼女が自分の妻となるのである。

バッツ「ファリス…綺麗だよ…」
ファリス「……………」
バッツ「…どうしたんだ?」
クルル「ファリスったら緊張してるのよ」
バッツ「そうか。実は俺もだ」

バッツは愛情のこもった眼差しでファリスを見つめた。ファリスもバッツを見つめていたが、ふと、あることを思い出した。

ファリス「レナは?」
ジェニカ「レナ様は他にやることがあってお忙しいのです。大丈夫ですよ。式までにはちゃんとこちらへ姿を現しますから」
ファリス「そうか…」
バッツ「……………」
クルル「私、レナを呼んでくるわ!」
ファリス「あ、いや、いいんだ」
クルル「そう?ならいいけど」

コンコン

またドアのノックが叩かれる。

「新郎新婦様、お時間です。教会へお越し下さい」

バッツ「行こう、ファリス」
ファリス「ああ」

バッツはファリスの手を取り、式場へ向かった。



式は厳粛に行われた。ファリスは緊張のあまりほとんど何も覚えていなかった。
ただ、「誓います」と答えたことだけは覚えている。
そんな中、ファリスはレナを見つけた。
この結婚式はタイクーン城の教会で行われている。当然レナは上座に座っていた。優しく、悲しげな、寂しげな表情を湛えながら。
ファリスは思った。姉である自分が城を出てしまうのだ。当然だろう。だがしかし、それだけだろうか?


式が終わると今まで静粛にしていた者達が一斉に祝福の声を上げた。

「バッツ様!サリサ様!おめでとうございます!!」

城の者達を初め、海賊のアジトの子分達も式に呼ばれていたが、彼らはより一層嬉しそうだった。

「お頭〜幸せになって下せえ〜!」
「バッツ〜お頭を不幸にしたらただじゃおかねえぞ〜!」


ファリス「なあ、バッツ。ちょっと待ってくれ」
バッツ「どうした?」

ファリスはレナの方へ向かっていった。そしてブーケを思いっきり投げた。
レナは驚いて慌てて受け取る。

ファリス「レナ!お前も幸せになれよ!」
レナ「姉さん…」
ファリス「遠くに離れていても、俺はいつでもおまえのこと想ってるからな!!おまえはおまえの幸せをつかむんだ!!!」

そう言うと、ファリスはバッツと共に立ち去った。

レナ「姉さん…」

レナの顔には一筋の涙が流れていた。


クルル「あーもうっ!ブーケは私が受け取ろうと思ったのに。でも相手がレナじゃしょうがないわね」
「お頭〜!」
「バッツ〜!」

外ではクルルと海賊の子分達が追いかけてくる。

バッツ「それじゃあ――行くぞっ!」
ファリス「バ、バッツ!?何するんだ!」

バッツはファリスを抱き上げるとそのままボコに乗った。

バッツ「俺達の新たな旅が始まるんだ。これからはファリス、おまえも一緒だ!」
ボコ「クエーッ!」
ファリス「バッツ、おまえ、こんな恰好のまま――」
バッツ「ほら!ボコも喜んでるぞ!さあ行こう!」

バッツとファリスを乗せたボコは走り去った。そして2人の新たな人生が始まる――








Happy End






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