ラグナ「どうしたんだ?この子は…」
スコール「…俺のライバルのサイファーだ」
ラグナ「サイファー君?確か魔女に操られていた子じゃなかったか?」
スコール「そうだ」

ラグナはスコールとの距離を少しでも縮めようと思い、多忙の日々の合い間をぬってバラムガーデンを訪ねてきたのだった。スコールの方はエルオーネの能力でラグナのことを知っていたが、ラグナの方はスコールのことをまだよく知らない。この世でたった1人の息子である。きちんと理解した上でわかり合いたい。そんな思いを抱えてきてみればスコールは何やらライバルの少年と決闘中だったらしい。サイファーというその少年はすっかり伸びてしまっていた。その後、スコールやセルフィ達から事情を聞く。金欠になってからスカウトされた映画「魔女の騎士」。あんな昔に出演した映画で自分に憧れている少年がいるなどとは思いもしなかったラグナであった。そういうことなら一度話をしてみようか。

意識が戻った後、決闘に負けたことで悔しさいっぱいのサイファーは、ラグナと対面できると聞いて天にも昇る気持ちになったのであった。



サイファーはそわそわしていた。これから憧れのラグナ様と1対1で対面するのである。一体何を話せばいいのだろう。憧れの人に会うということで身だしなみは完璧だろうか。髪や服装を整える。とにかく落ち着かない。そんなサイファーの元にラグナはやってきた。相変わらず超イケメンである。未だ嘗てこんなにカッコイイ男の人は見たことがないと思う。どんな俳優やタレントもラグナの前には霞んでしまう。口に出したらコイツ大丈夫かと思われるようなことを考えているサイファー。そんなサイファーをラグナは穏やかな瞳で見つめていた。

ラグナ「サイファー・アルマシー君だね」
サイファー「は、はいっ!」

サイファーはぴしっと背筋を伸ばして気をつけの姿勢をとる。

ラグナ「そんなに堅くならなくていいよ。俺の肩書きとか気にしなくていいから」
サイファー「あ、ああああの、」
ラグナ「何だい?」
サイファー「サイン下さいっ!」

サイファーはあらかじめ用意しておいた色紙とサインペンを取りだした。ラグナは最初驚いていたが、やがてにこやかにほほ笑むと汚い字でサインをした。だがサイファーの方は感極まっていた。

ラグナ「いやあ、まさか俺が若い時に出た映画のファンだなんて、照れちまうなあ」
サイファー「あ、あのっ!あの映画は本当にカッコよかったですっ!俺すっかり憧れちまって、何回も繰り返し見て。ポーズとかも真似したりして!」
ラグナ「そうか」

ラグナの瞳がわずかに曇る。おかげでサイファーは魔女の騎士に憧れ、そして操られることとなった。ラグナは無垢な少年の心を傷つけぬよう細心の注意を払いながら、今でも魔女の騎士に憧れているのか穏やかに訊ねた。サイファーはしばらく黙っていたが、やがてしゃべり出した。

サイファー「俺、魔女に操られてとんでもないことをしちまった。いくら操られていたとはいえ、あれだけのことをしたらもうガーデンには戻れない。シド学園長はまだ俺の籍は残してあるっていう。だけど俺はもうガーデンに戻る気はないんです。本当はこれからどうしていけばいいのかわからない。不安でいっぱいだ。だけど俺は止まっていたくない。常に走っていたい。常に大きなことをしていたいんです。俺、俺は…」

サイファーは途中で言葉に詰まってしまった。そんなサイファーをラグナは穏やかに見つめていた。

ラグナ「サイファー君、確かにきみは大きな過ちを犯した。だけど人生いくらでもやり直しがきく。君はまだ若いんだからね。シド学園長やガルバディアとも話し合った結果、君は情状酌量ということで社会的制裁は免除となった。あとは君自身が自分で道を見つけて行くんだ。気にすることはないよ。誰だって人に言えない過去のひとつやふたつ持っているものさ。一見何でもなさそうに見えたってみんな訳ありなんだ。特に若い時は過ちを犯しがちだ」
サイファー「あ、ありがとうございます…」
ラグナ「君はさっき常に大きなことをしていたい、と言ったね?若いうちは無限の可能性がある。君ならできる、君にしかできないことがあるはずだ」
サイファー「は、はいっ!ラグナ様!」
ラグナ「え?ラグナ『様』って…」
サイファー「ラグナ様!俺、もう1回人生やり直したいです!できれば憧れのあなたの側に置いて頂けないでしょうか?」
ラグナ「俺の側で?今度は何をするつもりだい?」
サイファー「俺は昔から腕だけは確かです。俺をエスタ大統領ラグナ様の護衛として付けて下さい!どんなに厳しい訓練にも規則にも耐えてみせます!異国で大統領になるほどのカリスマを備えたラグナ様の元で働いて自分自身をもう1度見つめ直したいんです!」
ラグナ「そうかい?それなら考えてみてもいいよ」

大統領だから『様』をつけて呼んでいるのだろうとラグナは勝手に解釈した。まさかヤバいくらい自分に憧れているなどとは夢にも思わない。ラグナは自分のカリスマに関してはひどく鈍感であった。

そして――

サイファー「うわははは!スコール、とうとうおまえを打ち負かしてやったぜ!」
スコール「何のことだ、サイファー?」
サイファー「俺はこれからエスタ大統領ラグナ様の専属ボディガードになる」
スコール(げっ…)
サイファー「どうだ、羨ましいかあ!息子のおまえより距離が近いんだぞ。あんな人間として素晴らしい方と一緒にいられるんだ。すげえだろ。悔しすぎて声も出ねえか?」
スコール「サイファー、おまえはあの人の一体どこがいいんだ?」
サイファー「全てだ!あの整ったルックス!完璧なスタイル!大統領になるほどのカリスマ!あんな完全完璧な人はこの世のどこにもいない!」
スコール「本当にそう思うかおまえ?」
サイファー「思うとも。おまえこそ実の息子でありながらラグナ様の良さがわかってないんじゃないのか?」
スコール「いや、それは…」
サイファー「俺はラグナ様の元で修業を積む。俺なりの修業をな!そして終わったらまたおまえの元へやってくる。今度こそ決闘でおまえに勝ってやるからな!」

かくしてサイファーはラグナの元で人生をやり直すことにしたのだった。そしてずっとラグナの大ファンであり続けたのであった。





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