財宝を目指してリガウ島へ旅していた冒険者の一団。ガラハド、ミリアム、そしてグレイ。
3人はリガウ島唯1つの町ジェルトンで十分情報収集をした後、恐竜をうまく避けながら、見事財宝の入手に成功した。そして今は船に乗り、バファル帝国の首都メルビルへ向かう途中である。
グレイは世界中の財宝を求めて旅を続ける冒険者である。伝説の人物が残した宝や言い伝えを聞いたり、まだ見ぬ人跡未踏の地へ行くこともある。世界各地を気の赴くままに旅をしながら噂を聞いて宝物を手に入れる、そんな人生を彼は楽しんでいた。メルビルで新たな運命が待つことを彼はまだ知らない…




一方――

バファル帝国の首都メルビルの南に迷いの森と呼ばれる森がある。
そこにはオウルという老いた魔女に育てられてきた娘がいる。その名はクローディア。

ある日、彼女はいつものように、森の中で動物達と戯れていた。すると、1羽の鳥がクローディアの元にやってきた。オウルが呼んでいるというのである。

オウル「クローディア、森の入口辺りにモンスターがうろつとるようじゃ。見て来ておくれ!」

クローディアは特に仲がいい熊のブラウと狼のシルベンを連れ、森の入口へ向かった。そこでは1人の若い青年がオークに襲われていた。クローディアは弓をつがえ、ブラウ、シルベンはそれぞれ爪や牙で攻撃し、オークを倒した。助けた青年はクローディアに近寄ってきた。

青年「ふう〜人生終わりかと思った。ありがとう。助かったよ。僕はバファル帝国親衛隊のジャン。君は?」
クローディア「……クローディア……」
ジャン「えっ!そ、そう。あ、後ろに熊と狼が…」
クローディア「ブラウとシルベンは私の大切な友達です」
ジャン「そ、そう。ちょ、ちょっと変わってるけどいい友達だね」
クローディア「……」

しばらく気まずい沈黙が流れる。

ジャン「……参ったなー。そうだ!ここに帝国の地図がある。今度メルビルまで遊びに来ておくれよ。普段は宮殿にいるから。それじゃ、また。必ずおいでよ!!」

クローディアはジャンと別れるとオウルの元へ戻った。今しがた起こったことを話すとオウルはクローディアに外の世界を見てこいと言う。

オウル「但しわしが呼んだら必ず戻って来るんじゃ」
クローディア「わかったわ」
オウル「……ちょっと待て。おまえ、その男に名前を教えたか?」
クローディア「ええ」
オウル「……厄介なことにならねば良いがのう……」
クローディア「どういうこと?」
オウル「なんでもない!はよう行け!行け!」

クローディアはオウルに半ば追い出されるようにして、迷いの森を出た。それが、彼女の旅立ちだった。




クローディアが迷いの森から旅立った頃とほぼ時を同じくして、グレイ達はメルビルの港に着いた。

グレイ「さて、これからどうする?」
ガラハド「懐も暖かくなったから一度解散したらどうかな。俺はクリスタルシティに帰って新しい武器を練習したいんだ」
ミリアム「そうだね。あたいも久しぶりにエスタミルに帰ろうかな。グレイ、あんたはどうする?」
グレイ「俺はしばらくここに残る」
ガラハド「それじゃな。また会おう。ミリアム!ローバーンまでは一緒だろう?」
ミリアム「あんたと二人きりじゃやりきれないけど仕方ないわね」
ガラハド「何だって?」
ミリアム「やっぱり腕の立ついい男と一緒じゃなきゃ、って冗談よ、冗談!グレイ!今回の冒険もけっこう楽しめたわ。また一緒に行きましょう。バイバイ!!」

グレイはガラハドとミリアムと別れた。その後、仲間だった2人はグレイのことに思いを馳せる。

ミリアム「ねえ、グレイって、この辺りの生まれかな?」
ガラハド「さあね……俺達、奴のことは何も知らないんだよな……」




クローディアはジャンからもらった地図をたよりにメルビルへ来ていた。静かな森で育った彼女は人の多いところは苦手であった。町の喧騒に煩わされながら宮殿を目指す。

門番「何だおまえは?熊と狼など連れて。ここは皇帝陛下の宮殿だ。寄るな!寄るな!」
クローディア「ジャンに会いに来ました。クローディアといいます」
門番「クローディア?そのお顔は…!!お、お待ち下さい!」

門番はクローディアの顔を直視すると、慌てて礼儀正しい態度になった。

クローディア(私の顔がどうかしたのかしら…?)

クローディアが怪訝に思っていると、ジャンが現れた。

ジャン「ああ、クローディアさん、よく来てくれました――って熊と狼も!?
クローディア「ええ、1人では心細いので友達と一緒に来ました」
ジャン「あ、あのー、クローディアさん、誠に申し訳ないのですが、後ろのお友達は宮殿の外で待っていただくわけにはいかないでしょうか?」
クローディア「何故?」
ジャン「それは、その……そ、それではお友達は宮殿内の中庭でお待ちいただきましょう!厩舎に近い所です」
クローディア「わかりました。ブラウ、シルベン、私はしばらくジャンとお話してくるから、外でいい子にして待っていてね」
ブラウ・シルベン「ばう!」
ジャン「それではクローディアさん、ささ、こちらへどうぞ」

ジャンについて行くと、宮殿内のある一室の前に案内された。

ジャン「まずは親衛隊長のネビル様に会っていただきたい。……失礼致します。ネビル様!クローディア様をお連れしました」
ネビル「うむ、ごくろう。クローディアさん、初めまして。私はこのバファル帝国の首都メルビル親衛隊長ネビルと申します」
クローディア「…クローディア…です」
ネビル「聞けばクローディアさんは迷いの森に住んでいらしたそうだが、どうだねメルビルは?賑やかな町だろう?」
クローディア「……うるさい所ですね」
ネビル「うるさい…か。確かにそうかもしれん。ジャン!」
ジャン「はっ!」
ネビル「とりあえず……秘密に……」
ジャン「……はい……私が……わかりました……」
ネビル「それではこれから私が宮殿内を案内しましょう」
クローディア「…ブラウとシルベンは…?私、あの子達と一緒にいたいわ…」
ネビル「そ、そうですか。では宮殿の主な所を案内しますから、その後はお友達と御一緒していただいて結構です。ではこちらへ」

ネビルはクローディアを案内し始めた。そしてジャンは宮殿から出た。

ジャン「う〜ん、困ったなあ…クローディアさんに護衛をつけたいけれど、誰か信頼できて、尚且つ腕の立つ奴はいないかな…?」

警備隊事務所へ行くと、かつての同僚グレイがこのメルビルにいることを小耳に挟んだ。

ジャン「グレイ…!あいつなら信頼できる!クローディアさんを任せられるぞ!」

ジャンはさっそくグレイを探しに行った。

ジャン「グレイ!久しぶりだな。同じ部隊にいたジャンだよ」
グレイ「…知らないな……」
ジャン「そんなことはないだろう。あの時、軍を辞めたのは俺を庇う為だったんだろう」
グレイ「そんなこともあったかな……忘れたな。それより何の用だ?」
ジャン「君は忘れても俺はしっかり覚えてるぞ。まあいい。今日は君に頼みたいことがある。ある人の護衛をして欲しいんだ」
グレイ「ある人とは?」
ジャン「クローディアというとってもとってもとってもとっても美しい娘さんだ。訳あってそれとなく守って欲しいんだ。俺は帝国の兵士だからいつも側にいるわけにはいかない。だから君に頼むんだ」
グレイ「出すもの出してくれれば引き受けよう」
ジャン「引き受けてくれるか!無論、金は出す」




日が暮れ始めた頃、クローディアは宮殿から帰ることになった。

ネビル「今日はわざわざどうも。ジャンに宿屋まで送らせましょう」

ジャンはあらかじめ手配しておいた、高すぎず、しかし安全の面では信用のおける宿屋へクローディアを案内した。

ジャン「私が見張りをしていますから今日はここでお休みになって下さい」

クローディアは相変わらず平然とブラウとシルベンと連れたままである。宿の人間の異様な眼差しを受けながら、クローディアは2匹と一緒に部屋に入り、共に寝た。初めての外の世界。森の中とは全く違う、雑多な人混みと喧騒。本で見たものより遥かに豪華な宮殿の造り、装飾。何もかもが初めてだった。

クローディアがなかなか寝付けないうちに夜が明けてしまった。部屋の戸を開けるとジャンが居眠りをしている。

ジャン「グー……フガ?……す、すみません!つ、ついさっきまで起きていたんですが……あ、そうだ!今日はあなたに紹介しておきたい男が来るんです。さ、食堂へ行きましょう。そこで落ち合うことになっています」

クローディアは手短に身支度を整えると、ジャンと共に宿の食堂へ向かった。ブラウとシルベンはクローディアが注文した食べ物を大人しく食べている。しばらくすると、グレイが食堂に入ってきた。

ジャン「お、来た来た!彼の名はグレイ。けっこう名の知れた奴ですよ。グレイ、こちらがクローディアさん」
グレイ「確かにおまえの言った通りの美人だな」
ジャン「お、おい、何もこんなところで言わなくっても。すいません。こういう奴なんですが、よろしく」
クローディア「……この人が何か?……」
ジャン「あなたの護衛というかガイドというか、そういうものです」
クローディア「護衛はいりませんけどガイドなら……」
グレイ「よろしく、お嬢さん」
クローディア「……よろしく……」
ジャン「それでは私はこれで。グレイ、後は頼んだぞ」
グレイ「…ああ…」

ジャンが去った後、グレイとクローディアは互いに見つめ合った。グレイは灰色の髪と瞳を持ち、それゆえにグレイと名付けられたという。そして細いが強靭な肉体をしている美男子である。一方クローディアは柔らかな栗色の髪とヘイゼルの瞳を持つ美女だった。その美貌がバファル帝国の皇族の特徴であることは彼女は知らない。グレイは何となく感づいたが、敢えて何も言わず、別の話題を口にした。

グレイ「お嬢さん」
クローディア「…私のことはクローディアでいいわ」
グレイ「ではクローディア、君はつい昨日まで迷いの森で育ったそうだね」
クローディア「はい。迷いの森の入口でオークに襲われていたジャンを助けたら、帝国の地図をくれたんです。オウルも外の世界を見てこいって。どこでも好きな所へ行けって」
グレイ「オウル?」
クローディア「私を育ててくれた魔女です」
グレイ「そうか。それで君はどこか行きたいところはあるのか?」
クローディア「外の世界は全く初めてなので特にまだ決めていません」
グレイ「そうか。俺と同じだな」
クローディア「え?」
グレイ「俺は冒険家だ。気の赴くままに世界中を旅している」
クローディア「それで私のガイドになってくれたんですね」
グレイ「…まあ、そんなところだ」
クローディア「それでは私に外の世界を案内して下さい。あなたの行くところにどこへでもついて行きます」
グレイ「……そうか。それでは行こうか。まずはこのメルビルを案内しよう」

こうして、一対の美男美女は共に旅をすることになったのだった。





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