帝国歴1XXX年。
ソーモンの天才発明家ヒラガは全自動人形を完成させた。これを作ることは代々ヒラガ家の夢であった。全て自動で動き、人の声に反応する人形を作ることは至難の業であった。
全自動人形はコッペリアと名付けられた。人の手によって作られ、まだこの世に生を受けたばかりのコッペリアは世の中のことをよくわかっていなかったし、確固たる自我があるわけでもなかった。
ある日、帝国の皇帝が訪ねてきた。

コッペリア「おめえ、誰だ?」

皇帝は顔をしかめたようだった。ヒラガは喜びに満ちてコッペリアを紹介する。そして初めてコッペリアは相手が皇帝だということを認識した。

コッペリア「おお、皇帝か、よろしく頼むぜ!」

口の悪い人形だと、皇帝は呟いた。しかし、好奇心があったのか、コッペリアを仲間に連れて行きたいと言った。

コッペリア「そうか。仲間になってやるからありがたく思え」

こうしてコッペリアは帝国の皇帝に仕えることになった。
コッペリアはよく戦った。皇帝の指示通りには動かず、好き勝手に行動していたが。初めは人間というもの、世の中というものをよくわかっていなかったコッペリアは皇帝達と行動を共にするにつれ、徐々に学習していった。人間の感情、世の中の仕組み。皇帝は長く行動を共にしているうちにコッペリアに対して愛着が出てきたようである。そしてコッペリアの方も人と触れ合ううちに感情に目覚め始めた。

コッペリアを同行させた皇帝はやがて年老いて息をひきとった。そして数十年の歳月が流れる。

ある日、コッペリアの頭上から神秘的な光が注がれた。それによりコッペリアの中に人の記憶が入ってきた。レオン帝、ジェラール帝、その他代々帝国の皇帝の記憶、そしてコッペリアと行動を共にした先帝の記憶。様々な人の記憶と共に溢れんばかりの力が湧いてくる。

そして、コッペリアは目覚めた。1人の人間として。皇帝として。

コッペリア「ヒラガ様、私はアバロンへ行かなければなりません」
ヒラガ「何を言っとるのだ?お前、どうしたのだ、その言葉づかいは?それに自分から動いているのか!?な、何が起きたのだ」
コッペリア「私は皇帝になったのです。皇帝の魂を受け継いで本当の命を得たのです。長い間お世話になりました」

ヒラガは開いた口がふさがらなかった。あれほど横柄な言葉遣いは丁寧になり、立ち振る舞いも今までとはまったく違う。気品が感じられた。今までは人の声に反応する全自動人形だったのが、今は完全に自立して行動している。

こうして、帝国の歴史でも一際異例な人形皇帝が誕生したのだった。

コッペリアが皇帝に即位したことは帝国の人間全てを驚愕させた。人ではないのである。かといってネレイド族やイーリス族とも違う。しかしコッペリアは確かに歴代皇帝の魂を受け継いでいた。政務もそつなくこなす。コッペリアは人形である為、眠る必要性がない。先帝は戦いに明け暮れた日々を送っていたので書類が山積みになっている。その膨大な量の書類をコッペリアは徹夜で片づけていった。
溜まっていた仕事が一通り終わると、コッペリアはパーティー編成をし、出かける準備をした。皇帝の使命は打倒七英雄と全土統一である。それにより人々に平和をもたらすのだ。いつまでも宮殿にこもっているわけにはいかない。配下の者を引きつれて遠征に行かなければ。

サラマンダー族のアウ
モール族のラト
ネレイド族のアムピトリーテ
イーリス族のスカイア

コッペリア「この者達と共に出発します」
側近「あの…陛下?」
コッペリア「なんです?」
側近「誠に恐れながら、普通の人間が1人もいなくて大丈夫でしょうか」
コッペリア「彼らも立派な帝国の一員ですよ」
側近「で、ですが…」

側近は内心ツッコミを入れたくてたまらなかった。確かに戦闘能力は申し分ないが、このメンバーでは帝国の人間だと名乗っても信じてもらえるかどうか。しかも肝心の皇帝は人形である。心配だ…

側近「陛下、どちらへ向かわれますか?」
コッペリア「ステップへ行こうと思います。あそこには七英雄の1人ボクオーンがいるそうです」

ボクオーンは人形好きで有名だ。それをわかって敢えて行こうとするのだろうか。帝国からの距離も比較的近いので早めに領土に加えておきたいのもあるだろうが。側近の心配をよそに、コッペリアは配下の者を引きつれてアバロンを出た。ソーモンから船でマイルズへ渡る。マイルズの人からは好奇の目で見られた。なにしろ人形が動いているのだから無理もない。しかも他の同行人といえばサラマンダー族、モール族、ネレイド族、イーリス族である。皆、一般には知られていない種族ばかりである。そんな人々の視線も気にせず、コッペリア達は情報収集をした。

町人「かつてはノーマッド達がステップを支配していたのだ。だがモンスターが増えて今はもうほとんど残っておらん」
パブのマスター「この町の東から始まるステップのど真ん中に船形の建物ができたんだよ!七英雄の1人ボクオーンが作った要塞だそうだが、何で船形なんだか、英雄のやることはまったく…俺みたいなただの人には理解できないね」

コッペリア「七英雄の1人ボクオーンがこのステップにいるのは間違いないようですね。運河要塞の次は草原に船形の建物ですか…ステップにはノーマッド達がいるようですね。彼らに会いに行ってみましょう。

こうしてコッペリア達はステップのノーマッドの村へ向かうことにした。ステップのモンスターを蹴散らしながら村をを発見する。ノーマッドの村にいた子供は驚いた。

子供「アルタンお兄ちゃーん、大変だよー!」
アルタン「どうした?モンスターが襲ってきたか!」
子供「違うよー。お人形さんが動いてる」
アルタン「は?」
子供「動いてしゃべるお人形さんがやってきたよー。他にトカゲさんとモグラさんと、人魚さんと鳥さんがいるよー」
アルタン「おまえ、まさかボクオーンが作っている麻薬にやられたのか?」
子供「違うってば、ほら、見てよー」
アルタン「んなあっ!?」

子供の言ったことは本当だった。動いてしゃべる人形とトカゲ人間ととモグラ人間と人魚と鳥女がいる。一体何が起きたのか。しかも彼らはバレンヌ帝国の人間だと名乗っている。バレンヌ帝国はステップから離れた国だが、まさか人間の国ではないのか?しかも人形が皇帝だと名乗っている。

アルタンが状況を理解するのにかなりの時間を要したという………



コッペリア一行が訪れたことで村は騒然としていた。聞けば遠いバレンヌ帝国から来たと言う。しかし彼らの誰1人として普通の人間ではない。挙句、皇帝だと名乗っているのは動く自動人形である。平然と名乗りを上げるコッペリアにノーマッドのリーダー、アルタンは頭を悩ませた。数時間後にようやく強引に納得したアルタンはバレンヌ皇帝一行をもてなすことにした。村の子供達はコッペリアに興味津々である。コッペリアはそれに応じながら村やステップの様子を尋ねる。

子供「モンスターが多いから村の外に出るなって言われてるんだ」
子供「ねえねえ、ステップに船がいるってホント?」

他にも老人が寂しそうに呟く。

老人「昔は馬でステップを駆け巡ったのだが」

ステップの平和な暮らしを脅かしているのが七英雄のボクオーンであることは明白である。さらに詳しい話を聞きにアルタンの天幕へ入った。

アルタン「よく来た。あの船形の要塞が出来てからモンスターが増えて困っている」
コッペリア「こんなところで要塞を作って何をしているのです?」
アルタン「我々が痛み止めに使う薬草から麻薬を作っているのだ。奴らは大事な薬草を根こそぎ持って行ってしまう」
コッペリア「薬草をそんなことに使うなんて許せませんね」
アルタン「そうだ。これ以上黙っていられない。これから要塞に攻撃を仕掛けようと思うのだ。一緒に来るか遠い国の皇帝よ?」
コッペリア「そういう奴らには先制攻撃です!」
アルタン「そうだな。それでは一緒に行こう」

コッペリア達とアルタンは共に船形の要塞――地上戦艦に攻撃を仕掛けようとした。だがその時、戦艦は動きだした。アルタンは恐れをなして村へ逃げ帰る。

アウ「あーっ!陛下!アルタンの奴、逃げてしまいましたよ!」
ラト「自分から誘っておいて逃げ出すなんて!」
スカイア「どうしてくれるのよ!近くにいるモンスターが襲いかかってくるわ!」
アムピトリーテ「随分と逃げ足の速い人ですね。もう姿形もありません」
コッペリア「こうしていても仕方がないわ。一旦引きましょう」

コッペリア達は襲い来るモンスターを蹴散らしながらノーマッドの村に戻った。

アルタン「地上戦艦は恐ろしい敵だ。逃げ回るしか手がない…くっ…」
アウ「皇帝陛下を置き去りにしたことについて謝罪は?」
アルタン「えっ?」

見るとアウが斧を構えていた。その横ではスカイアが弓をつがえてアルタンに向けている。

アルタン「いや、すまない。地上戦艦に恐れをなしてそれどころではなかった」

さらに殺気を強めるアウとスカイアをなだめてコッペリアはマイルズに戻ることにした。

マイルズでは町中にモンスターが徘徊している。襲いかかっては来ないが、いい状況ではない。

モンスター「ガウガウ」

モンスターの他に町中に怪しい男がいる。いい仕事があるんだがやらないかと尋ねてくる。

ラト「陛下、なんだか怪しいですよ。やめておきましょう」

一旦パブで落ち着くコッペリア達。

パブのマスター「地上に戦艦とはさすがはボクオーン。七英雄の名は伊達じゃあないね。俺なんかとはレベルが違うね」

コッペリア「困ったわ。あの地上戦艦をどうにかするのに何かいい方法はないかしら?」
アムピトリーテ「陛下、一旦アバロンに戻りましょう。何かいい案が閃くかもしれません」






一方、ここは地上戦艦内部、ボクオーンの部屋。

ボクオーン「なんとも奇妙なこともあるものだな。今度の皇帝は全自動人形だと?ハハハハハッ!面白い!我が傀儡にしてくれるわ!」





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