その後、シーザーは自ら退位し、帝国を共和国に変えた。過去の歴史は帝国史が綴られ、世界中に伝わった。過去の皇帝たちの功績は人々の間で話題に上り、歴史書が作られた。バレンヌ帝国は世界を統一し、共和国になることで世界を平和に導こうとしていた。





――時は流れた。人々は新たな生活を始め、帝国の過去の栄光も思い出されることはなくなっていった。





その日もシーザーはアバロンの酒場で酒を飲んでいた。酒場の中央には吟遊詩人がおり、帝国の歴史を叙事詩にして歌い始めた。竪琴の音に合わせて歌が始まる。最後の伝承法によりレオン帝から始まる過去の皇帝の記憶を受け継いでいるシーザーは黙って目を伏せて、詩人の叙事詩に耳を傾ける。詩人の詩はいつまでもいつまでも続いた。世代を超えた長き戦い。七英雄との死闘。シーザーは歌の調べを聞いて、長い間、過去の思い出の感傷に浸っていた。気が付くと歌は終わり、詩人は子供と話をしていた。夜は更けていた。もう酒場の閉店時間である。女中が客を帰らせている。何も知らない女中はシーザーにも帰るように促す。シーザーを知っている酒場のマスターは女中を先に帰らせた。店内にいるのはマスターとシーザー、そして詩人だけである。マスターがグラスを拭く音だけが響く。

詩人「いかがでしたか陛下?」
シーザー「おまえの詩は素晴らしかった。だが私はもう皇帝ではないのだから陛下と呼ぶのはやめてくれ。アバロンの人々にも忘れられた歌の中だけの存在だ」
詩人「そうでもないと思いますよ。シーザー様」

そう言うと詩人は黙って立ち去った。シーザーは改めて過去の皇帝達の記憶から、過去に出会った人々を思い出していた。長き歴史の中で出会った人々。帝国の領土に加えた結果仲間になった者達。時にはひょんなことから帝国に協力するようになった者達もいる。まるで走馬灯のように駆け巡る過去の記憶。

その時であった。酒場の外から誰かが入ってきた。もう閉店であるはずなのに数人が店内に入ってきたのである。シーザーは過去の記憶の余韻に浸っており無反応だった。マスターは、はっとしてシーザーに呼びかける。

マスター「シーザー様!」

シーザーが振り向くとそこにはエリザヴェータと最終決戦と共にした仲間達がいた。インペリアルガードのハンニバル、サラマンダーのアウ、軍師のコウメイである。

エリザヴェータ「お久しぶりね、シーザー」
シーザー「エリザヴェータではないか。どうしたのだ?故郷に帰ったと思っていたが」
エリザヴェータ「トーレンスの人々には七英雄のことを報告したわ。その後しばらく世界を回ってハンニバル達を探していたの。全員見つけ出すのに時間がかかったわ。特にコウメイったら――まあ、いいわ。シーザー、あなたはもう皇帝ではないのでしょう?これからは冒険家にならない?私達で世界中を旅して回るのよ。そしてまだ知らない土地を訪れて冒険するのよ」
シーザー「何だって?」

シーザーは驚いた。エリザヴェータが今しがた言ったことを反芻する。

シーザー「エリザヴェータ、君はその為に戻ってきたのか」
エリザヴェータ「そうよ」
シーザー「しかし君は古代人の末裔で、私達とは寿命が違うと言っていたではないか」
エリザヴェータ「古代人の寿命が長いのは同化の法を使って新しい肉体を得るからよ。同化の法を使わなければあなた達と同じなの」
シーザー「それではこれからは私と行動を共にしてくれるのか?」
エリザヴェータ「もちろんよ」
シーザー「私が別れ際に言ったことを覚えているか?」
エリザヴェータ「ええ。私もあなたが好きよ、シーザー」

エリザヴェータは極めて晴れやかに言った。しかしそのあっさりした物言いにシーザーは不服だった。

シーザー「エリザヴェータ…どうせならそういうことは2人きりの時に言って欲しかったな」
エリザヴェータ「あら、嬉しくないの?」
シーザー「もちろん嬉しいがな、…まあいい。これからいくらでも2人の時間を作ろう」
ハンニバル「陛下、いえシーザー様。これからもあなたにお供いたします」
シーザー「ありがとう、ハンニバル」
アウ「シーザー様、これからも一緒に冒険しましょう」
シーザー「ああ」
コウメイ「時には私がお役に立つこともあるでしょう。これも何かの縁ですから、一生お供しますよ」
シーザー「コウメイ、よろしく頼むぞ」





シーザーはエリザヴェータを妻に迎え、かつて最終決戦を共にした者達と共に旅立った。新たな旅立ちを。







End





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