この世界には三百年に一度、『死食』と呼ばれる現象が起こる。死の星が太陽を覆い尽くし、全ての新しい生命が失われる。
だが、ある時、今から六百年前、一人の赤ん坊が生き残った。その赤ん坊は成長して魔王になり、世界を恐怖に陥れた。アビスゲートと呼ばれる魔界の門を開き、魔貴族達をも支配した。
更に三百年後の死食でも、また一人の赤ん坊が生き残った。今度その赤ん坊は成長して聖王となり、魔貴族達をアビスへ追い返し、ゲートを閉じた。
そして更に三百年後、今から十五年前、三度死食は起こり、また一人の赤ん坊が生き残った。果たしてその子は聖王になるのか魔王になるのか。それとも…



ここはロアーヌ侯国。物語はここから始まる。ロアーヌ候ミカエルはモンスター討伐の遠征中であった。
ミカエルの妹モニカはゴドウィン男爵と大臣の謀反を知ってしまった。二人の会話を立ち聞きしてしまったのである。このままではモニカも人質として捕らえられてしまう。モニカの侍女兼ボディガードのカタリナに事情を話し、単身ミカエルの元へ向かった。後を任されたカタリナはモニカの替え玉を用意し、自らの装備品を隠し、空いている牢屋の鍵を隠し、準備を整えた。大臣に捕まり牢屋へ入れられても鍵を隠してあるので平気である。カタリナはミカエルが戻るのを待った。



暗い夜道を一人、馬を駆けるモニカ。しかし馬は途中で止まってしまう。モニカが必死に頼んでも馬はそれ以上走ってはくれなかった。仕方なしに近くの村へ向かう。そこはシノンという村だった。その村には幼なじみであり、開拓民である四人の若者がいた。ユリアン、エレン、サラ、トーマス。彼らは見回りをした後、酒場に引き上げた。
シノンの酒場には褐色の肌をした男が一人、酒を飲んでいた。彼の名はハリード。気ままに旅をして、たまたまこの地方にやってきたのだ。酒場のマスターはハリードの肌の色から砂漠の出身であることを指摘する。それをきっかけに昔の回想に耽るハリード。愛しいファティーマ姫との逢瀬。彼の回想は若者達が酒場に入ってきたところで破られた。

シノンの開拓民である四人の若者はその後二手に分かれた。ユリアンとエレン。トーマスとサラ。ユリアンは幼なじみであるエレンに片思いをしている。何かとデートに誘うのだがエレンには素っ気ない態度ばかり取られている。サラはトーマスが何でもできるのに感心していた。トーマスはユリアンがうまくやっているか気にかけていたが、ユリアンの誘いはうまくいっていなかった。
そこへモニカが入ってきた。一目でロアーヌ候ミカエルの妹だと見破るハリード。爵位を狙う者が反乱を起こしていることまで一気に推測する。金にならない仕事は引き受けない主義のハリードだが、馬一頭で引き受けることに。話し合いの結果、ハリードと四人の若者ユリアン、エレン、サラ、トーマス、そしてモニカの六人でミカエルの宿営地まで向かうことになった。それぞれ自己紹介を済ませ、翌朝早くに出発する。

「いいか、おまえ達。俺達はデザートランスという陣形で戦う。俺が先頭に立ち、おまえ達四人は後ろから援護しろ。モニカ様をきっちりガードしてろよ。魔物や追手は俺が始末する。モニカ姫のポジションが一番安全だ。安心して戦え。俺達が戦うからモニカ様は後ろで見てればいいぜ」

シノンの森を抜ける六人。途中でモンスター達が襲いかかってくる。ここで皆ハリードの段違いの強さに圧倒されるのであった。どの敵も一撃で倒してしまう。最前線に立っていながらほとんど傷を負うことがない。シノンの四人の若者達も善戦するが、戦闘能力・実戦経験そのものがケタ違いだった。
あと少しで森を抜けるというところで巨大な鳥のモンスター、ガルダウイングが襲いかかってきた。獰猛な声を上げて巨大な鉤爪や嘴で攻撃してくる。ハリードの曲刀カムシーンが唸る。デミルーンという必殺技を使い、ガルダウイングに確実なダメージを与える。見事撃破したが、ガルダウイングのような凶暴なモンスターがシノンの森のような場所に現れたことにハリード達は不安を感じた。死食でアビスゲートが復活したという噂があるが本当かもしれない。そんなことを思いつつ、彼らはミカエルの陣営へ向かう。

ミカエルにとって妹の来訪は予想外であった。しかし表には出さず、ユリアン達に引き続きモニカの護衛を頼む。下手な人間よりも信用できる、ポドールイのヴァンパイア伯爵レオニードの元へ。そしてハリードが通称『トルネード』であることに気づき、ハリードだけはミカエルと共に行くことになった。ハリードの強さは世間で有名である。剣術に優れ、振るう曲刀が竜巻のように見えることから『トルネード』の異名で呼ばれる。ミカエルとしては貴重な戦力が手に入ったと喜んでいた。一方、モニカの護衛、シノンの若者四人は、そのハリードが抜けてしまうことで痛手を感じていた。

「俺達だけでやれるかな、トーマス…」
「珍しく弱気だなユリアン。大丈夫さ。ポドールイまでは遠いけど道も楽だしモンスターも少ない。自信持てよ」
「わかったよ、トーマス」
「よろしくお願いします、ユリアン様」
「モ、モニカ様!(や、やるしかないよな。やるしか)よし!行くぞー!」
(とは言ったものの…やはりハリードが抜けたのは大きいな)

トーマスは陣形や装備品を見直した。

一方、サラは人生が変わっていく瞬間を感じていた。今までは引っ込み思案で姉に守られていた。しかしこれからはもう昨日までのサラではない。サラは少しずつ自我・自立心が芽生えてくるのを感じた。それには気づかないエレンはただ大変なことになってしまったとだけ思っていた。

今回のゴドウィン男爵の反乱は、実はミカエル自ら仕掛けたものだった。それをハリードのみに打ち明ける。ミカエルにとって計算外だったのは妹のモニカの行動のみだった。ゴドウィン男爵にわざと反乱を起こさせ、一気に片づける。モニカのことはシノンの若者達に任せ、ミカエルとハリードは陣営に向かった。



ここはポドールイの町。ハリードが抜けた後はモニカも一緒に戦うことになり、五人で力を合わせる若者達。ポドールイへの道を無事通過し、町へ辿り着く。せっかくの美しい街並みを堪能したい。五人は町の探索も兼ねて酒場にも行った。
サラは酒場で一人の少年が座っているのを見つけた。黒髪で東洋風の服装をしている。サラはその少年にどこかしら惹かれるところがあった。しかし近づくと少年は、

「僕に構わないで!」

と言って去ってしまった。何かに怯えているように見える。

「サラ、何してるの? 行くわよ」

エレンが呼ぶ。サラはその少年のことが非常に印象に残っていた。



ポドールイを治めるヴァンパイア伯爵レオニードの城。果たして大丈夫なのか。不安が募る一行であった。レオニードは捕らえどころのない、ミステリアスな人物であった。モニカ達が来るのは既に知っていたようである。吸血鬼の城で一晩泊まることになった一行。モニカだけ別の部屋だったのだが、途中で心細くなったようだ。特にこれといってやることのない一行はレオニードから財宝の隠されたポドールイの洞窟を教えてもらい、探検に行く。



一方、こちらはハリードとミカエル。宿営地で軍議をしている。

「ハリード、おまえは命を張る必要はない。ご苦労だった」
「冗談じゃないぜ。ここからが稼ぎどころだ。俺に戦いの先陣を任せてくれないか?」
「私の指揮では不安か?」
「戦場であんたにもしものことがあったらモニカ姫が可哀想だからな」

ハリードは現金主義者で金にがめつい。稼ぎどころを逃す彼ではなかった。戦場でのハリードの勇猛な戦いぶりは『トルネード』の異名で有名である。戦士としても、指揮官としても優れている彼が今回先陣を切ることになった。

「俺の命を皆に預ける。皆、この異国の者に命を預けてくれるか?」
「猛将トルネードと共に戦場に立てるとは望外の喜びだ!こんな名誉なことはない!」

急遽ミカエルと共に来ることになった異国の者、ハリードが指揮官になることについて異議のある者はいなかった。むしろ名誉なことだと兵士達は歓声を上げる。
一戦目はゴブリン軍団。ゴドウィン男爵はモンスターとも手を結んだようである。

「縦列陣形!」

「全軍突撃!」

戦闘開始直後、速攻で突撃を仕掛けるハリード。敵はこちらの倍の兵力があるが、兵士一人ひとりの質は低い。しばらく時間が経つとゴドウィン側についていたラドム将軍がこちら側に寝返り、勝負は圧勝となった。今度はとうとうゴドウィン男爵の本隊との戦いである。兵力は互角。今度はそう簡単にはいかない。

「中央突破の陣!」
「波状盾の陣!」

戦が始まってしばらく経つと、ゴドウィンは前二列交代を使った。ハリードはまたも速攻で勝負を仕掛ける。

「いいか皆!俺がゴドウィンを狙う!おまえ達は俺の後に続け!」
「おおー!」
「指揮官突撃!」

ハリードは一気に敵兵を蹴散らし、ゴドウィンの元へ向かった。その戦いぶりは勇猛そのもの。愛刀カムシーンでどんどん敵を倒していく。まるで黒い竜巻が起きたように見え、後に残るは敵の残骸。そんなハリードにゴドウィンは応戦するが、

「グフッ……無念なり」
「指揮官戦闘不能。ゴドウィンがやられました!指揮官を失った兵士達の行動は…全軍退却……」

敵は総崩れになった。ハリードはゴドウィンの首を取り損ねたことに舌打ちし、敵に追い打ちをかけた。
戦はハリードの圧勝。一戦目も二戦目も敵はなすすべもなくあっさりとやられた。
ミカエルの軍はハリードの活躍により見事ゴドウィン軍を打ち破り、そのままロアーヌ奪還へ向かう。目指すはゴドウィン男爵ただ一人。



ハリードとミカエルはロアーヌへ入った。モンスターを適当に蹴散らし、玉座の間に向かう。途中、モニカの侍女兼ボディガードのカタリナと合流する。カタリナは牢に入れられた後、ずっと様子を窺っていた。隠しておいた鍵で牢屋から抜け出し、装備品を取り戻し、主君であるミカエルと合流する。ハリード、ミカエル、カタリナの三人で玉座の間に向かうことになった。

「クローズデルタという陣形で戦おう。先頭は俺に任せろ」
「トルネードよ、おまえは先陣を切って戦うのが好きなのだな」
「あんたらよりずっと実戦経験豊富なんでな」

玉座の間にはゴドウィン男爵の姿は無く、代わりに悪鬼と呼ばれる魔物がいた。どうも男爵を操っていた黒幕らしいが目的を軽々としゃべる悪鬼ではなかった。

「ぶちかまし!」
「パリイ!」

悪鬼のぶちかましはハリードのパリイで防がれた。

「スネークショット!」
「ウェイクアップ!ムーランルージュ!」

ミカエルは小剣で、カタリナは聖剣マスカレイドで華麗に攻撃する。そんな中、悪鬼に止めを刺したのはハリードであった。

「デミルーン!」
「ハリード…恐るべし…」



ゴドウィン男爵の反乱は見事失敗に終わった。ミカエルは玉座の間でモニカと共に皆を労った。ハリード、シノンの若者達トーマス、ユリアン、エレン、サラ。そしてカタリナ。モニカは一人ひとり丁寧にお礼を言った。






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