ここは極寒の地。聖王の町ランスよりも更に北の雪の町である。ハリード達はオーロラの道に導かれ、この雪の町にやってきた。生き物の雪だるま達が生活する不思議な町。この地には聖王遺物の一つである氷の剣があった。それを手に入れた今、この町に滞在する理由はないのだが、雪だるま達に帰るなら今晩泊まってからにしてくれと、しきりに引き留められたのだ。

「今日はこの雪の町の特別な日なのだ!なんと一晩中オーロラが見れるのだ!せっかくだからみんな見ていくのだ!」

雪だるま達はそわそわしている。一旦この地を去ったら次にここに来る機会があるかどうかわからない。それでハリード達は雪だるま達の勧め通り、今晩オーロラを見てから出発することにしたのである。夜までは特に何もすることがない。ハリード達はそれぞれ思い思いのことをやっていた。
そんな中、ユリアンとエレンはばったりと出会った。二人共、気ままにこの雪の町を散策していたのである。二人は顔を合わせると、少し気まずそうな表情になった。

「あらユリアン、モニカ様のそばにいなくてもいいの?」
「あ、ああ。モニカは今タルトと遊んでるんだ」
「そう…」
「な、なあエレン、久しぶりに二人で話さないか?」

ユリアンとエレンは二人で町の端へ行った。そして座る。

「なんだかシノンにいた頃が懐かしいわね。今となっては、あんたはモニカ様の恋人なのよね」
「い、いや、その…」

ユリアンは頭をかいた。

「違うの?」
「い、いや、そうだよ!モニカは俺の大切な恋人だ!もうお互いの気持ちも確かめ合った。俺はモニカが好きなんだ!誰よりも大切に守りたい!」
「あんたも変わったわねえ」
「そういうエレンはどうなんだ?ハリードが好きなんだろう?」
「なっ…!?そ、そんなんじゃないわよ。私はサラを守りたくて一緒に旅をしているの。ハリードについていくことになったのは成り行きよ。あいつと肩を並べて戦える戦士になるのが私の当面の目標なんだから!」
「じゃあそういうことにしとくよ。エレン、おまえも変わったな」

かつてユリアンはエレンに恋をしていた。それが今ではすっかり状況が変わってしまった。あの嵐の夜にモニカがシノンへやってきてから彼らの運命は変わった。それまではごく普通の日常を送っていただけに、こうして旅をしているのが嘘のようである。ユリアンはお姫様であるモニカと駆け落ちし恋人同士になり、エレンは四魔貴族と戦う旅に加わっている。

「ユリアン、モニカ様をしっかりと守りなさいよ」
「ああ。エレンこそ四魔貴族との戦い、無事に生きて帰って来いよ」
「もちろんよ!私もサラも、仲間全員でちゃんと帰って来るから!」



そして夜がやってきた。空からオーロラが降ってくる。緑白色だけでなく、様々な色の美しい光のカーテン。ゆらゆらと揺れ動いたかと思えば神秘的な光の渦を作り出す。ユリアンとモニカは皆から少し離れたところで二人寄り添い、オーロラを見ていた。少年はサラに話しかける。

「サラ、一緒に見ないかい?」
「え?みんなで見るんじゃないの?」
「そ、そうだけど……隣に座ってもいいかな?」
「うん、いいよ!」

サラと少年も二人寄り添ってオーロラを見る。そうしている間にも光のカーテンは揺らめき続ける。エレンはさり気なくハリードの隣に座った。

「隣、いい?」
「ああ」

ハリードはエレンが隣に来たことを特に気にすることもなく、オーロラを眺めていた。それに対しエレンは少々不満だったが、黙ってハリードの隣にそっと寄り添った。
レオニードは静かにオーロラを眺めている。ウォードは見事な景色に「ひゅー!」と口笛を吹いた。タルトは雪だるまと一緒にはしゃいでいる。

「わあー!綺麗!」
「綺麗なのだ!すごいのだ!」

そんな中、詩人は楽器のフィドルを奏で始めた。美しいオーロラの輝きに合わせて静かで神秘的な曲が深夜の雪の町に響き渡る。それはこれ以上ない幻想的な雰囲気だった。



何時間も続くオーロラの幻想的な世界。その景色をモニカはうっとりと眺めていた。

「ねえユリアン」
「なんだいモニカ」
「私、これからもずっとあなたと一緒にいたいわ。どんなことがあってもあなたと手を携えて生きていきたいの。嬉しく楽しいことも、辛くて苦しいことも、共に分かち合いたいわ」

それは実質上プロポーズされているも同然であった。ユリアンはたじたじとなる。

「モニカ…俺もだよ。これから先どんなことがあってもずっと一緒にいる。俺が君を守ってみせるから」
「ユリアン………」

モニカはしばらくユリアンの胸に寄り添っていた。ユリアンはモニカの肩を抱いている。

「ユリアン…私はあなたを愛しています」
「あ、あい…!!」
「ユリアンも私を愛してくれますか?」

ユリアンは今まで『好きだ』という表現ならためらわずに言うことができた。『好きだ』と『愛している』では言葉の重みが違う。モニカが求めているのは『愛』だ。ユリアンはどきまぎし、真っ赤になったが、やがて覚悟を決めた。

「モニカ、俺も君を愛しているよ」
「ユリアン…!!」

モニカは顔を上げた。そこにはユリアンの顔がある。二人共しばらくの間、見つめ合った。その後どちらからともなく身体を寄せ合う。ユリアンはそっとモニカの顔に手をやり、モニカは静かに目をつぶる。二人の唇が――重なった。
一晩中続くオーロラ。神秘的な光に包まれた幻想的な世界の中で、二人は愛を誓った。



北方地方でのオーロラの出来事は、ハリード達にとって一生忘れられない思い出となった。特にユリアンとモニカにとっては、それが二人の愛を誓った最初の場所になった。



一晩中オーロラを見て徹夜したハリード達は翌日、昼過ぎまで寝ていた。幻想的な風景がまだ頭の中に焼き付いており、ぼうっとしてしまう。ようやく全員身支度を整えたところで永久氷晶を渡した雪だるまがやってくる。

「みんな、お願いなのだ!ボクも一緒に連れて行って欲しいのだ!永久氷晶があればボクら雪だるまでも町の外へ出られるのだ。ボクは外の世界へ出てみたいのだ!」

生き物としてしゃべって動く雪だるまを仲間にして旅をするなんて大丈夫だろうか。ハリード達は顔を見合わせたが雪だるまは必死に懇願してくる。結局、根負けして雪だるまを仲間にすることにした。雪だるまはぴょんぴょん跳ね、喜びを全身で表現していた。その後、他の雪だるま達とお別れを始める。

「それじゃ、みんな行ってくるのだ!外の世界をいっぱい見て、いろんなお土産いっぱい持って帰るのだ!」
「気をつけてなー!おまえが帰って来るのを楽しみにしているぞ!」
「客人の皆さんもお気をつけて!」

たくさんの雪だるま達に見送られながら、ハリード達は雪の町を後にした。





今回は私の完全なオリジナルの話です。ユリアン×モニカで、どうしてもオーロラを二人で眺めるシーンを書きたかったのです。
このオリジナルストーリー上でユリモニを北に向かわせた理由はこれ。
深夜にオーロラを眺めながら愛を誓うってロマンチックでいいなって思って。





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