ここはヤーマス。トーマス、カタリナ、ノーラ、シャール、ミューズ、フルブライトの六人はしばらくこの町に滞在していた。トーマスの目的はドフォーレ商会の悪事を阻止すること。その為にヤーマスへ来て情報収集をしていたのだが、そこでトーマス達が出会ったのは怪傑ロビンという謎の人物だった。悪事を働くドフォーレ商会に立ち向かう怪傑ロビン。どうやら二人おり、一人はスマートな体格、もう一人は小太りのようだ。先日の一騒動があってからも、町の人々は何事も無かったかのように日々の暮らしに戻っていた。

ミューズは朝早く起きるとヤーマスの宿屋から外に出た。病気が全快して以来、外に出られるというのはミューズにとって何よりの喜びである。何せ今まではベッドで寝たきりの時が多かったのだ。朝の空気は新鮮でひんやりとしている。太陽は徐々に高く昇っていき、木々の間から木漏れ日が射し込む。気持ちのよいそよ風が吹き、木々をさわさわと揺らしている。ミューズは近くを散歩しようとした。
その時である。強そうな悪魔系のモンスターが突如として現れ、襲いかかってきた。悲鳴を上げるミューズ。そこへどこからともなく颯爽と現れたのは先日の怪傑ロビンであった。

「お嬢さん、下がっていて下さい!」

ロビンは手にしたレイピアで勇敢に戦う。しかしその悪魔系モンスターはカウンターを使ってきた。敵の攻撃をかわして反撃する強力なカウンター技。物理攻撃に対して有効であり、威力もある。これにより一気に形勢逆転することもあるので油断は禁物である。ロビンはモンスターからそのカウンターを見事に喰らって瀕死の重傷を負ってしまったのだ。

「ハハッ!かかったなロビン!か弱い女性を襲わせれば必ず現れると思ったぜ。これでおまえも終わりだ!」

少し離れた建物の陰にドフォーレ商会の者と思われる人物がいた。勝ち誇ったように高笑いをする。ロビンの怪我はかなりの重症である。頭から血が出ており、意識を失っているようだ。一刻も早く手当てをしなければ死んでしまう。ミューズは助けを呼んだ。

「シャール!シャール!早く来て!」

ミューズが叫ぶと直ちにシャールがやってきた。そして槍を構えモンスターと対峙する。そのうちカタリナやトーマス、ノーラもやってきてモンスターを倒すことに成功した。ドフォーレ商会の者は舌打ちをすると逃げていった。後からフルブライトもやってきて事態を把握する。

「ミューズ様、今後は一人で外出はなさらないで下さい」
「ごめんなさい、シャール。でもまさかこんなことになるなんて…」
「怪傑ロビンを早く手当てしなければ」

トーマス達はロビンを宿屋の部屋に運び、内密に手当てをした。まだ朝早くだったので起きている人々も少数だったのは幸いである。ロビンは頭に怪我をしており、意識不明の重体だ。どうしても頭の覆面を取らないわけにはいかなかった。さて、怪傑ロビンの正体とは一体誰なのだろう。トーマス達は緊張した面持ちで覆面を取った。
覆面の下から現れた顔を見てトーマス達は、あっと驚きの声を上げた。それはパブ『シーホーク』のマスターの息子ライムであった。先日の一騒動でドフォーレ商会の悪事を告発していたのも彼である。見るからに気の弱そうな彼が怪傑ロビンの正体だとは。トーマス達は驚きつつ、しっかりとロビン――ライムの手当てをした。その後、考え込む一同。

「まさかロビンの正体があの気弱そうなライムだったとは…」
「じゃあ先日の一騒動での行動は?」
「最初にライムがドフォーレ商会を告発して、暴行を受け始めた。その後、小太りのロビンが現れた。皆が太ったロビンに注目している間に、どさくさに紛れてライムは姿を消した。それから太ったロビンが捕まって、スマートな体格の方のロビン、つまりこのライムが現れたんだ。まだわからないことがあるが、それは本人に聞けばいいだろう」

ロビンの怪我は絶対安静である。手当てをしたが、この後どうすべきか。ライムはパブ『シーホーク』のマスターの息子である。彼は息子のことを知っているのだろうか。トーマス達はパブに向かった。
パブのマスター、トラックスは落ち着かない様子だった。

「今朝から息子がいないんです。一体どうしたんでしょう。いつまで経っても戻って来ないんです。何かあったんでしょうか?」
「マスター、実はあんたの息子さんを預かっているよ。重傷を負って俺達が手当てしたんだ」
「な、なんですって!?」

トーマス達はトラックスを宿屋の部屋に案内した。そこにはライムが怪傑ロビンの衣装をまとったまま横たえられている。未だ意識は失ったままで、その顔は青ざめている。トーマス達は静かに事情を話した。

「そうですか…皆さんは息子の正体を知ってしまったんですね…」
「その様子だとあなたは息子さんのことを知っていたんですね?」
「はい。偽ロビン、小太りの方のロビンはこの私、トラックスです」

トラックスは心配そうに息子のライムを見やると、トーマス達に向き直り、話し始めた。

「ある日、怪傑ロビンと呼ばれる謎の人物がこのヤーマスに現れました。いけ好かないドフォーレ商会の連中をやっつけてくれるんで内心スカッとしてたんですよ。まさか自分の息子がそんな大それたことをやってのけているとは夢にも思わず――。あれはある冬の寒い日でした。ライムは風邪をひいて寝込んでいたのです。それで私が洗濯でもしてやろうと服を出していると、タンスの奥に怪傑ロビンの衣装が――。そこで知ったのです。ライムがロビンなのだと。私は最初気づかなかったふりをしました。そして自分もロビンの衣装を作ったのです。息子が怪我をした時などは私が代わりにロビンとして活躍しました。
ライムには私の正体はすぐにバレてしまいました。その後、私とライムは久しぶりに親子で腹を割って話し合いました。怪傑ロビンになったきっかけ。ドフォーレ商会の悪事について。そして二人で作戦を考えました。それが先日の一騒動です。まずはライムがドフォーレ商会を告発し、私がロビンとして助けに現れる。乱闘のどさくさに紛れてライムは姿を消し、ロビンの衣装を身に着ける。私が捕まったのは予定外でしたが、あなた方の助太刀もあり、ドフォーレ商会の悪事を暴くことに成功しました。それでもまた今まで通りの日常に戻ってしまいましたけどね」

トーマス達はトラックスの話を黙って聞いていた。二人のロビンの正体は親子だったのだ。まさかパブのマスターとその息子だとは。しばらくすると、ライムが意識を取り戻した。うっすらと目をあける。トラックスはすかさず息子に駆け寄った。

「ライム!大丈夫か?しっかりしろ!」
「…父さん?…僕は一体どうしたんだろう…確か若い女性を助けようとしてモンスターと戦って…」
「そしておまえは重傷を負った。それをこちらのトーマスさん達が手当てして下さったんだ。ライム、私達の正体はこの人達にバレてしまったよ」
「そうか…」

ライムは未だ顔色が悪い。そして正体がバレたことについて意気消沈しているようだった。トーマスは慌てて元気づける。

「ライムさん、大丈夫ですよ。俺達はあなた方の正体は皆に黙っています。その代わり教えてくれませんか?あなたは何故、怪傑ロビンになったのですか?」

ライムはしばらく黙っていたが、やがて話し始めた。

「…僕は小さい頃から気が弱かった。そんな僕は成長していくにつれて、世の中の理不尽な現実を知るようになりました。真面目に働きながら苦しい生活をしている人達がいる一方で、あくどいことをして儲けている人間がいる。こんなことは本来あってはならないと僕は思っていました。弱い者が泣き寝入りする世の中なんておかしい。
そんなある日のことです。あれはハロウィンの時でした。僕は仮装してお祭りを楽しんでいました。あの時の僕は狼男の仮装をしていました。そして偶然、ドフォーレ商会の人間が貧しい人から金品を強奪しているのに出くわしました。その時、僕は思い切って止めに入ったのです。そして驚きました。彼らは狼男の仮装をした僕を見てビビったのです。
このヤーマスの皆は小さい頃から僕のことを知っています。気弱な僕は、皆にナメられていました。それがどうでしょう。狼男の仮装をして顔が隠れていて、僕だとわからないと、相手は僕を見てビビるんです。僕は強気になり、ドフォーレ商会の連中を追い払いました。助けた人達からはお礼を言われました。僕は嬉しかった。それがきっかけでした。その後、僕は怪傑ロビンになったのです」

トーマス達は黙ってライムの話を聞いていた。しばらくすると、カタリナが口を出した。

「ライム、トラックス、あなた達の話はよくわかったわ。でも一つ疑問があるの。先日の戦いぶりを見る限り、あなた達はレイピアの名手。相当の使い手だけれど、その剣術はどこで身に着けたの?怪傑なんて、ヒーローなんてなろうと思っていきなりなれるものじゃないわ。あなた達はパブのマスターとその息子でしょ。武人ではないわね。悪人と戦うだけの強さと剣さばきは一朝一夕で身に着けられるものじゃないわ。一体どこで剣術を習ったの?」

ライムとトラックスはしばらく顔を見合わせた。口を開いたのはトラックスの方である。

「実はヤーマスにはフェンシングクラブがあるんです。私達親子は小さい頃からそのフェンシングクラブへ通っていました。ライムはかなりの腕前なのですが、気が弱い性格が災いして、試合で相手と面と向かうと気後れしてしまうんです。おかげで皆はライムが弱いと思っています。強気になればフェンシングでうちの息子にかなう者などいないんですがね」
「それじゃあトラックス、あなたは?」
「私も小さい頃からそのフェンシングクラブへ通っていましたよ。これでも昔はなかなかいい線いってたんです。私の場合、相手を見て気後れすることはないのですが、本番勝負に弱く、気合の入れ過ぎで空回りしてしまうことが多かったのです。おかげでヤーマスの皆は私達親子がレイピアの達人だとは思っていません」
「そうだったんですか…」

トーマス達はロビン親子の事情を一通り聞いた。そしてこのヤーマスへ来た本来の目的を話す。

「ライムさん、トラックスさん、改めて自己紹介しましょう。僕の名はトーマス=ベント。最近新たに設立したトーマスカンパニーの社長です。そしてこちらはフルブライト商会の当主、フルブライト二十三世。僕達はドフォーレ商会の悪事を阻止する為にこのヤーマスへやってきたんです。あなた方のように怪傑として戦うのではなく、商人としてドフォーレの悪事をやめさせる良い方法を考えています。そしてドフォーレ商会について詳しく調べる為にヤーマスへ来たらあなた方、怪傑ロビンと出会ったというわけです。どうでしょう。僕達と手を組みませんか?共にドフォーレ商会の悪事を封じましょう」
「それは願ってもないことです。しかし一体どうやって?」
「僕に考えがあります。フルブライトさんも協力して下さい」
「もちろん初めからそのつもりだよ、トーマス君。君に案があるというのなら聞こうじゃないか。君のお手並み拝見だ」
「カタリナさん達も協力してくれますか?」
「もちろんよ」

トーマスには何か考えがあるようだ。それは一体何なのか。彼らは果たしてドフォーレ商会の悪事を防ぐことができるのであろうか。





主人公達はロビン達の正体を知っているのかどうか、ゲーム中でははっきりわからない状態ですが、このオリジナル小説ではロビンの正体が主人公達にバレるエピソードを考えてみました。モンスターのカウンターで重傷を負うロビン。実際のゲームでも戦闘で敵のカウンターは油断大敵でしたよね。
そして本物ロビンと偽ロビン、ライムとトラックスがそれぞれ怪傑ロビンになったエピソードも独自に考えてみました。ライムがロビンであることが父のトラックスにバレたきっかけは、やっぱり洗濯かなあと思いました。

書いていて、ロビン親子はどうやって剣術を習ったんだろうと思ったので、ヤーマスにはフェンシングクラブがあるという独自の設定をしてみました。本当にどうやってレイピアの名手になったんでしょうね、彼らは。



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