ここは聖王の町ランス。ハリードは宿屋の食堂で詩人と話をしていた。

「四魔貴族と戦うなら聖王遺物も集めた方がいいんだろうか?」
「そうですね。聖王遺物は、聖王が神より授けられた十三の武具だと言われています。そしてこれらの武具を使って四魔貴族と戦い、アビスの向こうへ追いやったのだそうです。聖王・魔王ゆかりの品々は、七星剣、氷の剣、栄光の杖、マスカレイド、聖王の槍、妖精の弓、聖王のかぶと、銀の手、聖王ブーツ、王家の指輪、聖杯、魔王の斧、魔王の盾、魔王の鎧です」
「今、俺達が持っているのはレオニード城で手に入れた聖杯と、聖王の試練で手に入れた妖精の弓、聖王のかぶと、聖王ブーツ、聖王家の当主からもらった王家の指輪の五つか。他の聖王遺物がどこにあるか知っているか?」
「一番有名なのはマスカレイドです。これは代々ロアーヌ候妃に授けられるものです。聖王の槍はピドナ最大の工房でシンボルとして飾られていたそうです。しかしマスカレイドも聖王の槍も、何者かに奪われてしまったという話ですよ」
「誰か聖王遺物を狙っている奴がいるのか……人間かアビスの手の者か」
「他の聖王遺物の場所は不明です。私の集めていた情報では今のところ手がかりはないですね」

ハリードは聖王遺物の一覧をメモしてしばらく眺めていた。そして聖王遺物の一つに目をとめる。

「氷の剣………氷の剣というからにはやはり寒い場所にあるんだろうか?」
「だとすればこの北方地域のどこかにあるということになりますね」

その時、タルトが息せき切って入ってきた。

「みんな聞いてー!今夜オーロラが出るって!」
「オーロラ?」
「うん!みんな知ってるでしょ?オーロラは主に北の寒い地域で見られるんだ!このランスにいる天文学者のヨハンネスはそういうのに詳しくて、さっきお話を聞きに行ったんだ!そうしたら妹のアンナさんが今夜辺り出そうだって!」
「ヨハンネス…あのアビスゲートについて教えてくれた天文学者か」
「そう!ねえねえ!せっかくこんな北まで来たんだし、みんなでオーロラを見に行こうよ!ねっ!ねっ!」

オーロラを実際に見ることができる機会など滅多にない。それはさぞかし美しく心が洗われるような光景なのだろう。タルトはすっかり楽しみにしてはしゃいでいた。ユリアンパーティーは元々当ての無い旅をしている。せっかくなので見に行くことにした。ハリードはピドナへ向かう予定だったが、サラと少年の方を見た。だいぶ落ち着きを取り戻した二人だが、見るからに何か悩みを抱え込んでいるようだ。オーロラはいつでも見れるものではない。ハリードは出発を後らせ、今日はユリアン達と一緒にオーロラを見に行くことにした。



日が暮れ、夜の帳が降りる頃、オーロラは出現した。光のカーテンがゆらゆらと揺れてたなびいている。それは緑白色だったり、青白かったり、中には紫色をしているものもあった。オーロラ。美しい光のカーテン。我を忘れて見とれていると、それは左右に分かれ、一筋の道を作った。神秘的な光を放つオーロラの道が現れ、ハリード達を導いているように見える。

「これは一体…俺達にこのオーロラの道を進めと言っているのか?」
「わあーっ!綺麗!ねえねえ!この先に行ってみようよ!きっと素敵なものが待ってるに違いないよ!」

タルトは感激していた。目を輝かせてオーロラの道を進もうとする。この先には一体何が待ち構えているのか。ハリードは少し躊躇っていたが、

「よし、行ってみよう」

皆に号令をかけ、リーダーとして先頭に立ち、進んで行った。様々な色に変わりながら揺らめくオーロラの道。どこまでも続くかに思えたその神秘的な光景の先に待っていたのは――


雪だるまだった。


「何だここは?あちこちに雪だるまがあるぞ」

オーロラの道に導かれ、ランスよりかなり北に進んできたハリード達。気温は氷点下。寒さが身に染みる。ここは一体どういう場所なのだろうか。雪だるまが至る所にある。いくつか建物も建っている。ハリード達は建物の中に入って調べてみた。人が暮らしている形跡があるのだが、人の気配が無い。建物の中も雪だるまが所々にある。妙な場所だ。そんな中、サラは雪だるまの一つに触ってみた。すると、その雪だるまはぴょんと跳ねた。

「キャッ!」
「どうしたの、サラ?」とエレン。
「この雪だるま、触ったら動いたわ!」
「まさか、そんな…」

エレンも試しに触ってみると、その雪だるまはまた動いた。驚くエレンとサラ。そばにいたユリアンもやってきて三人でその雪だるまを調べてみる。

「そこを触っちゃダメなのだ」
「わっ!雪だるまが、しゃべった!!」

ユリアン、エレン、サラの声を聞いて他のメンバーも集まってくる。すると、近くの他の雪だるまも動いてしゃべり出した。

「こら、動いちゃダメじゃないか!」
「だって、くすぐったいのだ」
「バレてしまっては仕方がない」

雪だるま達が動いて近づいてくる。ハリード達は思わず構えた。

「雪の町へようこそ!!」



ハリード達は驚いた。なんとここは生き物のようにしゃべって動く雪だるまの町だったのだ。先程の雪だるまは興味津々でハリード達を見た。

「三百年ぶりのお客様なのだ」
「三百年ぶり?」
「そうなのだ。前は聖王様がやってきたのだ」
「何だって?」

現在では聖王を知る者はヴァンパイア伯爵であるレオニードだけと言われていた。それがこんなところにも聖王を知る者がいたとは驚きだ。人跡未踏の地で人間以外の謎の生き物。聖王もかつてオーロラの道を通ってこの雪の町にやってきたのだろうか。

「君達も氷の剣を取りにきたのかね?」
「氷の剣!聖王遺物の一つじゃないか!この近くにあるのか?」
「そうなのだ。氷の剣は氷銀河で長い時をかけて産み出される剣なのだ。どんな炎でも剣を溶かすことは出来ないのだ」
「氷銀河…そこに氷の剣があるんだな?」
「そうなのだ。氷銀河へは暖炉倉庫から行けるのだ。でも氷銀河はとても危険なところなのだ」

ハリードは四魔貴族と戦う為に聖王遺物を集めようとしていた。氷の剣が氷銀河にあると聞き、皆で行こうと持ちかける。ハリードパーティーはもちろんのこと、ユリアンパーティーもこの北の地で冒険をしてみたいようだ。全員で行くことになった。そこへ先程の雪だるまがじっと見つめてくる。

「氷の剣を取りに行くのだろう?羨ましいのだ……連れて行ってくれなのだ」
「おまえ、戦えるのか?」
「もちろんなのだ!それに氷の剣のところまで案内できるのだ!」

こうして謎の雪だるまも仲間に加わることになった。一行は氷銀河へ向かう。



氷銀河。そこは多くの流氷が漂う北の海。海面を覗けばまるで銀河のように氷の破片が散りばめられている。氷点下の寒さで吹雪は凍てつくようだ。ハリード達は滑らないように気をつけて流氷から流氷へ飛び移る。氷銀河の眺めはとても美しいが、凶悪なモンスターが待ち構えていた。

「おい、あれはサイクロプスじゃないか?」
「じゃあハリード達に任せようよ」

ユリアンパーティーはそれほど戦いを経験していないが、ハリードパーティーはこれまで数多くの強敵と戦ってきており、聖王の試練も全て突破している。普通の雑魚敵はユリアンパーティーが、サイクロプスはハリードパーティーが相手をすることにした。
しばらく進むと、氷の髪をもった女性の姿をした精霊が現れた。風花と呼ばれるモンスターである。凍てつく冷気と誘惑で攻撃してくるこのモンスターを倒すと、永久氷晶というアイテムを手に入れた。

「これは永久氷晶なのだー!これはどんな高熱でも溶けない、魔力のこもった氷の結晶なのだー!これができるには氷の剣以上の時間がかかるのだー!」

雪だるまは大喜びでぴょんぴょん跳ねた。

「我々雪だるまはあの町から出てはいけないことになっているのだ。出るには永久氷晶を身に着けないといけないのだ。これさえあれば町から外へ出てもボクら雪だるまの身体が溶けることはないのだ。みんな、お願いなのだー!この永久氷晶をボクに譲って欲しいのだー!ボクもみんなと一緒に外の世界へ出てみたいのだー!」

雪だるまの必死の様子を見て、ハリード達は永久氷晶を譲ることにした。雪だるまは全身で喜びを表し、先頭に立って張り切って氷の剣の元まで案内し始めた。

雪だるまの案内でハリード達は氷銀河の奥まで辿り着いた。そこにはドラゴンルーラーという白い鱗の竜がいた。『ドラゴンルーラー』。竜を統べる者の名の通り、屈指の強さを持つ氷竜の王。凍てつくような冷気のブレスを吐き、爪や角、尻尾や踏みつけなどで攻撃してくる。フリーズバリアをまとう時もあるので油断はできない。戦いの末、倒すとドラゴンルーラーは竜槍スマウグという名前の槍を落とした。
『竜槍スマウグ』。この世で最強の種族ドラゴンの牙から削り取られた刺突部を持つ槍。うっすらと青緑の燐光を放ち、あらゆるものを貫く力を持つ最強の槍である。思わぬ戦利品が手に入った。それはいいが、今のパーティーメンバーに槍使いはいない。ハリード、エレン、サラ、少年、レオニード。ユリアン、モニカ、詩人、タルト、ウォード、そして雪だるま。現在のメンバーを一通り眺めると、ハリードは自分が持っておくことにした。ハリードは剣の次に槍が得意である。

「氷の剣を手に入れたのだ!すごいのだ!!」
「しかし誰が使う…?」
「ウォード、あんたは?」
「え?聖王遺物は四魔貴族と戦う戦士が使うべきだろ。俺は今ちょっと稼ぎたくてあんたらと一緒に行動してるだけだ。世界を救うだなんて、そんな大それたことをする気はねえよ」
「気が変わったらいつでも来いよ。ウォード、おまえなら歓迎だぜ」

ウォードは大剣使いとしてかなり腕が立つ。四魔貴族と戦うなら貴重な戦力になるはずなのだが、本人にはその気が無いらしい。ウォードと気が合うハリードは誘いの言葉だけかけておいた。せっかく手に入れた聖王遺物の一つ、氷の剣。それでは誰が使うべきだろうか。ハリードがしばらく考えあぐねていると、そこへレオニードが進み出た。

「その氷の剣、私に使わせてもらえないか?」
「レオニード、あんたが?」

レオニードは氷の剣を翳した。

「霧氷剣!」

レイピアの名手であるレオニードだが、大剣を使わせてもなかなかのものだった。



オーロラを見に行こうというところから始まった不思議な旅。オーロラの道に導かれ、雪だるまの町という摩訶不思議な場所へ辿り着いた後、ハリード達は聖王遺物の一つ、氷の剣を入手することに成功した。それはアビスと戦おうと決心した者達へ神が指し示した道だったのだろうか――





オーロラ雪だるま氷の剣の一連のイベントのきっかけを自分なりに考えてみました。実際のゲームだと主人公のHPがイベント発生条件なのですが。
竜槍スマウグは一応このオリジナル小説でも手に入れたということにしました。
氷の剣もレオニードに使わせてみました。氷の剣の固有技「霧氷剣」は魔力依存の技なので、実際のゲームでも魔力の高いレオニードに使わせると強いです。



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