昨夜のランス襲撃から一夜明け、人々は改めて被害の状況確認を行った。それとモンスター襲来に備えて町の警備を強化する。そんな中、ハリードはモンスターの目的は一体何だったのだろうかと思った。
宿屋の部屋ではサラと少年が休んでいる。サラは少年と二人だけで話がしたいと言い、ハリードとエレンとレオニードは黙って部屋の外へ出て行った。

「…ごめんなさい。いろんなことが一気に起きて頭が混乱してるの。あなたが宿命の子で、今回の宿命の子は一人ではなく二人で、もう一人の宿命の子は私で、私は捨て子でお父さんお母さんの本当の子じゃないなんて……」
「……………僕も驚いたよ。まさか宿命の子が二人いて、もう一人がサラだなんて……サラ、君とは特別な何かを感じていた。でもそれはこんなことじゃ……」
「……私ね、旅立つ前は内気で引っ込み思案な性格で、いつもお姉ちゃんに守られてばかりだった。でもシノンを出てから、自分の中の何かが変わっていくのを感じていたわ。もう今までの私とは違う。しっかりと自分の考えを持って行動して、自分の目で世界を見て回りたいって思ったの。外の世界では何が待ち受けているかわからないけど、恐れずに足を踏み出そうって。怖くなんかなかったわ。一人じゃなかったもの。お姉ちゃんもいてくれたしハリードも、あなたも、レオニードも一緒だった。ハリードが四魔貴族と戦ってアビスゲートを閉じる使命を受けた時も、このままハリードについていって自分の力でどこまでできるか、やれるところまでやってみたいって思ったわ。今までは臆病な性格だったのに、どうしてここまで強い思いが湧き上がってくるのか、ここまで自分を駆り立てるものが何かはわからなかった。もしこの先、どんな運命が待ち受けていても自分の力で切り開いてみせるって、そう思ってたの。一人で強くなった気でいたのね。でも、まさかこんなことになるなんて……」

内気な少女が恐れずに外の世界に足を踏み出した結果、待ち受けていた運命は宿命の子。そして家族とは血がつながっていないという、、苛酷な真実だった。

「私、捨て子だったんだね……お父さんとお母さんの本当の子じゃなくて、お姉ちゃんの本当の妹じゃないんだね……」
「サラ……」
「養子縁組って、大人になってから実の子じゃないって知って、子供はショックを受けるっていう話、聞いたことあるわ。私もやっぱりショックだった……でも……お姉ちゃんは私のこととても大切に思ってくれる。心配してくれる。私がもう大人だっていくら主張してもあれこれ世話やいてくる。そんなお姉ちゃんだから、私もお姉ちゃんのこと大切にしなきゃ…」

ずっと暗い表情だったサラの顔に少しずつ明るさが戻ってきた。それを見て少年は安心した。だが……

「ねえサラ、僕らが宿命の子だってこと、みんなに話す?」

これを聞いてサラはまだ黙ってしまった。しばらく沈黙が降りる。

「…私が宿命の子だって知ったら、お姉ちゃんはきっと私を安全な場所へ隠そうとすると思う。そしてお姉ちゃんは私を守る為に四魔貴族と戦おうとすると思うわ」
「でも安全な場所なんてどこにも無いよ?このままハリードさんについていって一緒に魔貴族と戦った方がいいと、僕は思うな」
「そうね。でもお姉ちゃんは……ごめんね、お姉ちゃんには黙っていて」
「……うん……じゃあハリードさんには僕達のこと話す?」

二人はまた考えた。もしハリードが彼らが宿命の子だと知ったらどうするだろうか。

「ハリードだったら、私達が宿命の子だと知った上で、今まで通り普通の仲間として一緒に四魔貴族と戦おうって言うと思う」
「そうだね。それじゃあハリードさんには僕達のこと話そうか」
「でも…信じてくれるかな?」

二人の間に再び沈黙が降りた。いきなり宿命の子だと名乗っても、大人達は信じてくれるだろうか。それに誰も宿命の子が二人いるなどということは想定していない。

「アビスの魔物達は、死の宿星を持つものは一目でわかるって言ってたね。だから僕らが宿命の子だってこともわかったみたいだけど、人間達には僕らが宿命の子だっていう証拠が無い……」

元々サラも少年も気が弱い。結局、自分達が宿命の子だということを仲間達に言い出せずに終わってしまった。



「サラ、もう大丈夫なの?」
「うん、心配かけてごめんなさい、お姉ちゃん」

サラはエレンに抱きついた。しがみついてくる妹を見て、エレンはしっかりと抱きしめた。きっと余程怖い思いをしたのだろう。これからはサラとはぐれないよう、目を離さないように気をつけなければと、エレンは思った。

サラと少年が落ち着いたようだとみて、ハリードは安心した。だが、何があったのか詮索するのはよそう。二人が自分から話すまで待とうと思った。そしてエレンとレオニードにもその旨を伝えた。



一方、ここはロアーヌ。ミカエルは臣下からの報告を聞いていた。他の地方の情報を集めることも君主として重要である。聞くところによると、ランスにモンスターの襲来があったそうだ。聖王の町が襲われるとは。やはりアビスゲートが復活したという噂は本当なのだろう。このロアーヌにも、そのようなことが起きないよう、しっかりと城壁の守りを固めなければ。それにやはり、たまにはお忍びで外出し、世界の情勢をこの目で確かめたい。モニカのことも心の片隅に留めてある。いつか旅に出たい思いを抱えながら、ミカエルは今日も施政に明け暮れる。産業政策、戦術研究、武器防具開発、それにマスコンバットの為に傭兵も雇った。そんな中、家臣からリブロフの軍団をおびき出す準備ができたと報告があった。
リブロフの軍団というのは先日ミカエルが行った大演習の時に現れた謎の軍団のことである。正体を突き止めればそれはリブロフの軍団だという。何故ロアーヌの軍事演習に襲いかかってきたのか、真偽のほどを確かめる為にもミカエルはリブロフ軍団をおびき出すことにしたのだ。ミカエルは出陣の用意をした。リブロフへ遠征である。
リブロフ軍をおびき出した場所は沼地。ここでは移動力が落ち、体力も落ちる。沼地の特性を活かして戦う必要がある。沼地での戦いが不利なのは敵軍もわかっている。沼の手前で全軍防御し、こちらが来るのを待っている。ミカエルは情報操作を使うことにした。

「奇策の兵法 情報操作L1 作戦開始!」

情報に踊らされた敵軍は前進し、沼地を渡ってきた。ミカエルはそのまま一気に決着をつける。このまま一気に敵の出城を攻め落とそう。
次の戦いは敵城の城門前である。敵の投石攻撃をかいくぐり、城門を突破するのだ。しかし敵も黙ってはいない。敵将ラザールは投石機を用意していた。

「一号投石機用意! ニ号投石機用意! 三号投石機用意! 敵軍めがけて投石攻撃開始! 一号機発射ァ!」
「前進攻撃!」
「三号機発射ァ!」
「全軍後退!」
「一号機発射ァ!…しないで…二号機発射ァ!」
「弓を射ろ!」

今回の遠征にあたって、ミカエルは傭兵を雇っていた。彼らは弓兵部隊として援軍をしてくれた。

「敵百人に命中!戦況報告!敵投石兵百人投石部隊が全滅しました!」
「投石機作動不能…直ちに兵力を投石機に集結せよっ!!」

敵軍が投石部隊を補充している隙にミカエルは城門を攻撃する。しかし、城門の守りは固い。しばらくすると敵の投石部隊が復活した。作動を開始すると、再び一号機から三号機までのいずれかの投石機で攻撃してくる。ミカエルは投石機の攻撃範囲を見ながら前進と後退を繰り返した。それを見て敵将ラザールが挑発してくる。

「いつまで避けていられるかな?いい加減にあきらめなさい!」

しかしミカエルは根気よく前進後退を繰り返し、自軍の弓兵部隊を活用しながら、隙を見ては城門を攻撃した。それを見て敵将ラザールは舌打ちした。

「え~い!投石部隊!手ぬるいぞ!」
「速攻後退!」

ミカエルが速攻で自軍を後退させた直後、前方を石の雨が降り注いだ。あれに当たれば自軍が壊滅しかねなかっただろう。石の雨を避けられ、敵将ラザールは焦る。

「むむむむ。ちょっとヤバイかもしれんな…」
「ラザール様、今にも門が破られそうです!」
「なな、何と!?力押しで、城門を破るというのか!?」

ミカエルは敵城の城門に近づいては攻撃を続ける。そのうち城門が破られそうになる。

「むむむ。なんたる事だ!!くそ~っ!全軍戦闘用意!城門を開けェェイ!」

敵軍が出てきたところをミカエルは突撃系の兵法で一気に決着をつけた。その結果、敵軍は全滅し、ミカエルは城門突入に成功した。

最後の相手は情報によると影武者を使っているらしい。敵の作戦に引っかかるミカエルではない。先程の城門戦で自軍はかなり消耗している。ここでも早期決着が望ましい。

「奇策の兵法 情報操作L1 作戦開始! ………兵士達は情報に踊らされた!」

敵が情報操作に陥っている間に本物の敵将を倒す。ミカエルは見事リブロフ遠征を成功させ、敵の出城を攻め落とした。

その後、攻め落とした出城の守りを配下の将軍の誰かに任せることになった。候補は三人。バランスのブラッドレー、速攻のコリンズ、突撃のパットン。ミカエルは突撃のパットンに任せることにした。そして防御工事を行い、出城に投石機を設置する。

「ふう…このたびの遠征はなかなか難儀であったな。特に城門を攻め落とすのは苦労した」
「殿、お疲れならば一度お忍びで外出なさってはいかがです?このロアーヌのことは私にお任せ下さい。モニカ姫のことも気にかけられているのでしょう」
「『影』よ、ならば国のことはおまえに任せよう。リブロフの動きには注意を払え。何か国の一大事がある時は直ちに私に報告せよ」
「はっ」

ミカエルは身支度を整え、ロアーヌ城を出た。

「ミカエル様!」
「ハハハ、よく間違われるんだ」

ミカエルの顔を知っている城下町の人々をうまくごまかし、ミカエルはお忍びの旅に出た。まずはミュルスで情報を集めよう。モニカはこのロアーヌにはもういないようだ。ミュルスから船に乗ったのだろう。ピドナへ行ったのか、ツヴァイクへ行ったのか。ツヴァイク公の子息との縁談を断って駆け落ちしたのだからツヴァイクへ行くのは不自然だが…ミカエルはミュルスでしっかりと情報収集することにした。





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