ここは聖王の町ランス。ハリードパーティーとユリアンパーティーは宿屋に泊まっていた。ハリード達の方は準備を整えて次の目的地ピドナへ向かおうとしていた。ユリアン達の方はまだはっきりとした目的地は決まっていない。宿屋の食堂で楽しく団欒した後、彼らは部屋に戻り、皆、寝静まった。事件はその後に起きる。
深夜、轟音と悲鳴が夜の静寂を破る。何事かと人々が起きてみれば、ランスはモンスターの襲撃を受けていた。かなりの数がいる。人々は恐怖に慄き逃げ惑う。民家は破壊され火がついて燃え上がる。町人達はなんとか体制を整え、被害を抑えようとした。

「このランスにモンスターの群れが襲いかかってくるなんて!」
「やはり死食でアビスゲートが開いたからなのか?」
「みんな、聖王家を守れ!聖王様のお墓を守れ!」

ランスの人々は必死になって聖王家と聖王廟を守ろうとした。ハリードパーティーもユリアンパーティーも当然この騒ぎに目を覚まし、外へ飛び出した。そしてモンスター達と応戦する。ハリードとエレンはモンスターを倒しつつ、負傷した人々を運んでいた。レオニードの姿はいつの間にか見当たらなくなっている。そんな中、サラと少年は二人でモンスターの群れと戦っていた。
すると、空中に巨大な黒球が現れた。空間が歪んでいる。そしてサラと少年は空間のひずみに引きずり込まれた。
中からはこの亜空間の主と思われる魔族の声がする。

「とうとう見つけたぞ、二人の宿命の子よ」

サラと少年は一瞬、何を言われたのかわからなかった。

「死の宿星を持つ死食の生き残り、宿命の子。今回は二人いるとはな。これは予想外だった」
「な、何だって!?どういうことだ!」

少年は慌てて声を上げた。

「名も無き少年よ、おまえは宿命の子の一人。何故ならおまえは死の宿星を持ち、宿命の子の特徴を持つ。今までおまえに関わった人間は皆、死んだ。かつての魔王と聖王と同じ、自分と関わったもの全てが死んでいく。魔王は死に魅入られ、聖王は死の息吹に耐えた。死の宿星こそが宿命の子の象徴なのだ」

魔族の説明を聞いてサラは状況を把握してきた。そして少年の方を見る。

「あなたが宿命の子…?」
「うん…今まで黙っててごめん。アビスの魔族達が言うには、関わった人間がみんな死んでしまうのは宿命の子の特徴だって。本当かどうかはわからないけど、そう言われると納得できるんだ。だから今まで僕に関わった人はみんな死んでしまったんだなって…」
「そんな…」

しかし先程の魔族の言葉によると、今回の死食で生き残った宿命の子は二人いるという。一体どういうことなのか。少年は亜空間の主に向かって怒鳴った。

「僕は確かに宿命の子なんだろう。でもサラは違うんじゃないのか?サラは今おまえが言った宿命の子の特徴を持っていない!何故宿命の子は二人いるだなんて言うんだ!」
「この世界の住人と違い、我らアビスの住人は死の宿星を持つ者は一目でわかる。おまえの隣にいるその少女も間違いなく死の宿星を持っているのだ」
「そんなバカな!一体どういうことなんだ…」
「待って、死食が起きたのは今から十五年前。私は十六歳よ」
「おまえは死食の直前に生まれたことになっているそうだな」
「!?違うっていうの?」

サラは怯え出した、少年も青ざめた表情をしている。特殊な亜空間の中、魔族の声だけが鳴り響く。

「このたびの死食が起きる時、星の位置にズレが生じた。そして死食発生と同時にサラ=カーソン、おまえが生まれた。そう、おまえは死食発生と同時に生まれたのだ。星の位置にズレが生じた為、例外的にな。そして今回、本来なら一人だけ生き残るはずの宿命の子が二人いることになったのだ」
「そ、そんな…!!」
「そんなの嘘よ!お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、そんなこと一言も言わなかったわ!」
「おまえの家族は知らないのだよ。何故ならおまえは捨て子だったのだからな」
「!なんですって!?」
「信じられないなら姉に聞いてみるがいい。おまえは死食発生直後に両親が拾ってきた捨て子だとな」
「そんな……」

自分が捨て子だったと聞いてサラは驚愕を隠せなかった。今まで一緒に暮らしてきた家族、父親、母親、そして姉のエレン。彼らとは血がつながっていないというのだ。エレンとは特別に外見が似ているというわけではない。性格に至っては正反対である。実の姉妹ではないと言われても強く否定はできなかった。

「……私はお父さんとお母さんの本当の子じゃない……お姉ちゃんの本当の妹じゃない……」
「でもおかしいじゃないか!関わった人間がみんな死んでしまうのが宿命の子の特徴なんだろう?サラは今までそんなことなかったよね?」
「フン!それは例外的に生まれたからだろう。いずれにせよ、死食の年に生まれたものは通常の宿星の他に死の宿星を合わせ持つ。サラ=カーソン、おまえが死の宿星を持っていることは確かなのだ。人間共にはわからなくとも我らアビスの住人には一目でわかる」
「そ、そんな……」
「宿命の子が二人もいれば世界を破壊することなど造作もないこと。今までの魔王や聖王を上回る圧倒的な力を手にすることができる!おまえ達を手中におさめれば世界は我らアビスのもの!さあ、二人の宿命の子よ、アビスゲートを開け。新たな二人の魔王としてこの世界に君臨し、我ら魔族を受け入れよ。そしてアビスのもの全てを率いて、この世を支配するのだ!死と恐怖に満ちた世界に!」

サラと少年は怯えながら抵抗しようと思ったが、この亜空間の中で一体どうすればいいのか。このままなすすべもなくアビスの魔物に捕らわれてしまうのか。
その時である。真っ暗闇の空間が急に切り裂かれた。

「亜空間斬り!」

見ると空間の外からハリードが剣で斬りつけていた。少年はサラの手を引っ張り、空間の裂け目から外に出た。

「二人共無事か!」
「はいっ!」
「おまえ達を見失ってから慌てて探してな。見れば巨大な亜空間ができているじゃないか。それで空間を切り裂いてみたんだ」

少年は元いた場所を振り返った。空中に浮いていた巨大な亜空間の黒球はハリードの剣によって切り裂かれ、間もなく消滅した。

「モンスター共は引き上げていった。町の被害も最小限に食い止められた。明日にはこの町を発ってピドナへ向かうつもりだったが、とんだトラブルが起きたもんだ。今日の騒ぎが落ち着くまでしばらくここに滞在するぞ。……どうした、二人共?」
「あ、いえ、その……」
「サラ?一体どうしたんだ。さっきから一言もしゃべらないな。あの亜空間の中で何かあったのか?」

ハリードがそう言うとサラと少年はびくりとした。急に怯えた表情になり、二人で身を寄せ合う。

「ハリードさん、その……しばらくこのランスに滞在するんですよね。……その間、しばらく休ませてくれませんか?すみません……」
「別に構わんが…」

ハリードは眉根を寄せたが、詳しく追及するのはやめた。サラが黙ったまま何もしゃべらないのが気になる。暗い表情で俯いたままである。何があったのかは知らないが、まずはこの二人を落ち着かせるのが先だ。
その時エレンがやってきた。心配そうな表情でサラの元に駆けつける。が、サラはエレンが近づくとびくりと後ずさりした。

「サラ!?一体どうしたの?」
「落ち着けエレン、どうやら俺達とはぐれている間に何かあったらしくてな」

サラは怯えて震えていた。ずっと無言のまま地面を見つめている。

「サラ!しっかりしなさい!私がわかる?あんたのお姉ちゃんよ。エレンよ!」
「……………うん………わかってる………」

エレンは少年の方を見たが、少年の方も今しがたの出来事を勝手に話すわけにもいかず、つい目線をそらす。そんな少年の手をサラはぎゅっと握った。どうやら話さないでくれということらしい。それを見てエレンも追及するのはやめ、サラのそばをそっと離れた。何があったのか心配でたまらないが、まずはゆっくり休ませよう。

「とにかく宿に戻るぞ。…レオニードはどこへ行ったんだ?…まあいい、そのうち戻ってくるだろう」

ハリード、エレン、サラ、少年はランスの宿屋へ戻った。四人の影が見えなくなったところでレオニードが姿を現わす。

「ほう、このたびの宿命の子は二人いるのか。これは興味深い」

レオニードは今まで歴史の傍観者として時を過ごしていた。自ら表舞台に出ることはせず、ポドールイで静かに世の中の動きを見ていた。それが今回はどういうわけかハリードとの出会いにより、外の世界に興味をそそられた。たまには自らこの世の行く末を見るのも悪くないと思った。そしてハリードの仲間に加わったのだが、今回の宿命の子は二人おり、旅の仲間のうち二人がその宿命の子であるという事実が非常に興味深かった。宿命の子が二人いると世界はどうなるのか。どのような歴史が刻まれるのか。あの少年少女達は今後どのような選択をするのだろう。魔王の道か、聖王の道か、それともまた別の道を行くのか。二人とも気弱な性格だけに今後どうなっていくのか予想しにくい。これは面白いことになりそうだとレオニードは思った。



それは、宿命の子が明らかになった運命の夜だった。





宿命の子について何故こういう設定にしたのかは長くなるのでこちらで解説しました



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