トーマス、カタリナ、ノーラ、シャール、ミューズの五人はピドナから船に乗り、ウィルミントンへ向かっていた。ミューズは今まで病弱で外の世界をほとんど知らない。船旅は初めてであった。甲板に出てはしゃいでいる。

「まあ!シャール見て!イルカだわ!本物を見るのは初めてね!」

イルカの他にも海鳥や魚などをミューズは嬉しそうに見ていた。快晴の青空も潮風もミューズにとって生まれて初めてのものである。シャールはミューズが海に落ちたり、体調を崩したりしないか心配していた。そのうちミューズは船酔いをし、船室に入って休んだ。そうしているうちに船はウィルミントンへ到着する。

ウィルミントンは静海南岸の町である。この地域は聖王の時代に沿岸都市連合が成立して後、優位な船舶力で海上交易を支配し、大きな利益を上げている、大商業地方である。大商家フルブライト家の本拠地であるこのウィルミントンは聖王以来数百年の歴史を持つ大商業都市で、名門フルブライト家の商売によって潤っている。しかし名門も最近は他の会社に押されて業績は今一つである。長年この地方を支配してきたフルブライト家は、その伝統の保守的体質が災いして発展が無いとの説がある。若き当主の力量によっては他の商人達の勢力範囲にも変化が現れる可能性があり、将来を期待されている。
トーマスはフルブライト二十三世に会いに行った。ガーター半島で取れる『ガーターティー』を出される。お茶を堪能しながら彼らは商売の話をした。

「フルブライト商会以外にも大きな商会はたくさんある。得意な分野もそれぞれだ。それがまっとうな取引なら良いのだが、商会の中には聖王様の禁止した商品をひそかに取引している所もあるのだ。ヤーマスのドフォーレ商会はその一つで、しかも大手だ。このドフォーレ商会を叩いてもらいたい。だがウィルミントンとヤーマスは都市同盟の中心都市だ。フルブライトとドフォーレが表だって争うわけにはいかない。そこで、君に頼みたいのだ。もちろん、バックアップはさせてもらうよ。どうだね?」

トーマスは再びトレードをやってみることにした。今度の目的はドフォーレ商会の悪行をなんとかして封じることである。今のトーマスカンパニーではまだまだドフォーレ商会にはかなわない。まずは今まで通り地道に買収を続け、会社を大きくすることに専念しなければ。

「ところでトーマス、君はこれから世界各地でトレードをする気だろう?私も一緒に行ってもいいかな?もちろん時々このウィルミントンへ帰らせてもらう。ここが私の本拠地だからね。私達は仲間じゃないか。商売の話でもしながら旅を満喫しよう」

こうしてフルブライトが新たに仲間に加わった。
トーマスは複数の町でトレードを続け、順調に事業を拡大していった。総資産二十位までのランキングも上位に上がっていく。ある程度会社が大きくなったところでドフォーレ商会の本拠地であるヤーマスへ行ってみることにした。

ヤーマスでは今、怪傑ロビンの話で持ちきりだった。怪傑ロビンというのはこの町で困っている人々の前に突然、姿を現わしては悪人を懲らしめ、何処へともなく去っていく、覆面をした謎の正義の味方である。町を牛耳って甘い汁を吸い続ける大商人や役人達の悪事は、ここ最近ことごとく怪傑ロビンにより邪魔されている。いつもどこからか颯爽と現れ、悪人を退治し、困っている人を助けては礼も受け取らずに去っていくその姿は、若い娘達に絶大な人気があった。
トーマス達はパブ『シーホーク』に入り、情報収集を始めた。マスターは小太りの男で、この町の名酒『ヤーマスビール』を勧めてきた。マスターの息子だという青年は見るからに気が弱そうだった。トーマス達はヤーマスビールを飲みながらマスターや他の客の話に耳を傾ける。

「怪傑ロビンを知ってますか?いけ好かないドフォーレ商会の連中をやっつけてくれるんです。スカッとしますよ」
「怪傑ロビン、カッコいいな~」
「ドフォーレ商会は金もうけのために相当悪いことまでやってるらしいわよ。ロビン様にやっつけられて、ざまあみろだわ」
「何言ってるんだ。ドフォーレ商会はフルブライト商会やリブロフのラザイエフ商会にも負けない商売上手だ。ドフォーレ商会が無ければヤーマスはやっていけないよ」

ドフォーレ商会は確かに世界一、二を争う商売上手だ。だがその手腕はあくどい商売をして発揮されているのである。しかしこの町の人々が豊かな生活ができるのはドフォーレ商会のおかげである。黒い噂が絶えないが、ドフォーレ商会が無ければヤーマスの町は貧しくなってしまうのだ。人々は自分に火の粉が降りかからなければ豊かな生活ができることを望む。悪いことをやっているらしいという噂には目を瞑り、日々の生活を優先している。そんな中、ドフォーレ商会の悪事に対して立ち上がったのが謎の怪傑ロビンなのであった。
トーマスがここへ来たのはドフォーレ商会について知る為である。怪傑ロビンの噂を聞きながらヤーマスのトレードのエージェントを訪ねることにした。エージェントの家に入ると――

「ドフォーレさんもこんなボロ屋に千オーラムも出そうって言ってるんだぜ。金もらって出てったらどうだ!」
「お金はいいんです。おばあちゃんが寝たきりだから、ここから出ていくわけにはいきません」
「そうかい、じゃあ俺達が婆さんを運んでやるよ」
「やめて下さい!」
「遠慮するなって。ほ~れ!」

トーマス達が止めに入ろうとすると、どこからか覆面をした男が現れた。

「老人をいたぶるとは許せん!」
「チッ、ロビンだ!逃げろ!」
「おばあちゃん、もう大丈夫だ。あんな奴らは二度と近づかせないからな」
「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいのか……」
「君達が幸せならそれで十分だ。さらば!」

そういうと怪傑ロビンは何処へともなく去っていった。

「あれが怪傑ロビンか。おいしいところを持っていかれたな~」
「ちょっとカッコつけ過ぎね」とカタリナ。

トーマスは改めてエージェントに話しかけようとしたが――

「ロビン様……」

エージェントの女性はうっとりした表情でロビンのことを考えている。トーマスはまた出直すことにした。



トーマスカンパニーの社長として秘書からも情報を集める。どうやらドフォーレ商会は麻薬の取引をやっているらしい。そしてそれは海運を介して行われているようなのだ。トーマスは港へ行ってみた。倉庫の一つから声がする。

「大丈夫なのか?この草は麻薬の原料だぜ」
「だから金になるんだろうが。安心しな、誰も見ちゃいねえよ」

トーマス達が取り押さえようとすると、どこからか不敵な笑い声が聞こえてきた。

「ハハハハ 天知る 地知る ロビン知る!麻薬で人々の体と心を蝕みながら、己はぬくぬくと大金を得ようとは、許せん!」
「くそっ!またロビンか!」
「た、助けて、あいつに無理矢理頼まれただけなんだ。あいつがどこの誰かも知らないんだ」
「おまえの船の船主は?」
「ド、ドフォーレ商会だよ」
「やはりか……」

トーマス達は改めて怪傑ロビンは何者だろうと思った。気にかけながらヤーマスに滞在するうちに、広場で騒ぎが起こった。パブ『シーホーク』で働いているマスターの息子ライムがドフォーレ商会を告発し出したのだ。

「み、みんな、き、聞いてくれ!このヤーマスの町は自由の町だ。ドフォーレ商会の町じゃない。それに、やつらは聖王様が禁じた麻薬の取引もやっているし、モンスターとも手を結んでいるんだ!」
「何言ってやがるんだコラ!ふざけやがって!」

ライムはドフォーレ商会の用心棒達に取り押さえられ、殴る蹴るの暴行を受け始めた。見ていた女性の一人が悲鳴を上げる。

「ロビン様、早く来て!ライムが殺されちゃう!」

しかし誰も助けようとしない。

「ロビンは来ないのか?俺達の出番だな!」
「ちょっとトーマス!下手にしゃしゃり出るのは良くないわ。あなたらしくもない」
「カタリナ!すみません。この間から怪傑ロビンにおいしいところばかり持っていかれたからつい……」
「もう、これだから男は……」

トーマスとカタリナがそんな会話をしているうちに、どこからか不敵な笑い声が聞こえてきた。太くて低い声である。

「ハハハハハハ」
「で、出たなロビンめ!」
「キャー、ロビン様~」

怪傑ロビンは女性に投げキッスをすると、ドフォーレ商会の用心棒達と戦い始めた。

「悪人共め、かかってこい!」

トーマス達はロビンの戦いぶりを黙って見ていたが、どうも見た目に違和感がある。今まで見た怪傑ロビンはあんなに小太りだっただろうか。明らかに背丈が違うように見えるのは気のせいなのだろうか。そうしているうちにロビンはドフォーレ商会の用心棒達を全て倒し、何処へともなく去っていこうとした。いつものように――

「みんな勇気を持つのだ。私はいつでも君たちの味方だ! さらば!」

ロビンは身軽な動きで樽に乗った。そのまま去ろうとしたようなのだが、太った身体の重みで樽にハマってしまった。そこをドフォーレ商会の者達に捕まり、取り押さえられた。

「では、ロビンと名のる盗賊を法によって裁く。有罪と認め、火あぶりの刑にする!ではその前に正体を見せてもらおうか」
「ロビン様……」
「どうにもできん……」

その時、どこからか不敵な笑い声が聞こえてきた。先程の小太りのロビンよりも爽やかで高らかな声である。

「ハハハハハハ ハハハハハハ 怪傑ロビンがいる限りこの世に悪は栄えない。お疲れ様、偽ロビンさん!行くぞ!」
「く、くそっ、どうなってるんだ!ロビンが二人も!こうなっては仕方がない!先生方、お願いしますよ!」

強そうな悪魔系のモンスターが二体現れた。ドフォーレ商会はモンスターとも手を結んでいるという、先程のライムの告発は本当だったのである。二人のロビンはレイピアを抜いて戦おうとしている。しかし明らかに分が悪い。トーマスは助太刀に入ることにした。

「今度こそ俺達の出番だな!ミューズ様とフルブライトさんは下がっていて下さい。他のみんな、一緒にロビンを助けよう!」

戦いが不得手なミューズとフルブライトを下がらせ、トーマス、カタリナ、ノーラ、シャールは二人のロビンに助太刀する。ドフォーレ商会が呼び出した悪魔系モンスターはなかなか手強かった。トーマス達が加勢しなければロビン達はやられていただろう。

一騒動の後、ドフォーレ商会は体面を保つのにモンスターと手を済むんでいる事実をもみ消した。モンスターとつながっていたのは下の者達で、商会の上層部は知らなかったとしらを切ったのである。そして先日の騒動でモンスターを手引きした者達に責任をなすりつけた。ドフォーレ商会があくどいことをしている、そんなことは町の人々は皆、薄々知っていたことだった。しかしドフォーレ商会が潰れるのは困る。このヤーマスが豊かなのは彼らのおかげなのだから。こうして人々は何もなかったことにした。また今まで通りの日々が戻った。
ドフォーレ商会と怪傑ロビンのことが気になるトーマス達はヤーマスに滞在を続ける。トーマスは果たしてドフォーレ商会の悪事を防ぐことができるのだろうか。







2回目のトレード、ドフォーレ商会のイベントと怪傑ロビンのイベントを一緒にしてみました。




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