聖王の町ランスに辿り着いたハリード達。途中で合流したユリアン達は四魔貴族と戦う気は無い。ユリアンとモニカの目的はどこか二人で安全に暮らせる場所を探すことであった。ハリードパーティーとユリアンパーティーは一旦別れ、ユリアン達は普通にランスの町を散策することにした。ハリード達は町で情報収集を始める。
ランスにはヨハンネスという天文学者がいた。星の動きやアビスゲートについて調べている。ヨハンネスの父親も天文学者だったが、死食が起きる直前に死食を予言し、人心を惑わしたという罪で火あぶりの刑により処刑された。その後、予言通り死食が発生した。死食の直後にヨハンネスは母親と妹のアンナを連れて故郷を離れ、ランスへ引っ越した。そして父の後を継いで彼もまた天文学者になった。天文学者は星を観測する職業である。ヨハンネスは昼間の明るいうちは寝てばかりで、夜に起きて研究する毎日なのだそうだ。普段はしっかり者の妹のアンナが家を切り盛りし、客の対応をしている。ハリード達はアビスゲートについて詳しく知る為、まずはこのヨハンネス兄弟を訪ねることにした。

ヨハンネス兄弟の家を訪ねると、妹のアンナが出てきた。アビスゲートについて尋ねると兄のヨハンネスがやってきて説明を始めた。

「死食によってアビスゲートが開いたのは事実です。父が死食の前に行なっていた天文の観測と死食後の私の観測をくらべてみると星の位置にズレが生じている。古い書物を調べて見ても、ゲートの力が星の位置をずらすのは確かです。ズレは小さく、ゲートの力はまだまだ弱いようです。しかし、ゲートから流れ込むアビスの力はこの世界に混乱をもたらしています。アビスの魔貴族もゲートを大きくするチャンスをねらっているでしょう。出来るかぎり早くゲートを閉じねばなりません。ゲートは伝説どおりの位置にあります。すなわち、ビューネイのゲートはロアーヌのタフターン山に、アウナスのゲートは南方のジャングルに、フォルネウスのゲートは西太洋に、そしてアラケスのゲートはピドナの魔王殿に。これが私の天文と書物の研究による成果です」

その後、ハリード達はランスに残っている過去の文献を調べた。どうやら宿命の子でなくてもアビスゲートを閉じることはできるらしい。三度目の死食が起きてから十五年。宿命の子は現在十五歳。まだ子供である。一体どんな子供なのか。魔王のようになるのか聖王のようになるのか、それともまた違う存在になるのか、まだわからない。しかし魔貴族達が宿命の子を手中におさめ、魔族の世界にしようとしている以上、できる限り早く宿命の子を見つけ、アビスゲートを閉じなければならない。

「アビスゲートの場所で一番具体的にわかっているのはピドナの魔王殿だな。よし、次の目的地はピドナに決定だ」とハリード。



少年は自分が宿命の子であることを未だハリード達に黙っていた。まだ気持ちの整理がついていない。今まで少年に関わった人間は全て死んでしまった。もうこれ以上、人が死ぬのは見たくない。少年は魔王になる気はなかった。かといって聖王のような偉業を成し遂げる程の器を自分が持っているとは思えない。宿命の子として生まれた以上、今後どんな運命が待ち受けているかわからない。サラとの出会いがきっかけでハリードについていくことになり、そのハリードはこれからアビスゲートを閉じようとしている。少年はこのままハリードと共に四魔貴族と戦う気である。その結果どんな運命が待ち受けていようと、自分の道は自分で切り開いていきたい。それに、サラを守りたい。彼女の優しい笑顔の為なら強くなり、この世界を守りたいと思った。



ハリード達は次に聖王家を訪ねた。聖王はこのランスから出てこの地に帰った。聖王自身に子孫はおらず、彼の姉の子孫が聖王家として町の人々に慕われている。ランスの中で一番大きい建物が聖王家だった。聖王家の現当主はハリード達を歓迎した。

「聖王はアビスゲートが再び開く日に備えて、ゲートを閉じる力を持った者を選ぶ試練を残していきました。それが聖王廟を築いた本当の目的だったのです。死食が起こった日、アビスとの戦いが始まったことを私は知りました。そして、封印されし扉を開いたのです。しかし、未だに聖王の試練を突破した者はいません。新たな宿命の子と共にアビスと戦う戦士達が現れるのを私は待っていました。ハリードさん、あなたがアビスと戦うというのなら、聖王廟の試練に是非挑戦して下さい。もし全ての試練を突破したならば、また私を訪ねて下さい。私から差し上げたいものがあります」

その後、ハリード達は聖王廟へ向かった。聖王の墓。神秘的で侵し難い雰囲気である。中では三つの試練が待ち受けていた。
まずは狩人の試練。弓の腕を試される。サラの出番だった。

「フラッシュアロー!」

サラは狩人の試練を難なく突破。聖王遺物の一つである妖精の弓を手に入れた。

次は王者の試練。二つの道があり、一つは近道、もうひとつは遠回り。どちらの道も同じところへ通じている。この試練では意志力が全てその人物の能力となる。

「ねえ、ハリード、どっちに進むの?」
「近道に決まっているだろう。行くぞ」

近道には強敵が待ち受けていた。レッドドラゴン、サンフラワー、巨人。しかしハリード達はツヴァイクトーナメントやレオニード城地下、術戦車バトルでかなり強くなっている。たいして苦戦もせずに試練を突破。聖王遺物の一つである聖王のかぶとを入手した。

次は辛い試練。生命力を試す戦い、魅力で勝負する戦い、先手を取るか取られるかの戦いを切り抜け、聖王遺物の一つである聖王ブーツを入手した。

「辛い試練という割にはたいしたことなかったな。魅力で勝負の戦いはやりにくかったが」

ハリードパーティーは総じて魅力が高い。レオニードに至っては魅了攻撃は全く通用しない。逆に相手を凝視で魅了してしまうくらいである。こういった精神攻撃が苦手な少年も手に入れたばかりの聖王かぶとを装備することで対処した。そして魅力で勝負する戦いもさっさと敵を倒してしまったのである。

三つの試練全てを突破したハリード達は再び聖王家を訪ねた。

「聖王の試練を全て突破したのですね!あなたこそは世界を救う素質ありと見ました!あなたならば聖王の歩んだ道を辿れるかもしれません。この王家の指輪を差し上げましょう。これは今までランスの聖王家の当主に受け継がれてきた聖王遺物の一つです。四魔貴族の一人、魔戦士公アラケスのアビスゲートはピドナの魔王殿の地下にあります。地下の扉を開くにはこの王家の指輪が必要です。この指輪が扉を開く鍵になっているのです。何とかアビスゲートを閉じて下さい。幸運を!」



「『あなたこそは世界を救う素質ありと見ました!』ですって。ハリード、あんたまるでヒーロー扱いじゃない」
「お姉ちゃん、四魔貴族との戦いに勝ってアビスゲートを閉じたら、ハリードは本当に英雄なるんだよ」
「そうね。全く、ほんのちょっと前までシノンで普通に暮らしていたのに、こんなことになるなんて思ってもみなかったわ」

ハリードは改めて仲間達に向き直った。

「エレン、サラ、少年、レオニード、これからアビスゲートを探し出し、四魔貴族と戦う。おまえ達、覚悟はいいか?」
「もちろんよ!私、腕っぷしには自信があるの。足手まといになんかならないから!」とエレン。
「私の力でどこまでできるか、やれるところまでやってみたいの。できる限りのをことをしてハリードの手助けがしたいわ!」とサラ。
「ハリード、私は聖杯を持つ者であるおまえに従う。たまには自分が運命の担い手になるのも悪くはない」とレオニード。
「少年、おまえは?」
「は、はい!僕も自分の可能性を試したいです。ハリードさんについていって、これからもっともっと強くなりたい。これからの戦いを通じて自分の道は自分で切り開けるようになりたいんです!」と少年。
「よし!それじゃあ準備を整えたら出発だ!まずはピドナへ行く!」

少年はハリードについていく理由をうまく答えられなかったと自分で思った。強くなりたいのは本当だ。ハリードのようにもっと豪胆で決断力に富む人間になりたい。自分が宿命の子として重要な役割を果たせるのかどうかはわからないが、魔王になってアビスの魔物の世界にする気はない。このままハリードについていって共に魔貴族と戦うつもりだった。例えその先にどんな運命が待ち受けていようとも。



「ところでハリード、あんた何でこんな大事引き受けたのよ?」
「ん?」
「レオニードから聖杯をもらう条件がアビスゲートを閉じることだったわね。あの時もどうして引き受けたのか、何も理由を聞いてないわ。一体どうして…」
「まあいいじゃないか」

ハリードははっきりと答えない。そのまま行ってしまった。残されたエレンは不可解な表情をして立っていた。何故ハリードは四魔貴族と戦うことに決めたのだろう。命がけの戦いになるのはあらかじめわかっている。死ぬかもしれないのだ。ただの冒険者ならそうそう引き受けようとは思わない使命である。腕に覚えがあってもそこまで危険をおかして世界の為に戦おうと思うだろうか。ハリードを見ている限り、世界を救う英雄になりたいわけでもなければ名声の為でもなさそうである。かといって単なる腕試しにも見えないが…
しかしハリードは『トルネード』の名で世間に知られている勇猛な戦士である。世間で名を知られるほど強く、聖王の試練も全て突破したとなればアビスと戦う資格はあるのだろう。エレンは黙ってハリードの後についていった。魔貴族と戦うことに決めた理由はこれからの旅で聞き出してやろう。



ハリード達は改めて旅を始めた。旅の目的は四魔貴族と戦い、アビスゲートを閉じることである。そしてどこかにいる宿命の子も探すことである。少年が宿命の子だということはハリード達はまだ知らない。少年はまだ黙っているつもりだった。レオニードはたまたま知っているが、少年が時々怯えながら顔色を窺っても、何事も無かったかのように超然としていた。どうやら口外する気は無いらしい。少年が宿命の子であることは、少年が自分の意志で仲間達に伝えるべきことだろう。



アビスの魔貴族達はゲートを大きくしてこちらの世界にどんどん入って来ようとしている。そして密かに世界中を駆け巡り、宿命の子を探していた。宿命の子を手中におさめ、この世界を魔族の世界にする為に――





実際のゲームのイベント発生条件を調べると、四魔貴族と戦うには必ずランスのヨハンネスに話を聞く必要があるようです。アラケスと戦うにも結局ランスに一度行かなければなりませんし。ヨハンネスのセリフを改めて読むと、アビスゲートの場所が一番具体的なのはアラケスなので、この小説ではアラケスから戦うことにしました。

聖王の試練は本来ならアビスゲートを一度でも見ないとできないイベントなのですが、このオリジナル小説ではもう試練を受けられることにしました。王家の指輪も本来なら魔王殿の奥まで行かなければならないところを省略しました。

ハリードが四魔貴族と戦うことに決めた理由、アビスゲートを閉じることを決めた理由は………ラストバトル・エンディングで明らかになります。



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