ここはロアーヌ。ミカエルはロアーヌの統治に勤しんでいた。やることはいくらでもある。産業政策、戦術研究、武器防具開発。少しでも国を豊かにして発展させていかなければならない。その一方で妹のモニカのことも気にかかる。ミカエルは実はお忍びで外出することが好きである。頃合いを見て国のことはしばらく『影』に任せ、旅に出たい。お忍びで旅に出、モニカの消息を探したい。しかし国の状況は、なかなかミカエルに外出の機会を与えてくれなかった。
そんな時、家臣の一人が一つ提案にやってきた。

「殿、実戦を想定した大演習を行いましょう!」

自国の軍の強化の目的もあり、ミカエルは大演習をやってみることにした。
大演習の内容は、部隊を三つに分けて進軍させ、指定の場所で合流することになっていた。北のルートは重装歩兵が、南のルートは騎兵が、中央のルートは歩兵が進軍する。ミカエルが指揮するのは中央の部隊である。

北へ進んだ重装歩兵はゴブリンと出会った。敵は所詮ゴブリンである。高度な戦術は使って来ない。基本の兵法通りで問題なく勝てた。伝令を飛ばし、予定通り合流地点に向かう。
南へ進んだ騎兵はなんとゾンビと出会った。ゾンビの群れがモラルも無しに進軍してくる。ゾンビ一人ひとりは攻撃力が高いのでまともにぶつかったら勝ち目はない。幸い、無言で前進後退を繰り返すので、相手の動きを注意して見ながら、後ろを向いて後退したところを集中攻撃した。辛うじて勝利すると伝令を飛ばし、予定通り合流地点へ向かう。

そして、合流地点では正体不明の敵が待ち構えていた。どこの軍なのかわからない。単純な戦法しか使って来なかったのでミカエルは難なく勝利した。騎兵の話では途中で出会ったゾンビの群れの方が余程手強かったそうだ。演習が無事終わると、ミカエルは『影』に敵の正体を探らせた。『影』というのはミカエルの影武者のことである。顔立ちがミカエルに似ており、尚且つ臣下としても優秀な能力を持つ。ミカエルはお忍びで外出する時はいつも影に国を任せている。そして今回のように調査を依頼する時もあった。しばらくして影はミカエルに報告にやってきた。

「演習に現れた敵の正体が判明しました。リブロフの軍団であります」
「では、背後にルートヴィッヒありか……」
「いえ、ルートヴィッヒ殿とは無関係と思われます」
「リブロフ軍団の独断か?そうとも思えぬな。探りを入れてみるか……行け!」

どうやらミカエルの施政とマスコンバットの日々は当分続きそうである。



一方、ハリード達はユーステルムからランスへ向かっていた。寒い雪道が続く。途中、食事休憩を取ることにした彼らは料理の準備を始めた。
モニカは今まで城で生活していたので旅は不慣れである。料理を手伝いたくてもうまくできない。ハリード達と合流するまでの間も自分よりユリアンの方が余程てきぱきとやってしまうのだ。そして今はエレンとサラがもっと手際よく料理をしている。特にサラは料理が趣味なのだそうだ。モニカは手伝おうとしたが断られてしまい、意気消沈してしまった。タルトなどは始めから手伝う気など毛頭なく、ご飯が出来上がるのを楽しみに待っていた。

「モニカ、何落ち込んでんの?モニカはお姫様だったんだから料理できなくて当たり前じゃん」
「でもユリアンだってできるのに……タルトはできるのですか?」
「私は昔からお手伝いさんが作ってくれてたからさ、ぜ~んぜんやったことないよ~」

その時、近くにいたユリアンが口を出した。

「へえ~、タルトの家はお金持ちなんだな~」
「えっ!?そ、そんなことないよ!べ、別に普通のお家だもん!」

タルトは慌てた。そして席を離れてしまった。どうやら深く詮索されたくないらしい。その後、料理ができないことで落ち込むモニカをユリアンは優しくなだめていた。しかしモニカは今のままでいるつもりはなかった。ユリアンに手料理を作ってやれるようになりたい。

「あの、ユリアン」
「何だい?」
「ユリアンはどんな食べ物が好きですか?」
「好きな食べ物か。……そうだなあ……俺はボイルドエッグと温野菜が好きだよ」



そして――

「モニカ、何してんの?」
「タルト、ユリアンはボイルドエッグと温野菜が好きなのだそうです。何とかして作れないかしら…」
「ボイルドエッグって要するにゆで卵でしょ。簡単じゃん。鍋に水入れて卵入れてゆでるだけだよ」

モニカはタルトに言われた通りにし、ゆで卵を作り始めた。

ぐつぐつぐつ………………

「ね、ねえタルト、どれぐらい待てばいいのかしら?」
「さあ、そんなの適当でいいんじゃない?」

モニカは鍋から卵を取り出した。そしてユリアンに持っていく。

「あの、ユリアン、私、ボイルドエッグを作ったの」
「おっ!たくさんあるな。ありがとう、モニカ!」

しかし卵の殻を割ってみるとまだ半熟だった。どうやらゆで時間が足りなかったらしい。しかしそんなことにこだわらずユリアンは喜んで食べていた。



その後――

「サラ様、お願いがあるのですが」
「モ、モニカ様!私のことはサラでいいよ!」
「そ、それではサラ、お願いです、どうか私に料理を教えて頂けないでしょうか?」

サラは料理が趣味である。このメンバーの中では一番上手い。モニカは一生懸命になって頼んだ。サラは戸惑いながらも包丁の使い方などを教えていった。

「あ!そうじゃないよ、モニカ様!そんな持ち方じゃ怪我しちゃう!」

サラは今まで引っ込み思案で、幼い頃からいつも姉のエレンやシノンの仲間達の後ろについて歩いていた。目上の人にものを教えるなどということは初めてで、どうしたらいいのか非常に困っていた。サラが途方に暮れているとエレンがやってきた。

「あら?二人共、何してるの?」
「お姉ちゃん!」
「サラ様に料理を教わっているところなのです。エレン様」
「モニカ様…私やサラに『様』はつけなくていいわよ」
「お姉ちゃん、助けて。私、うまく教えられなくて…」

サラとモニカにエレンも加わって三人で料理を始めた。そのうちタルトもやってくる。

「お菓子作りなら私もやるよ!味見なら任せてね!」

その頃、男性陣は女達のやり取りを遠巻きに見ていた。

「モニカ様も健気だねえ。さて、今夜はどんなご馳走が出るかな?」とハリード。

一方、男性陣の方では少年がハリードに剣の稽古をつけてもらっていた。少年にとってハリードのような強い男性は憧れの存在だった。自分もあのようになりたい。強くなってサラを守りたい。こちらはこちらで好きな少女の為に健気にがんばる少年の姿があった。それを見ていてウォードも肩ならしをしたくなった。彼は元々豪放磊落で好戦的な性格である。

「よーユリアン、俺達もやらねえか?おまえはこれからお姫様を守っていかなきゃならないんだ。剣の腕は磨いておくべきだぜ」
「そ、そうだな」

ハリードと少年、ウォードとユリアンはそれぞれ剣の稽古を始めた。残りのレオニードと詩人はというと、優雅に世間話に花を咲かせていた。

「レオニード伯爵、あなたのような上流階級の人と詩を語り合えて光栄ですよ」
「あなたも詩人なだけあって風情がわかる御方だ」



その夜は賑やかな晩餐になった。モニカはサラやエレンに助けてもらいながら初めて料理を作った。男達は素直に食べてお代わりを注文した。
サラはみんなで料理するのも楽しいと思った。そして大勢で和気藹々と食事をするのも楽しい。

「みんな、好きな食べ物があったら言ってね!私、作ってあげるから!」
「ご機嫌だな、サラ」
「うん!ねえ、ハリードは何が好きなの?」
「俺はトマトが好物だ」
「それじゃ今度トマト料理たくさん作ったげるね!」

サラは今度は少年の方を向いた。

「ねえ、どんな食べ物が好き?」
「あ、僕は…えっと………サラが作ったものなら何でも食べるよ」
「本当?ありがとう!」

サラは満面の笑みを返した。少年は真っ赤になっている。それを見たタルトはまたにやにや笑っている。

「ねえねえ、エレン、サラって鈍いんじゃな~い?」

タルトにそう言われたエレンは黙って苦笑した。



一行は賑やかに旅を続けた。もうじき目的地のランスである。




ミカエルのマスコンバット以外は番外編的な話です。

モニカはユリアンと駆け落ちした後、自分でも料理ができるようになろうとするのではないかと思って考えた独自のエピソードです。
練磨の書によるとサラは料理が趣味なのだそうです。
タチアナはなんとなくラザイエフ家にはお手伝いさんがいて、料理をしたことがないのではないかと想像しました。
練磨の書によるとユリアンの好きな食べ物はボイルドエッグと温野菜なのだそうです。
ボイルドエッグ(ゆで卵)は料理として失敗するなら、完熟にするつもりが半熟だった、くらいしかないですね。

たまたまハリードパーティーとユリアンパーティーが一緒にいるので、このメンバーで話を考えてみました。
練磨の書によるとハリードはトマトが好きなのだそうです。
次回はとうとうランス到着です。


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