ハリード達はユーステルムに着いた。ここは狩猟を生業としている北海沿岸の町である、雪に覆われ、寒さで身体が冷え込む。町の人から情報収集した後、ハリード達は酒場に入った。すると――

「ユリアン!」
「エレン!どうしてここに?」
「それはこっちのセリフよ。あんたモニカ様と一緒に何でこんなところにいるのよ?」

ハリード達はユリアンとモニカに事情を聞いた。ツヴァイク公の息子との縁談から逃げて、今は旅をしながらモニカが安心して暮らせるような場所がないか探しているらしい。逆にユリアン達からもどうしてここにいるのか聞かれた。ハリードはランスへ向かって旅をしていること、それと聖杯を手に入れた経緯、四魔貴族と戦ってアビスゲートを閉じようとしていることを話した。

「ハリード、そんなすごいことをやろうとしてるのか」
「ああ。ユリアン、モニカ様をしっかり守ってやれよ」
「あ、ああ。ところで………どうしてヴァンパイア伯爵様が一緒にいるんです?」

ユリアンとモニカは気まずそうにレオニードを見た。レオニードはミカエルとも親交がある。自分達のことを知らせたりしないだろうか。

「私もたまには外の世界を旅してみようと思いましてな。お二人の邪魔はしませんよ、モニカ姫」
「伯爵…どうかお兄様には内密に…」

ハリード達はしばらく話をした。お互いのこれまでの冒険のこと、新たな仲間が加わった経緯。一通り話すと、詩人が歌を歌い始めた。

「知ってますか?初代ロアーヌ侯フェルディナントと妻のヒルダはこの町の出身なんですよ」
「まあ、本当ですの?」
「はい、モニカ。古来からロアーヌにはこんな歌が伝わっています。お聞かせしましょう」


聖王三傑の一、猛々しきフェルディナント、メッサーナの王位を望まず、ヨルド海を押し渡る、あれ果てたミュルスの村に、足跡を記し、魔物満ちたる森を抜け、古ロアーヌの廃虚へと、たどり着く、勇者の後には道が出来る、フェルディナントの後に、続々と押し寄せる人の群れ、ロアーヌの都はよみがえり、ミュルスの村は港となった、ついにフェルディナントは、ロアーヌ侯の位を得、予言どおりに国を立てた


詩人が歌を歌い終わると、酒場にいた人々が喝采した。

「ロアーヌ建国歌か。いいねえ。そういえばウォードの家系もフェルディナントの子孫だぜ。ロアーヌ候とは遠縁になるんだとよ。親交は無いらしいがな」
「ウォード?」
「このユーステルム一の戦士だ。とにかく強いぜ。そろそろ狩りの時期だ。狩猟場に出没するモンスター達を一掃する為に仲間を募ってるぜ」

ミカエルとモニカの遠縁にあたる人物がいるということで、一行はウォードという男に会いに行った。ウォードは大柄で、美男美女で知られるミカエルとモニカとはだいぶ容貌が違った。

「よー、あんたら一仕事する気はねえか?」
「いくら出す?」
「チェッ、いきなり金の話か。オレが金があるように見えるか?」

真っ先に金の話をしたハリードをエレンはぽかりと殴りつけ、慌てて取り繕った。

「ご、ごめんなさい。どんなお仕事なのかしら?」
「もうすぐ狩りの時期だ。その前にモンスター共を追い払っておきたいんだ。奴らがいると獲物は減るわ、襲われるわで大変だからな。報酬なら金になる毛皮がある。それにモンスター共が少しは貯めこんでるはずだ」
「引き受けよう」
「それじゃあ氷湖まで行くぜ。そこがモンスター共の巣だ」

ハリード達はウォードと共に氷湖へモンスター討伐に向かった。ウォードの剣の腕はかなりのものであった。大剣を手に次々とモンスター達を斬り倒していく。そんな中、モニカはウォードに話しかけた。

「へえ~、あんたが遠縁のロアーヌ候女か。でも安心しな。あんたの兄貴にゃ何も言わないよ。俺には関係の無い話だし、せっかくお姫様の身分を捨てて逃げ出したんだ、自由に生きるといいさ」
「ありがとうございます、ウォード様」
「ウォード様なんてやめてくれよ。呼び捨てでいいって」

奥には氷湖の主がいた。しかし今のハリード達の相手ではなかった。さほど苦戦することもなく撃破する。

「ありがとよ、うまくいったぜ。これが毛皮だ。結構いい値で売れるはずだ。ところであんた達旅をしているんだろう?少し稼ぎたいんだ。一緒に連れてってくれ」

こうしてウォードも旅の仲間に加わることになった。



仕事の後の酒は格別に美味い。ハリード達は酒場で飲んでいた。サラと少年とタルトは未成年なのでジュースなどのノンアルコールを飲んでいる。タルトはサラと少年を交互に見、それから質問した。

「二人って付き合ってるの?」
「えっ?」
「恋人同士?」

これを聞いて少年は取り乱した。

「な、ななななな、何を言ってるんだ!ぼ、僕達はそんなんじゃ…」
「わかりやすいリアクションどうも」

少年は真っ赤になって黙りこくってしまった。サラはきょとんとしている。それを見てタルトはにやにや笑っていた。鈍感なサラはタルトに別の質問をする。

「ねえ、タルトはどうして旅に出たの?」
「ん~、私はね、冒険に憧れてるの。強くてカッコいい冒険者と一緒に大冒険をするのが夢なの」
「へえ~、それがユリアンなんだ」
「うん!でもハリードの方が強そうだね。私もハリードについて行っちゃおうかな」
「でもそうなると四魔貴族と戦うことになるよ。命がけの戦いになるから覚悟を決めておかないと」
「そっか~。じゃあやっぱりユリアンにしとこっかな」



その頃、ユリアンとモニカは酒場のテラスで二人きりになっていた。中からは喧噪が聞こえる。夜のユーステルムは冷え込むが、空を見上げれば眩いばかりの星空が広がっていた。

「あの、ユリアン」
「何だい?モニカ」

タルトに指摘されて以来、二人はなるべく敬語にならないように言葉使いに気をつけていた。しかしモニカの方は元々丁寧な言葉使いしか知らない為、なかなか普通の娘達と同じようにはいかなかった。モニカはしばらく言いよどんだ後、思い切ってユリアンに尋ねた。

「エレン様とはどういう関係なのですか?」
「え…」
「二人共シノンの出身ですし、お互い気心の知れた仲であることはわかっています。でも、ただの仲間ではないのでしょう?ユリアンのエレン様を見る目つきは、女性に対する憧れを感じます」

モニカの心中で何か穏やかならぬものが蠢いていた。これは嫉妬なのだろうか。ユリアンの方は参ったというように頭をかいていた。

「モニカ、聞いてくれ。俺はね、小さい頃、死食で妹を亡くしたんだ。妹が生まれることはとても楽しみにしていて、だから死んでしまったことは子供心にショックでね。それからの俺はふさぎ込むことが多かった。それから親と一緒にシノンに引っ越すことになった。そこでエレンに出会ったんだ。エレンはとても明るくてエネルギッシュな女の子だった。太陽みたいに明るくて元気いっぱいで。そんなエレンに俺は惹かれた。生命の鼓動を大事にしようと思うようになった。初恋だったんだな。もっともデートに誘っても全然相手にしてもらえなかったけどね」
「そうだったのですか……………今ではどうなのです?ユリアンは今でもエレン様のことを………」

ユリアンは真面目な顔をしてモニカをじっと見つめた。モニカもユリアンに正面から向き合う。

「俺は………モニカが好きだ」

ユリアンはモニカを力強く抱きしめた。

「今では、俺にとってモニカは誰よりも大切で、守ってやりたい存在なんだ。ずっと君のそばにいる。ずっと一緒にいる。どんなことがあっても絶対に守ってみせる!」
「ユリアン…!!私、私もユリアンが好きです。ずっと、あなたと一緒にいたい!」
「モニカ………」

月夜の光がうっすらと射し込み、満天の星空の下、二人はしっかりと抱き合った。



ユリアンとモニカが酒場に戻ると、ハリードとウォードが二人で盛り上がっていた。二人は気が合うらしい。その傍らで詩人は歌を歌っている。酔って気分が高揚しているハリードは詩人に近づいた。

「あんたの歌もなかなかのもんだが、俺にはかなわないだろう。俺の歌はプロ並みなんだぜ」
「ほう?それではハリードさんの歌を是非聴いてみたいものですな」

ハリードは皆の注目を集めると、一人歌い出した。遠い砂漠のゲッシア朝の歌。エレン達が聞いたことがない曲調である。ハリードの歌は、本人が豪語するだけあって本当にうまかった。ユリアンやエレン達だけでなく、酒場にいた他の人々も思わず聞き惚れてしまった。詩人顔負けである。歌が終わると一斉に拍手喝采を浴びた。

「お客さん、本当にうまいねえ。こんな寒い地域だけど思わず砂漠の風景を思い浮かべちまったよ」
「いやはや、ハリードさん、あなたがこんなに歌がうまい人だとは思いもよりませんでしたよ。私も詩人をやるからにはもっと歌唱力を上げないと」
「俺は剣だけじゃなく、歌も得意なんだ。覚えとけ」

その日は皆で夜遅くまで酒場で飲んだ。そして宿屋に泊まる。夜が明けたら旅の再開である。次の目的地はとうとう聖王の町ランスである。




「練磨の書」によるとハリードはプロ並みに歌が上手いそうです。なので歌を歌うシーンを入れてみました。
ハリードパーティーとユリアンパーティーはしばらく共に行動します。


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