ロイはマナの神殿に到着した。

ロイ「ダイムの塔の壁画によれば、ジェマとしてふさわしいかどうかはマナの神殿で試されるそうだけど…」
(もうすぐっすよ、旦那。あともう少しでジュリアスに追いつき、マリアちゃんとも再会できます)
ロイ「そうだな…気を引き締めてかかろう」

マナの神殿には今まで見たことのあるモンスターもいたが、他にも手ごわい敵が多かった。しばらく進むと巨大なドラゴンが待ち受けている。
強固な鱗は攻撃を受け付けない。ロイは慎重に頭部を狙って攻撃した。


かなり苦戦したが、ロイはドラゴンを倒すことに成功した。


先は長かった。神殿内でワープしながらも長い道のりを進んでいくと、またもやトラップに遭遇した。ブロックで囲まれた向こうに魔方陣に乗ったミノタウロスがいるが、凍らせるには一筋縄ではいかない。ロイはブリザドの魔法を唱え、うまく氷柱を操作してミノタウロスを雪ダルマにすることに成功する。そうして先へ進むと、今度はレッドドラゴンが待ち受けていた。今度も攻撃は頭部しかほとんど効かない。大きな巨体に当たって大ダメージを受けながらも、炎の息を盾で防ぎながら一気に攻撃してから距離を置き、ヒット&アウェイの戦法で撃破した。


ロイ「本当に長いな…途中で迷いそうになるし…どこまで進んだらジュリアスの元へ追いつくことができるだろう…?」
(旦那!回復の泉がありますよ!ここで一休憩していきましょう。無暗に焦ってもいけませんからね)

マナの神殿の回復の泉は、他の世界各地にあるどの泉よりも澄んだ水だった。心が洗われ、一気に体力が回復する。とても特別な、神聖な水を飲んだ気分だ。


その後しばらく進むとまたスイッチがある。

ロイ「またか…」
(どのスイッチが本物ですかねえ…)

ロイはブリザドで敵を凍らせると、一生懸命部屋の端にあるスイッチの上に1つひとつ運んでいった。何度かやりなおすとやっと突破口が開けた。そして奥に進むと、今度はドラゴンゾンビが待ち構えていた。今までのドラゴンより攻撃力は高かったが、ロイはMAX攻撃をうまく使って見事勝利した。


ロイ「はあ…はあ…ドラゴン3体に魔方陣とスイッチの謎かけか…だいぶ心身共に疲れたよ」
(でもどうやらこの神殿も終わりのようですぜ。見て下せえ、旦那!あれはマナの聖域ですぜ!)
ロイ「マナの…聖域…!?」

どうやら神聖なマナの樹に刻々と近づいているようだ。辺りの雰囲気も侵しがたいものとなってきている。足を踏み入れがたいほどの神聖さに包まれた聖域に、女性が1人、立ってこちらを見つめていた。それは、いつかウェンデルの儀式で見たマリアの母親だった。

マリアの母「よくここまで来れましたね。あなたはジェマにふさわしい戦いをしてきました。エクスカリバーを与えましょう。そしてジュリアスの野望を打ち砕くのです!」

すると、錆びた聖剣がエクスカリバーになった!そしてマリアの母の姿は消えた。

ロイ「……やった!エクスカリバーを手に入れたぞ!僕はジェマの騎士として認められたんだ」
(旦那、おめでとうございます!さあ、道のりはあと少しです。いざ、ジュリアスの元へ!)


マナの樹の元へ辿り着くと、そこにはジュリアスとマリアがいた。

ロイ「マリア!」
マリア「……………」

マリアは何か意志を強く押さえつけられているような感じがした。

ジュリアス「遅かったなロイ。マナの力は既に私が手に入れた。マリアは私の洗礼を受け、ジュリアスバンドールの妃となったのだ!地上の民は私の力に屈服し、ネオバンドール帝国の支配が新しく始まるのだ!」
ロイ「ええっ!何だって!?お前とマリアが結婚!!??」

ジュリアスは勝ち誇ったような表情で言葉を続けた。

ジュリアス「そうだ。我々はお前を殺した後、今宵新婚初夜を迎えるのだ。ハハハハハ!そしてマリアは正式に私の妃に――グアッ!!!!!



エクスカリバーのMAX攻撃!!!!!



ジュリアス第1形態を倒した。


ロイ「…ハッ!僕は今何をしたんだ?」
(ジュリアスとマリアちゃんが結婚するって聞いてキレたんですよ)
ロイ「…そ、そうだった!」
ジュリアス「――くっ、貴様、せっかく3体分身して戦おうとしたのに隙を許さずMAX攻撃とは…なかなかやるな…」
ロイ「ジュリアス、何故だ!何故マリアを!?」

ジュリアス「黙れっ!宿敵の恋人を奪うのは悪役のサガだっ!!!!!

ロイ「……………」

ジュリアス「ロイ…マナの本当の力を思い知れ!そして絶望と怒りの中で……死ねッ!」

するとジュリアスは、巨大な禍々しい姿になってロイに襲いかかってきた。巨体で攻撃がよけづらく、バトルエリアは狭く、戦いにくい。ロイはジュリアスの雷攻撃、巨体を生かした体当たり、飛び蹴りを必死にかわし、エクスカリバーを振るった。とにかくこんな奴にマリアを渡すわけにはいかない。先程は無意識にジュリアスに大ダメージを与えたらしいが、今度こそ止めを刺す。これで全てを終わらせマリアを魔の手から解放しようと、ロイは戦った。

ロイ「これで、終わりだ!マリアをお前なんかにわ・た・す・も・の・かーーーーー!!!!!」

ロイはMAX攻撃を6回、剣を構えて突進した。

ジュリアス「ぐぼォォォォ……」

ジュリアス第2形態を倒した。


ロイは再びマナの樹の元へ向かった。そこには術から解放されたマリアの姿があった。

マリア「ロイ」
ロイ「気づいたか、マリア。ジュリアスは倒した。さあ、帰ろう」
ジュリアス「そうはさせん!」

ロイとマリアの背後から、先程よりさらに禍々しい姿のジュリアスが現れた。最早全身の肉体はほとんどなくなり、残るは顔と2つの手だけだった。

ジュリアス「ロイ!貴様だけは生かして帰さん」
ロイ「ジュリアス…よし!いいだろう!これが最後の決戦だ!」
マリア「ロイ、私も一緒に戦うわ!ジュリアス、マナの一族としてあなたの野望を阻止します!」

ジュリアスは頻繁に姿を消し、完全に神出鬼没だった。故に攻撃を受けることも多く、今までの中で最も攻撃力、耐久力も共に高く、手強かった。大ダメージを受け、みるみるHPが減っていく。そんなロイをマリアは必死に回復魔法で援助した。ジュリアスはその悪に染まった手からフレアを放ち、ロイの命を断とうとしてくる。それは、最早あの世まで道連れにする為だけの憎悪、執念に満ちていた。ロイは回復はマリアに任せ、それでも間に合わない時は自らケアルで回復し、隙を見てはジュリアスに剣を構えて突進する。

――そう、マナの一族であるマリアはジェマの騎士の助けを得て、マナが悪用されるのを防がなければならない。また、ジェマの騎士として認められたロイは唯一のジェマであり、また、世界の希望である。ロイとマリア、2人で力を合わせてマナを悪用しようとするジュリアスを倒すのだ。――それが、彼らに与えられた使命。


戦闘は長いこと続いた。ダイムの塔からずっと、ほとんど休みなしできたロイと、ずっと操りの術をかけられ強制的に意志を押さえ込まれ、出来うる限りの抵抗を試みていたマリア。2人ともかなり体力は消耗している。だが、ここで負けるわけにはいかない。彼らには全世界の平和がかかっているのだ。


2人の体力も限界が近づき、もう駄目かとも思った頃、ロイは今までで最大のパワーを限界まで溜め、剣を構えジュリアスに向かって突進し、渾身の一撃を加えた。ジュリアスはすさまじい断末魔の叫びを上げ、その身はぼろぼろと崩れていった。とうとうジュリアスを倒した!ロイ達は勝ったのだ。しかし――

ジュリアスはマナのパワーを吸収し、巨大な力を手に入れていた。ジュリアスを倒すと、その力の源となっていたマナの樹まで消滅してしまったのだ!


マナの樹が失われてしまった…

ロイ「マナの樹が…」
マリア「私、どうしていいか…わからない…どうしていいか…」

すると、どこからともなく声が聞こえる。

マリア…マリア、しっかりしなさい

ロイ「……?」
マリア「その声は…お母さん?」
マリアの母「マリア、気を落としてはいけません…あなたはマナの樹を守る使命を果たせませんでした。でも心配ありません。新しい樹を育てればよいのです」
マリア「新しい樹?」
母「あなたはマナの種であると言ったのを覚えてますか?種からは芽が出て花が咲き、そして樹になります……そう、あなた自身がマナの樹になるのです。昔バンドールが悪事をはたらいた時、私もマナの樹を守りきれませんでした…私はマナの樹を再生させるためにこの地に眠ったのです」
マリア「では今までここにあったマナの樹は?」
母「私です…私がこの大地に根を下ろし…世界の平和を見守ってきたのです。さあ次はあなたの番です。あなたがマナの樹となり世界の平和を。取り戻すのです。でもマナの一族としての使命を押しつけることはしません…あなたの自由なのです……マリア」

マリアはロイの方を向いた。ロイもマリアの方を向き、2人は見つめ合う。
ロイはマリアに樹になって欲しくはなかった。平和になった世界でマリアと共に人生を歩んで行きたかった。しかし…マナの樹は…
そしてマリアもまた、ロイと別れたくなかった。この世で最も愛しい人と共にいたかった。

2人は見つめ合った。その瞬間だけまるで無限の時が過ぎたような気がした。

マリアはロイへの愛とマナの一族としての使命との葛藤に悩まされた。一族の使命など捨ててロイとの愛に走りたかった。1人の女としての人生を歩みたかった。しかし…その時、マリアの頭の中にマナの記憶がよみがえってきた。

マリア「…ロイ…今、私にマナの記憶が全てよみがえってきました。私が一族最後の生き残り…最後のマナの樹なのです…これを枯らすようなことがあればその時は世界の終わり…」
ロイ「マリア…!」

ロイはマリアを引きとめたい気持ちでいっぱいだったが、それを表に出すことができないでいた。何故ならマナの樹あっての平和なのだから…
マリアはまるで身を引き裂かれるような思いで苦痛な気持ちを必死に抑え、ロイに言った。

マリア「さあロイ、早く外へ!ここはもうじき土の中へ沈みます…」

ロイ「…マリア…」

マリアは、苦渋に満ちた表情をしながらも、まるで全てを悟ったような雰囲気を湛えながらロイに言った。

マリア「心配しないで…姿こそ変え私はずっとここで生き続けるのですから…」

しかし、どこかマリアの表情は寂しげだった。1人の男性の妻としてではなく、全世界を見守る母としての存在が、自らに与えられた役割なのだ。それは、ロイへの愛情でいっぱいのマリアには言葉に尽くせない程苦痛なことだった。マリアの母もそれは痛いほどよくわかっていた。だからこそマリアに選択の余地を与えたのだ。しかし、マナの一族の使命は重く…

母「ロイさん、あなたは聖剣を持つジェマの騎士です…二度とこの樹が悪に染まらぬよう見守っていただけますか?」
ロイ「わかりました…」
母「そしてもうひとつ…私がまだ人間の姿をしていた頃、私を愛してくれたジェマの騎士がいました。ボガードという方です。下界で会ったらよろしくお伝え下さい。さあ、早くお行きなさい」
ロイ「マリア…」
マリア「ロイ……」

2人はもう1度見つめ合った。

2人は愛し合っていた。

口に出さずとも、お互い、心の中で激しい熱情があった。

それはお互い見つめ合った時、2人だけにわかる愛情だった。

抱き合うことも、手をつなぐことすらしなくとも、2人の気持ちはこの上なく無垢で清らかな、それでいて激しい愛情だった。

たとえ男女の交わりはなくとも、2人の間だけに存在する、他の誰にも侵すことのできない神秘的な、神聖な領域があった。

しかし、2人は世界の平和の為にその身を犠牲にした。2人の愛よりも世界の平和を選んだのである。

マリア「ロイ、いつも私の心はあなたと共にあるわ」
ロイ「僕もだ、マリア。君のことは決して忘れない」

『愛している』と言いたかった。ロイもマリアも。しかし、それを言うことは叶わなかった。2人は人間の男女としては結ばれない運命にあるのだから。

マリア「さようなら…ロイ」
ロイ「さようなら…」


マナの聖域を去る時、ロイはもう一度呟いた。

ロイ「さようなら……マリア……」





ロイは下界に帰ってからチョコボに乗り、様々な人達に会いに行った。


イシュの町でボガードとサラ、ボンボヤジに。3人はロイの帰還を祝ってくれた。マリアやマリアの母のことは、ボガードは黙って聞いて、敢えて何も言わなかったが、心の中では自分と同じ運命を辿ったロイに同情した。


ワッツは相変わらず廃坑で探検をしている。


ウェンデルではシーバが賢者として人々を導いている。

ジャドの町ではレスターが竪琴を演奏し続けている。

レスター「やあ、ロイ。とうとう帰って来たんだね。愛する人には会えた?」
ロイ「ああ。だけど一緒にはいられないんだ。でも、いいんだ。僕はジェマの騎士として一生彼女を守り続ける。もう会えないけれど、いつも彼女は僕の心の中にいる。僕と彼女の心は結ばれているんだ。ずっと」


メノス北の森を通りがかると、チョコボは勝手に好きな方向へ走りだした。

ロイ「うわっ、急にどうしたんだ?チョコボ?」

チョコボが向かった先には、雌のチョコボがいた。

ロイ「なんだ、お前、いつの間に相手なんか見つけたんだ?僕が奇岩山へ行く時に置き去りにした後か?」

つがいになった2匹のチョコボは嬉しそうに戯れている。ロイはそれを見て、少し寂しそうにほほ笑んだ。

ロイ「そうか…短い付き合いだったけど、お前には随分助けられたぞ。2人で幸せにな」

ロイは2匹のチョコボの幸せを願いながらチョコボに別れを告げ、その場を去った。


ロイ「とうとう1人になっちゃったな…」
(旦那ー。まだあっしが残ってますぜ)
ロイ「あ!お前まだいたのか!」
(旦那に別れも告げずに成仏できませんって)
ロイ「マナの樹の危機が去った今、もう僕の守護霊をする必要もないだろう?」
(その通りでやす。短い間でしたが楽しかったでやす!そろそろお迎えが来ているんで旦那ともお別れっすね)
ロイ「そうか…思えばあっという間だったな…あの世でウィリーやアマンダによろしくな…」
(旦那、元気出して下せえ!旦那は1人じゃないっすよ!今まで出会った仲間達がいるじゃないすか!)
ロイ「ああ…そうだな…」
(あっしもお別れするのは辛いですけど、でももう時間がないっす。これでお別れです、旦那!どうかお達者で!)

するとロイの頭の中から何かの気配が消えた気がした。謎の守護霊はもう役目を終え、去ったのだ。




マナの一族とジェマの騎士。一族最後の生き残りである乙女はマナの樹となり世界を見守る。そしてジェマの騎士として認められた青年はマナの樹が邪悪に染まらぬよう、見守り続ける。彼らはお互い愛し合う男女であった。人間として結ばれることはなかったが、この世に存在する誰よりも愛し合う恋人同士であった。それは、この世のどんな夫婦、恋人よりも清らかに、美しい、一点の染みもない汚れなき愛。しかし人間としては決して結ばれることのない、切ない愛。お互い相手は心の中にのみ存在し続ける。その純粋な心を胸中に秘め、2人とも自分達の愛より世界平和を優先した。

そして今日も2人は世界を暖かく見守り続ける。乙女はマナの樹として。青年はジェマの騎士として。





The End



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