ロイは、イシュの町でチョコボを預け、入念に準備をしてからダイムの塔へと向かった。出発前に言われたボガードの言葉を思い出す。

ボガード「最後の決戦じゃな。生きて戻ってこいよ」

ロイ(ああ…戻ってくるさ!マリアも連れて、全てを終わらせて…)


ダイムの塔に入ると奇妙なロボットが近づいてくる。

ロボット「ワタシ遺跡探索ロボット、マミーシーカー。みんなはマーシーって呼んデル。私の主人、ボンボヤジ。私、置いてけぼり。彼、ワスレてるね。50年待ったよ。壁画解読お手のモノ。道、案内するよ」
ロイ「そ、そうか。よろしく、マーシー」

ロイはマミーシーカー、通称マーシーと行動を共にすることになった。

マーシー「MPが減ったらワタシ、アナタのマリョクを回復させることができるよ」
ロイ「えっ本当か?やったー魔法使いたい放題だー!」

ロイは遺跡を徘徊しているモンスター達に手当たり次第にファイアを使いまくった。


だが――

……

…………

………………

(旦那、武器使った方が早いんじゃないすか?)
ロイ「うん…やっぱり僕には直接攻撃の方が向いてるみたい…」

気を取り直してロイは遺跡の探索を続ける。その間に幾つかの壁画を発見した。

ロイ「何て書いてあるんだろう?マーシー、解読してくれ」
マーシー「マナの樹はウチュウのパワーをキュウシュウし育つ」
ロイ「宇宙のパワーか…なんだか深遠だなあ」

マーシー「その為、人々のココロが腐り始めればマナの樹も邪悪にソマル…」
ロイ「昔の戦いのことを言ってるのか?」

マーシー「ジャアクに染まったマナの樹のネからは濁った水がワキでて滝に流れる。濁った水を飲んだ人間はさらに心が腐る。悪循環を引き起こす」
ロイ「…かつてマナの力を手に入れたバンドール帝国は暴力で世界を支配しようとしたというけれど…バンドールも、グランスもその悪循環が原因だったんだ…どちらも滝に近いからな。世界で1番影響を受けたんだろう」

マーシー「マナの樹に触れた者はその巨大な力を得ることができる」
ロイ「……」

マーシー「永遠の力を手に入れたバンドール王が唯一オソレるもの…それはエクスカリバーを持ったジェマの騎士」
ロイ「エクスカリバー?」

マーシー「錆びた剣を持つ者がジェマとしてフサワシイかどうかはマナの神殿で試される」
ロイ「そうか…だから聖剣はまだ錆びたままなのか…果たして僕はジェマとしてふさわしい人間だろうか…?」
(旦那なら大丈夫ですよ!今までもあらゆる苦難を乗り越えてきたでしょう)
ロイ「そうだな…」

ロイはまだ自信がなかった。未だ頭の中で迷いがある。それでもボガードに、チョコボに、ボンボヤジに、その他あらゆる人々にジェマとしての希望を託されているのは事実である。また、マリアも助け出さなければならない。いずれにしろ、前に進むしかなかった。


ロイ「ふう…この塔もだいぶ昇ってきて少し疲れたな。日も暮れてきたし」
マーシー「こちらに宿の設備がアリマス。今晩はここで泊っていってクダサイ」

ダイムの塔4階には昔の宿の設備が残っていた。ここで食事をしたり睡眠をとったりしていたのだろう。炊事の設備に円卓と椅子、ベッドがいくつかあった。

マーシー「ソレデハまず、お掃除を致します」

マーシーは掃除機を取り出し、ウィーン、ウィーンと機械音を鳴らせながらてきぱきと部屋の掃除をする。

ロイ「マーシー、お前、遺跡探索ロボットなんだろ?掃除機能も付いてるのか?」
マーシー「ハイ。他にも様々な機能アルヨ」


掃除が終わるとマーシーは炊事を始めた。

マーシー「これからカレーライスを作るのでそちらのテーブルで待っててクダサイ」
ロイ「お料理機能もあるのか…それじゃあお言葉に甘えて――って、味、大丈夫かな?」
マーシー「カレーは得意デス」
ロイ「そ、そっか。まさかこんなところでロボットが作った料理を食べることになるとはなあ」

ロイは最後の決戦を前にして思わぬところで安らぎを得た。円卓の周りに並べられている椅子の1つに腰掛け、ゆったりとくつろぎ、料理ができるのを待つ。いつかマリアと共に、そんな日々を送ってみたいと思った――全てを終わらせたら――


マーシーの作ったカレーは予想以上に美味しかった。ロイは一旦精神の緊張もほぐれ、空腹も満たされ、いい気持ちの中、眠気に誘われていった。傍らではマーシーが皿を洗っている。このロボットは皿洗い機能までついているのかと、改めてボンボヤジに感心した。


マーシー「そろそろネマスカ?」
ロイ「そうだな。ちょうど眠くなってきたし」
マーシー「明日は何時に起こせばイイデスカ?」
ロイ「自分で起きれるよ」
マーシー「ワタシ、目覚まし機能もツイテル。何時でも好きな時間に起こせるヨ」
ロイ「え、ええと…じゃあ5時」
マーシー「了解しました。ではオヤスミナサイ」

そういうとマーシーの機械音が止まった。目のランプも消え、どうやら節電モードに入ったようである。

ロイ「…ボンボヤジってすごいな…」

そしてロイも床に就いた。





――翌朝。

マーシー「ジリリリリー。ジリリリリー。朝ですヨー」
ロイ「う〜ん…ああ、もう5時か」
(旦那、何でこんなに早起きしたんですかい?もう少し寝ていてもよさそうなのに)
ロイ「早起きして剣の訓練をしたかったんだ。それに一刻も早くマリアの元へ行きたいしな」
マーシー「それではワタシは朝ごはんを作ってオキマス」


ロイの剣の訓練が終わるころには、パンとサラダ、卵焼きができていた。ロイがそれを食べ終わると、再び装備を整え、塔の探索を始めた。


上の階に上がると、不自然に植えられた木にミノタウロスが閉じ込められている。その下にはまたもや魔方陣が。

ロイ「やれやれまたか…」

ロイは斧で木を切り倒し、ブリザドでミノタウロスを雪ダルマにした。


ロイ「ん…?まだ壁画があるぞ。何て書いてあるんだろう?」
マーシー「我がバンドール帝国ももうすぐホロビルだろう…しかしその高度なブンメイを持った種族を絶やしてはならない。我々は後のフッカツを望み、最後のキボウを滝壺の洞窟に隠す。我が子孫とバンドールに栄光アレ…」
ロイ「ちょっと待てよ。それはどこかで聞いたことがあるような気がするぞ」
(旦那、ボガードさんと一緒に飛空挺へ潜入した時のことを覚えてますかい?)

ロイは当時の記憶を頭の中で探った。

ロイ「確か飛空挺の船員の1人が言っていた…子供だったジュリアスはグランスの滝壺の裏の洞窟に捨てられていたって。それにシャドウナイトと決着をつけた後も、『私はかつてマナの力を手に入れたバンドールの子孫』だって」
マーシー「ということはこの壁画に書いてあるバンドール最後のキボウとはそのジュリアスという人物なのデスネ」
ロイ「そういうことになるな…でも、奴の思い通りにはさせない。必ず僕がマリアと世界を救って見せる!」
(旦那!とうとう決心しやしたか!)
ロイ「ああ。一晩眠っていろいろ考えたけどもうこれ以上迷わない。ジュリアスを倒すぞ!よし!先へ進もう!」


頂上ではガルーダが待ち構えていた。ロイは剣のMAX攻撃で、マーシーは自らに搭載されたビームで攻撃した。


ガルーダを倒すと、塔が激しく揺れ出す。

マーシー「塔のバランスがまた崩れ出した。急がないと生き埋めになる。ピー」
ロイ「もう塔が埋まりかけてここからは出れない!橋の方へ行こう!」

ロイとマーシーは塔とグランス城をつなぐ橋へ向かったが、橋は一部崩壊してしまった。

ロイ「畜生!」
マーシー「わたし、あなたナゲル。その後ワタシ飛び移る」
ロイ「できるのか?やってくれ」

マーシーはロイをグランス城の方へ向かって投げた。ロイは無事着地すると、マーシーにも飛び移るように促す。

ロイ「さあ飛び移れ!」

しかしマーシーは動かない。目の光はどこか悲しそうな光を湛えている。

一瞬、時が止まった。

マーシー「あなた唯一のジェマ。世界のキボウ」
ロイ「何を言ってるんだ。早く」
マーシー「私ジャンプ機能ナシ。それ承知の上。遺跡探索ロボット…イセキの中にネムル。これ、ホンモウ…」

それだけ言うと、マーシーは塔と共に沈んでいった…

ロイ「マーシー!


沈んでいった塔から、かすかに声が聞こえた気がした。

マーシー「またいつか…アエるよ……」


ロイ「…マー…シー…」

ロイはしばらく放心状態だった。ほんのわずかな間ではあったが、行動を共にし、宿の設備では、最後の決戦を前に久々の安らぎを与えてくれたロボット。戦闘でもダンジョン探索でも頼りになり、生活面でも豊かな機能を持ったマーシーに、チョコボとは別の形で癒されていたのだと感じる。
あまりに短い、あまりにもあっけない別れ方だった。
ジャンプ機能がなかったが為に、遺跡探索ロボットマミーシーカーは遺跡の中に眠る。またいつか会えるとロイに言い残して。
ロイの頬を涙が一筋流れた。人間ではない、ロボットではあっても、あまりにも親しみやすかった。

今まで多くの人々がロイの目の前でこの世を去った。

ウィリー、ハシム、アマンダ、そして、最後に探索ロボットマミーシーカーことマーシー。

ロイは哀しみの中、マリアを助け、世界に平和を取り戻すという揺るぎない決心を固め、グランスの滝へ向かった。
滝は以前ジュリアスに操られたマリアがペンダントの封印をといてからマナの神殿に向かって逆流している。

もう、後戻りはできない。

ロイは最後の決戦に向かった。





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