ここは水の神殿の近くにあるニキータの店。彼は世界を又にかける旅の商人だが、自家はここにある。商売をしながら世界中を駆け巡り、たまにこうして家へ帰って商品の整理をしたり、しばらく身体を休めたりする。もちろんただの家ではなく、家でも商売を行っており、宿屋まで経営している。彼のがめつさは世界中の評判だった。
いつものように商品を並べて店を開いていると、ランディがやってきた。

ニキータ「ランディさん、お久しぶりですニャ。ニキータの店へようこそナゴ。儲かってるかニャ?」
ランディ「最近はお金を稼いだりはしてないよ」
ニキータ「それでも以前冒険をしていた時の貯えがまだあるでしょう?私の目はごまかせニャいですよ?」
ランディ「相変わらずだなあ」

ニキータ「ところで今回はどのようなものをご入用で?掘り出しもニョもありますナゴ。にゃひひひ!」
ランディ「女の子が欲しがるような、綺麗なアクセサリ、ないかな?」
ニキータ「おやおやランディさんもすみにおけませんニェえ。ほら髪飾りに宝石のついた指輪、ブレスレット、イヤリング。何でもありですニャ」
ランディ「そうだな………このネックレスをもらおうか」
ニキータ「おっ、ランディさんお目が高いですニャ。それはこの間ドワーフの洞窟で発見された貴重な宝石を、見つけたドワーフが精魂込めて作ったものですニャ!」
ランディ「そうなのか…買えるかな?」
ニキータ「ニャにを仰います!私とランディさんの仲じゃないですか。特別にお安くしておきますよ。にゃひひひ!」
ランディ「とかなんとか言って定価の倍の値段で売る癖に」

ランディはネックレスを買うと、店を出た。





ランディにとってプリムはかけがえのない大切な仲間である。長い冒険の道中、共に戦い、苦楽を共にした仲である。もう1人の大切な仲間ポポイはマナが無くなって消えてしまった。今のランディにとって本当に心の底から分かち合える仲間はプリムだけである。
世界に平和が戻った後、ランディはポトス村に戻り、聖剣は元あった場所に戻した。以前は排他的だった村人達も、ランディが世界を救ったことでモンスターがいなくなり、村に平和を取り戻し、聖剣を元に戻したことによって聖剣が村を守ってくれるという伝説も復活し、村人達はランディの存在を徐々に認め始めた。以前ランディをいじめていたボブとネスはランディと目が合うときまずそうにそそくさと立ち去ってしまう。

プリムが傷心に浸りながらも強く生き続けようとしていた一方で、ランディもまた、今後の身の振り方を考えていた。
ランディはもう戦いは嫌だった。それもあり聖剣を手放した。もう世界は平和になったのだ。自分の役目は終わったのだ。後はこの村でひっそりと静かに暮らしていこう。そう思っていた。

だが、この間、偶然プリムが泣いているところを見つけてしまった。表向きは強気な彼女が悲嘆にくれているところを見てしまったのだ。あれ以来ランディはどこか落ち着かなかった。ディラックを失ったプリムの悲しみ、虚しさ、喪失感。プリムには今、新たに精神的に支えになってくれる存在が必要なのだと感じた。プリムは大切な仲間だ。放っておくわけにはいかない。
プリムの父エルマンは相変わらず貴族の息子とプリム結婚させようとしているようだ。誰でもいい。プリムを幸せにしてくれるのなら。彼女が誰と結婚しようと自分はずっとプリムの側についていようとランディは思った。





「プリムお嬢様、ランディ様が訪ねていらっしゃいました」
プリム「ランディが?」

プリムは思わずドキッとした。彼女はあれ以来悶々とした日々を送っている。頭に思い浮かぶのはランディの雄々しい戦いぶりと、先日会った時の優しい大人びた表情だった。

召使い「今日はプリムお嬢様のお誕生日ですから、お祝いにいらしたのでは?」
プリム「…!!すぐ行くわ!」

プリムが部屋を出ていくと、父のエルマンがランディと会話をしている。

エルマン「それではウチの娘に対して下心はないと申すのだな?」
ランディ「僕はただ大切な仲間としてプリムの側にいたいだけです」
エルマン「それは確かだろうな?ワシは今度こそ貴族の息子とプリムを結婚させようと思っておる。それを邪魔するようなことはないのだな?」
ランディ「ええ。僕も仲間としてプリムの幸せを願っています」
エルマン「よろしい。では君も娘の誕生パーティーに参加することを許そう」

プリム「…パパったら!それにランディも!」

プリムは憤りを感じた。相変わらず貴族の息子との縁談を薦めてくる父に対しても。あくまでも自分を仲間だと言い張るランディにも。
それにしても本当にランディは変わった。父の高圧的な物言いにも全くたじろぐことなく穏やかに応じている。他人の顔色をうかがってびくびくしていた頃とは大違いだ。とにかくプリムはパーティー会場の広間へ進んだ。
広間ではプリムの親戚縁者、親友のパメラなどが来ていた。だがプリムの眼中にあるのはランディのみである。周りの者達を避け、まっすぐランディの元へ進む。

ランディ「あっプリム。誕生日おめでとう!」
プリム「ランディ!来てくれたのね!」
ランディ「もちろんさ!ほら、プレゼントも持って来たんだよ」

ランディから渡されたのは美しいダイヤの装飾が施されたネックレスだった。

プリム「…綺麗!こんなものどこでみつけたの?」
ランディ「ニキータが売ってたんだよ。たまたま手に入れたんだって」
プリム「でも、高かったでしょう?いくらしたの?」

プリムは思わず値段を尋ねてしまったが、ランディはただ微笑むだけだった。

プリムはさっそくネックレスを付けてみた。今日は彼女の誕生日なのでプリムはドレスを着ている。露出した首元にそれはよく照り映えた。

プリム「…ありがとう、ランディ。とっても嬉しいわ」
ランディ「僕もプリムが喜んでくれて嬉しいよ」

しかし心の中では先程の父とランディの会話がわだかまっている。

プリム「ランディ」
ランディ「何?」
プリム「誕生パーティーが終わったら、あなたと2人で話がしたいんだけど」
ランディ「うん。いいよ」

果たしてランディは自分のことをどう思っているのだろうか?大切な仲間だというだけで高そうなアクセサリなどプレゼントしてくれるだろうか?
プリムの誕生パーティーの間、ランディは泰然自若としていた。服装も質素ななりにパーティーへ参加してもおかしくないような出で立ちだ。何よりそのたち振る舞いは、落ち着いて、決して柔和な表情を崩さず、礼儀をわきまえた態度で、誰もが好感が持てた。

一方プリムの方は内心落ち着かなかった。ランディからもらったネックレスが似合っていると多くの人々から褒められ、嬉しくてたまらない。何せランディからもらったのだから。
この心躍るような気持ちは、ディラックとつきあっていた頃を思い出す。ディラックは花をくれたが、まさかランディはネックレスとは。逆なら十分納得できたのに。
早く誕生パーティーが終わって欲しい。そしてランディと話がしたい。

プリムの心中はランディのことでいっぱいだった。





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