ランディはルサ・ルカにあてがわれた部屋で1人考え事をしていた。もちろんプリムのことだ。

ランディ(今のプリムにとって1番幸せなのは僕と駆け落ちすることか……………僕はディラックさんのようにプリムを愛せるだろうか?本当にプリムにふさわしい男だろうか?)

ランディはディラックとはほとんど面識がない。魔女討伐に向かうのを偶然目撃したくらいである。後はずっと魔女エリニースの魔法で飛ばされたり、タナトスに連れ去られるところしか見ていない。

ランディにとって最も印象的だったのは帝国古代寺院での出来事である。意識を操られたディラックがプリムを生贄に捧げようとしたのだ。あの時はランディの中で何かが爆発した。いくら操られているとはいえ愛する人もわからないディラックが許せなかった。普段のプリムのディラックへの想いを知っているだけにランディは激しい怒りの感情を抑えることができなかった。思えばプリムに対して特別な感情を抱き始めたのはあの時からかもしれない。
最後にディラックに出会ったのはマナの要塞の最深部だった。彼は最後の力をふりしぼり、タナトスの正体を暴き、そして散っていった。


ディラック「ランディ君といったね……プリムを頼んだよ…」


あの時の言葉が忘れられない。ディラックの最後の言葉はずっとランディの心の中に引っかかったままだった。

ランディ「ディラックさん…僕はプリムを愛しています。彼女も僕を愛しているというのなら、それに全力で応えてあげたいと思います。そう、どんなことでも犠牲にして。エルマンさんとの約束を破ってでも…!」

ランディは神獣との戦いを終えてから少しずつ変わりつつある。気弱な少年からしっかりした意志を持つ大人の青年へと成長しつつあるのだ。
プリムから話を聞き、告白された時からランディは覚悟を決めていた。プリムとの駆け落ち。プリムを幸せにする為なら何でもする覚悟だった。





翌朝、プリムは目を覚ました。まだ顔が火照(ほて)っている。身支度を整えて部屋を出、ルサ・ルカの元に行った。

ルサ・ルカ「お早うプリム。昨晩はよく眠れたか?」

途端にプリムは顔が真っ赤になってしまった。

ルサ・ルカ「これから幸せになろうという娘は皆同じじゃのう」
プリム「えっ?」
ルサ・ルカ「ランディは昨夜遅くこっそりとポトス村へ帰った。駆け落ちする為に荷造りをしに行ったのじゃ」
プリム「…私たちが駆け落ちすること、ルカ様に言ったのね」
ルサ・ルカ「別に私に隠すことはなかろう?」
プリム「そ…そうだけど…」

プリムは赤面した顔をどうにかしたかったがおさまらない。


プリムー!!


プリム「ランディ!」
ランディ「僕も荷物をまとめてきたよ。今すぐにでも出発できる」
ルサ・ルカ「そう慌てるでない。朝食ぐらいとっていったらどうじゃ?」
ランディ「すみません、ルカ様」

ランディはしっかりした、愛する女性の精神的な支えになり、引っ張っていってくれるような、成熟した男性になりつつあった。昨夜のこともあり、プリムは心の動揺を抑えられなかった。自分は肝が据わっている方だと思っていたのに…なんだか成長したランディに先導されてばかりである。

プリム(私の方が年上なのに…)

なんだか自分でも何を考えているのかわからなくなってきた。頭の中がゴチャゴチャになりながらプリムはランディと共に朝食をとった。



ランディ「食事もしたし、準備も整ったし、………さあ、行こうか、プリム」

ランディはプリムに手を差し伸べた。

プリム「ランディ…!」

プリムは、はにかみながら手を取った。



神殿の外へ出、風の太鼓でフラミーを呼ぼうとしたその時――

「ランディさん、駆け落ちするんですって?それじゃここはワシ、大砲屋ブロス様の出番だね。ぐふふふ」
ランディ「え――?」

現れたのはポトス村のすぐ近くにいる大砲屋のブロスだった。親切にも大砲で好きな場所へ飛ばしてやろうというのである。
そこでランディ、プリム、ルサ・ルカの3人はあることを考え、しばらく硬直した。



大 砲 で 駆 け 落 ち … ?



ランディ「あ、えーと、ブロスさん、お気持ちは大変嬉しいのですが、僕達にはフラミーがいますので」
ブロス「おう、そうかね。じゃあおふたりの幸せを祝って特別に大砲花火といきやすか。ぐふふふ」
ランディ「えっ!そんな目立つことされたら――」
ニキータ「ランディさーん!」
ランディ「あっ!ニキータまで!」

ニキータ「ブロスさんから聞きましたニャ。駆け落ちするんだそうで。これは結婚祝いの紅白まんじゅうですニャ」
ランディ「あ…どうも…」
ニキータ「どこかに落ち着いたら連絡下さいニャ。これからも商売に行きますから。にゃひひひ!」
ワッツ「ランディ!プリム!駆け落ちするんだって?」
ランディ「なんでこんなに僕達のことが広まってるんだ?」

ワッツ「なんでってエルマンさんがプリムはランディ君のところへ行ったに違いない、連れ戻せーって大騒ぎさ。んでポトス村に行けばランディはプリムを連れてったというからエルマンさんは必死で2人を探しているんだよ」
ランディ「急いでここから離れないと捕まってしまうよ」
ワッツ「その前にオレから結婚祝いを受け取ってくれ。狩りや漁の道具、それに調理器具さ!ちゃんと研いであるからな!」
「ランディ君、プリムちゃん!」

プリム「あなたは…魔女のエリニース!」
エリニース「わしゃ普通の婆に戻っちまったからもう魔力はないよ……それよりホラ!結婚祝いだよ!わしが来客用に取っておいた高価な食器だよ。大事に使っとくれ!…前におまえさん達にひどいことをしてしまったからそのお詫びさ。ホラ!受け取っておくれ」
プリム「…ありがとう」
ランディ「なんだか嫌な予感がする…ここまでいろんな人達に僕らのことが伝わっているんだったら…!」

そこにランディが恐れていた事態が発生した。エルマンとその家来達が水の神殿前までやって来たのである。

エルマン「ランディ君!君はワシとの約束を破るのか!プリムは名家の貴族と結婚させるのじゃ!もう決まっとるんだ!」
プリム「パパなんかもう知らない!ランディ、行きましょ!」

ランディは風の太鼓を鳴らした。すぐにフラミーが駆けつけてくる。2人は荷物を持ってフラミーに乗った。

エルマン「待て!プリム!ワシが悪かった!だから戻ってきてくれ!」
プリム「何よ!今さら遅いわよ!私、ランディについていくから!」
ランディ「エルマンさん、約束を破ってごめんなさい。プリムは僕の命に代えても幸せにします。これだけは絶対に約束します!」
「プリム!」

エルマンとその家来達の中にパメラがいた。

パメラ「これをあげるわ。幸せになって!」

パメラは美しいブリザードフラワーを一束プリムの方へ投げた。空中だったがプリムはしっかりと受け止めた。

プリム「パメラ…ありがとう…!!!!!」
ランディ「みんな、ありがとう。僕達は別の土地で生活するから。エルマンさんも、ごめんなさい。さようなら。みんな、さようなら」
プリム「さようなら!」

ランディとプリムはフラミーに乗って駆け落ちした。行く先は人里離れた場所。2人の新たな生活が始まる――





(終)




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