ここは商業都市バイゼルから漁港パロへと向かう船の上。リースは美しい金の髪を風に靡かせ、甲板の上で海を眺めていた。
彼女は風の王国ローラントの王女。だがそのローラントは砂漠のナバール盗賊団に滅ぼされてしまった。赤々と燃えあがる炎。次々と斃れていくローラントの人々。今でもその光景は決して忘れられない。そして、ナバールに攻め込まれた時に父であるジョスター王のことに気を取られて弟のエリオットを見失ってしまったのは、彼女の人生始まって以来最大の失態である。父親を亡くし、弟は行方不明になり、祖国を失い悲しみに包まれていたリースは聖都ウェンデルへ向かった。そこで彼女は光の司祭からフェアリーに選ばれし者やマナの剣のことを聞いた。マナの剣があれば、マナの女神を目覚めさせることができれば、エリオットを探し当て、王国を再建することも可能だというのである。

その為にはまずフェアリーに選ばれし者を探さなければならない。リースは仲間達と共にそのフェアリーに選ばれし者を探しながら、もちろんエリオットも探しながら旅を続けていた。フェアリーに選ばれし者とは一体どのような人物なのだろう。聞けば世界を救う使命を負っているという。リースよりもずっと重い使命だ。その者の力を借りれば王国を再建できる…
しかし、いつもすれ違いばかりで巡り合うことは叶わなかった。エリオットの手がかりもまだ朧だ。もどかしい思いでいっぱいになる。
そんな時、ある情報を得た。ローラントの生き残りが作ったアジトがバストゥーク山のどこかにあるというのだ。それは皆死んでしまったと思い込んでいたリースにとって、旅に出て以来初めての朗報であった。とにもかくにも無事だった人々に会いたくて、こうして船でパロに向かっているのである。

ローラントの皆に早く会いたい。

そう思ってリースは船上からローラントの方角を眺めた。この世界で1番高いバストゥーク山はここからでも見える。あの山のどこかに皆が…
その時、リースの見た方角に人が立っているのに気づいた。
歳の頃はリースとほぼ同じくらいであろうか。女と見紛うばかりの美貌の少年がそこにいた。紫の髪を後ろで束ねている。リースは思わずその少年に惹きつけられ見つめてしまった。少年はリースに気付くと、じっと見つめ返してきた。

2人の目が合った。

少年とリースはしばらく見つめあった。お互い相手の存在にひどく惹きつけられているようだった。まるでその時だけ時間が止まったようである。
まるで永遠とも思えるほどの時間見つめあっていたが、その状態を破ったのは少年の方だった。ゆっくりとリースに近づいてくる。

少年「どうしたんだい?美しいお嬢さん」
リース「あ、いえ、その…」

リースは思わず真っ赤になって口ごもる。

リース「あ、あの、あなたもパロに行くのですか?ナバール軍に占領されているのに」

リースがそう言うと少年はわずかに顔をしかめた。

少年「ま、ちょいとわけありでね」

少年はさりげなくリースの問いをかわすとリースをじっと見つめてきた。そして魅力的な笑みを浮かべる。

少年「それよりまだパロに着くまで時間がある。その間ここで俺とデートでもしようじゃないか?」
リース「えっ…!」

リースはひどく動揺し、さらに真っ赤になった。少年は美しく整った顔と、非常に鋭い瞳を持っている。その瞳に見つめられていると心を奪われてしまいそうだ。
リースの胸中に何やら得体のしれない感情が渦巻く。それは彼女が今まで知らなかった新たな感情だ。
どぎまぎし、自分の心の中にどのような感情が湧きおこっているのか考える余裕もないままリースは思わず駈け出してしまい、そのまま部屋に戻った。



アンジェラ「リース、どうしたの?」

部屋に戻ると旅の仲間であるアンジェラが怪訝そうに話しかけてくる。もう1人の仲間であるシャルロットはお昼寝中だ。リースはまだ真っ赤になったまま、今しがた会ったばかりの少年のことを考えていた。他人にも聞こえるのではないかという程、胸の鼓動が高くなっている。しかしそれほどの距離を走ってきたわけではない。あの少年の顔が脳裏に焼き付いて離れない。自分は一体どうしてしまったのだろうか。

リース「自分でも何が起きたのかわからないんです。ただ同い年くらいの男の子に話しかけられただけなのに、なんだか、私…」
アンジェラ「ふーん、ナンパでもされたの?」
リース「え、ええっ!?」
アンジェラ「あら図星?いいわねえ。美形だった?」
リース「な、何を言ってるんですかっ!わ、私はローラントを再建しなければならないんです!そしてエリオットを探して…だ、だから男の子なんかに気を取られている場合じゃないんですっ!」
アンジェラ「恋かしら?いいわねえ。私も年頃なんだから恋愛ぐらいしてみたいわ」
リース「アンジェラさん!」
アンジェラ「その男はこの船のどこかにいるんでしょう?パロに着くまででいいから一緒に遊んでらっしゃいよ」
リース「そ、そんなことできません!」
アンジェラ「んもう、リースは本当にお堅いんだから」

少年の完璧に整った容姿、にこやかに笑いかける親しみやすい表情、曇りのないまっすぐな瞳がリースの脳内に鮮烈な記憶となって残っている。しかし、リースはその後、先程の少年のことはなるべく考えないように努め、パロに着くとローラントの秘密のアジトを探した。





ホークアイは困っていた。風のマナストーンを探して風の回廊に入ったはいいが、風神像が邪魔で進めないのだ。

ホークアイ「参ったなあ。これじゃ風の精霊ジンも仲間にできないぞ」
デュラン「ローラントの人達なら何か知ってるんじゃないか?」
ホークアイ「俺がナバールの人間だってことを知ったら協力してくれるどころか八つ裂きにされちまうよ」
ケヴィン「でも ローラント滅ぼしたの ホークアイじゃない」
フェアリー「そうよ。ナバールはイザベラという女の人に操られているんだってことをちゃんと話せばわかってくれるわよ」
ホークアイ「そうだなあ。何故ナバール盗賊団がローラントを攻めたのか、詳しい理由は知りたいだろうしなあ」

フェアリーに選ばれし者であるホークアイは来た道を引き返し、新たに情報を集めることにした。

ホークアイ(はあ…それにしてもなあ…)
フェアリー(どうしたの?ホークアイ)

ホークアイが声に出さずに心の中でつぶやくと、フェアリーが話しかけてくる。

ホークアイ(いや、デュラン君もケヴィン君も良き相棒なんだけどね。こう、女っ気がないのは寂しいよなあって。野郎ばっかってのもむさ苦しくて)
フェアリー(何言ってるの!ホークアイはマナの剣を抜いて世界に平和を取り戻さなきゃならないんだからね!)
ホークアイ(船で会った金髪の女の子、可愛かったなあ〜せめて名前だけでも聞いておくべき――ん?)

ホークアイは身体がふらふらしているのに気づいた。見ればデュランとケヴィンもである。そして急に強烈な睡魔が襲ってくる。

ホークアイ「うっ、これは?眠り草の花!しま…った…」

気付いた時には既に遅く、ホークアイの意識は遠のいていった。





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