※これはエンディング後の話です。



世界に平和が戻った後、聖剣の勇者達はそれぞれの故郷へ帰り各国の代表者として世界の導き手となった。特にケヴィンは獣人王から、獣人と人間との架け橋となることを求められた。ビーストキングダムと聖都ウェンデルは近くにある。一度はビーストキングダムによる聖都ウェンデル侵攻があったが、それについて円満な解決をすべく、ケヴィンは獣人王の息子としてウェンデルの光の司祭と交渉をしていた。そのたびに、かつての仲間であるシャルロットにも当然会っていくのだが、なかなかゆっくりと話をする機会が持てなかった。ケヴィンはそれを仕方のないことと割り切っていたが、シャルロットの方はそうではなかった。
シャルロットはウェンデル光の神殿内のテラスで1人物思いに耽っていた。その憂いを帯びた表情は幼い子供ではなく、年頃の娘を思わせる。

シャルロット「ケヴィンしゃん…今日も会えないでちか…」

ケヴィン。シャルロットが初めて出会った旅の仲間である。口下手で不器用だが、誰よりも純粋で優しい心を持つ少年。彼と一緒にいると、とても楽しい。彼のあの不器用な優しさがなんともいえない。このところ、ケヴィンのことを考えてばかりだ。いつの間にかシャルロットの心を占めているのはケヴィンのことになっていた。

「シャルロット」

自分の名を呼ぶ声に振り向くと、そこにはヒースがいた。愛しのヒース。

ヒース「どうしたんだい?元気がないね」
シャルロット「ううん、なんでもないでち。それにシャルロットだって年頃の乙女なんでちからメランコリックになる時だってあるでちよ」
ヒース「そうかい?何か悩み事があるなら僕に言ってくれよ」
シャルロット「ヒース」
ヒース「ん?」
シャルロット「シャルロットはヒースのことが大好きでち」
ヒース「僕もシャルロットのことは大好きだよ」

そういって満面の笑みを浮かべると、ヒースはシャルロットの頭を優しく撫でた。

シャルロット「ヒース…」



ヒースが去った後、シャルロットの胸中は穏やかではなかった。

シャルロット(おかしい。おかしいでち。シャルロットはヒースが好きなんでち)

ヒースは以前からシャルロットの憧れの青年である。それなのに。

シャルロット(どうちてケヴィンしゃんのことがこんなに気になるでちか?シャルロットは一体どうしてしまったんでち)

ヒースとケヴィン。男性としてはあまりにもタイプが違いすぎる。シャルロットはヒースに恋していたはずだった。彼女が旅立ったのもヒースを助ける為である。それなのにいつの間にかシャルロットの心の中にはケヴィンの存在が住み着いてしまった。ヒースとケヴィン。2人の男の存在がシャルロットの心の中で揺れ動く。



「シャルロットーーー!」

ケヴィンはウェンデルに来ると必ずシャルロットに会いに行く。シャルロットがどれだけ胸を高鳴らせているかは知る由もない。だが、ケヴィンの方も知らず知らずのうちにシャルロットに夢中になっていたのであった。生来純粋無垢で無邪気なケヴィンはそれが恋とは気付かず、ただひたすらシャルロットが好きだという気持ちでいっぱいになっていた。

シャルロット「ケヴィンしゃーーーん!」

ケヴィンの姿を認めるとシャルロットは思わず駆け出してケヴィンに抱きつく。小さな身体で必死にジャンプしてケヴィンの胸に飛び込む。それをケヴィンは逞しい腕でしっかりと抱きとめる。そして2人抱き合ったままぐるぐると回る。そんな仲睦まじい2人をヒースは遠くから見ていた。ヒースにとってシャルロットは目の中に入れても痛くないほど可愛い存在である。そんなシャルロットが男と仲良くなっているのを見ると、どうも複雑な気持ちになる。まるで妹を取られた兄のようである。しかしそれだけではなかった。

シャルロットは人間とエルフのハーフである。

人間とエルフの恋は禁断の恋。互いの命を縮めるその禁断の恋によってシャルロットはこの世に生を受けた。人間とエルフの恋が禁じられているならば、そのハーフであるシャルロットは一体誰と恋をすればよいというのか。ヒースは内心シャルロットの境遇に心を痛めずにはいられなかった。今までは幼かった故、ただ愛しみ育んでいればよかった。しかし、身体の成長は遅いとはいえシャルロットももう年頃の娘なのである。
そして、そんな年頃のシャルロットが最近夢中になっているケヴィンは人間と獣人のハーフである。

人間とエルフのハーフ、人間と獣人のハーフ

そんな2人が惹かれあっている。これは由々しき事態であった。ヒースでなくとも2人の仲を認める者はいないだろう。光の司祭も、獣人王も。
ケヴィンとシャルロットが戯れている様は、ただ見ているだけなら微笑ましいものである。まだ子供であるならばそれでもよい。だが2人は既に思春期に入った年頃の少年少女なのである。自分達の純粋な好意が恋と呼ばれるものだといつかは気付くだろう。その時、彼らはどうするのか。いや、決して2人の仲を認めるわけにはいかない。シャルロットの為にも。

ケヴィン「シャルロット、今日は花を持ってきたよ。ここに来るまでに咲いていた、綺麗な花だ」
シャルロット「うわあ、嬉しいでち。ケヴィンしゃん大好きでち!」

野に咲く小さな花を渡すのがいかにもケヴィンらしい。シャルロットは純粋に喜んだ。下手に薔薇の花束を渡されるような絵に描いたやり方よりずっといい。素朴なのがケヴィンの良さなのだ。

ヒース「ケヴィン君、そろそろ帰らなければいけないんじゃないのかい?」
ケヴィン「あ、そうだった。じゃあシャルロット、またな!」
シャルロット「今度はいつ来てくれるでちか?」
ケヴィン「決まったら手紙を送るよ」
シャルロット「待ってるでちよ」

お互い名残惜しさに耐えながら、ケヴィンは帰って行った。

ヒース「シャルロット、そんなにケヴィン君が好きかい?」
シャルロット「えっ?…な、何言ってるでちか。シャルロットが好きなのはヒースでち。ケヴィンしゃんも好きだけど、でもシャルロットは…」
ヒース「いや、いいんだよ」
シャルロット「ヒース…?」
ヒース(光の司祭様と相談しないと…2人の仲が深まらないうちに手を打たなければ)

ヒースの思惑をよそに、2人は互いへの気持をどんどん膨らませていくのであった。





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