ある日、人目を忍んで会うことに成功したケヴィンとシャルロットは、以前デートで来た花畑に来た。気持ちの良いそよ風が吹き、気候は暖かい。2人は特にこれといった会話を交わすこともなく、肩を寄せ合いながら並んで座っていた。言葉を交わさなくとも互いの思いはそれぞれ伝わっている。それに2人だけで過ごす時間は貴重だ。こうして一緒にいられるだけで幸せを感じる。彼らは長いことそうしていたが、やがてシャルロットが沈黙を破った。

シャルロット「ケヴィン…」
ケヴィン「何?」
シャルロット「ケヴィンは本当にシャルロットでいいの?」
ケヴィン「今さら何を言うんだ?オイラにはシャルロットだけだ」
シャルロット「でも…シャルロット、ハーフエルフでち。ふつーの人より身体の成長が遅いでち」
ケヴィン「それは…」
シャルロット「ケヴィンもあと数年経ったらりっぱな好青年になるでち。だけどシャルロットはまだまだ子供の姿のまま。大人のれでぃになるのはずっと先でち。そんなシャルロットでも、ずっと好きでいてくれまちか…?」

ケヴィンは愛しそうにシャルロットを抱きしめた。

ケヴィン「もちろんだよ。どんな姿でもシャルロットはシャルロットだ」
シャルロット「ケヴィン……………ねえ、ケヴィン、シャルロットの悩み、聞いてくれまちか?」
ケヴィン「何だって聞いてやる」
シャルロット「シャルロット、たまにぱぱとままを恨みたくなるでち。シャルロット、世界でたったひとりのハーフエルフだから。人間でもエルフでもない存在。シャルロットと同じ人は世界のどこにもいないでち。ぱぱとままはどうちてシャルロットを生んだでちか…禁じられた愛で生まれたシャルロットはどうちたらいいの?そう思うとシャルロット、とっても孤独でち」
ケヴィン「シャルロット、そんなこと言うもんじゃない。オイラがずっとそばにいる。オイラがついてる。オイラだって世界でたったひとりの獣人と人間のハーフだ」
シャルロット「いつの世も親は勝手でちね…ハーフとして生まれた特異な子供がどんな苦労するか考えてないんでちから…しかもシャルロットのぱぱとままはシャルロットを生んですぐになくなってしまったんでちよ。死んでしまうこともあらかじめわかっていたんでちよ。それがわかっていて、シャルロットをおいていってしまうなんて、シャルロットはどうしたらいいでちか。親の後ろ盾も愛情もなく。特異な存在として生まれたことについて、何を支えに生きていけばいいでちか」
ケヴィン「…………………………」

ケヴィンは改めてシャルロットの孤独について思いを馳せた。ケヴィンもハーフだが、シャルロットの場合、身体の成長まで遅いのである。世界で自分1人だけ他の者と異なる存在であるという孤独感は一層強いであろう。同じ歳の他の子供達はどんどん大人の身体に成長していくというのに1人だけ幼い身体のままである。その現実は歳をとればとるほど冷徹な現実としてつきつけられる。生まれ持った性質によるものなので、本人にもどうすることもできない、逃れようのない現実。常に自分1人だけが異質であると実感せざるを得ない事実。禁じられた愛によって生まれたシャルロットは、皆に愛されて育ってはいるが、実は誰よりも孤独な存在なのである。

ケヴィン「シャルロット、オイラ、口下手だからうまいこと言えない。でもたとえどんな存在でもシャルロットはシャルロット。エルフの血が入ってても、身体の成長が遅くても関係ない。オイラのたったひとりの大切な人。オイラ、誰よりもシャルロットのこと誰よりも大切にする」
シャルロット「ありがとう、ケヴィン…それともうひとつだけ。エルフは人間より寿命が長いでち。だからエルフの血が入ってるシャルロットも人間よりは寿命が長いでち。身体の成長が遅い分長生きでち。きっとケヴィンがおじいちゃんになっても、シャルロットはまだ若くて――そして二人仲よくおはかに入ることにはならないでち」
ケヴィン「シャルロット、先のこと考えすぎ。獣人は人間より丈夫で長生き。エルフと比べるとどうかはわからない。けど、オイラずっとシャルロットのそばにいる」

寂しげにほほ笑むシャルロットを、ケヴィンは優しく、力強く抱きしめた。

シャルロット「ケヴィン……………こんな孤独なシャルロットのそばにずっといてくれまちか…?」
ケヴィン「ウン。シャルロット」

ケヴィンは改めてシャルロットに向き合って見つめた。シャルロットもケヴィンを見つめ返す。

ケヴィン「愛してる」
シャルロット「ケヴィン……………シャルロットもケヴィンのこと愛ちてる」

ケヴィンは心に誓った。決してシャルロットに孤独を感じさせないと。常に彼女の笑顔を絶やすことなく、愛し続けると。






2人は手をつないで歩き出した。2人だけの道を。たとえどのような運命が待ち受けていようとも、2人で立ち向かい、生きていこうと決めた。

獣人と人間のハーフとエルフと人間のハーフ、それぞれこの世でたった1人の存在である彼ら。

それは限りなく純粋な魂を持った少年少女の物語。

彼らの歩む道の先に光あらんことを。






End




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