瑠璃は2月に入ってから落ち着かなかった。
2月14日にはバレンタインデーというものがある。女性が主に好きな男性にチョコレートを渡すイベントだ。
しかし、今年は、瑠璃は頭を抱えていた。
今年の2月14日はジンの曜日なのである。
真珠姫は週に1回だけ本来の姿であるレディパールへと戻る。それがジンの曜日だった。

瑠璃「何故今年はよりにもよってジンの曜日がバレンタインデーなんだっ!」

瑠璃は叫んだ。
今までは真珠姫にチョコをもらっていた。しかし今回はバレンタインの日はレディパールである。
あのレディパールが自分にチョコを渡すことなど、到底想像できなかった。
つまり今年はチョコがもらえないのか。
そう思うと瑠璃はカレンダーに怒りをぶつけたくなったり悲しくなったりと、ずっと落ち着かないままだった。





一方、レディパールは――

レディパール「蛍姫、何を作っていらっしゃるのですか?」
蛍姫「おや、パールは知らないのですか?確かに随分長いこと旅をしていましたからね。あなたが旅立ってから幾年かの年月の間にバレンタインという行事ができたのです。女性が好きな男性にチョコレートを渡すというものです」
レディパール「女性から…好きな男性に?」
蛍姫「ええ…私はパールも好きですが、アレクサンドルのことも…これは彼にあげるつもりで作っているのです。煌めきの都市の他の珠魅達を御覧なさい。皆、浮き立っていますよ」

レディパール「ほう、私が不在の間にそのようなものが…」

レディパールは煌めきの都市内の珠魅達を見てまわった。確かに女の珠魅は固まって、男の珠魅に知られないよう、何か料理の様なものをやっているようである。

レディパール「ふむ…そうか…しかし困ったな…私は料理などできない。旅の途中の自炊とお菓子作りはまた別のものだろう。さて、どうしたものか…」





そうこうしているうちに2月14日、バレンタインデー当日がやってきた。瑠璃は他の女の珠魅達からいくつかチョコをもらったが、全て義理チョコだった。

「瑠璃君には真珠姫さんがいるものね!」

エメロードをはじめ、皆そう言って笑って去っていく。瑠璃は情けない気持ちになった。

瑠璃「真珠は…今日は…レディパールなんだ…」

暗い気持ちになった瑠璃は煌めきの都市の中でも目立たないところへ引っ込んでしまった。



――あれからどれだけの時間が経っただろうか?どこからか自分を呼ぶ声がしたような気がした。

瑠璃「義理チョコはもういらない」

瑠璃は隠れ場所から出ようともしない。次第に、自分を呼ぶ声はレディパールのものだということに気がついた。

レディパール「瑠璃!私の騎士瑠璃よ!どこにいるのだ!真珠と私のことでまだ迷いがあるのか!」

『私の騎士瑠璃』と呼ばれたことで瑠璃ははっとし、レディパールの元へ出て行った。

レディパール「瑠璃!探したぞ」
瑠璃「レディパール…な、何の…用だ…?」
レディパール「蛍姫様から伺ったのだ。今日はバレンタインデーだと。私は料理ができないから魔法都市ジオで買ってきた。ほら!これは本命の男性にあげるチョコレートなのだそうだ」
瑠璃「レディパール…!!」
レディパール「何をそんなに驚くことがある?前にも言ったはずだろう。真珠も私も一緒だ。おまえは私の騎士だ!」

瑠璃は感激した。何より真珠姫ではなく、レディパールに騎士と認めてもらえたことが。

瑠璃「レディパール、ありがとう。…お返しは何がいい?」
レディパール「お返しなどいらない」
瑠璃「そういうわけにはいかない。これはあんたからもらった初めてのチョコだ。何かお返しをしないと俺の気が済まない」
レディパール「そうだな…私は戦士だから、短剣でもくれればいい。ちょうど今使っているのが古くなってな」
瑠璃「短剣……」
レディパール「瑠璃、今日は私と共に過ごそう。他の皆も両想いの男女2人で過ごしている。私にとっての特別な男性はおまえだ。違うか?」
瑠璃「いや…違わない…嬉しいよ、レディパール」

瑠璃はこの日、初めてレディパールと心を通い合わせた気がした。真珠姫ではなく。





ちなみにホワイトデーは、瑠璃は美しい装飾が施された、それでいて実用的な短剣をYOUに作ってもらい、レディパールにプレゼントしたという。





クリスマス・イヴ

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