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Artist

BEMBEYA JAZZ NATIONAL

Title

LIVE: 10 ANS DE SUCCES


bembeya live
Japanese Title

ライヴ1971

Date 1971
Label オルター・ポップWCCD-31006(JP) /BOLIBANA 42024-2(FR)
CD Release 1993
Rating ★★★★☆
Availability ◆◆◆


Review

 「スゴイ!スゴすぎる!」とは、80年代の大ヒットAV「SMぽいの好き」のなかで、村西とおる監督が女優・黒木香にたいして思わず吐いた名ゼリフだが、何年かぶりにベンベヤ・ジャズのこのCDを聴いてみたところ、とうに忘れ去ったはずのあの記憶とともに、そんなセリフが計らずも口をついて出てしまった。

 本盤は、日本で出た最初のベンベヤ・ジャズのCDである。音楽誌はのきなみ高い評価を与えていたが、当時のわたしの耳には隙間だらけのあらっぽいサウンドにしか聞こえなかった。
 しばらくして、同じフランスのBOLIBANAから発売されていたCD"REGARD SUR LE PASSE"(BOLIBANA42064-2)を輸入盤で買った。68年録音とされるこのアルバムは、19世紀後半、西アフリカ一帯を統治下に治め、18年の長きにわたってフランスの植民支配と戦いつづけた“スーダンの黒いナポレオン”こと、サモリー・トゥーレを讃えた約38分に及ぶ壮大な叙事詩を収める。ベンベヤ・ジャズの代表作のひとつに数えられる本作ではあったが、マンディング語もフランス語も解さないわたしには冗長に感じられたため、この2枚はレコード棚で長い休眠状態に入ることとなった。
 むしろ、80年代のレコーディングを集めたベスト盤"TELEGRAMME"(SONODISC CD8491)のほうがずっと親しみやすかった。そんなことから、わたしのなかでは、いつしかベンベヤ・ジャズは、80年以降のサウンドがイメージとして定着してしまっていた。

 それから10年あまりの歳月をへて、ギニア政府が運営していたレーベル、シリフォン(SYLIPHONE)の貴重な音源が、SYLLART(MELODIE配給)から次々とCDリリースされるに及び、わたしのギニア音楽感は大きく変わった。
 はじめに入手したのがBOLIBANA盤"REGARD SUR LE PASSE"にも3曲が収録されていた"DEFI & CONTINUITE"(SYLLART38217-2)。76、77年にシリフォンから発売された"DEFI""CONTINUITE"の2オン1である本盤は、時期的に先行するオルケストル・デ・ラ・パヨートの粘っこいサウンドに比べると、ラテン色が稀薄でかなりロックっぽいつくりになっている。この傑作にふれ、わたしはギニアン・ルンバからギニアン・ポップへと移行していくプロセスをもっと知りたいと思った。そこで、さきの2枚を永い眠りから呼び起こして、思わず口の端から漏れ出たのが冒頭の言葉だったというわけである。

 ベンベヤ・ジャズは、1961年、ベーシストのアミドゥ・ジャウネをリーダーにギニア南東部のベイラで結成された。63年に、アブバカール・デンバ・カマラがヴォーカリストとして参加してからは、かれが実質的なリーダーとなっていく。64年と66年にはナショナル・フェスティバルで第1位を獲得。66年、ついに国立バンド、ベンベヤ・ジャズ・ナショナルになった。カリスマ的な人気でベンベヤ・ジャズをナンバー・ワン・バンドへと導いたデンバ・カマラであったが、73年、交通事故で惜しくも夭折。リーダーを失ったベンベヤ・ジャズが“ダイアモンド・フィンガー”とうたわれたギタリスト、セク・ジャバテを中心に建て直しをはかった2枚のアルバムを収めたのが、さきの"DEFI & CONTINUITE"である。

 さて、本盤はベンベヤ・ジャズ結成10周年を記念して、71年4月30日に首都コナクリの人民公会堂でおこなわれたライヴ盤である。もちろん、リード・ヴォーカルはデンバ・カマラ。マリンケのグリオの唱法にヒントを得たかれのスタイルは、アーシーで男くさいが、ライヴとあってか肩に力が抜けていて威圧的なところがない。カマラのヴォーカルが象徴するように、全体にとてもリラックスした演奏で、ゆったりとしたノリのなかにもギニアン・ルンバならではの味わい深いコクがジンワリと伝わってくる。
 テナー・サックスを中心とするホーン・セクションの健闘も光るが、このムードを目いっぱい満喫しつつ、すばらしいプレイを披露してくれるのは、リード・ギターのセク・ジャバテ。ハワイアンのように心地よく響くかれのスティール・ギターのベースには、アフリカの伝統楽器であるバラフォンとコラのスタイルがある。コンゴのフランコやドクテュール・ニコとともに、アフリカのギター・スタイルを確立した革新者のひとりであったといえよう。

 ところで、ベンベヤ・ジャズにかぎらず、ギニアのポピュラー・ミュージックには、特有の音のバラつきがある。西洋的な和声に馴らされてしまったわたしたちの耳には、はじめは違和感があるが、聴き込むうちにこれが快感へと変わってくる。まだラテン音楽の香りを残していたこの時期のベンベヤ・ジャズには、たおやかなエレガンスも備わっていて、それとこれとのミスマッチ感覚がセクバ・バンビーノ・ジャバテが加入して生まれ変わった80年代のベンベヤ・ジャズにはない魅力につながっているのだと思う。

 なお、本盤と"REGARD SUR LE PASSE"は、99年に新しいジャケット・デザインでSYLLARTよりリイシューされている(SYLLART 38207-2、38206-2)。本盤との再会によって、遅ればせながらベンベヤ・ジャズのとりこになってしまったわたしは、その後、"AUTHENTICITE 73/PARADE AFRICAINE"(SYLLART38221-2)"HOMMAGE A DEMBA CAMARA"(SYLLART 38222-2)も手に入れた。デンバ・カマラ夭折前の70年代初頭にレコーディングされたと思しきアルバムとシングルからなるこれらは、人気、実力ともにギニアン・ポップの頂点に立ったかれらの全盛期の記録である。71年のライヴ盤には、まだかいまみえたラテン色がいっそう後退し、ロックやソウルの影響をうけたファンキーでスピーディな独自のアフロ・サウンドが全編に展開される。完成度の高さと密度の濃さという点では、これらのほうが上だろう。ベンベヤ・ファンには必須アイテムだ。


(5.8.02)



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by Tatsushi Tsukahara