World > Africa > Ghana

Artist

KAKAI KU'S BAND / MASTER AKWABOA'S BAND

Title

HILIFE OLDTIMERS VOL.2


hilife2
Japanese Title 国内未発売
Date ?
Label ADONTEN PRODUCTION ADT CD 1052(UK)
CD Release 1997
Rating ★★★★★
Availability ◆◆


Review

 ガーナ・ハイライフについて紹介された資料は、たいてい60年代まで、それもダンスバンド・ハイライフにかたよっているため、70年代以降のハイライフの全体像が見えてこない。

 ギターバンド・ハイライフは、50年代はじめにE. K. ニヤメというイノヴェイターの出現によって基本型がかたちづくられた。60年代には、はじめてエレキ・ギターが使われるようになって、ギターバンド・ハイライフはダンスバンド・ハイライフ人気の影で徐々にポピュラリティを得ていく。この時代にあらわれた代表的なミュージシャンにキング・オニイナの名をあげることができよう。

 70年代に入るころにはガーナ経済が極度の不況に陥り、ビッグバンド・スタイルをとっていた楽団は次々と廃業に追い込まれていく。そんななか、編成がコンパクトなギターバンド・ハイライフはリンガラ、ソウル、ロックなどの要素をとりいれながら生き延びていった。この時期に活躍したミュージシャンやバンドに、ナナ・アンパドゥのアフリカン・ブラザーズ・バンド、Dr. K. グヤーシのノーブル・キングス、C.K.マン、スウィート・トークス、アレックス・コナドゥなどがある。

 しかし、81年12月に軍事クーデターが起きて、ガーナのレコード産業はほとんど壊滅状態に追い込まれてしまう。ミュージシャンの多くは活動拠点をナイジェリア、英国、ドイツなどの海外へ移していった。このような状況下、ジョン・コリンズはアクラ郊外に小さな録音スタジオを興し、その成果をまとめた貴重な記録がコリンズ制作による"THE GUITAR AND THE GUN"(STERN'S/EARTHWORKS STEW50CD(UK))"ELECTRIC HIGHLIFE"(NAXOS WORLD 76030-2(US))である。
 
 とまあ、わたしが知っているのはこんな程度だ。
 60年代はアフリカ諸国が次々と独立し、とくにガーナ初代大統領エンクルマはパン・アフリカニズムの発展に指導的な役割を果たしたことで知られる。だから、ダンスバンド・ハイライフが植民地時代の遺物として敬遠され、より民俗色がつよいギターバンド・ハイライフが好まれるようになっていったのも当然の流れといえるかもしれない。洗練度ではダンスバンドのほうが上なのに、ダンスバンド・ハイライフの名門プロフェッショナル・ウフルでさえ、70年代の演奏では曲調がギターバンド・ハイライフ風になっているというのはそんな時代背景を象徴しているといえるだろう。ジョン・コリンズの言葉を借りれば「逆文化変容」de-acculturated というやつである。
 
 ここ数年、ガーナのギターバンド・ハイライフの演奏がようやくCD復刻されるようになったが、これらを日本国内で手に入れるのは容易ではない。なぜなら、それらはガーナまたはその周辺の文化圏に属するひとびとをターゲットにしたと思われ、生産枚数が少ないうえ流通経路も限られたものばかりなのだ。
 本盤もそのなかの1枚。ジェンベを大写しにしただけのダサイジャケット。'HIGHLIFE'を'HILIFE'と略式表記した大ざっぱなタイトル。おまけにアーティストや演奏のデータがまったくクレジットされていないとあっては購入をちゅうちょするのも当たり前というもの。わたしもお金を捨てたつもりで賭けだと思って海外のサイトから購入してみたところ、これが大当たり。いまではギターバンド・ハイライフの最愛聴盤である。
 
 本盤は、カカイ・クーズ・バンド KAKAI KU'S BAND(わたしは当初 カイカク・バンドだと勘違いしていた)とマスター・アクワボアズ・バンド MASTER AKWABOA'S BAND という60、70年代に人気を集めた2つのギターバンドの演奏を収録。
 
 カカイ・クーの11曲は、いずれも3分前後の短い曲で、合ってんだか合ってないんだかよくわからないカン高いヴォーカル・ハーモニーといい、歌の語尾が間延びしながら下降していくパターンといい、パームワイン・ミュージックから派生した典型的なギターバンド・ハイライフといえそう。スネア・ドラム、コンガ、クラベスからなるパーカッションには、ロックやソウルよりラテン音楽の影響が感じられる。ダンスバンド・ハイライフとか、リンガラとか洗練されたサウンドに慣らされた耳には最初は取っつきにくかろうが、聴き込むにつれ、この泥くささがクセになってくる。
 
 70年代前半(もしくは60年代後半)の録音と思われ、かつてオリジナル・ミュージックからリリースされていた60年代のガーナ・ギターバンド・ハイライフの演奏を集めたコンピレーション"I'VE FOUND MY LOVE"(ORIGINAL MUSIC OMCD019(US))の収録曲と雰囲気がよく似ているが、ちがいはハモンド・オルガンが使われていること。ギターバンド・ハイライフながらギターよりオルガンのほうが目立ってしまっているのだ(ちなみにリーダーのカカイ・クーはギタリスト)。ボワーンとしたオルガンの奏法には教会音楽の影響がつよく感じられ、サウンドを混沌としたムードで彩る。そういえば、コーラスにも讃美歌の影響があるようだ。
 
 マスター・アクワボアは、前述の"I'VE FOUND MY LOVE"に2曲収録されていたアクワボアそのひとではないだろうか。ここでの演奏は、3分弱の3曲と、14分と17分30秒の長尺2曲の構成。
 前半の3曲は60年代の録音か。ヌメヌメと粘りつくようなヴォーカルが気だるいムードを醸し出す。エレキ・ギターの音色はジャズ・ギターに近いが、フレージングはハイライフならではのもの。ただし、カカイ・クーにくらべると演奏はよりシャープでタイトな印象を受ける。
 
 後半の2曲では、キーボードも参加してぐっとモダンになる。リンガラからの影響か、全体にテンポ・アップし、リズムも複雑になって、サウンドのキレも格段によくなっている。70年代後半の録音だろうか。
 'YEDE OWUO KA'では、なかでもベースとパーカッションの疾走感はすばらしく、感覚としてはナイジェリアのイボ・ハイライフに近い。ハモンド・オルガンのフワフワした浮遊感も効果的だ。
 ラストの曲'MEYE MEYE'は、オルガンのリフなどにファンクの影響というか、説教を垂れながら時折り気合いを入れるヴォーカルのスタイルや、シャープなドラミングも含めて、あきらかにフェラ・クティのアフロビートからの影響が感じられる。ただし、ホーンズが入っていないせいかフェラの音楽のようにヘヴィな感じはなく、フットワークはあくまで軽快だし、たれ流しぎみのコーラスはあいかわらずハイライフなところが微笑ましい。
 
 最近、70年代のガーナの音楽を英国のコレクターがアフロビート、ファンクの視点から編集したコンピレーション・アルバム"GHANA SOUNDZ"(Pヴァイン PCD-23361(JP) )が国内発売され、一部で話題になっている。Pヴァインが発売する西アフリカの音楽は、フェラの影響を受けたファンクっぽいものばかりで、ややもするとこの時期の西アフリカの音楽がファンク一色でおおわれていたと早合点されはしまいかと危惧している。
 "GHANA SOUNDZ"も悪くはないが、ガーナっぽさを求めるなら、まずこちらを聴くべきだとつよく思う。


(4.30.03)



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by Tatsushi Tsukahara