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Artist

CACHAO

Title

MASTER SESSIONS VOLUME1



Japanese Title マスター・セッションズ Vol.1
Date 1994
Label EPIC/SONY ESCA6047(JP)
CD Release 1994
Rating ★★★★☆
Availability ◆◆◆◆


Review

 “カチャーオ”こと、イスラエル・ロペスは、兄オレステス・ロペスとともに、ハバナ交響楽団に籍を置きながら、30年代の終わりごろからチャランガ・スタイルの楽団、アルカーニョ・イ・スス・マラビージャスに参加。そこで、ベースを受け持つかたわら、作曲や編曲にも手がけ、ダンソーンにモントゥーノをくっつけて即興的要素をとりいれた最初のマンボの発明(作曲者はオレステス)に寄与したといわれている。

 カチャーオが一躍脚光を浴びたのは、50年代の終わりごろにパナルトからデスカルガのルーツといわれる『キューバン・ジャム・セッション』(ボンバ BOM306)を発表したとき。"CUBAN JAM SESSIONS IN MINIATURE"の原題が示すとおり、1曲が2、3分程度の短い曲からなるこのアルバムは、本来の意味でのジャム・セッションとはいいがたいが、きっちりした音楽教育を受けてきた人物のリーダー・アルバムにふさわしい緻密に構成された好盤だった。

 その後も、数々のデスカルガのアルバムを制作しつづけたカチャーオだったが、64年ごろにアメリカへ亡命。エディ・パルミエリやティコ・オールスターズなどと共演するも、本盤を発表する90年代まではけっして恵まれた境遇にはなかったようだ。米国で不遇をかこっていたカチャーオがふたたび注目されたのは、 93年にグロリア・エステファンの『ミ・ティエラ』にゲスト参加したのがきっかけだった。
 このことが縁で、グロリアの夫君エミリオ・エステファンと、キューバ系2世俳優アンディ・ガルシアがプロデュースしたひさびさの会心作が本盤だったわけである。文字どおり苦節30年。「こんなにすごいキューバ人アーティストが野に埋もれているんだぞ」ってことを知ってもらいたい一心でプロデュースを買って出たのだろう。それともうひとつ。異国に生まれ育ったかれらの目に、カチャーオという存在は遙かなる故郷キューバそのものと映ったのではないだろうか。

 カチャーオもかれらの期待に応えるかように、キューバを代表する作曲家エルネスト・レクォーナのコントラダンサ「あなたが瞳にうつった時」'AL FIN TE VI' から、ダンソーン、マンボ、ソン、ルンバ、コンガ、果てはグァヒーラまで、あらゆるタイプのキューバ音楽にとりくんでいる。優雅でちょっととりすましたような室内楽風のダンソーン、それにデスカルガはもともとの守備範囲だからわかる気がするが、もともとはキューバ内陸部のスパニッシュ系農民の歌であったグァヒーラを演奏していたのには驚いた。ところが、これが意外なかなかいいのである。

 全体にバランスのとれた端正な仕上がりだが、黒人的なノリのよさも適度に備わっていて飽きさせることはない。小鳥のさえずりのようにリリカルなフルート、独特のうねりを感じさせるストリングス、哀愁に満ちたトレス、メリハリの効いたパーカッションなど、すべての楽器が耳にたいへん心地よい。

 本盤が好評だったのを受けて、翌95年には続編"MASTER SESSIONS VOLUME2"(CRESCENT MOON EK6319)をリリース。日本盤は出なかったが、こちらも甲乙つけがたいすばらしい内容。個人的には、カチャーオのオリジナル中心のVOL.2より、マンボ第1号といわれているカチャーオの兄オレステスの作品'MAMBO' を再演してみたり、イグナシオ・ピニェイロのソンの名作'LINDO YAMBU' を(ヴォーカルとパーカッションのみでおこなった伝統音楽としての)ルンバの形式で演奏した本盤のほうが、黒っぽくて好きだ。ちなみに、デスカルガ'A GOZAR CON MI COMBO' は、テーマ部でのサックスのアンサンブルや、クラリネットのソロが、オランダのフリー・ジャズ・サックス・プレイヤー、ウィレム・ブロイカーの音楽をほうふつさせたりして、社会主義歌つながりではないかと想像したりもした。

 ところで、一部の曲を除いて、ほとんどがカチャーオのオリジナルということになっているが、伝統曲からの引用が多いばかりか、楽器のフレーズからして聴いたことがあるようなパターンがあったりして、なんかキューバ音楽の教科書みたいな印象。ここでの真の主役はカチャーオではなくして、豊穣な音楽的な土壌を有するキューバ音楽そのものだと思った。キューバ音楽入門に最適の1枚。



(12.24.01)



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by Tatsushi Tsukahara