World > Latin America > Caribe > Cuba

Artist

ANTONIO ARCANO Y SUS MARAVILLAS

Title

DANZON MAMBO



Japanese Title 国内未発売
Date 1940-1946
Label TUMBAO TCD-029(CH)
CD Release 1995
Rating ★★★☆
Availability ◆◆◆


Review

 1949年にペレス・プラードから火がつき、50年代半ばごろには、日本をはじめとする、世界中を熱狂の渦に巻き込んだマンボは、カチャーオの兄オレステス・ロペスがアルカーニョ・イ・スス・マラビージャス在籍時の38年に作曲した'MAMBO' が第1号だったとの説がある。本盤は、その問題作を収録。だが、残念ながら録音は1951年とあるから、本作がマンボ第1号だったという証拠にはならない。しかも、ここではヴァイオリンやフルートを中心とした、いわゆるチャランガ・スタイルで、室内楽風の優雅でお上品な音楽が奏でられている。

 マンボといえばふつう「ダン、ダン、ダカダカダン、ダカダカダン。ウーッ!」だから、あまりにイメージとかけ離れてすぎていて、では、いったいマンボってなんなんだ?って気になってしまう。ものの本によれば「ソン・モントゥーノやダンソーンの反覆部に挿入される倍テンポの部分」をマンボというのだそうだ。これだけではなんのことやらよくわからないので、すこしつけ加えると、ソンを主とする古典的なキューバ音楽の典型的な演奏スタイルは、主題部を2、3コーラス聞かせたあと、後半部にコーラスや楽器による短いフレーズの掛けあい、いわゆるコール・アンド・レスポンスが挿入されるのが一般的だった。この部分をモントゥーノといって、ふつうアドリブによる4小節を1単位とするリフが展開される。マンボは、その単位を倍テンポの8小節にしたもので、この意味でモントゥーノの発展型ということができる。
 なるほど、このせわしなさは、いわれてみればたしかにマンボのような気がしてくる。ちなみに、この'MAMBO' という曲、94年の『マスター・セッションズ Vol.1』でも、カチャーオが再演しているので、聴き較べてみては?こちらでは、すっかり“マンボ”しています。

 話題が'MAMBO' に終始してしまったので、この楽団についてすこしふれると、リーダーのアントニオ・アルカーニョは楽団のフルート奏者であったが、事実上の音楽監督はオレステスとイスラエル“カチャーオ”のロペス兄弟であった。このように、ほとんどの楽曲の作編曲を手がけていたのはロペス兄弟だったから、アルカーニョが、健康上の理由から45年にリーダーとフルーティストの役をいとこのホセ・アントニオ・クルースに譲ってからも、サウンド面での影響はまったくといっていいほど感じられない。

 ロペス兄弟は、クラシック音楽教育を受けていたから、ここで展開される音楽は、キューバ音楽としては、よくいえば端正、悪くいえばこぢんまりとしている。メンバーでヴァイオリンを受け持っていたアントニオ・サンチェスによる'ARCANO Y SU NUEBO RITMO' は、マンボ・ブームが到来する前の44年の録音であり、当初アルカーニョは“マンボ”のことを'NUEBO RITMO'(新リズム)と呼んでいたという指摘が本当ならば、マンボ第1号はアルカーニョ楽団という説はまんざら誤りではないような気さえしてくる。ほかにもドヴォルザークの「家路」やガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」をキューバ風アレンジでやっていて、それなりに楽しむことができる。しかし、もともと社交ダンスむけにインストゥルメンタル中心につくられているから、純粋に聴きとおすには正直いってツライものがある。

 だが、チャランガ編成によるこの手の優雅なサウンドは、キューバ音楽の傍流ではなく、50年代半ばのチャチャチャの流行にはじまり、キューバ革命を経たのちも長らくキューバ音楽の主流であり続けた。かれらの音楽は、エンリケ・ホリーンやオルケスタ・アラゴーンに脈々と受け継がれた。



(4.7.02)



back_ibdex

前の画面に戻る

by Tatsushi Tsukahara