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Artist

ORQUESTA CHEPIN-CHOVEN

Title

EL MERENGUITO



Japanese Title 国内未発売
Date 1942-1945
Label TUMBAO TCD-051(EP)
CD Release 1994
Rating ★★★★
Availability ◆◆◆


Review

 “オルケスタ・チェピン−チョーベン”は、“マリアーノ・メルセローンとムチャーチョス・ピミエンタ”とともに、第2次大戦前後に人気を誇ったサンティアーゴ・デ・クーバが生んだ2大オルケストラのひとつ。その前身は、1930年にヴァイオリニストであった“チェピン”こと、エレクト・ロセールと、ピアニストのベルナルト・ガルシア・チョーベンが結成したカルテートであった。その後、メンバーを徐々に増員していって、32年にはヴァイオリン、ピアノ、ベース、トランペット、2本のアルト・サックス、それにパーカッションからなる“チェピン-チョーベン&ヒズ・ボーイズ”へと発展していった。

 当初は、アメリカのスイングやダンス・ナンバー中心のレパートリーであったが、30年代終わりごろには、ライヴァルのメルセローンがそうしたように、キューバン・スタイルの演奏をおこなうようになる。レパートリーも、おもにチェピンによるオリジナル作品がメインとなっていった。この時期、メンバーのさらなる増強をはかって、バンド名を“オルケスタ・チェピン−チョービン”に変更している。チェピンがヴァイオリンを弾く機会はめっきり少なくなり、ミュージカル・ディレクターとしてオルケスタの指揮に専念するようになる。楽曲の発掘にかけては天才的な嗅覚を持ち主であったミゲリート・バルデースが、早くも30年代後半にオルケスタ・カシーノ・デ・ラ・プラーヤで、アルセニオ・ロドリゲスやチャノ・ポソの楽曲とともに、チェピンの作品を数曲とりあげていることは、かれの作曲家としての能力の高さをしめすものであろう。

 そのころの1942年から45年のハバナ録音を集めた本盤は、後年のアクのつよさにはやや欠けるものの、ほぼ同時期のメルセローンのオルケスタによるグァラーチャ中心の流麗な演奏(TUMBAO TCD-064)に比べると、ソンを中心とする野趣にあふれた演奏。ダイナミックなビートを叩き出しながらひた走るパーカッションがファンキー。チェピン作のソン'PILON' には、アルセニオ・ロドリゲスをほうふつさせるコクがある。

 しかし、真骨頂は、13曲目のボレーロ・ソン'CARIDAD' から、ラストの23曲目フリオ・グティエーレスが作曲したコンガ'LA CONGA SE FUE' へといたる11曲。粘っこいリズム、からみつくようなホーン・アンサンブル、ファンキーでセンティメントあふれるヴォーカルのすばらしさには、ただただタメ息をつくほかない。聴けば聴くほどジワジワと味がにじみ出てくる傑作です。

 しかし、戦争が終わった46年ごろから、地元サンティアーゴ・デ・クーバを除いて、人気にかげりがあらわれはじめる。そして、1955年、チェピンとチョーベンの鉄壁のコンビもついに分裂。翌年、チェピンは“オルケスタ・ヒガンテ・デ・チェピン”(アルバムによってオルケスタ名がちがっていることもあるため正式名ははっきりしない)を結成する。同年末、この新生オルケスタによるソン・モントゥーノ「バルトルのバナナ農園」'EL PLATANAL DE BARTOLO' と、ダンソーン「金婚式」'BODAS DE ORO' が、大ヒット。この2曲は、“ブエナ・ビスタ”で一躍脚光を浴びた若き日のイブラヒム・フェレールが歌うIBRAHIM FERRER/CHEPIN Y SU ORQUESTA ORIENTAL "MI ORIENTE"1956-61 (TUMBAO TCD-704(EP),1999)に収録。

 フェレールは、いまもむかしも、情感をこめてコッテリと歌うタイプではなく、ユーモアのこもった投げやりな感じの歌い方が特徴だから、本領はソン・モントゥーノでなくグァラーチャにあるのがよくわかる。独特のうねりをもつサックスとはじけるようなブラスが奏でるメリハリの効いたアンサンブルに、ズシリとくるパーカッションがかぶさって、40年代にはみられなかった強烈なグルーヴを紡ぎだしている。アップ・テンポの曲よりも、むしろミディアム・テンポのダンソーンでの黒っぽい粘りのあるビート感がたまらない。導入部がどこか日本のチンドンに通ずるダンソーン'ALTO VOLTAJE' 'EL ILLABO' でのチェピンのヴァイオリンは、ムーンライダーズの武川雅寛による裏町的な哀感(エレジー)あふれる旋律を思い起こさせたりもする。

 フリオ・クエーバ(クエバスともいう。最後のSはほとんど発音されない。)のオルケスタと抱き合わせでスペイン・ヴァージンからリリースされたORQUESTA DE JULIO CUEVAS / ORQUESTA GIGANTE DE CHEPIN "GRANDES ORQUESTA CUBANAS"(SONORA CUBANA/VIRGIN 8485662(EP),1999)は、61年の録音とあり10曲中7曲がトゥンバオ盤とダブっている。ただし、フェレールのヴォーカルはあまり聴けない。個人的な好みでいうと、フェレールよりも、ロベルト・ナポレスやカルロス・キンターナのほうがダンゼンいいと思う。よほどのマニアでないかぎり、まずはこちらの2枚から手をつけたほうがいいだろう。

 ほかにも、わたしが持っている範囲では、ORQUESTA DE CHEPIN Y SU SON ORIENTAL "LA BAYAMESA"(ORFEON CDL-16218(US).2001)と、オルケスタ・チェピン-チョーベン名義(おそらくまちがい)による、おそらく60年代後半の録音と思われるアルバム"SPECTACULAR DANZON"(RMM RMD82243(US),1998)がある。前者は60年代前半の録音と思われ、スペイン・ヴァージン盤の延長線上にある演奏はややまとまりを欠いており、しかも音の歪みがかなりひどい。後者は、タイトルのとおり、ダンソーン中心の構成で、ファンキー度はあまりないが日本のラテン歌謡を思わせるベタなムードが好きなひとにはおすすめできる。

 チェピンは、84年に77歳で世を去るが、かれの遺志はホセ・ラモーン・エルナンデスによって引き継がれ、同年に新生“オルケスタ・チェピン−チョーベン”として再スタート。97年録音のアルバム『チェピネアンド』"CHEPINEANDO"(DISCO CARAMBA CRACD125(JP)/LAST CALL 3046142(FR))で、かれらの現在の姿を聴くことができる。正直いって、このアルバム、チェピンの楽曲をとりあげたというだけで、中味はなんの変哲もないたんなるサルサ。いまだ最後まで聴き通したことがない。「チェピンなくしてチェピン−チョーベンなし」とあらためて実感した次第。


(5.16.02)


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by Tatsushi Tsukahara