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Artist

MARIANO MERCERON Y SUS MUCHACHOS PIMIENTA

Title

YO TENGO UN TUMBAO


YO TENGO
Japanese Title 国内未発売
Date 1940-1946
Label TUMBAO TCD-064(CH)
CD Release 1995
Rating ★★★★
Availability ◆◆◆


Review

 オルケスタといっても、後年のマンボのように、耳をつんざくようなトランペットのぶ厚いブラス・アンサンブルが畳みかけてくる激しさはない。どこまでも優雅にして華麗。同時期に活躍したオルケスタ・カシーノ・デ・ラ・プラーヤと似たところがないではないが、本盤収録のアフロの3曲を聴けば一目瞭然なように、デ・ラ・プラーヤよりもクセがなく、ずっと淡泊な印象。グァラーチャを得意としたようで、本盤でも18曲中8曲がグァラーチャだ。ほかに、ゆったりしたボレーロ調を7曲。

 キューバ南東部の港町サンティアーゴ・デ・クーバに生まれたマリアーノ・メルセローンが、ムチャーチョス・ピミエンタの前身であるパイパー・ボーイズを結成したのは1932年のこと。複数のトランペット、サックスやトロンボーンなどの金管楽器にキューバの打楽器を組み合わせた、キューバではもっとも早いアメリカン・ジャズ・スタイルのオーケストラであった。スイング・ナンバー、フォックス・トロットのようなダンス音楽、キューバの古典曲がおもなレパートリーだったという。

 その後、“マリアーノ・メルセローンとかれのムチャーチョス・ピミエンタ”(ペッパー・ボーイズ)と名を改め、よりキューバ色のつよい演奏をおこなうようになった。自作曲中心のレパートリーで、東部を中心に、一躍人気を獲得。同じサンティアーゴ・デ・クーバ出身のオルケスタ・チェピン−チョーベン("EL MERENGUITO" TUMBAO TCD-051)とともに、40年代のキューバを代表する2大オルケスタと称されるまでになった。

 本盤は、かれらが首都ハバナを訪れたさいにレコーディングした1940年から46年までの演奏全18曲を収める。当時の楽団専属歌手はカミーロ・ロドリゲスとロベルト・デュアニーであったが、なかでも12曲(とあるが実際は11曲ではないか)でメイン・ヴォーカルをとるロドリゲスがすばらしい。優雅にしてつややかな歌唱が、オルケストラが醸しだす端正にしてエキゾチックなサウンドとベスト・マッチ。アップ・テンポのグァラーチャにあっては、伴奏のまにまに身を任せるでもなく、かといってあえて抗するでもなく、悠然とマイペースで歌う。ちょっとヤクザなダンディズムとでもいえばよいだろうか。
 おそらくメルセローンの好みであったろうが、偽アフロ的な野性ムードをもつアフロ、またはソン・アフロにあっても、この点は変わりなく、土臭さがまったく感じられない。それはそれでオルケスタの個性になっていて、キライではないのだけれども‥‥。

 だが、白眉はなんといってもボレーロである。ミュート・トランペットにストリングスがからむボレーロ'NO TE ALEJES DE MI' と、メルセローンの甘美なクラリネットが印象的なボレーロ・ソン'ORACION DE AMOR' でのセンティメンタルなムードは、どこか20年代から30年代初頭にかけてのエリントン・サウンドに通じるところがある。
 そして、セプテート・ナシオナールアルセニオ・ロドリゲス楽団を渡り歩いた名歌手マルセリーノ・ゲーラをゲスト・ヴォーカルにむかえたゲーラ自作のボレーロ・ソン'A MI MANERA' の美しさといったら‥‥。また、ゲーラの手になるかれの代表作とされるグァラーチャ'PARE CONCHERO' の初録音も収録。この2曲は、ゲーラが晩年の1995年に、元ロス・コンパドレスの弟レイナルド・イエレスエロ、コンパイ・セグンドオマーラ・ポルトゥオンドらをゲストに招いてつくったソロ・アルバム"RAPINDEY"(NUBE NEGRA NN1.012, EP)にも再録。

 46年、メルセローンは、ムチャーチョス・ピミエンタを解散し、メキシコへ拠点を移す。同地で結成したオルケスタは、ベニー・モレーのバックをつとめ人気を集めた。あいかわらず優雅で小気味よいサウンド。
 なお、トゥンバオからはもう1枚、42〜43年の音源を集めた"NEGRO NANAMBURO"(TCD-050)が出ているが、残念ながら未聴。


(4.30.02)
 "NEGRO NANAMBURO" を先ごろ、ついに入手したのでひとこと感想を。
 ひさしぶりに聴くメルセローンはとろけるほどに甘美だった。これはメルセローン自身がリード・プレイヤー(テナーサックス&クラリネット)だったところから来ているにちがいない。スウィングを手本にした流麗なアンサンブルとは対照的に、キューバらしくメリハリの効いた打楽器がくり出すドライヴ感がすばらしい。また、カミーロ・ロドリゲスとロベルト・デュアニーを中心とするヴォーカルも色っぽくていうことなし。
 
 "YO TENGO UN TUMBAO" と本質的にサウンドのちがいはないが、注目したいのはアルセニオ・ロドリゲス作の'LLORA TIMBERO' チャノ・ポソ作の'NAGUE' が収録されていること。
 'LLORA TIMBERO' は、オルケストル・リベルシーデ在籍時のティト・ゴメスの十八番だったようで、後年、かれはエストレージャス・アレイートでもこの曲を歌っている("LOS HEROES" (ワーナー VPCR-19006/7) 収録)。ただし、そこではアルセニオの弟キケの作品とされているが‥‥。
 いっぽうの'NAGUE' は、ちょうど同じ時期にミゲリート・バルデースがマチートのアフロ・キューバンズとレコーディングしているので比較してみるとおもしろい("CUBAN RHYTHMS" (TUMBAO TCD-008) 収録)。ともに打楽器を強烈にフィーチャーした典型的なアフロ・キューバン・サウンドだが、こちらのほうがやや優雅な感じ。

 また、4曲でマルセリーノ・ゲーラがヴォーカルで参加しており、'PRIETITA''ARREBATADORA' の2曲を提供。これらはゲーラ晩年のアルバム"RAPINDEY" (NUEVENEGRA NN1.012) でも再演されている。

 マルセローンは、戦後、メキシコへ渡りベニー・モレーの伴奏をつとめたりしたが、合衆国に足を踏み入れることはついになかった。しかし、アルセニオ〜チャノ・ポソ〜ゲーラの渡米組との意外なつながりが発見できたのは収穫であった。


(11.29.03)


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by Tatsushi Tsukahara