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Artist

CHANO POZO

Title

EL TAMBOR DE CUBA



Japanese Title 国内未発売
Date 1939-1953
Label TUMBAO TCD-305 [3CDs+Booklet](EP)
CD Release 2001
Rating ★★★★★
Availability ◆◆◆


Review

 1947年1月にニューヨークへ渡ってのち、ディジー・ガレスピーのビ・バップ・ビッグバンドに加入し、アフロ・キューバン・ジャズを生みだした最大の功労者であるにもかかわらず、翌48年12月2日、ハーレムのバーでケンカして34歳の若さで殺害された、伝説のコンガ奏者の軌跡を豊富な写真と詳細な解説(スペイン語と英語)付きで収録したトゥンバオだからこそ実現できたCD3枚組の労作。完全なディスコグラフィではないし、聴き覚えのある演奏も少なくないのだが、こうして流れに沿って体系的に聴いてみると、とても新鮮な印象を受ける。

 1枚目(TCD-306)は、コンポーザーとしての側面に焦点を当て、他のミュージシャンによる歌と演奏が収める。チャノにかんするマリオ・バウサのインタビューのあと、39年にオルケスタ・デ・ラ・プラーヤがとりあげた出世作'BLEN,BLEN,BLEN' で幕を開ける。歌うは、チャノの終生の友であり理解者であったミゲリート・バルデース。ミゲリートは、デ・ラ・プラーヤのほかにも、自己のオルケスタ、ザビア・クガード楽団、マチート楽団、オルケスタ・ハバナ−リバーサイドなどをバックに全23曲中10曲でヴォーカルをとっている。
 ほかにも、ミゲリートの唱法の流れを汲むカスカリータ、ザビア・クガード、マチート両楽団でミゲリートの後がまに座ったプエルト・リコ人、ティト・ロドリゲスなど、ディジー・ガレスピーの演奏を除けば、ミゲリートとつながりが深いミュージシャンたちの演奏である点が注目される。

 なかでも興味深かったのは、プエルト・リコの名門マルカーノのグループをバックにティト・ロドリゲスが歌った2曲。チャノの音楽といえば、アフロっぽいパーカッシブなサウンドを想像しがちだが、ここでは木管を効果的に使用したいかにもプエルト・リコ的なまろやかなサウンドを展開。クレジットを見なければ、プエルト・リコ人の作品と感ちがいしてしまうほど。
 また、オーケストラで演奏されるのが一般的なキューバップの代表的ナンバー'TIN TIN DEO' を、ガレスピーがセクステットで演奏する。クラベスによる5つ打ちを用いたキューバ的な要素とジャズの要素とが絶妙に混じり合い、聴きなれたオーケストラ版にはない軽妙洒脱さがある。

 2枚目(TCD-307)は、自己のコンフントをはじめ、みずから演奏に参加したキューバ音楽を収録したもので、このボックス・セットのハイライト。冒頭の8曲は40、41年録音のハバナ-カジノ・オーケストラとオルケスタ・オテル・ナシオナールでの演奏。ジャズからの影響が感じられるダイナミックなルンバで、どちらも水準以上の内容だが、コンフント・クババーナでのパタートに似て、チャノのひときわデカイ音のパーカッションがまわりを完全に圧倒してしまっている。コンガの迫力に気をとられ、メロディが耳に入ってこないのだ。それでも、デ・ラ・プラーヤの2年後に録音された自作自演による'BLEN,BLEN,BLEN' は聴きものといえよう。

 時代が一気に5年下ったチャノとかれのコンフント・アズールによる4曲には、なんと!当時アルセニオのコンフントに在籍していた名手フェリックス・チャポティーンがトランペットで参加。トレスも加わり、アルセニオのサウンドにかなり近い濃厚でヘヴィなソン・モントゥーノが披露される。ここでもチャノのコンガはスゴイけれど、今度は音楽のなかにうまくとけ込んでいる。マチートのアフロ・キューバンズや、カスカリータをヴォーカルに迎えたデ・ラ・プラーヤもとりあげた'EL PIN PIN' の自作自演を含む。

 次いで、46年末から翌年はじめにハバナで録音された親友ミゲリート・バルデースとの共演曲が2曲。1曲はチャノをフィーチャーしたコンフント・スタイル、もう一方はストリングスも加わったフル・オーケストラの伴奏。後者での主役はミゲリート、チャノはわき役に徹している。ちなみにミゲリートは、この自作曲'SANGRE SON COLORA' を2年後、ニューヨークで再録している(TUMBAO TCD-025)。

 47年1月なかば、ハバナでチャノらとのレコーディングを終えてニューヨークへ帰っていったミゲリートの後を追って、数日後チャノはニューヨークへと旅立つ。そして、チャノと足並みをそろえるかのように、アルセニオ・ロドリゲスが眼の治療のために、ニューヨークに一時滞在。ここに、チャノ・ポソとアルセニオ・ロドリゲスという巨人同士の顔合わせによる伝説的なセッションが実現する。
 以下の11曲は、アルセニオがニューヨーク滞在時の47年2月4日から12日にかけておこなわれた3つのセッションの記録である。チャノ・ポソとリトゥモ・デ・タンボーレスによる4曲は、ミゲリートに、アルセニオの弟のキケがコンガで参加し、ヴォーカルとパーカッションとのコール・アンド・レスポンスのみによる土臭い民俗的なルンバを展開。セールスを度外視したハード・コアな演奏だ。

 つづく4曲は、ミゲリートより紹介されたマリオ・バウサがディレクターを務めるマチートのオルケスタ(アフロ・キューバンズ)を借り受けての演奏。ヴォーカルは、マンボでスターダムにのし上がる前のティト・ロドリゲス。マンボがニューヨークで爆発するのは49年から50年だから、チャノとの共演によってティトはさぞや多くのものを受け取ったにちがいない。ここでのチャノのプレイは鬼気迫るものがある。1曲のみアルセニオがトレスで参加。例によってすさまじいプレイを披露。アルセニオが52年にニューヨークへ正式に移住してから、かれの右腕になったレネ・エルナンデスのピアノもいい味を出している。以上4曲は"LEGENDARY SESSIONS" (TUMBAO TCD-017)にも収録。

 3つめは、“チャノ・ポソとかれのコンフント・ウィズ・トレスの魔術師”名義の3曲。「トレスの魔術師」とはいわずもがなアルセニオのこと。ヴォーカルにはチャノと同じころにニューヨークへ移住したと思われるアルセニオ楽団出身のマルセリーノ・ゲーラが参加。内容についてはあえて述べるまでもなかろう。ちなみ'SACALE BRILLO AL PISO TERESA' のみ、"LEGENDARY SESSIONS" (TUMBAO TCD-017) には未収録。

 2枚目の最後を飾る2曲は、ガラリと雰囲気が変わって、女性歌手オルガ・ギジョートがチャノとマチート楽団をバックにしっとりと歌ったボレーロを2曲。プロモートのためにニューヨークを訪れたオルガをチャノに紹介したのは、2人の共通の友人であったミゲリート。最近になって気づいたことだが、彼女の歌は、中村とうよう氏選曲による傑作コンピレーション『わが心のボレーロ』(オーディブック AB114)に2曲(うち1曲はミゲリートとのデュエット曲)収録されていた。青江美奈を思わせるハスキー・ヴォイスと独特の節まわしが魅力的だったが、ここではそれよりも以前の録音のようで、声がずっと若々しい。バックの健闘も手伝ってなかなかの好演ではあるのだが、いかんせんこのアルバムのなかでは浮き上がってしまっている。

 3枚目(TCD-308)は、ディジー・ガレスピーのオーケストラをはじめとするニューヨークのジャズ・ミュージシャンとの共演曲を中心に収録。
 チャーリー・パーカーとともに40年代のビ・バップ・ムーヴメントをリードしたガレスピーは、39年にキャブ・キャロウェイ楽団に在籍していたおり、かれと同じトランペット・セクションにいたキューバ出身のマリオ・バウサをつうじて、アフロ-キューバン・リズムを知り、そのポリリズムにつよく魅せられていた。そのバウサをつうじてガレスピーがチャノを紹介されたのが47年春のこと。たちまち意気投合した2人は、'MANTECA' 'CUBANA BE' 'CUBANA BOP' など、ジャズとアフローキューバンを融合した“キューバップ”を創造、同年9月のカーネギー・ホールでのコンサートで大成功を収める。

 ここでは、ガレスピーらのインタビューをはさみながら、そのときのライヴ・テイクの一部と、RCAビクターでのスタジオ・テイク計11曲とともに、ミルト・ジャクソンやジェイムズ・ムーディのコンボに参加した6曲を収録。
 わたしがキューバ音楽をはじめて意識したのは、高2のとき、これらの演奏を収めたLPを買ったのがきっかけだった。当時はかなり刺激的に感じたものだが、耳に馴染んでしまっているせいだろうか、いまとなっては思ったほどには深く心に響いてこない。アフロ・キューバンのリズムをこよなく愛したガレスピーといえども、アフロ・キューバンを十分に消化しジャズの流れを根本から変革したとたとはいいがたく、ましてやミルト・ジャクソンやジェイムズ・ムーディの演奏にいたっては、ジャズにエキゾティシズムの風味をもたらした程度でしかないと思う。チャノがもっと生きていれば、状況は変わっていたのにとつくづく悔やまれる。

 なお、そのほかボーナス・トラックとして、ミゲリート・バルデース、ペレス・プラードベニー・モレーがチャノの死後に捧げた3曲も収録。キューバ音楽、ジャズ・ファンのみならず、すべてのブラック・ミュージック・ファンに聴いてもらいたいアルバムである。


(7.5.01)


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by Tatsushi Tsukahara