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Artist

CHAPPOTTIN Y SU CONJUNTO

Title

SABOR TROPICAL



Japanese Title サボール・トロピカル
Date the late1950s
Label PヴァインPCD2143(JP)
CD Release 1990
Rating ★★★★☆
Availability ◆◆◆◆


Review

 キューバ音楽に偉大なる足跡を遺したアルセニオ・ロドリゲスが、弟でトゥンバドーラ(コンガ)奏者のキケ、それにベーシストのラサーロ・プリエートらを伴ってニューヨークへ移住したのは1952年春のこと(あるいは51年冬ごろか)。あとに残されたコンフントをアルセニオから任されたのは、トランペッターのフェリックス・チャポティーンだった。

 チャポティーンは、アルセニオ楽団に加入する前は、20年代からセプテート・アバネーロ、セステート・クマナールなど、ソン草創期のバンドを渡り歩いたいわばソンの申し子のような人物(TUMBAO TCD-300ARHOOLIE CD7003)。ちなみにアルセニオより2歳年上の1909年生まれ。
 もうひとつの顔であるミゲリート・クニーもアルセニオ楽団出身。クニーがアルセニオのコンフントに所属していたのは、大戦前のごく短期間だが(正確にはチャポティーンがアルセニオからコンフントを引き継ぐ直前、ほんの一時期加入)、クニーのファンキーでコクのあるヴォーカルが、アルセニオ・サウンドにもたらした貢献はけっして小さくなかったはず(HARLEQUIN HQ CD 64)。

 アルセニオは通常3、4人のヴォーカリストに交代でリードをとらせていたが、チャポティーンは、どの曲でもクニーをメインにすえている。このことは、チャポティーンがクニーをいかに高く買っていたかを物語っている。ところが、意外なことに、クニーがコンフント・チャポティーンのメンバーだったことはない。チャポティーン〜クニーのコラボレーションがあまりに堂に入っていて、その後20年以上も第1線で活躍しつづけたチャポティーン楽団のスタイルをかたちづくったものだから、ふたりがいつもいっしょに活動してきたように思われてしまうのも無理からぬ話だ。ふたりの友情は、チャポティーンが1983年に76歳で亡くなるまで終生つづいたが、その翌年、あとを追うようにクニーも64歳の生涯を閉じた。

 本盤は、アンティージャ原盤によるチャポティーン〜クニーの代表作とされる1枚。録音年ははっきりしないが、曲の感じから50年代半ばから後半にかけてと思われ、アルセニオ・サウンドの継承者にふさわしいアフロ・キューバン色にあふれた熱いサウンドが全編に展開される。ソン・モントゥーノ、グァグァンコー、グァラーチャ、それにボレーロと、きらびやかさのなかにもシブい男らしさを感じさせる極上のキューバ音楽だ。当時流行していたチャチャチャにも取り組んでおり、クニーのひょうきんなキャラクターとあいまって、アルセニオの音楽よりも明るくおおらかで祝祭的な雰囲気が伝わってくる。

 いずれも佳曲ぞろいだが、なかでもリリー・マルティネスが作曲した'YO SI COMO CANDELA' は、79年の『エストレージャス・デ・アレイート』(ワーナー VPCR-19006/7)でもとりあげられているかれらの代表曲。チャポティーンとクニーのほかのメンバーは不明だが、ソロのときのかけ声からピアノは元アルセニオ楽団のリリー・マルティネス、トレスはアルトゥーロ・アルベイであることがわかる。

 日本では、本盤以外にマイペ原盤による60年前後のアルバム『ムシカリダ・エン・セピア』(Pヴァイン PCD-2229)、それにエグレムの、より新しい音源をもとに日本で独自編集した『フェリックス・チャポティーン&ミゲリート・クニー』(テイクオフ TKF-CD-12)の2枚が発売されている。『サボール・トロピカル』と甲乙つけがたい好盤だが、アルセニオの場合とちがい、この3枚をもっていれば十分なような気がする。


(12.06.01)



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by Tatsushi Tsukahara