World > Latin America > Caribe > Cuba

Artist

ESTRELLAS DE AREITO

Title

LOS HEROES



Japanese Title ロス・エロエス
Date 1979
Label ワーナー VPCR-19006/7 [2CDs] (JP)
CD Release 1999
Rating ★★★★☆
Availability ◆◆◆◆


Review

 1979年、キューバの国営会社エグレム傘下のアレイート・レーベルに所属する新旧30数名のミュージシャンたちが繰り広げた歴史的なデスカルガ(ジャム・セッション)の記録。当初5枚のLPで発売されたのを、92年、日本のヴィヴィドが世界に先駆けて3枚組としてCD化(ヴィヴィド VSCD-901〜3)。99年、折りからの“ブエナ・ビスタ”ブームに便乗して、イギリスのワールドサーキットが、マスター・テープからリマスタリングして2枚組でリリースしたのが本盤。

 ヴィヴィド盤にはいっていた10分近い「南京豆売り」'EL MANISERO' が、収録時間の関係で含まれていないのは致命的だし、曲順も大幅に変更されオリジナルになれた耳には聴きづらくなった。また、6曲で20秒から2分近くも演奏時間が短縮されている(反対に2曲で長くなっている)。これは、CD化にあたってロング・ヴァージョンに差し替えられたヴィヴィド盤の「グァヒーラ・グァンタナメーラ」'GUAJIRA GUANTANAMERA' は別として、チャポティーンのソロが2倍に上増しされていた「ヨ・シ・コモ・カンデーラ」'YO SI COMO CANDELA' のように、オリジナル盤にあった余計なテープ編集を除いたせいなのかもしれない。

 音質が良くなった上、正確な録音年月日や参加ミュージシャンがはじめてあきらかになり、さらに訳詞や貴重な写真満載のブックレットが付いているのだからうれしいかぎりだ。でも、ホントのことをいうと、テープの継ぎ足しは解説を読むまであまり気になっていなかったし、曲はできるだけ長く、1曲でも多くはいっていたほうがいいんで、ワールドサーキット盤のブックレットに依りながら、もっぱらヴィヴィド盤を聴いています。

 さて、この奇跡的な名盤が生まれたいきさつはこうだ。混血音楽のお手本のようなキューバの音楽は、革命後の経済封鎖のために、かつての影響力を失っていき、代わってニューヨークなどに移住したラテン系のひとたちから生まれたサルサが台頭してきた。その間、キューバ国内では、チャチャチャのようなダンソーン系の音楽、それからフィーリンと呼ばれるバラードが主流になり、ソン・モントゥーノやグァグァンコーのような黒人系のコクのある音楽は徐々に主流からはずれていった。

 そんなとき、熱心なキューバ音楽ファンであったパリ在住のアフリカ人プロデューサー、ラオール・ディオマンデーの働きかけで、エグレムのファン・パブロ・トーレス(トロンボーンでも参加)がキューバ中の一流ミュージシャンを召集して実現したのが、この前代未聞のセッションだった。
 直接のひきがねになったのは、79年3月にハバナでおこなわれたファニア・オール・スターズのコンサートらしい。このコンサートをみたキューバのミュージシャンたちは「この程度ならオレたちのほうがずっといい演奏ができる」と自信をもったといわれる。このコンサートの模様は、FANIA ALL STARS "HABANA JAM"(FANIA JM554(JP))としてアルバム・リリースされた。
 70年代はじめに、小沢昭一が滅びつつある庶民芸能を後世にまで語り伝えていくために「日本の放浪芸」をドキュメントしたのに似て、キューバ音楽の絶頂期を知るベテランたちが存命中の“いまのうちに”実現しておきたかったと、トーレスは語っている。事実、ラファエル・ライも、チャポティーンも、ミゲリート・クニーも、この録音後まもなく世を去っている。

 デスカルガを最初にアルバムとしてリリースしたのは、50年代後半にフリオ・グティエーレス、ニーニョ・リベーラ、カチャーオらがパナルトに残した一連の『キューバン・ジャム・セッション』(ボンバBOM607、BOM306、BOM307、BOM308)だった。そのときのメンバーだったトレスのニーニョ・リベーラオルケスタ・アラゴーンの中心メンバーでフルートのリチャード・エグエス、トゥンバドーラのタタ・グィネス、グィロのグスタボ・タマヨらが参加しているのがなによりも、うれしいではないか。さらに、ヴァイオリンにはオルケスタ・アラゴーンのリーダー格のラファエル・ライや、チャチャチャの創始者エンリケ・ホリンらが参加。ピアノには“ブエナ・ビスタ”で一躍脚光を浴びたルベーン・ゴンサレスがいまとは比べものにならないすばらしいプレイを聴かせる。それから、ソン・モントゥーノの名手ピオ・レイバのシブくてファンキーな歌声も忘れちゃいけない。

 だが、白眉はやはりなんといってもフェリックス・チャポティーンミゲリート・クニーの参加だろう。チャポティーンは当時最年長の70歳だったが、代表曲のひとつ「ヨ・シ・コモ・カンデーラ」をチャポティーンとクニーの名コンビで再び聴けるというだけでファンには涙ものだ。また、ベテランたちのがんばりにこたえるかのように、アルトゥーロ・サンドバル、パキート・デリベラらの若手もすばらしい熱演を聴かせる。

 本盤が名盤である理由は、演奏内容もさることながら、ソン・モントゥーノとグァグァンコーを中心とした選曲のすばらしさにある。エストレージャス・デ・チョコラーテの名演で知られる「グァグァンコー・ア・トドス・ロス・バリオス」'GUAGUANCO A TODOS LOS BARRIOS'「グァグァンコーをやろうぜ」'QUE TRAIGAN EL GUAGUANCO' をはじめとするペドロ・アランソーラの作品が、14曲中(ヴィヴィド盤では15曲)5曲も選ばれているのは特筆すべきことだ。
 また、ページョ・エル・アフロカーンのモザンビーケみたいに変身したベニー・モレーの名曲「マラカイボ・オリエンタル」'MARACAIBO ORIENTAL'、アルセニオの弟“キケ”が書いたファンキーな「ジョラ・ティンベーロ」'LLORA TIMBERO'、不滅のスタンダード「グァヒーラ・グァンタナメーラ」「祖国に捧げるソン」'PARA MI CUBA YO TRAIGO UN SON'、延々と繰り返されるエレキ・ギターのリフが心地いい「山の呼び声」'EL PREGON DE LA MONTANA' など、かゆいところに手が届く心憎い選曲といえよう。

 サルサへの対抗意識から、本家本元のすごさを世のひとびとに知らしめてやろうという意気込みと熱気が、録音から20年以上を過ぎたいまもスピーカーごしにも生き生きと伝わってくる。“ブエナ・ビスタ”でキューバ音楽に魅せられたひとはぜひ聴いてみてください。

 なお、番外編として、ほぼ同じメンバーによるベネズエラ録音の第6集が"ESTRELLAS DE AREITO [VOL.4]"(EGREM CD0277(CUBA),1998)として発売されている。ここではピアノで参加しているルベーン・ゴンサレスがプロデューサーを兼ねる。ハイライトは、ベニー・モレーの名唱で知られる'SANTA ISABEL DE LAS LAJAS' 'MUCHO CORAZON'マルセリーノ・ゲーラのボレーロの名曲'CONVERGENCIA' をエレガントに綴った8分19秒のメドレー。あとラストの'BILONGO' 。この曲はぜったい持ってるんだが、どのアルバムに収録されていたかどうしても思い出せない。気持ち悪い。ご存じの方はぜひお知らせください。ほかにも4分から6分前後の比較的コンパクトな演奏ばかり全7曲収録。まとまりとキレのよさではこちらに軍配。


(12.24.01)



back_ibdex

前の画面に戻る

by Tatsushi Tsukahara