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World > Latin America > Caribe > Cuba

Artist

MIGUELITO VALDES WITH MACHITO AND HIS AFRO-CUBANS

Title

CUBAN RHYTHMS



Japanese Title 国内未発売
Date 1942
Label TUMBAO TCD-008(CH)
CD Release 1992
Rating ★★★★★
Availability ◆◆◆


Review

 ベニー・モレーと並んで、キューバ音楽界が生んだ最高の歌手だが、そのケレン味のつよい歌いかたから、どうしても好きになれないというひとは意外に多い。でも、このことはミゲリート・バルデースが一流のエンターテイナーであったことの証明でもあるのだ。

 “キューバのフランク・シナトラ”というニックネームが見事にいいあてているように、かれのパフォーマンスにはわざとらしいまでの仰々しさがつきまとっている。「アフロ」とよばれる、白人が黒人の音楽や習俗を勝手にイメージしてつくり上げた偽アフロ音楽(「国境の町」とか「ジャングル大帝」のテーマ曲を思い出してもらいたい)を得意としたミゲリートは、やはり黒人ではなくスペイン系の白人(正確には、父はスペイン人、母はメキシコのユカタン系)であった。元ボクサーで、シナトラ同様、ちょっとヤクザなあんちゃんだったかれは、幼なじみにチャノ・ポソがいたように、少年期から黒人系の音楽や文化に親しんでいたという。黒人文化の側にいながら黒人でなかったかれが「アフロ」という音楽を選択したのはある意味で必然だったといえよう。そのあたりが60年代のブリティッシュ・ロックのミュージシャンたちが黒人系のブルースをまねしたのとちょっと事情がちがうところだ。

 さらに、ハバナのラスベガスといわれたカシーノにあった高級ナイト・クラブの専属バンド、オルケスタ・カシーノ・デ・ラ・プラーヤの歌手をつとめたことが、そのエキゾティシズムに拍車をかけたといえよう。エキゾティズムというのは、西欧の視線で非西欧を描写したものだから、ニセモノにはちがいないが、アルセニオ・ロドリゲスの音楽のように、いったん外部の視線によって対象化されたものを、反転させてふたたびコアな方向へとりこんでいくことで、キューバ音楽は極上のポピュラー・ミュージックになりえたのだと思う。

 ミゲリートは、40年にデ・ラ・プラーヤを脱退すると、渡米し、マリオ・バウサの推薦でザビア・クガード楽団の専属歌手として迎え入れられる。このとき、クガード楽団とレコーディングした、白人女性マルガリータ・レクォーナ(著名な作曲家エルネスト・レクォーナの姪で、「タブー」'TABOU' の作者でもある)の作品「ババルー」'BABALU' は、ミゲリートの名声を一躍、全米中にとどろかせることとなった。以後、かれは“ミスター・ババルー”の愛称で親しまれるようになる(TUMBAO TCD-002に収録)。「ババルー」のレコーディングは、デ・ラ・プラーヤ時代(TCD-003)に次いで2度目にあたり、以後、ノロ・モラーレス(TCD-025)や自分自身の楽団(TCD-025)などと合わせるとわかっているだけでも通算7回にも及ぶ。

 クガード楽団は、当時、ニューヨークで一流のウォルドルフ・アストリア・ホテルの専属バンドだったが、そこで2年間歌ったあと、ミゲリートは、同楽団にいたマチートとかれの妹婿バウサが結成した楽団アフロ・キューバンズと組んでデッカにレコーディングをおこなった。
 チック・ウェッブやキャブ・キャロウェイの楽団でジャズの手法を身に着けたバウサをミュージカル・ディレクターにむかえたアフロ・キューバンズのサウンドは、重厚かつダイナミックななかにも、野卑さがあって、ミゲリートの黒っぽく濃厚な歌いっぷりと相性はぴったり。ミゲリートは、キューバ時代よりも声に厚みと広がりが加わり、表現力にますます磨きがかかかってきた。ふところの深い余裕しゃくしゃくの歌いこなしは、アメリカでの成功に裏打ちされた自信から来るものなのか。

 十八番の'BABALU' こそないが、有名曲'TABOU'(カトちゃんの「チョットだけよ」のテーマ曲でおなじみ)ほか、チャノ・ポソの'ZARABANDA' 'NAGUE'、アルセニオ・ロドリゲスの'YO SALUDA'ボラ・デ・ニエベの名唱で知られるグレネーの'DRUME NEGRITA' などのアフロを中心とする全16曲は、むせかえらんばかりの濃厚なエキゾティシズムの香りを放っている。

 ところで、98年に中村とうよう氏の選曲により『アフロ・キューバンの真髄〜マチートとミゲリート1941-1958』(UNIVERSAL VICTOR MVCE-24123)というアルバムが国内発売された。ここには、40〜50年代のマチート楽団の演奏とともに、本盤から代表的な8曲が収録されている(さすがの選曲センス!)。ほかにも、49年に自身の楽団でレコーディングした代表曲'BABALU' を含む4曲が選ばれているが、これらはノラ・モラーレス楽団と共演した51年のセッションとカップリングした別のトゥンバオ盤 "MR. BABALU"(TUMBAO TCD-025)と重複している。残りの13曲は、マチート楽団の単独演奏で、こちらの演奏内容もかなりよい。収録時間は75分とたっぷりあるので、よほどのミゲリート・ファンでないかぎり、この国内盤をもっていれば、40年代、ニューヨークに開花したキューバ音楽の濃厚な雰囲気を十分に味わってもらえると思う。


(4.20.02)


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by Tatsushi Tsukahara