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Artist

NORO MORALES AND HIS ORCHESTRA

Title

RHUMBAS AND MAMBO


morales
Japanese Title 国内未発売
Date 1945-1950
Label TUMBAO TCD-018(CH)
CD Release 1993
Rating ★★★☆
Availability ◆◆◆


Review

 ノロ・モラーレスの音楽は、ザビア・クガード、マチートペレス・プラードとならんで、どちらかというのわたしの苦手なタイプに属する。かれらに共通するのは、キューバ音楽を下地にジャズのイディオムを大幅にとりいれたダイナミックなオーケストレーションを売りにしたアフロ・キューバン・サウンドを演奏したことである。
 
 メキシコから火が点いたせいか、ペレス・プラードの音楽にはどこかいかがわしさがあってまだ救いがあるが、他の三者はいかにもニューヨークで生まれましたって感じの王道のアフロ・キューバンをやっていて、意外性はカケラもなく聴いていくうちにだんだん息が詰まってくる。
 ちなみに後三者は、いずれもキューバからやって来たミゲリート・バルデースを歌手としてむかえた経験を持つ。とくにミゲリートとマチート楽団が共演した42年の録音はキューバ音楽史上にその名をとどめる屈指のセッションといっていい。

 プエルト・リコのミュージシャンの家庭に生まれ、幼いときから音楽の英才教育を受けてきたノロ・モラーレスは、15歳のときにはすでに地元の劇場で無声映画の劇伴音楽を演奏するなど早熟ぶりを発揮。1935年、24歳になったモラーレスは、兄弟らとともにニューヨークへ移住すると、4年後の39年には念願の自分の楽団を結成するにいたった。
 ときにニューヨークはルンバ時代。ジャズのダイナミックなビート感覚を大胆にとりいれたかれのサウンドで、マチートのアフロ・キューバンズとともに'GONE CATS'(「ジャズ気違い」ぐらいの意味だろう)と称された。
 
 本盤は、ザビア・クガード楽団にとって代わって、ニューヨークを代表するアフロ・キューバンの楽団にのぼりつめた45年から50年までの演奏を収める。ちょうど、30年代はじめにニューヨークに上陸したルンバが大戦をはさんで衰退し、48年にペレス・プラード楽団がマンボをひっさげて世界を席巻する過渡期にあたる。しかし、ティト・ロドリゲスをヴォーカルにすえた45年録音の3曲と、47〜48年録音とクレジットされたズバリ'MAMBO'とタイトルされた楽曲を含む3曲の録音とではサウンド面でさして大きなちがいが感じられないのはなぜだ!?
 
 ところが、49年録音の'PONCE''110th STREET AND 5th AVENUE'あたりから次第にマンボ色が濃くなってきて、50年録音の9曲にいたっては全身すっかりマンボ漬け。そして、おもしろいのはマンボの比重が高くなるにつれて、歌の比重が軽くなってくるということ。つまり「行け行けどんどん」が強まってきて、たゆたいがなくなってくるのだよ。ペレス・プラードの場合、谷啓の「ガチョ〜ン」に匹敵するお約束の「ウーッ!」によって、たび重なるワン・パターンにもわたしらの心に寛容を与えてくれていたが、モラーレスといったらガチガチのカタブツ。「許さん」という気になってしまう。
 
 それでも許せちゃうのは、モラーレスの力強さと繊細さを兼ね備えたピアノ・プレイがあればこそ。オーディブックから出ていた『わが心のボレーロ』(オーディブック AB114(JP))の冒頭と締め括りに中村とうよう氏が選んだのは、モラーレスのピアノであった。ちなみに演奏曲は、ラファエル・エルナンデスの名作「水晶の鐘」'CAMPANITAS DE CRISTAL' と、メキシコの女流ソング・ライター、マリーア・グレベール作の「私は君のもの」'TUYO SOY'。(『わが心のボレーロ』の改訂盤といえる『歌の国プエルト・リコ』(RICE ASR-414(JP))では、「私は君のもの」がエルナンデスの「よこしまな嫉妬」'MALDITOS CELOS'に差し替えられている。)

 最後にまとめ。クガードも、マチートも、ペレス・プラードも、そしてモラーレスも、いい歌い手がいてこそ輝くのであって、ほんらい裏方であるべき楽団が歌い手をさしおいて前面に出てきてしまうのは、ジャズならまだしもラテン音楽にあっては困りものというほかない。サルサの失敗は、歌と演奏があたかも対等であるかのように偽装しつつも、両者は遊離していて、根の部分でこの悪いクセを引き継いでしまったところにあるのではなかろうか。


(3.1.03)



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by Tatsushi Tsukahara