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Artist

BOUKMAN EKSPERYANS

Title

VODOU ADJAE


boukman
Japanese Title ブークマン・エクスペリアンス
Date 1989
Label MANGO 16253 9899-2(US) / アイランド PSCD8003(JP)
CD Release 1991
Rating ★★★☆
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Review

 コンパ一色だったハイチのミュージック・シーンに“ララ”とよばれるカーニヴァルの音楽をとりいれ一石を投じたのは、ミニ・オール・スターズが86年にリリースした『ララマン』だった。ララは、西アフリカのダオメーに起源をもつ文化に他のアフリカ地域の文化やカトリックの要素などが混じり合ってハイチに根づいた宗教信仰ヴドゥン(英語ではヴードゥー)とつながりをもつ。アメリカ文化のもとではいかがわしい邪教として蔑まれているヴドゥンであるが、ヴドゥンとララこそハイチ文化の根幹をかたちづくるものなのだ。

 ハイチ革命の口火を切った1791年の奴隷反乱を指導したヴドゥン司祭、ブークマン・デュッティにちなんで命名されたブークマン・エクスペリアンスは、ヴドゥンとララの伝統を現代に引き寄せて新しいヘイシャン・ミュージックの地平を示そうとした。
 伝統的な太鼓にシンセの打ちこみを絡ませた、ハチロク中心のヴドゥンの複雑なリズムにのせて繰り出される陽気なメロディはララのカーニヴァルをつよく意識したつくりになっていて、それまでのコンパとは一線を画する。そこにはヴドゥンやララの音楽性のみならず、その精神をも現代に蘇らせようという意気ごみさえ感じられる。レゲエがその精神的バックボーンをラスタファリアニズムに求めたのにならったとみるのはうがった解釈であろうか。

 バンドは、リード・ヴォーカル、リード・ギター、ベース、ドラム・プログラミングを受け持つダニエル・ボーブリュンと、ヴォーカル、キーボード、太鼓を受け持つテオドーレ・“ロロ”・ボーブリュン・ジュニアの2人が中心メンバーで、ほとんどすべての作・編曲を手がける。ハイチ人が置かれている貧困や差別などへの憤りとそうした境遇からの脱却を鼓舞すると同時に、アフリカを故郷にもつクレオールとしての誇りと連帯を呼びかけるメッセージ色の濃い内容の歌詞がやたらと目につくのは、かれらがたんなる商業主義バンドでないことの証明といえよう。

 しかし、わたしがクレオール語を解さないせいもあろうが、かれらとほぼ同時期に脚光を浴びたララ・マシーンの音楽(RARA MACHINE / "BREAK THE CHAIN" (SHANACHIE 64038))同様、どうもいまひとつしっくりこないのだ。いちばんの原因は、どうやらヴォーカルのマズさにある。50、60年代のヌムールのバンドのようなとろけるような甘美さもなければ、70、80年代のタブー・コンボのようなファンキーな野太さも感じられない。どちらかというとレゲエからの影響がつよいようで、聴いていて心地よくない。また、ベタな泣きのギター・ソロやペラペラの打ちこみも重い歌詞の内容とはうらはらにサウンドを手応えのないものにしてしまっている。本盤がはじめて世界リリースされた91年にはもの珍しさも手伝って、それなりのインパクトがあっただろうが、10年以上の時間の風雪に耐えうるだけのパワーをそなえたアルバムであるとはいいがたい。

 なお、翌年リリースされたメジャー第2作"KALFOU DANJARE" (MANGO 162-539 927-2)も高い評価を受けたが(たしか日本盤もリリースされたと記憶しているが持っていない)、そのあと、コンゴのルンバ・ロックにアプローチしたり、九ちゃんの'SUKIYAKI' をとりあげたりしたものの、評判はかならずしもよくはなかったようだ。


(9.9.02)

 ブークマンが世界の音楽シーンから消えて久しい2005年1月、ヤフーオークションで"KALFOU DANJARE" を手に入れた。国内外でとっくに廃盤のはずなのに入札したのはわたしひとりというさびしい(バイヤーとしてはありがたい)状況だった。

 ハイチの伝統と現代性を融合させた前作の路線をさらに発展させて、よりゴージャズに仕上がっている。そこで思い出したのが、ブラジル・バイーア地方出身のカルリーニョス・ブラウンの音楽だった。リリースから10数年経過しているせいもあろうが、表面上の目新しさやゴージャスさばかりがきわだち、核となるべき部分がいささか脆弱に感じられてならない。この時代の雰囲気でもあった「カーニヴァル的乱痴気騒ぎ」が、いまでは西欧世界にたいする植民地的すり寄りのように聞こえてしまい、正直あまり楽しくなれない。さらに10年後に聴くとけっこう楽しめるかもしれない。


(1.9.03)


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by Tatsushi Tsukahara