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Artist

MINI ALL STARS

Title

PURE GOLD


pure gold
Japanese Title ピュア・ゴールド
Date 1981
Label MINI MRS1126-7-8(US) / PヴァインUPCD-11/2(JP)[2CDs]
CD Release 1989/1990
Rating ★★★★★
Availability ◆◆


Review

 1977年、ニューヨークに拠点を構えるコンパのレーベル、ミニ・レコードのオーナーでありプロデューサーであったフレッド・ポールは、同レーベルに所属するトップ・ミュージシャンたちをスタジオに集めて1枚のアルバムをつくった。こんにち『ファースト・テイク』のタイトルでCD化されているミニ・オール・スターズ(以下MASと表記)の処女作"CE PECHE"である(Pヴァイン PCD-2202(JP))

 60年代に興った「ミニ・ジャズ・ムーヴメント」の流れを汲むモダン・コンパをベースにしながら、ヘイシャン・ミュージック(ハイチの音楽)の伝統と、ロック、R&B、ジャズなどの要素をとりいれたこのアルバムは、ミニ・レコードはじまって以来のヒットを記録した。なかでもブーガルーのピート・ロドリゲスのヒット曲'BOBBY'をカリプソのリズムにのせて、トト・ネセシテがフレンチ・クレオール語と英語を織り交ぜながらR&Bっぽく歌ったラストの'I'M LAUGHING'は、エディ・リロイのスペーシーなキーボード・プレイともども、これまでのヘイシャン・ミュージックの数歩先をいった演奏といえるだろう。
 
 ファースト・アルバムから3年後にリリースされた『ウィ・ガッタ・ムーヴ・オン』(Pヴァイン PCD-2204(JP))は、故郷を離れニューヨークなど異国の地で適応しながら暮らすハイチ人の心情をそのままタイトルにしたもの。パリに活動拠点を置くサリフ・ケイタの曲に'NOU PAS BOUGER'「動くものか」"KOYAN"(MANGO C1DM1002(US)に収録)というのがあるが、両者は反対のことをいっているようで同じ心情を歌っているのだなと思った。
 
 元D.P.エクスプレスのクロード・マーセランと、元スコーピオのロベール・マルティーノをギタリストにむかえ、かれらのたゆたうようなめくるめくギター・アンサンブルのもと、エルヴィ・ブルーの甘美なヴォーカルがかぶさるニューヨークで進化したモダン・コンパの傑作といえる。サルサ界からルイス・ペリーコ・オルティスがトランペットで参加していることにも、多様な音楽スタイルを柔軟に吸収しながら進化しつづけるかれらの姿勢が象徴的にあらわれている。
 
 そんなかれらの集大成といえそうなアルバムが、81年にミニ・レコード設立10周年を記念してLP3枚組でリリースされた本盤。MASにとっては3枚目になる本盤は、モダン・コンパの父といわれ、ヘイシャン・ミュージックの基礎をつくりあげたバンド・リーダーでありサックス奏者であったヌムール・ジャン・バチストへのトリビュート・アルバムである。
 
 ヌムールの代表的なレパートリーをとりあげた全14曲構成で、ヴォーカルにはヌムールの楽団に在籍していたカルロ・グローディンとウィリー・ラクロワを起用。この時代としてはめずらしくアコーディオンを配するなど、オリジナルが持っていた雰囲気を損なわないように配慮しつつ現代性を加味した渾身の力作である。
 
 楽器編成は、アコーディオンのほかに、ギター、キーボード、ベース、ドラムス、パーカッション、3管編成のホーン・セクション、そしてときにストリングスを加えた豪華な布陣。コンパならではのふくよかで丸みのあるサウンドに、グローディンとラクロワの甘酸っぱいヴォーカルがかぶさって、優美でたゆたうような横ノリがたいへんここちよい。
 
 なかでも全編にフィーチャーされているのが名手リシャール・ドゥルゾーのアコーディオン。メキシコのテックス・メックスやお隣のドミニカ共和国のメレンゲのようにきびきびした感じはなくて、フランス領だったお国柄にふさわしくミュゼットのようにフワフワした感覚。かつてアコーディオンは甘美なサックスともにヘイシャン・ミュージックになくてはならぬ華だった。ヌムールのコンパ・ヂレクトも、同時代のライバル、ウェベール・シコーのカダンス・ランパもそうだった。ところが、70年代に入って、タブー・コンボなどのロック的なキレのいいビート感覚を強調したモダン・コンパが幅を利かせるようになるにつれ、音がなだれ式に折り重なるような、まったりした味わいを持つハイチのアコーディオンは活躍の余地がなくなってしまった。
 
 そんな過去の楽器になりつつあったアコーディオンが本盤では思う存分活躍している反面、アコーディオンに代わって主役の座に躍り出たエレキ・ギターが前面に出てくることなく、終始バッキングに徹しクラクラするようなめくるめくフレージングを堅実に刻みつづける。こうして他のカリブ諸国にはない優美さとうねりを備えたハイチ独特の極上のダンス・ミュージックが生み出された。
 
 このアルバムの成功で気をよくしたフレッド・ポールは、翌82年からMAS名義のアルバムを矢継ぎ早に世に送り出すことになる。
 
 『ナターシャ』(Pヴァイン PCD-2206(JP))『ティヤレ』(同 PCD-2208(JP))は、たぐいまれな才能に恵まれながら、比較的目立たなかった1人のアーティストに焦点を当て、その個性を活かしたアルバムをMAS名義で制作しようという企画。前者では名門バンド、シュレシュレのメンバーで、のちにタブー・コンボで活躍することになるギタリスト、ギャリー・レジル、後者では、同じくシュレシュレの元メンバーであったギタリスト、ロジャー・ジャン・バティストが抜擢されている。
 
 『ナターシャ』は、ふくよかな甘美さをたたえた表題曲のほかに、ディスコ路線にもチャレンジした曲もあったりというように、ハイチらしさとニューヨークらしさを共存させた作りになっていて、なかでもジェラルド・ダニエルのサックス・プレイが光る。
 
 『ティヤレ』では、前作で'NATACHA'のアレンジを担当したロベール・アーロンと、リード・ヴォーカルをつとめたウルリク・ラゲールに全曲を任せ、リーダーのロジャー・ジャン・バティストと3人の協同作業で作りあげた都会的な華麗さをたたえたコンパ・サウンドを展開。
 
 これら2枚は、MASのなかでは比較的目立たないアルバムではあるが、ニューヨーク・コンパ絶頂期の録音なだけに、いずれも標準以上の出来である。個人的な好みでは後者にやや軍配かな。ちなみの両アルバムには、『ウィ・ガッタ・ムーヴ・オン』に続いて、ルイス・ペリーコ・オルティスがゲスト参加している。
 
 ひとによってはMASの最高傑作とされる『ジェネラシオン・70』(Pヴァイン PCD-2210(JP))は同じく82年作品。70年代コンパへのリスペクト・アルバムである本盤は、イボ・コンボ、ル・ザンバサドゥール(サリフ・ケイタが在籍したバンドとは別のバンド)、サファリ・コンボ、ル・ファンテジスト、ラウール・ギョーム、シュレ・シュレなどのヒット曲をリメイク。わたしはここでのオリジナル曲を1曲も知らないが、それでも十分に楽しめる充実した内容となっている。
 
 LPでは片面全部をしめていた15分47秒におよぶ表題曲は、70年代のヘイシャン・ミュージック・シーンを沸かせたバンドの代表曲がメドレー形式でよどみなく演奏される。シリーズ随一の分厚さを誇るホーン・セクションとコーラスの応酬が申し分なく、ファンキー度では絶頂期のタブー・コンボに劣らない傑作で、デルンスト・エミールアレンジがすばらしい。
 
 同じエミールのアレンジで、ストリングスを加えた'BABY''LA VIE MUSICIEN'のふくよかな愛らしさは、同じフレンチ・クレオール圏マルティニークのマラヴォワのサウンドを思わせる。リカルド・フランクのジャズっぽいギター・ソロがひたすらかっこいい。南アっぽいリリカルで乾いたアルト・サックスと、ルンバ・コンゴレーズのアニマシオンをほうふつさせるコーラスの掛け合いではじまるシュレ・シュレ最大のヒット曲'DEVINEZ'はアフリカ的な祝祭気分にあふれた楽しい曲。ただ、この曲、いいところで終わってしまって、もうすこし長く聴いてみたかった。
 
 MASの進撃はとどまるところを知らず、82年にふたたびヌムールのレパートリーに取り組んだ『南京豆売り』と、ヌムールを基点としてコンパのさらなる古層に挑んだ『MASコンパ』を発表。日本では両者が2オン1でリリースされた(Pヴァイン PCD-2529(JP))
 「南京豆売り」はいうまでもなく、1930年にアントニオ・マチーンの歌とドン・アスピアス楽団の演奏で大ヒットを記録したキューバ音楽の超有名スタンダード・ナンバー。おそらくヌムール楽団のレパートリーでもあったため収録されたと思われる。
 
 ヴォーカルがカルロ・グローディンとウィリー・ラクロワ、アコーディオンがリシャール・ドゥルゾーなど、メンバーは『ピュア・ゴールド』とほとんど変わらないが、ヌムール自作によるミディアム・テンポのコンパ・ヂレクトが主体だった前作にたいし、曲のヴァリエーションが豊富で全体にテンポ・アップしているのが特徴。
 
 しかし、コンパ以前の優雅なコントルダンスに取り組んだ'CONTREDANSE#2'はまだしも、ハイチのカーニヴァル曲'CARNAVAL COMPA DIRECT'の演奏はほとんどモダン・コンパだし、10分以上におよぶ「南京豆売り」にいたっては、リズムがサルサでおもしろみが感じられない。むしろ、そのハイチ版ともいえる'MACHANN MANGO'「マンゴ売り」のほうが2本のサイド・ギターのリフがかっこよく、ハイチ的な芳醇さにあふれていて好き。
 
 どちらのアルバムも悪い出来とは思わないが、ここまで来るとやや出尽くした感があることもたしか。ちなみにこの日本盤CDは、収録時間の関係で『MASコンパ』収録の'HAITI COMPAS'の終わりの部分が1分弱カットされており、これはファンの心を踏みにじる行為であり、あきらかに減点の対象。
 
 『MASコンパ』を最後にしばらく沈黙に入ったのち、86年にかれらの代表作とほまれ高い『ララマン』(Pヴァイン PCD-2201(JP))を発表。小アンティル生まれのズークとハイチのカーニヴァル“ララ”の要素を大幅にとりいれた本盤は、それまでのMASのイメージをひっくり返すファンキー度満点のフレンチ・カリビアン・ミュージック。
 
 だが、わたしはこのアルバムを世間でいわれるほどには高く評価していない。たしかに『ピュア・ゴールド』以降のモダン・コンパ路線が少々マンネリ気味であったこと、また『ララマン』から5年後にミニ・レコーズ創立20周年を記念してレーベルのオーナー、フレッド・ポールに捧げられたアルバム"HAPPY ANNIVERSARY MR. MINI!"『ミニ・オール・スターズ1991』(MINI MRSD2020(US) / Pヴァイン UPCD-47(JP))『ララマン』のインパクトには遠く及ばなかったことも認めよう。
 
 しかし、バンド・リーダーをつとめるエドゥアルド・リチャードが駆使した当時最新のテクノロジー(具体的には83年にヤマハが発売した画期的なデジタル・シンセDX7)が、ハイチならではの芳醇なコクと香りをぬぐい去り、サウンドを軽薄で表層的なものにしてしまっているのは否定できない事実である。
 『ララマン』は、カッサブをはじめとする80年代終わりごろの汎カリブ的な“ワールド・ミュージック”が好きなひとには十分に満足のいく内容といえようが、ヘイシャン・ミュージックにとっぷりと浸かってみたいと感じているひとにむしろ82年以前のアルバムを推したい。


(9.7.02)



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by Tatsushi Tsukahara